属人化解消の事例パターン8選|どの業務が、どう詰まり、どう解けたのか
この記事のポイント
属人化の解消事例は、業種ではなく詰まっている場所で分けると自社に当てはめやすい。業務別に8つのパターンへ整理し、それぞれの詰まり方、解消の順序、効いたかどうかの測り方をそろえた。実名の顧客事例は出さず、型として提示している。
属人化の解消事例を探すとき、多くの人はまず同じ業種の会社を探す。同業がどうやったかを知りたい気持ちはよく分かる。ただ、実際に事例を並べてみると、解き方を決めているのは業種ではなく、業務のどこが詰まっているかのほうだった。不動産会社の営業と製造業の見積は、業種としては遠いのに、詰まり方はほとんど同じだったりする。
この記事では、属人化の解消事例を業務別の8パターンに整理する。それぞれについて、どう詰まっているのか、なぜそうなるのか、どの順番で解いていくのか、そして解けたかどうかをどう測るのかまでそろえた。読み終えたときに、自社のどのパターンに当たるかが判別できる状態を目指している。
先に断っておきたいことがひとつある。事例の扱い方についてだ。ここは記事の信頼性に直結するので、パターンの前に書いておく。
この記事での「事例」の扱い方——実名を出さない代わりに何を出すか
中小企業の業務改善を支援していると、属人化が解けた現場にも、解けなかった現場にも立ち会う。そこで見たものが、この記事の中身になっている。ただし支援先の社名、業務内容、数値は守秘の対象なので、実名の事例としては書けない。抽象度を下げて書けば特定できてしまうし、下げなければ事例と呼ぶ意味がない。
なので、この記事では次の線引きをしている。
出すもの1:繰り返し見てきた「型」 複数の現場で同じ形で観測された詰まり方と、そこで効いた順序。社名も数値も出さないが、構造は現場そのままだ。以降の8パターンがこれにあたる。
出すもの2:公表されている統計と事例 公的機関の調査や、企業が自ら公表している事例。これは出典のURLを本文に置く。読者が一次情報にあたれる形でしか引用しない。
出さないもの:創作した事例 実在するかのように書いた社名、業種、削減時間、コスト削減率。この種の数字は記事を読みやすくするが、根拠がない以上は判断材料にならない。書かない。
読む側からすると、A社が何時間削減したという数字が並んでいるほうが説得力を感じやすいのは分かる。ただ、その数字を自社に当てはめて意思決定した結果が合わなかったとしても、誰も責任を取れない。それよりも、詰まり方の構造と、順序と、測り方を持ち帰ってもらうほうが実用的だと考えている。以下、8つのパターンを見ていく。
なお、属人化とは何か、なぜ起きるのかという定義や原因の整理は属人化の解消方法に、解消の標準的な手順は属人化を解消する3ステップにまとめている。この記事はそこと重ならないよう、パターンの識別と当てはめに絞る。
事例パターン1:顧客情報が営業個人の手元にある
最も件数が多いパターンだ。顧客の連絡先は個人のスマートフォンに入っている。やりとりの経緯は個人のメールと名刺入れの中にある。案件の温度感は本人の頭の中にしかない。会社としては、誰と話しているのかも、どこまで進んでいるのかも見えていない。
この状態が問題として表面化するのは、たいてい担当者が辞めるときだ。引き継ぎ書には顧客リストが並ぶが、そのリストには温度感が書かれていない。後任は全件に等しく連絡することになり、進んでいた商談は止まり、静かに離脱していく。
詰まっている場所 顧客情報そのものではなく、接触の履歴と、いま何を待っている状態なのかという文脈。
解消の順序 (1) 顧客の一覧を会社側の場所に作る。(2) 案件の状態を数個の段階で表す。初回接触、提案済み、検討中、受注、失注くらいで足りる。(3) 状態が変わったときだけ更新するルールにする。(4) 状態が2週間動いていない案件を朝会で読み上げる。
効いたかを測る指標 担当者不在時に社内で答えられた問い合わせの割合。案件の状態が最後に更新された日からの経過日数。
ここで失敗しやすいのは、記録項目を多くしすぎることだ。訪問記録を細かく書かせる設計にすると、営業は書かない。書かない項目が増えると、一覧そのものが信用されなくなり、結局また個人の手元に情報が戻る。最初は状態と最終接触日の2項目だけでも意味がある。空欄が埋まっていく実感があるほうが定着する。
もうひとつ、更新のきっかけを会議に置くのが効く。入力してくださいという依頼は守られないが、その一覧を見ながら会議をする形にすると、会議の前に更新されるようになる。見られる場所に置くこと自体が仕組みだ。不動産会社を例にした具体的な設計は引き継ぎできない顧客管理を解消する仕組みの作り方で書いているが、権限設計と更新当番の考え方は業種を問わず使える。
事例パターン2:見積と価格の判断がベテラン1人に集中する
見積は属人化が最も濃く出る業務のひとつだ。表面上は計算だが、実際には判断の塊になっている。この条件なら値引きしてよい、この客先なら納期を短く見ておく、この仕様は後で追加費用が出るから最初に含める。こうした判断が一人の頭の中にあり、その人が見積を作らないと数字が決まらない。
困るのは、単価表や積算のルールは存在していることが多い点だ。書式はある。計算式もある。それでも他の人が作った見積は、ベテランのチェックを通さないと出せない。つまり詰まっているのは計算ではなく、例外の扱い方のほうだ。
詰まっている場所 標準の計算ではなく、標準から外れたときの判断。値引き、納期の見積もり、リスクの上乗せ。
解消の順序 (1) 過去の見積を数十件並べ、標準どおりのものと外れたものに分ける。(2) 外れたものについて、なぜそうしたかを本人に聞き、条件と行動の形で書き出す。(3) 書き出した条件を単価表の横に注記として置く。(4) 若手が作りベテランが差分だけを見る運用に切り替える。
効いたかを測る指標 ベテランのチェックで修正が入った件数の推移。見積の依頼から提出までの日数。
過去の見積を並べる作業を飛ばして、いきなり判断基準を書いてくださいと頼むと、まず出てこない。本人は判断している自覚が薄いからだ。実物を前に、これはなぜこうしたのかと聞いていく形にすると、驚くほど出てくる。この引き出し方は引き継ぎの場面でも同じで、引き継ぎ資料の作り方で3つの質問として整理している。
それから、一気に全部の判断を移そうとしないほうがいい。ベテランのチェックを完全に外すのが目的ではなく、チェックの中身を確認から差分の確認へ変えるのが目的だ。最初は全件見てもらってよい。修正が入らない案件が増えてきたら、その範囲を任せる。この段階を踏まないと、品質が落ちた瞬間に元へ戻る。
事例パターン3:仕入れと発注の判断基準が言語化されていない
買うか買わないか、いくらまでなら買えるか。この判断が一人に集中しているパターンだ。不動産の買取再販なら物件の仕入れ、製造や卸なら資材と在庫の発注が該当する。判断の正解が事前に分からない領域なので、経験のある人に任せるのは合理的でもある。だからこそ長く放置されやすい。
リスクの出方が独特で、担当者がいなくなるまで問題が見えない。判断の質は本人が担保しているので、日々の業務は滞りなく回る。回っているように見えるまま、判断の理由がどこにも残らない年月が積み上がる。
詰まっている場所 判断そのものではなく、判断に使った材料と、見送った理由。買ったものの記録は残るが、見送ったものは記録すら残らない。
解消の順序 (1) 検討したすべての案件を台帳に残す。見送ったものも含める。(2) 見送った理由を数個の区分に分ける。価格が合わない、条件が合わない、時期が合わないなど。(3) 実際に取得したものの結果を後から台帳に追記する。(4) 半年ためたら、判断と結果の対応を全員で読む。
効いたかを測る指標 検討件数に対する記録件数の比率。担当者以外が一次判断できた案件の件数。
このパターンで効くのは、見送った案件を残すという一点に尽きる。買った案件だけを記録しても、判断基準は浮かび上がってこない。基準というのは境界線のことなので、境界の外側にあるものを見ないと線が引けないからだ。台帳の設計そのものは買取再販の仕入れ管理と台帳設計で不動産を例に具体的に書いている。
記録を貯める間は、正直なところ何も改善しない。効果が出るまでに数か月かかるので、途中でやめたくなる。ここで止まる会社が多い。台帳を作ること自体が目的ではなく、半年後に読み返す予定を先にカレンダーへ入れておくと続きやすい。
事例パターン4:受発注と請求の事務が1人の手順に載っている
バックオフィスの属人化は、営業ほど話題にならないのに、止まったときの被害が大きい。請求書が出ない、入金の消し込みが進まない、支払いが遅れる。会社の外側に迷惑が出るので、代わりを立てる猶予がない。
特徴的なのは、手順書があるのに引き継げないことだ。手順書には正常系が書かれている。だが事務の実務では、締切に間に合わない請求、金額が合わない入金、いつもと違う条件の取引が一定の割合で混ざる。その処理方法が書かれていないので、後任は例外に当たるたびに止まる。
詰まっている場所 正常系の手順ではなく、例外処理と月次カレンダー。年に数回しか来ない締切は、その月をまたがないと存在にすら気づけない。
解消の順序 (1) 1年ぶんの締切と繁忙をカレンダー形式で書き出す。(2) 過去に起きたトラブルと対処を列挙する。(3) 手順書の正常系を短くし、例外の記述を厚くする。(4) 2人目が実際に1か月を通しで回し、詰まった箇所をその場で追記する。
効いたかを測る指標 担当者への確認回数。締切の遵守率。2人目が単独で完了できた月次業務の本数。
ここでよくある誤りが、やって見せる形式の引き継ぎだ。ベテランが操作し、後任が横で見る。見ているときは理解した気になるが、一人になった瞬間に手が止まる。順序を逆にして、後任が資料だけを見て操作し、ベテランは口を出さずに横で見る。詰まった箇所がそのまま資料の穴なので、その場で書き足す。この一往復があるかないかで、引き継ぎ後の問い合わせ量がはっきり変わる。
それと、月次業務は一巡させないと引き継げない。日次業務は数日で覚えられるが、月末にしか来ない処理は、その月末を一緒に越えないと存在が見えない。引き継ぎ期間を設計するときは、最低でも月の変わり目をまたぐようにしたい。
事例パターン5:現場の段取りが職人の勘で回っている
製造の工程組み、建設の現場段取り、施工の順番決め。この領域の属人化は、他のパターンより解きにくい。理由がふたつある。ひとつは、判断に使っている変数が多いこと。設備の空き、人の技能、材料の入荷、客先の都合、天候。もうひとつは、判断が速いこと。ベテランは一覧を見て数十秒で組む。速すぎるので、本人も何を見ているのか説明できない。
このパターンで最初にやりがちなのが、生産管理システムの導入だ。順序としては危ない。段取りのルールが言語化されていない状態でシステムを入れると、システムが出した計画を現場が信用せず、結局ベテランが手で組み直す運用になる。二重管理が生まれて、以前より手間が増える。
詰まっている場所 段取りの結果ではなく、優先順位のつけ方。何と何がぶつかったときに、どちらを先に通すか。
解消の順序 (1) ベテランが組んだ計画を、そのまま数週間ぶん記録する。(2) 計画を変更した場面を拾い、なぜ変えたのかを聞く。(3) 出てきた理由を優先順位のルールとして並べる。納期優先、段取り替えの少なさ優先、特定客先優先など。(4) ルールに沿って2人目が組み、ベテランが差分を見る。
効いたかを測る指標 2人目が組んだ計画に対する修正箇所の数。計画変更が発生した回数と理由の内訳。
全部の判断を言語化するのは現実的ではない。目指すのは、8割の案件を2人目が組めて、残り2割をベテランが見る状態だ。完全な置き換えを目標にすると、達成できないまま終わる。業務フローの書き方そのものは製造業の生産管理 業務フローの作り方で扱っている。
補足として、図面や仕様書の管理が属人化しているケースも近い場所にある。最新版がどれか分からない、紙とPDFが混在している、といった状態だ。段取りの前提になる情報なので、こちらが崩れていると段取りの標準化も進まない。詳細は図面管理が属人化する根本原因にまとめた。
事例パターン6:問い合わせ対応が「その人にしか答えられない」
電話でもメールでもチャットでも構造は同じだ。かかってきた問い合わせに答えられるのが特定の人だけで、その人が席を外していると保留になる。折り返しますと言って切り、戻ってきた本人が対応する。件数が多いので、本人は一日中それをやっている。
このパターンの厄介なところは、当人が忙しすぎて改善に着手できない点にある。手順を書き出す時間を作るには、まず問い合わせを減らす必要がある。だが問い合わせを減らすには手順を書き出す必要がある。順番が循環していて、放っておくと永久に抜けられない。
詰まっている場所 知識ではなく、知識の置き場。答えられる人はいるが、答えが文字になっていない。
解消の順序 (1) 2週間、来た問い合わせをすべて1行で記録する。内容と、誰が答えたか。(2) 集計して上位を出す。だいたい上位10種類で全体の過半を占める。(3) 上位から順に、回答文をそのまま書き置く。(4) 他の人がその置き場を見て答える運用にし、答えられなかったものだけ本人に回す。
効いたかを測る指標 本人に回った件数の割合。一次回答までにかかった時間。
循環を断つコツは、記録を本人にやらせないことだ。2週間の記録係を別の人が務める。1行で足りるので負担は小さい。集計してみると、本人が難しいと思っている問い合わせより、単純な確認のほうがはるかに多いことが見える。そこを先に剥がすと、本人の時間が空く。空いた時間で残りを書ける。
クリニックの電話対応を例にした整理をクリニックの電話対応が属人化する構造に書いているが、業種が違っても、上位10種類が過半を占めるという分布はよく似ている。
事例パターン7:Excelと社内ツールが「作った人しか触れない」
誰かが作った便利なファイルが、いつのまにか業務の中心になっている。関数が何重にも入っていて、シートが分かれていて、どこを直すと何が壊れるか分からない。作った本人以外は、数字を打ち込む場所だけを教わって使っている。
近年これに、生成AIで作った社内ツールが加わった。スクリプト、自動化の設定、簡単なアプリ。作れる人が増えたぶん、作った人しか直せないものが増えている。Excelと違うのは、どこで動いているかすら他の人に見えないことがある点だ。本人のパソコンの中で動いていたことが、止まってから分かる。
詰まっている場所 使い方ではなく、中身の構造と、壊れたときの直し方。加えて、動いている場所と権限。
解消の順序 (1) 業務で使っているファイルとツールを棚卸しする。(2) それぞれについて、動いている場所、誰の権限で動いているか、止まったら誰が困るかを1行で書く。(3) 止まると困る度合いが高いものから、入力と出力、計算の意図を文書化する。(4) 個人の領域で動いているものを共有の場所へ移す。
効いたかを測る指標 個人アカウント・個人端末に依存しているツールの残数。作成者以外が修正できたツールの本数。
ここで大事なのは、複雑なファイルを作った人を責めない空気だ。多くの場合、その人は困っている業務を自分で解決しただけで、悪意はない。棚卸しを始めると隠す方向に働くことがあるので、目的は会社として引き継げる状態にすることだと先に伝えておきたい。
AIで作った社内ツール特有の論点は作った人しか直せないAIツールにまとめている。手順書を書いても引き継げないという性質があるので、Excelとは別に考えたほうがいい。
事例パターン8:社長自身がボトルネックになっている
最後は、中小企業でいちばん解きにくいパターンだ。決裁も、価格の最終判断も、トラブルの対応も、採用の可否も社長が決めている。社員は判断を仰ぐために社長を待ち、社長は待たれているので現場を離れられない。
他のパターンと違うのは、本人が解消の主体でもあり、対象でもある点だ。誰かが社長に対して標準化を進めることはできない。自分で自分の判断を切り出す作業になるので、動機がない限り始まらない。逆に言えば、始まりさえすれば早い。
詰まっている場所 判断の総量ではなく、判断の等級分けがされていないこと。1万円の決裁と1000万円の決裁が同じ経路を通っている。
解消の順序 (1) 1週間、社長に来た判断依頼をすべて記録する。(2) 金額と影響で3段階に分ける。(3) 下位2段階について、条件を満たせば社長を通さない基準を決める。(4) 通さなかった判断を週次でまとめて報告してもらう形にし、事後で見る。
効いたかを測る指標 社長に来た判断依頼の週あたり件数。社長の承認待ちで止まっている案件の平均日数。
失敗するのは、権限移譲を一気にやろうとしたときだ。全部任せると宣言して、事故が起きて、全部戻る。この往復を数回繰り返すと、社員は本気で受け取らなくなる。金額の下限から順に上げていく形にして、事後報告で見る期間を挟んだほうが定着する。
この構造をもう少し掘り下げたものが社長が現場に出ないと回らない不動産会社にある。不動産を例にしているが、社長がボトルネックになる構造自体は業種を問わない。
8つの事例パターンに共通する解消の順序
パターンごとに打ち手は違うが、順序は共通していた。並べてみると、うまくいった現場はほぼ同じ道筋をたどっている。
| 順序 | やること | 飛ばすと起きること |
|---|---|---|
| 1. 記録する | 実際に起きたことを一定期間そのまま残す。改善はまだしない | 思い込みで対象を選び、効かない業務に着手する |
| 2. 分ける | 記録を集計し、標準どおりのものと例外に分ける | 全部を同じ厚さで標準化しようとして途中で止まる |
| 3. 言語化する | 例外の扱い方を、もし〜なら〜する、の形で書き出す | 手順書はできるが、後任は例外のたびに止まる |
| 4. 移す | 情報とツールを個人の領域から共有の場所へ動かす | 退職や端末の入れ替えと同時にアクセスできなくなる |
| 5. 2人目にやらせる | 資料だけを見て2人目が実行し、詰まった箇所を追記する | 資料が書き手の理解度のまま固定される |
| 6. 測る | 確認回数、停止件数、実行可能人数を定点で見る | 解消できた気がするという感想だけが残る |
注目してほしいのは、1番目が記録であって、改善ではないところだ。属人化の解消は、たいてい手順書を作るところから始められる。だが手順書を先に作ると、書き手が重要だと思っている業務が厚くなり、実際に問い合わせが集中している業務が薄くなる。人の記憶は件数を正しく反映しない。2週間でも記録を取ると、思っていた順位と違う結果が出ることが多い。
もうひとつ、6番目の測るを最初に決めておくのも重要だ。着手前に一度測っておかないと、あとから比較できない。指標は複雑でなくてよく、担当者への確認回数を1週間数えるだけでも十分に機能する。
属人化の解消に、ツール導入をどこで挟むか
相談を受ける段階では、多くの場合すでにツールの話になっている。どのシステムを入れればいいか、というかたちで質問が来る。ただ、先ほどの6段階に当てはめると、ツールが効くのは4番目の移すところからだ。それより前に入れると、入力すべき内容が決まっていないまま箱だけができる。
実際、導入したのに使われていないシステムの話は珍しくない。原因を追うと、たいてい業務側の言語化が終わっていない。何を入力するかが決まっていないので入力されず、入力されていないので誰も見ず、見られていないので入力しなくなる。この循環に入ると、システムを入れ替えても同じことが起きる。
ツールを入れてよいサイン 入力する項目が決まっている。誰がいつ更新するかが決まっている。その情報を見る場面が業務の中にある。この3つがそろっていれば、道具は効く。
まだ早いサイン 項目を決めるところから相談したい。運用ルールは導入後に考える。まず入れてみて使いながら決める。この状態で入れると、形骸化する確率が高い。
道具の選び方 Excelやスプレッドシートで回るなら、それで始めてよい。器が小さくて困るようになってから移せばいい。逆に、最初から大きな器を用意すると、埋まらない空欄が信頼を削る。
生成AIについても同じで、判断の言語化が終わっていない業務にAIを当てても、出力の良し悪しを評価できない。逆に、判断基準が条件と行動の形で書き出せている業務は、AIに任せられる範囲がはっきりする。属人化の解消は、AI活用の前提工事でもある。
公表されている統計と事例を、どう読むか
ここまでは型の話だった。ここでは、外部で公表されている情報の読み方を書いておく。属人化解消の事例を調べると、いくつかの出所から情報が出てくる。それぞれ性質が違うので、同じ重さで読まないほうがいい。
| 出所 | 強み | 差し引いて読む点 |
|---|---|---|
| 公的機関の調査 | 母数が大きく、定義と調査方法が公開されている | 個別企業の打ち手までは分からない |
| 公的機関の事例集 | 取材されており、業種と規模が明記されている | 選ばれるのは成功例。失敗した会社は載らない |
| 企業自身の公表 | 当事者が自分の名前で出している一次情報 | 対外的な文脈があるので、課題の記述は薄くなりがち |
| ベンダーの導入事例 | 業務の詰まり方が具体的に書かれていることが多い | 掲載側に利害がある。自社製品で解けた部分だけが書かれる |
せっかくなので、実際に一次情報にあたるとどう見えるかを書いておく。以下はすべて、公表元のページを開いて確認した内容だ。
公的機関の調査で、属人化はどう測られているか
属人化という語が公的資料の本文に明示されている例は、実は多くない。数少ないひとつが、中小企業庁の2026年版 中小企業白書・小規模企業白書だ。概要資料のなかに「マニュアルや手順書の整備など、社内ノウハウを蓄積・共有化することは、業務の属人化を防止し、円滑な業務遂行や品質の安定化に有効」という記述がある(出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要、経済産業省・中小企業庁、2026年4月24日閣議決定)。
この白書には、本記事の主題に近い設問がいくつか載っている。数字だけを抜くと誤読しやすいので、母数と設問の条件も一緒に書いておく。
取り組んでいる割合 ノウハウの蓄積・共有に取り組んでいる小規模事業者は48.8パーセント、取り組んでいないが51.2パーセント(n=7,424)。ここでいう取り組みは「業務上のノウハウが特定の従業員に依存しないよう、組織として蓄積・共有に取り組むこと」と定義されており、従業員はいないと回答した事業者は集計から除かれている。
得られた効果 最も多いのが「担当者不在時でも業務が滞りなく遂行できるようになった」で43.6パーセント。次いで「業務の引継ぎが円滑に行えるようになった」31.9パーセント、「製品・商品・サービスの品質が安定した」31.2パーセント(n=3,499、複数回答、上位のみ)。ただしこれは、蓄積・共有に取り組んでいると答えた事業者だけへの設問だ。全事業者に対する割合ではない。
有効だった取組 「マニュアルや手順書の整備」が39.1パーセントで最多。「社員同士の交流機会の提供」35.9パーセント、「社内勉強会・研修の実施」28.7パーセントと続く(n=3,537、複数回答、上位のみ)。
効果の1位が担当者不在時の遂行だという点は、この記事で挙げた指標2と同じものを見ている。統計の側でも、解消できたかどうかは結局その人がいなくても回るかで測られている、と読める。手順書の整備が有効だった取組の1位である一方、交流機会や勉強会といった人を介した手段が上位に並んでいるのも、書いて終わりにならない何かが要るという実感と合う。
背景の数字としては、総務省の令和7年版 情報通信白書も参考になる。デジタル化を実施していない企業の割合は、大企業で約25パーセント、中小企業で約70パーセント。課題として最も多く挙がったのが人材不足で48.7パーセントだった(出典: 令和7年版 情報通信白書、総務省)。これは日本・米国・ドイツ・中国の4か国を比べた調査の日本分で、わからないという回答を除いて集計した数字だ。この条件を落として中小企業の7割がデジタル化していないとだけ書くと、意味が変わってしまう。
実名で読める事例を、実際に開いてみる
実名の事例も、一次情報として読めるものはある。たとえば石川県で金属部品の研磨と旋盤加工を手がける岡田研磨株式会社は、自社サイトで、現場に蓄積される手順やコツといった暗黙知を可視化・データ化する取り組みを公表しており、その目的として「業務の効率化・属人化の排除・品質向上」を挙げている(出典: 岡田研磨株式会社 DX推進)。同社は先ほどの中小企業白書の概要にも事例として載っており、そちらには、図面などの膨大な情報が紙とExcelで管理され、情報が属人化して社内共有にも無駄な作業が発生していた、という着手前の状態が書かれている。
ここで、事例の数字を扱うときの注意が実例として出てくる。同社については白書の概要、中小機構が運営するJ-Net21の記事(出典: J-Net21 中小企業のDX事例)、自社サイトの3か所で情報が出ているが、従業員数は白書が85名、J-Net21が80人。内製したアプリの数は白書が30以上、J-Net21と自社サイトが約20種類となっている。おそらく公表時期の違いによるものだが、どの数字を引くかで受ける印象は変わる。他社の事例数値を自社の計画に持ち込むときは、いつ時点の、どの出所の数字なのかまで確認したい。
同じ白書の概要には、神奈川県小田原市で金属精密部品を製造する有限会社川田製作所(従業員16名)の事例も載っている。作業手順書を画像や動画付きでデジタル化し、社員同士が講師となって教え合う場を立ち上げたことで、学習のハードルが下がり、外国人や障がい者を含めて誰もが活躍できる会社へ変化した、という記述だ。なお白書のこの事例本文で使われているのは「ノウハウの共有」という表現で、属人化という語ではない。属人化解消という言葉で探すと引っかからないが、扱っている中身は同じものだ。事例を探すときに検索語をひとつに固定すると、こういう記述を丸ごと見落とすことになる。
パターン6に近い数字が読める事例もある。貿易商社の株式会社ジェイアンドシーは、複雑な貿易実務や顧客別の特殊な条件が担当者の頭の中に蓄積され、担当者不在時に業務が止まる属人化が課題だったとして、基幹システムの操作手順を画像と動画のマニュアルにした結果、書類作成や注文情報の共有に関する社内の問い合わせが1日約20件から5〜6件になったと公表している(出典: 株式会社スタディスト プレスリリース、2026年7月27日)。ただしこれは、ツールを提供したベンダー側が公表しているものだ。先ほどの表でいうベンダーの導入事例にあたる。詰まり方の記述は具体的で参考になる一方、うまくいかなかった部分は書かれていない前提で読むのが妥当だと思う。
数字を自社に持ち込むときの線引き
とくに注意したいのが、事例に出てくる削減時間の数字だ。月あたり何十時間の削減という記述があったとして、その母数が何人ぶんなのか、どの範囲の業務なのか、測定期間はいつなのかが書かれていないことが多い。書かれていない場合、その数字は自社との比較には使えない。使えるのは、どんな業務が詰まっていたかという記述のほうだ。
もうひとつ、事例を読むときに見落とされやすい点がある。多くの事例は、うまくいった後の状態を書いている。途中で何度戻ったか、誰が抵抗したか、最初に選んだ業務が間違っていなかったか。そこは書かれない。自社で同じことをやると、書かれていない部分に時間の大半を使うことになる。事例の所要期間をそのまま自社の計画に当てはめると、まず間に合わない。
実務的な結論としては、外部の事例は着手する業務を選ぶヒントとして使い、期間と効果の見積もりには使わない。期間と効果は、自社で2週間の記録を取ってから決めるほうが確度が高い。
解消できたかをどう測るか——事例に書かれない指標
属人化の解消は、終わりが分かりにくい取り組みだ。手順書を作った、システムを入れた、研修をした。どれも活動の記録であって、解消されたかどうかの答えにはなっていない。判定に使える指標を4つ挙げておく。
指標1:担当者への確認回数 その人に聞かないと進まない場面が週に何回あるか。1週間、正の字で数えるだけでよい。着手前と3か月後を比べる。最も手軽で、最も実態を反映する。
指標2:担当者不在時の停止件数 その人が休んだ日に、止まった案件や折り返しになった問い合わせの数。実際に休んでもらって測るのが確実だが、過去の休暇日を振り返っても分かる。
指標3:同じ業務を実行できる人数 業務ごとに、単独で完了できる人が何人いるか。1人なら赤、2人で黄、3人以上で青。一覧にして壁に貼ると、どこが薄いかが一目で分かる。
指標4:新任者が独り立ちするまでの日数 次に人が入ったときに測れる。前回より短くなっていれば、標準化が効いている。長い周期でしか測れないが、最終的な成果に近い。
4つのうち、まず指標1と指標3を使うことを勧めたい。どちらも道具が要らず、その日から測れる。指標2は測定のために誰かに休んでもらう必要があるが、逆にいえば、休んでも回るかどうかは属人化の定義そのものなので、年に一度は意図的に試す価値がある。
避けたいのは、作成した手順書の本数を成果として数えることだ。本数は増やせる。増やしても、読まれていなければ何も変わらない。実際、分厚い手順書が整備されているのに属人化が解けていない会社はよくある。書いた量ではなく、その人がいなくても回るかどうかで見る。
効果測定の設計は業務改善全般に共通する話でもある。何をもって改善とするかを先に決めておかないと、施策の良し悪しが判断できないまま次の施策に進むことになる。
自社を8パターンに当てはめる——30分でできる属人化マップ
最後に、読んだ内容を自社に当てはめる手順を書いておく。会議室にホワイトボードがあれば30分で終わる。
属人化マップの作り方(所要30分)
手順1(10分) 部門ごとに、いま回している業務の名前を書き出す。日次、週次、月次、年次、不定期の5区分。内容は書かず名前だけ。
手順2(5分) 各業務に、単独で完了できる人数を書く。1人、2人、3人以上の3段階でよい。
手順3(5分) 1人と書かれた業務に、件数の多さと、止まったときの影響の大きさを、大中小で書く。
手順4(5分) 1人かつ件数が多く影響も大きい業務を丸で囲む。これが最優先。
手順5(5分) 丸で囲んだ業務が、この記事の8パターンのどれに近いかを書き添える。パターンが決まれば、記録すべき対象と最初の一手が決まる。
この作業でよく起きるのが、手順2で1人と書かれる業務が想定より多いことだ。10本や20本になることも珍しくない。全部を一度に着手したくなるが、そこで手を広げると止まる。丸で囲んだもののうち、1本だけを選んで最後まで通す。2人目が単独で回せるようになってから、次の1本に移る。
1年で3本から5本の業務が人から剥がれれば、会社の体感はかなり変わる。逆に、20本を同時に着手した年は、たいてい0本で終わる。これは能力の問題ではなく、記録と一巡に実時間がかかるという性質の問題だ。
業務の書き出しをもう少し丁寧にやりたい場合は業務棚卸しのやり方に手順をまとめている。部署単位や全社で整理するときは、そちらの粒度のほうが扱いやすい。
事例をそのまま真似すると起きる、よくある失敗
他社の事例を参考にして着手した現場で、繰り返し見た失敗を挙げておく。どれも事前に知っていれば避けられる。
失敗1:事例と同じツールを、事例と違う順序で入れる
記事に出てくるのは導入したツールの名前だが、その会社は導入前に業務の言語化を終えている。そこは記事に書かれない。ツール名だけを真似すると、前提工事のない状態で箱だけができる。
失敗2:着手する業務を、痛みの大きさで選ぶ
いちばん困っている業務は、たいていいちばん難しい業務でもある。最初の1本は、件数が多く難易度が中くらいのものを選んだほうがいい。1本目が終わらないと、2本目の合意が取れなくなる。
失敗3:ベテランに手順書を書かせて終わりにする
通常業務をこなしながら書くので後回しになり、書けても暗黙の前提が抜ける。第三者が聞き手になって口頭で引き出すほうが速く、抜けも少ない。
失敗4:属人化の解消を、その人への評価として伝えてしまう
あなたに依存しているのが問題だ、という伝わり方をすると協力は得られない。伝えるべきは、その人が休める状態を作ること、判断に時間を使える状態にすることのほう。
失敗5:測定を後回しにする
着手前の数字がないと、改善したかどうかを誰も判断できない。判断できないと予算も時間も継続して取れない。1週間の確認回数を数えるだけでよいので、着手前に測る。
この5つに共通しているのは、事例の結論だけを取り出して、そこに至る過程を飛ばしている点だ。事例に書かれているのは終着点で、自社が必要としているのは道順のほうだった、ということが多い。
まとめ——属人化解消の事例から持ち帰るもの
属人化の解消事例を8つのパターンに整理した。顧客情報、見積と価格の判断、仕入れと発注の基準、受発注と請求の事務、現場の段取り、問い合わせ対応、Excelと社内ツール、社長自身。業種ではなく、詰まっている場所で分けている。自社がどれに当たるかで、記録すべき対象も、最初の一手も変わる。
共通する順序は6つだった。記録する、分ける、言語化する、移す、2人目にやらせる、測る。最初が記録であって手順書ではないこと、最後の測るを着手前に決めておくこと。この2点を外すと、活動はしたのに変化が確認できないという結末になりやすい。
そして、この記事で並べたのは実名の顧客事例ではなく型だ。守秘の都合でもあるが、それ以上に、社名と削減時間の数字を持ち帰っても自社の判断には使えないと考えているからでもある。持ち帰ってほしいのは、自社のどの業務がどのパターンなのかという識別と、着手前に測る指標をひとつ決めることの2つだ。それだけで、来週から動ける。
最後にひとつ。属人化は、放っておいて悪化する種類の問題だ。人が増えるほど、売上が伸びるほど、その人に集まる情報と判断は増えていく。だから、痛みが最大化した退職や事業承継のタイミングではなく、その予定がない平常時に1本ずつ剥がしていくのがいちばん安い。急ぎではないが、遅れるほど高くつく。そういう性質の投資だと思っている。
よくある質問
属人化解消の事例を探しています。他社の実名事例はどこで見られますか?
実名で読める事例は、大きく3つの出所があります。1つめは企業が自社サイトやプレスリリースで公表しているもの、2つめはベンダーの導入事例ページ、3つめは中小企業庁のミラサポplusやIT導入補助金の活用事例といった公的機関の事例集です。このうちベンダーの導入事例は、掲載する側に利害があるため、うまくいかなかった部分が書かれにくい点だけ差し引いて読む必要があります。本記事では、守秘義務のある支援先の事例は実名では扱わず、繰り返し見てきた詰まり方と解消の順序を8つのパターンとして整理しています。
属人化の解消事例で、いちばん効果が出やすいのはどの業務ですか?
件数が多く、担当者ごとの判断のブレが大きく、間違えたときの影響も大きい業務です。具体的には見積と価格の判断、受発注と請求の事務、問い合わせ対応の3つが該当しやすい領域になります。逆に、年に数回しか発生しない業務は、標準化しても効果が実感されにくいので後回しでかまいません。まず自社の業務を件数と影響度の2軸で並べて、右上に来たものから着手するのが現実的です。
属人化を解消しようとすると、ベテラン社員が非協力的になります。どうすればいいですか?
多くの場合、自分の価値が下がるという不安が背景にあります。有効なのは、標準化の対象を作業に限定し、判断そのものはその人の役割として残すことです。作業をチームに配って本人の時間を空け、その時間を判断と若手の育成に振り替える設計にすると、抵抗はかなり下がります。加えて、手順を書き出す作業を本人だけに背負わせないこと。第三者が聞き手になって口頭で引き出す形にすると、負担も抵抗も小さくなります。
属人化の解消にツールの導入は必要ですか?
先にツールを入れると失敗しやすいというのが実感です。属人化している業務は、そもそも手順と判断基準が言語化されていない状態にあります。その状態でシステムを入れると、何を入力すべきかが決まらず、入力されないまま形骸化します。順序としては、業務を書き出す、判断基準を条件と行動の形で言語化する、共有の置き場を決める、そこまで済んでから道具を選ぶ、が安全です。Excelやスプレッドシートで回るなら、それで足りる場合も少なくありません。
属人化が解消できたかどうかは、どう判断すればいいですか?
作った資料の数やシステムの導入本数ではなく、その人がいない状態で業務が回るかどうかで判断します。具体的な指標としては、担当者への確認回数、担当者不在時の停止件数、同じ業務を実行できる人数、新任者が独り立ちするまでの日数の4つが使いやすいです。いずれも着手前に一度測っておかないと、改善したかどうかが分かりません。測定を後回しにすると、解消できた気がするという感想しか残らなくなります。
属人化の解消はどれくらいの期間がかかりますか?
業務1本あたりで見ると、書き出しから2人目が独り立ちするまでで1か月から3か月が目安です。ただし全社の属人化を一度に解消しようとすると、たいてい途中で止まります。1業務ずつ、2人目が回せる状態になったら次へ進む形にしたほうが、結果的に早く進みます。1年で3本から5本の業務が人から剥がれれば、体感はかなり変わるはずです。
自社がどのパターンに当たるかを知りたい方へ
SalesDockは、経営・営業・業務・データをつなぎ、人が変わっても止まらない事業基盤づくりを支援している。どの業務が特定の人に貼りついているのかを整理するところから始めたい場合は、まず現状を診断してみてほしい。
無料で診断する →泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
代表メッセージを読む →