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不動産

買取再販の仕入れ管理、まだ個人のExcelですか? — 属人化をなくす台帳設計の考え方

仕入れの「千三つ」を会社の資産に変える、台帳設計の実践ガイド

12分で読める

執筆:泉 款太(株式会社SalesDock 代表取締役)累計40社以上の中小企業を支援

買取再販の仕入れ管理、まだ個人のExcelですか? — 属人化をなくす台帳設計の考え方

結論:買取再販の仕入れ管理は、1枚の台帳に集めて判断基準を数値化し、月1回振り返れば属人化から抜け出せる

買取再販の仕入れ判断は属人的になりやすく、見送った物件のデータすら残らないケースが多い。1枚の台帳に集約し、判断基準を数値化し、振り返りの仕組みを作る — この3ステップで、仕入れのノウハウが会社に蓄積される体制を作れる。

  • 担当者ごとのExcelを1枚の台帳に集め、見送った物件も理由と一緒に1行残す
  • スコアと粗利率・在庫保有期間の一次判定で、社長でなくても検討する物件を絞れるようにする
  • 売却後の実績を同じ行に書き足し、月1回の振り返りで基準を直す

買取再販の仕入れ、「社長の勘」に頼っていないか

買取再販業で最も重要な業務は「仕入れ」だ。どの物件を、いくらで買うか。この判断の精度が事業の利益率をほぼ決める。

ところが、仕入れの判断プロセスを仕組みとして管理できている会社は意外と少ない。私は前職で数百社の不動産会社を支援してきたが、仕入れ管理の実態を聞くと「社長の頭の中にある」「担当者が個人のExcelで管理している」という回答が大半だった。

業界では「千三つ(せんみつ)」と言われるほど、仕入れに至る物件は見た情報のごく一部だ。裏を返せば、大半の物件は見送っている。その見送りの判断データがどこにも残っていない — これが買取再販会社に共通する構造的な課題だ。

ある買取再販会社の社長は「うちのベテラン営業が辞めたら、仕入れの基準が全部なくなる」と話していた。10年以上の経験で培った相場観や、エリアごとのリスク判断。それが特定の個人にしか蓄積されていない状態は、経営としてかなり危うい。

よくある3つの失敗パターン

失敗1:担当者ごとにExcelがバラバラ

仕入れ担当が3人いれば、Excelファイルも3つある。それぞれのフォーマットが微妙に違い、列の順番も項目名も統一されていない。月末に社長が「今月の仕入れ候補を一覧で見せて」と言っても、3つのファイルを手作業でマージするところから始まる。

この状態では、会社として「今、何件の仕入れ候補があるのか」すら即答できない。ある会社では、同じ物件を2人の担当者が別々に査定していたことが後から発覚した。情報が分散しているとこういう無駄が見えなくなる。

失敗2:判断基準が口頭伝承

「この立地で築30年なら坪○万まで」「このエリアは再建築不可が多いから要注意」。こうした判断基準は、日常の会話やOJTで断片的に伝えられているだけで、文書化されていない会社がほとんどだ。

結果、新人が独り立ちするまでに3年かかる。ベテランと同じ物件を見ても、チェックすべきポイントが分からない。仕入れミスが起きても「経験が足りない」で片付けられ、基準の言語化が進まない。

失敗3:過去の仕入れデータが残らない

仕入れた物件のデータは、売買契約書や決済資料として残る。しかし「見送った物件」のデータはほぼ残らない。見送った物件の理由こそが仕入れノウハウの本体なのに、それが消えていく。

半年前に見送った物件が再び市場に出てきたとき、「なぜ前回見送ったのか」が分からない。もう一度イチから査定をやり直す。この繰り返しが、仕入れ担当の工数を静かに圧迫している。

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仕入れ台帳に入れるべき項目リスト

台帳設計で最初に悩むのが「何を記録するか」だ。項目が多すぎると入力が面倒で運用が続かない。少なすぎると振り返りに使えない。以下は、実際に運用されている台帳をベースにした推奨項目だ。

カテゴリ項目備考
物件基本情報所在地市区町村まで。番地は任意
築年数築年月から自動計算が理想
土地面積 / 建物面積平米とともに坪数も併記
物件種別戸建・マンション・土地・一棟
仕入れ判断取得希望価格売主の提示額と自社の上限額
想定販売価格リフォーム後の再販価格
リフォーム概算ざっくりでOK。精度は後から上げる
進捗・結果ステータス情報収集中/査定中/交渉中/契約済/見送り
見送り理由選択式+自由記述。ここが最重要
担当者誰が判断したかを残す

特に重要なのは「見送り理由」の項目だ。選択式で「価格が合わない」「立地リスク」「再建築不可」「需要が読めない」などの選択肢を用意しつつ、自由記述欄も設けておく。この蓄積が半年後、1年後に仕入れ基準の精度を上げる財産になる。

出典・一次情報

制度・統計は改定されます。最新の情報は公表元でご確認ください。

仕入れ判断で見るべき数字:粗利率・在庫保有期間・残債の一次判定

台帳の項目が揃ったら、仕入れ判断で最初に見る数字を決めておく。見るのは粗利率・在庫保有期間・残債の3つだ。物件情報が入った時点で、台帳の取得希望価格・想定販売価格・リフォーム概算から粗利率を自動計算し、想定の在庫保有期間と合わせて一次判定しておくと、検討に時間をかける物件を早く絞れる。

数字基準の例確かめ方
粗利率15%以上(想定販売価格−取得価格−リフォーム概算)÷想定販売価格
在庫保有期間6ヶ月以内自社の過去実績と、エリアの平均販売期間
残債・抵当権売主の残債<取得価格(決済時に抵当権を抹消できる)登記事項証明書で抵当権・根抵当権の有無と債権額(極度額)を確認し、今の残債は売主の金融機関の残高証明で確かめる

仕入れ台帳の判定列は、条件付き書式で自動表示にする。粗利率15%以上かつ在庫保有期間6ヶ月以内なら「Go」、粗利率15%以上でも保有期間が6ヶ月を超える見込みか、粗利率10〜15%なら「要検討」、10%未満なら「見送り」とする。残債が取得価格を上回る物件は、抹消の段取りが見えるまで「要検討」に留める。基準値は自社の実績から決め、シートの別セルにパラメータとして置いておく。登記記録に載るのは抵当権を設定したときの債権額で、今の残債は登記からは分からない点に注意したい(参考:不動産登記法/e-Gov法令検索)。

物件情報が入る粗利率を自動計算Go15%以上かつ6ヶ月以内要検討10〜15%か保有6ヶ月超見送り10%未満・理由を記録金利上昇時粗利率 15→18%保有 6→4ヶ月
基準値はシートのパラメータにして、相場に合わせて動かします。数字は一例で、自社の過去実績から決めます。

金利が上がる局面での調整:買い手の借入条件が厳しくなると販売期間が延び、在庫を抱える期間が長くなりやすい。粗利率の基準を2〜3ポイント引き上げる(15%→18%)、在庫保有期間の上限を短くする(6ヶ月→4ヶ月)といった調整を、パラメータの変更だけで反映できるようにしておく。

台帳設計の3ステップ

ステップ1:まず1枚のシートに集約する

最初にやるべきことは、担当者ごとにバラバラになっている情報を1つの場所に集めることだ。Googleスプレッドシートでもいいし、使い慣れたExcelでもいい。ツールの選定に時間をかけるより、まず「全員が同じ台帳を見ている」状態を作ることが先決だ。

ここで大事なのは、過去のデータを完璧に移行しようとしないこと。過去分は「あったら入れる」くらいで十分で、今日以降の新規案件から台帳に記録するルールを徹底する方がずっと大切だ。完璧を目指すと移行期間が長引き、結局誰も使わなくなる。

実務のコツ:最初は10項目以内に絞ること。上の推奨項目リストから、まずは所在地・物件種別・取得希望価格・想定販売価格・ステータス・見送り理由の6項目だけで始めるのが現実的。入力に5分以上かかる台帳は定着しない。

ステップ2:判断基準を数値化する

台帳にデータが50件ほど溜まったら、次は判断基準の数値化に取り組む。ベテランが「この物件はいける」と感じている根拠を、できるだけ分解して点数にする作業だ。

前の章の一次判定は「利益が残らない物件を外す足切り」、ここで作るスコアは「残った物件のどれから検討するかを決める優先順位」だ。粗利率は一次判定と同じ数字(想定販売価格から取得価格とリフォーム概算を引き、想定販売価格で割ったもの)を使い、足切りを通った物件の中で差がつくように区切りを上げる。例えば、こんなスコアリングシートを作る。

  • 想定粗利率:18%以上=3点、15-18%=2点、15%未満=1点
  • 立地:最寄駅徒歩10分以内=3点、15分以内=2点、15分超=1点
  • 築年数:20年以内=3点、30年以内=2点、30年超=1点
  • リフォーム規模:表層のみ=3点、水回り含む=2点、構造含む=1点

合計8点以上なら「積極的に仕入れ検討」、6-7点なら「条件次第」、5点以下なら「原則見送り」といった目安を設定する。大事なのは、この基準が絶対ではないということ。あくまで共通言語として使い、ベテランの判断を否定するためのものではない。

ある会社ではこのスコアリングを導入した結果、新人の仕入れ判断のブレが明らかに減った。スコアが低い物件に時間をかけることがなくなり、担当者あたりの検討件数が月20件から35件に増えたという。

ステップ3:振り返りの仕組みを作る

台帳を作って基準を数値化しても、振り返りの機会がなければデータは溜まるだけで使われない。月に1回、30分でいいので「仕入れ振り返り会」を設ける。

振り返りで確認するのは3つだけ。

  1. 見送り理由の傾向 — 「価格が合わない」が8割なら、情報ソースの見直しが必要かもしれない
  2. スコアと実績の乖離 — スコアが高かったのに利益が出なかった物件があれば、基準の修正ポイントになる
  3. 仕入れまでのリードタイム — 情報入手から契約まで平均何日かかっているか。ここにボトルネックが隠れていることが多い

振り返りの材料にするため、売却まで終わった案件は、実際の取得価格・リフォーム費・売却価格・在庫保有日数を同じ行に書き足しておく。リフォームの見積もりと実費の差が並ぶと「うちの概算はいつも低めに出る」といった癖が分かり、次の一次判定の精度が上がる。在庫保有日数の推移も四半期ごとに見ておくと、延びていれば市場が減速しているサイン、縮んでいれば仕入れを強めてよい局面だと数字で確かめられる。

台帳に入れる見送りも1行残す判断する一次判定+スコア実績を書き足す実費・売価・保有日数月1回の振り返り見積もりの癖・保有日数の推移基準を直す
仕入れ時の想定と売却後の実績を同じ行に並べるのが要点です。差が見えると、判断基準のどこを直すかが決まります。

この振り返りを四半期ごとに続けると、半年後には「うちの会社はこのエリアのこの価格帯が得意」という型が見えてくる。それがそのまま仕入れ戦略になる。

まとめ — 仕入れのデータは「貯めるだけ」で価値がある

買取再販の仕入れ管理を属人化から脱却させるために、特別なシステムは必要ない。やることはシンプルだ。

  1. 担当者バラバラの管理を、1枚の台帳に集約する
  2. ベテランの判断基準を、スコアリングで見える化する
  3. 月1回の振り返りで、基準を磨き続ける

仕入れの「千三つ」は、裏を返せば見送った物件の判断データが毎月大量に生まれているということだ。そのデータを捨て続けるか、資産として貯めていくか。この差が、3年後の仕入れ精度を大きく分ける。

まずは今週、担当者全員の仕入れ情報を1つのシートに集めるところから始めてみてほしい。完璧な台帳である必要はない。「全員が同じシートを見ている」という状態を作るだけで、属人化の解消は確実に前に進む。

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よくある質問

買取再販の仕入れ管理で最初にやるべきことは何ですか?

まず担当者ごとにバラバラになっている仕入れ情報を1枚のシートに集約することが最優先です。物件所在地・取得価格・想定販売価格・判断結果・見送り理由の5項目を最低限揃えるだけで、過去の仕入れデータが会社の資産として蓄積され始めます。

買取再販の仕入れ判断で見るべき数字は何ですか?

まず粗利率・在庫保有期間・残債の3つです。粗利率は(想定販売価格−取得価格−リフォーム概算)÷想定販売価格で計算し、15%以上かつ在庫保有期間6ヶ月以内を「Go」の目安にします。残債は取得価格で抵当権を抹消できるかを、登記事項証明書と売主の金融機関の残高証明で確かめます。基準値は自社の過去実績から決めます。

仕入れの判断基準はどうやって数値化すればいいですか?

想定粗利率・立地・築年数・リフォーム規模の4項目を点数化し、合計点で仕入れの優先度をランク付けする方法が現実的です。最初から完璧な基準を作る必要はなく、まず既存の判断を数値に置き換えてみて、四半期ごとに基準を見直す運用がうまくいきやすいです。

金利が上がる局面では、仕入れ判断の基準をどう変えればいいですか?

買い手の借入条件が厳しくなると販売期間が延び、在庫を抱える期間が長くなりやすくなります。粗利率の基準を2〜3ポイント引き上げる、在庫保有期間の上限を短くする、といった調整が目安です。基準値を台帳のパラメータにしておくと、相場の変化に合わせてすぐ反映できます。

仕入れ台帳はExcelとスプレッドシートのどちらがいいですか?

複数人で同時に更新する前提であれば、Googleスプレッドシートの方が適しています。Excelはファイルの受け渡しが発生するためバージョン管理が煩雑になりがちです。ただし1人で管理する場合はどちらでも問題ありません。重要なのはツールの選択より、項目設計と運用ルールの方です。

泉

泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。

運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI自走プラン(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。

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この記事の数値について

本文中に一次資料へのリンクがある数値は、リンク先を出典としています。 リンクのない業務設計、判断基準、実務上の目安は、SalesDockが累計40社以上の支援と自社運用で得た知見を一般化したものです。 個別企業での成果を保証する数値ではなく、条件によって変わります。

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