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業務改善

引き継ぎ資料の作り方|書くべき7項目と、退職の1か月前から進める手順

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この記事のポイント

引き継ぎ資料が使われないのは、書式が悪いからではなく、手順しか書かれていないから。前任者が無自覚に行っていた判断と、過去に起きたトラブルの履歴を書き出せるかどうかで、引き継ぎ後の問い合わせの量が変わる。

引き継ぎ資料の作り方で最初に決めるべきなのは、書式ではなく何を書くかだ。テンプレートを配って手順を埋めてもらう形はよく見かけるが、それだけだと引き継ぎが終わったあとに前任者へ電話がかかり続ける。足りていないのは手順ではなく、その人が毎日していた判断のほうだからだ。

この記事では、業種を限定せず、引き継ぎ資料に書くべき7項目と、それを1か月で形にする手順をまとめる。中小企業の業務改善を支援するなかで、引き継ぎがうまくいった現場とそうでない現場の両方を見てきたので、そこで共通していた差を中心に書いていく。テンプレートそのものよりも、埋めるときに何を思い出してもらうかが本題だ。

引き継ぎ資料がうまくいかないのは、書式の問題ではない

よく見る流れはこうだ。退職や異動が決まる。総務から引き継ぎ書のフォーマットが配られる。前任者が業務名と手順を埋める。後任が読んで、わかりましたと答える。最終出社日が来る。そして一か月後、前任者の私用の携帯に着信が入る。

このとき前任者が悪いわけでも、後任が不真面目なわけでもない。資料の書式が古いわけでもない。起きているのは、業務が二つの層でできているのに、書けるほうの層しか書かれていないという構造的な問題だ。

層1:手順(書ける) いつ、どこで、何を、どういう順番で操作するか。画面の場所、ファイルの置き場、承認の流れ。本人が意識してやっていることなので、聞けば出てくるし、書式にも収まる。

層2:判断(書かれない) この案件は例外扱いにするか、この金額なら上長に確認するか、この取引先には先に電話を入れるか。本人にとっては当たり前になっていて、判断しているという自覚すらない。だから聞かれないかぎり出てこない。

引き継ぎ後の問い合わせは、ほぼ層2で発生する。手順どおりに進む案件は資料で片づくが、実務では毎回どこかに例外が混ざる。そして例外の処理方法は前任者の頭の中にしかない。

これは個人の能力の話ではなく、業務が人に貼りついた状態、つまり属人化の話だ。引き継ぎのタイミングは、その貼りつきが表に出てくる瞬間にすぎない。背景の構造そのものについては属人化を解消する方法で整理しているので、根っこから直したい場合はそちらもあわせて読んでほしい。この記事は、期限が切られた状態で何をどう書くかに絞る。

引き継ぎ資料に書くべき7項目

項目を先に決めておくと、書く側の負担がかなり軽くなる。白紙に業務説明を書いてくださいと言われると手が止まるが、7つの問いに答える形なら埋められる。

項目書く内容抜けやすさ
1. 目的この業務は何のためにあるか。やめたら誰が困るか高い
2. 手順頻度、期限、操作するシステム、順番低い
3. 判断基準迷う場面と、そのときどう決めているか最も高い
4. 関係者社内外の誰に、何を、どの順で確認するか。連絡手段高い
5. アカウントと保管場所使うシステム、権限、データとファイルの置き場
6. トラブル履歴過去に起きた事故、原因、そのときの対処最も高い
7. カレンダー月次・四半期・年次で発生する締切と繁忙高い

それぞれ補足していく。

1. 目的—やめたら誰が困るかを書く

目的が書かれていない業務は、後任にとって作業そのものになる。作業として引き継がれると、状況が変わったときに判断できない。たとえば毎週水曜に作っている集計表があるとして、それを見ているのが誰なのか、何の判断に使われているのかがわかっていれば、後任は形式を変える提案もできるし、必要がなくなったときに止めることもできる。目的が抜けていると、誰も見ていない資料が何年も作り続けられる。実際、引き継ぎ資料を作る過程で、この業務は要らないのではという話が出てくることは珍しくない。

2. 手順—画面の説明より、順番と期限

手順は最も書きやすい項目で、放っておくと逆に厚くなりすぎる。スクリーンショットを大量に貼った資料をよく見るが、システムの画面は更新で変わるので寿命が短い。むしろ大事なのは、どの順番で、いつまでに、何を確定させるかという骨格のほうだ。画面の細かい操作は後任が一度触れば覚える。順番と期限は触っただけではわからない。

3. 判断基準—引き継ぎ資料の心臓部

7項目のなかで、引き継ぎの成否を最も左右するのがここだ。書き方としては、もし〜なら〜する、という形にそろえると出しやすい。金額が一定額を超えたら上長に確認する、初回取引の相手なら先に与信を見る、期日が翌営業日に迫っていたら電話を先に入れる、といった具合だ。

本人から引き出すには質問を用意しておくとよい。あとで詳しく書くが、迷ったことがあるのはどこですか、前任者に確認したことがあるのはどこですか、この確認を飛ばすと何が起きますか、の3つを当てるだけでかなり出てくる。

4. 関係者—組織図ではなく、実際の連絡経路

組織図に載っている窓口と、実際に話が通る相手は一致しないことがある。正式には情報システム部が窓口だが実際は特定の担当者に直接聞いている、といった経路は資料に書かれない。書かれないまま引き継ぐと、後任は正規ルートで問い合わせて、返事が来るまで待つことになる。誰に、何を、どの順で聞くか。可能ならその人の得意分野や、返事が早い連絡手段まで書いておくと親切だ。

5. アカウントと保管場所—個人に紐づいたものを洗い出す

ここは技術的な項目に見えて、実務では事故が起きやすい。個人名義で登録した外部サービス、個人のドライブに置いたファイル、本人のメールアドレス宛に届く通知、本人のスマートフォンに入っている二段階認証。退職後に気づくと、復旧に時間がかかるうえに、そもそも本人に連絡が取れないこともある。

なお、パスワードそのものを資料に書くのは避けたい。書くのは、どのサービスを使っているか、誰の権限で入っているか、引き継ぎ時に誰へ付け替える必要があるか、の3点でよい。認証情報の受け渡しは、資料とは別の管理された経路で行う。

6. トラブル履歴—過去に踏んだ地雷の地図

これも抜けやすいが、価値が高い。過去に起きたトラブルは、その業務のどこが壊れやすいかを示している。二重請求を出したことがある、送り先を間違えたことがある、締切を勘違いして間に合わなかったことがある。そのときの原因と対処を書いておくと、後任は同じ場所で立ち止まれる。

書きにくい内容なので、失敗の記録ではなく引き継ぎのための注意点という位置づけにしておくと出てきやすい。個人の責任を追及する場ではないことは、資料を集める側が先に伝えておいたほうがよい。

7. カレンダー—月に一度しか来ない仕事を落とさない

毎日の業務は引き継ぎ期間中に自然と出てくるが、月末だけ、四半期だけ、年に一度だけ発生する業務は、その時期をまたがないと存在に気づけない。年次の業務は特に危ない。前任者ですら、去年やったことを思い出すのに時間がかかる。カレンダー形式で一年ぶんの締切と繁忙期を並べておくと、抜けを見つけやすい。

手順だけでは引き継げない—判断を書き出す3つの質問

判断を書いてくださいと頼んでも、たいてい何を書けばいいかわからないという反応が返ってくる。無自覚だからだ。そこで、こちらから質問を当てる形にする。

質問1:この業務で、迷ったことがあるのはどこですか 迷った経験がある場所には、必ず基準がある。基準がなければ迷えない。迷った記憶をたどると、本人が持っている基準が言語化される。

質問2:これまでに、誰かに確認したことがあるのはどこですか 確認が必要だった箇所は、自分だけでは決められない箇所だ。つまり後任も同じ場所で止まる。誰に確認したかまで書けば、項目4の関係者にもそのまま使える。

質問3:この確認や作業を飛ばすと、何が起きますか 省略できない理由を聞く質問だ。答えが出てこない場合、その工程は本当に不要かもしれない。答えが出てくる場合、それは後任にとって最も重要な注意書きになる。

この3つを、業務ごとに順番に当てていく。文章で答えてもらう必要はなく、口頭で聞いて聞き手側がメモを取るほうが早い。書く作業を前任者一人に背負わせると、たいてい最後まで終わらない。

聞き出した判断は、条件と行動の形に整えて資料に落とす。もし〜なら〜する。この形にそろえておくと、後で見返したときに読み飛ばせるし、将来的にチェックリストやシステムのルールに変換しやすくなる。

引き継ぎ資料の作り方【5ステップ】

ここからは進め方だ。順番を守るだけで、間に合うかどうかがかなり変わる。

ステップ1:業務を書き出す(1〜2時間)

最初にやるのは、引き継ぐ業務の一覧を作ることだ。内容はまだ書かない。名前だけを並べる。日次、週次、月次、年次、不定期の5区分で分けると漏れが減る。ここで大事なのは、細かく書きすぎないことと、あとから足せる状態にしておくことだ。

一覧づくりの具体的な進め方は業務棚卸しのやり方にまとめている。引き継ぎに限らず使える手順なので、部署単位で整理する場合はそちらを参照してほしい。

ステップ2:頻度と影響で優先順位をつける(30分)

全業務を同じ厚さで書こうとすると、まず間に合わない。一覧に対して、頻度が高いか、間違えたときの影響が大きいか、の2軸で印をつける。両方が高いものが最優先で、両方が低いものは業務名と担当者だけ書いて先に進んでよい。

この優先順位づけを飛ばして頭から順に書いていくと、時間切れになったときに重要な業務が空欄で残る。逆に優先順位さえ決まっていれば、途中で時間が尽きても致命傷にはならない。

ステップ3:上位から1業務1ページで書く

優先度の高いものから、先ほどの7項目を埋めていく。1業務あたりA4一枚に収める。収まらない場合は業務の切り方が大きすぎるので、二つに分けたほうがよい。

分厚い一冊にまとめないのは、更新されなくなるからだ。1業務1ページなら、変更があった箇所だけ差し替えられる。引き継ぎが終わったあとも生き続けるかどうかは、この形式でかなり決まる。

ステップ4:後任に読ませて、わからない箇所に印をつけてもらう

書いた本人には、どこが不足しているかわからない。前提を共有している人が読むと、抜けている前提も補って読めてしまうからだ。だから完成させる前に後任へ渡し、読んだうえで意味がわからない箇所に印をつけてもらう。

印がついた場所は、たいてい判断基準か、社内用語か、暗黙の前提のどれかだ。ここを埋める作業が、引き継ぎ資料の質を最も押し上げる。逆に、後任に読ませないまま完成としてしまうと、資料は書き手の理解度のまま固定される。

ステップ5:後任がやり、前任者が横で見る

最後は実地だ。前任者がやって見せるのではなく、後任が資料だけを見て操作し、前任者は口を出さずに横で見る。詰まった箇所が、そのまま資料の穴になっている。その場で追記していく。

やって見せる形だと、見ているときは理解した気になり、一人になった瞬間に手が止まる。順番を逆にするだけで、引き継ぎ後の問い合わせは目に見えて減る。時間が足りない場合でも、この一巡だけは確保したい。資料を1ページ増やすより効く。

補足:AIに手伝わせる場合の線引き

書く時間が取れないときに、口頭説明を録音して文字起こしし、AIに整えてもらう進め方がある。箇条書きを読める文章にする、抜けている観点を指摘させる、といった用途では実用になる。

ただし線引きは必要だ。アカウントのIDやパスワード、取引先の個人情報、契約金額などは入力しない。そして、AIが整えた文章は必ず前任者本人が読み返す。もっともらしく整った文章でも、条件や順番が微妙に変わっていることがあり、それに気づけるのは本人だけだ。清書は任せてよいが、正しさの確認は任せられない。

期間別の進め方—1か月・2週間・数日しかない場合

理想は1か月だが、現実には突然決まることもある。残り時間ごとに、どこを削るかを決めておく。

残り期間やること割り切ること
1か月5ステップを一通り。月次業務を後任が一巡できるよう日程を組む年次業務は資料とカレンダーのみ
2週間優先度上位の業務だけ7項目を埋め、ステップ5の実地を最優先で確保低頻度・低影響の業務は一覧と連絡先だけ
数日業務一覧、アカウント・保管場所、関係者連絡先、直近の締切。前任者への質問経路を確保資料の体裁。口頭とメモで残す

数日しかない場合に最優先で押さえるべきなのは、業務の説明ではない。業務一覧、アカウントと保管場所、関係者の連絡先、直近1か月の締切の4つだ。この4つさえあれば、細部がわからなくても止まりはしない。逆にこの4つが欠けると、何が存在するのかすら誰も知らない状態になる。

それから、退職後に質問してよいのかどうかを、会社として決めておいたほうがよい。曖昧なまま最終出社日を迎えると、後任は聞きづらく、前任者は私用の時間を削ることになる。期間を区切って、この日までは窓口を通して質問できる、という形にしておくと双方が楽になる。

書き方のコツ—粒度・主語・例外

中身の方針が決まったら、書き方でつまずかないためのコツを3つ挙げておく。

粒度:A4一枚に収まる大きさで業務を切る 収まらないなら業務が大きすぎる。逆に3行で終わるなら、隣の業務とまとめてよい。読む側にとっては、一画面で全体が見えるかどうかが分かれ目になる。

主語:誰がやるかを省略しない 確認する、承認をもらう、と書かれていても、誰がやるのかが書かれていないことが多い。自分がやっている業務を書くと主語が消えるので、意識して補う。引き継いだ後は主語が変わるからだ。

例外:正常系より例外を厚く書く 正常系は一度やれば覚えるが、例外は年に数回しか来ないので覚えられない。ページのなかで正常系は短く、例外と注意点を厚くしたほうが、実際に使われる資料になる。

もうひとつ、置き場所も先に決めておく。前任者の個人フォルダに置いたままだと、退職と同時にアクセスできなくなる。部署の共有フォルダなり社内のドキュメントツールなり、他の人が探せる場所に置く。ファイル名の付け方も統一しておくと、半年後に探せる。

なお、業務マニュアルとして整備する場合の作り方は業務マニュアルの作り方で不動産会社を例に書いている。マニュアルは不特定多数向けの標準手順、引き継ぎ資料は特定の後任向けの申し送り、という違いはあるが、粒度や更新の考え方は共通している。

そのまま使える引き継ぎ資料の見出しの型

1業務1ページで書くときの見出しの型を置いておく。項目名をコピーして、上から埋めていけばよい。空欄が残っても構わない。空欄そのものが、引き継ぎで確認すべき箇所を示している。

【業務名】

1. 目的:何のための業務か/やめると誰が困るか

2. 頻度と期限:いつ発生するか/いつまでに終わらせるか

3. 手順:番号付きで、順番と確定させるものを書く

4. 判断基準:もし〜なら〜する(迷う場面をすべて)

5. 関係者:社内/社外、誰に何を確認するか、連絡手段

6. 使うもの:システム名、権限、ファイルの保管場所(認証情報は別管理)

7. 過去のトラブル:起きたこと/原因/対処

8. 引き継ぎ時の申し送り:いま進行中の案件、保留事項、期日

8番目の申し送りだけは、資料というより時点の記録だ。進行中の案件、返事待ちの相談、来月に持ち越す予定の判断。ここが空欄のまま引き継ぐと、後任は動いている案件に気づかないまま日常業務を始めることになる。最終出社日の直前に、もう一度更新してほしい。

加えて、業務一覧のページを一枚だけ先頭に置く。日次・週次・月次・年次・不定期の区分で業務名と優先度を並べたものだ。個別ページが未完成でも、この一枚があれば全体像は伝わる。

引き継ぎ資料でよくある失敗5つ

支援に入った現場で繰り返し見てきた失敗を挙げておく。どれも、事前に知っていれば避けられるものだ。

失敗1:完璧を目指して、間に合わない

全業務を丁寧に書こうとして、最終出社日に半分しか終わっていない。しかも書き終わった半分は、頭から順に書いたので優先度の低い業務が含まれている。優先順位づけを先に済ませておけば、途中で止まっても影響は小さい。

失敗2:前任者が一人で書く

通常業務をこなしながら資料を書くのは負担が大きく、後回しになる。さらに一人で書くと、暗黙の前提が抜けたまま完成する。後任か第三者が聞き手になって、口頭で引き出しながら書くほうが速いし、抜けにくい。

失敗3:資料が個人の領域に置かれている

前任者のPCのデスクトップ、個人のドライブ、個人アカウントのメモアプリ。退職と同時に見えなくなる。書く場所は、書き始める前に決めておく。

失敗4:アカウントと権限の棚卸しを忘れる

個人名義で契約していた外部サービス、本人宛に届いていた通知、本人の端末に入っていた認証。退職後に発覚すると、復旧に時間がかかる。使っているサービスを列挙するだけでも、かなり防げる。

失敗5:口頭で伝えて終わりにする

説明した側は伝えたつもりになり、聞いた側はその場では理解している。だが数週間後には両者とも細部を覚えていない。口頭で伝えたことは、聞いた側がその場でメモにして、伝えた側が目を通す。この一往復があるだけで残り方が変わる。

この5つに共通しているのは、引き継ぎを個人の善意に任せている点だ。前任者が丁寧な人なら回るが、そうでなければ回らない。仕組みとして、いつ・誰が・どこに書くかを会社側が決めておく必要がある。

引き継ぎが終わったあと—資料を腐らせない

せっかく作った資料も、引き継ぎが終わると同時に更新が止まることが多い。次の異動や退職のときに、また一から作り直すことになる。そうならないための工夫を3つ挙げる。

ひとつめは、後任が最初の一巡で追記することだ。新しく入った人は、どこがわかりにくいかを一番よく知っている。その感覚は数か月で消えるので、最初の一か月のうちに書き足してもらう。

ふたつめは、更新のきっかけを業務側に置くことだ。定期的に見直しましょうという約束は、たいてい守られない。それよりも、手順が変わったときにそのページを直す、トラブルが起きたら7番に一行足す、という形で、業務のイベントに紐づけたほうが続く。

みっつめは、一般化できる部分をマニュアル側へ移すことだ。引き継ぎ資料には、そのときの申し送りのような時点情報と、誰がやっても同じ標準手順の両方が混ざっている。後者を切り出して業務マニュアルに移しておくと、次の引き継ぎでは差分だけを書けばよくなる。

また、業務がチーム単位で回っている場合は、そもそも個人の引き継ぎに依存しない形に寄せていくほうが根本的だ。顧客情報や案件の進捗を個人の管理から共有の場所へ移す考え方は、引き継ぎできない顧客管理を解消する仕組みの作り方で不動産会社を例にまとめている。業種が違っても、権限設計と更新の当番の考え方はそのまま応用できるはずだ。

なお、引き継ぐ対象が業務ではなくツールの場合は、また別の注意点がある。担当者がひとりで作った社内ツールやスクリプトは、手順書を書いても引き継げないことがある。動いている場所、権限、壊れたときの直し方が本人の頭にしかないためだ。この論点は作った人しか直せないAIツールで扱っている。

まとめ—引き継ぎ資料は、いなくなる前提で作る

引き継ぎ資料の作り方をまとめると、書くべきは7項目。目的、手順、判断基準、関係者、アカウントと保管場所、トラブル履歴、カレンダー。このうち抜けやすいのは判断基準とトラブル履歴で、引き継ぎ後の問い合わせはほぼこの2つから発生する。

作る手順は5つ。業務を書き出し、頻度と影響で優先順位をつけ、上位から1業務1ページで書き、後任に読ませて穴を見つけ、最後に後任がやって前任者が横で見る。時間がないときも、最後の一巡だけは確保したい。資料を1ページ足すより効く。

最後にひとつ。引き継ぎ資料が必要になるのは退職や異動のときだが、本当に効くのは、その予定がないうちに作っておくことだと思っている。期限が切られてから書く資料は、どうしても時間との勝負になる。日常のなかで判断基準を書き溜めておければ、引き継ぎは差分の申し送りだけで済む。難しいのは承知のうえだが、一度そうなった組織は、人が変わっても業務が止まらない。

よくある質問

引き継ぎ資料には何を書けばいいですか?

最低限そろえたいのは7項目です。(1)その業務の目的、(2)手順、(3)迷ったときの判断基準、(4)関係者と連絡先、(5)使うシステムのアカウントと権限・データの保管場所、(6)過去に起きたトラブルと対処、(7)月次・年次の締切カレンダー。このうち抜けやすいのは(3)の判断基準と(6)のトラブル履歴で、この2つが無いと後任は手順どおりに動けても例外で止まります。

引き継ぎ資料の作成はいつから始めるべきですか?

月次業務を一巡できる期間が要るので、退職や異動が決まった時点、遅くとも1か月前が目安です。理由は、月末や月初にしか発生しない業務は、その月をまたがないと存在に気づけないからです。時間が取れない場合でも、資料を全部そろえることより、後任が実際に一度やってみる時間を先に確保するほうが効きます。

引き継ぎ資料と業務マニュアルはどう違いますか?

業務マニュアルは不特定多数に向けた標準的な手順書で、引き継ぎ資料は特定の後任に向けた申し送りです。引き継ぎ資料には、そのポジション固有の事情、関係者との経緯、過去の失敗、判断の癖といった、マニュアルには書きにくい情報が入ります。一方で引き継ぎ資料は使い捨てになりがちなので、引き継ぎが終わったら一般化できる部分をマニュアル側へ移していくと、次の引き継ぎが軽くなります。

引き継ぎ資料はどれくらいの分量で作ればいいですか?

1業務あたりA4一枚を目安にして、業務の数だけ用意する形をおすすめしています。分厚い1冊にすると更新されなくなり、探すのにも時間がかかります。分量よりも、頻度が高い業務と間違えたときの影響が大きい業務から順に埋まっているかどうかのほうが重要です。全業務を均等な厚さで書こうとすると、たいてい期限に間に合いません。

引き継ぎ資料の作成にAIを使ってもいいですか?

口頭説明の文字起こしを整える、箇条書きを読める文章に直す、抜けている観点を指摘させる、といった使い方は有効です。ただしアカウントのIDやパスワード、取引先の個人情報、契約金額のような情報は入力しないでください。またAIが整えた文章は、前任者本人が必ず読み返す必要があります。手順の順番や条件が滑らかに書き換わっていても、正しいかどうかを知っているのは本人だけです。

引き継ぎ資料を作ったのに、結局前任者に問い合わせが来るのはなぜですか?

多くの場合、資料に手順は書かれていて、判断基準が書かれていないためです。手順どおりに進む案件は資料で片づきますが、実務では例外が一定の割合で発生します。前任者は自分が例外処理をしている自覚が薄いので、書き出す作業が必要になります。後任が最初の一巡で詰まった箇所をその場で資料に追記していくと、二巡目以降の問い合わせは目に見えて減ります。

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泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。

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