業務分掌の決め方|部署の間に落ちる業務に持ち主を置く手順
部署を分ける前に、業務の持ち主を1人にする
「それ、うちの担当でしたっけ」で止まる業務がいくつかある。請求の元データを直す人、届いた郵便を仕分ける人、解約の連絡を受けたときに社内へ回す人。誰かがやってはいるが、決めた覚えはない。その誰かが辞めるか休むかしたときに、初めて誰の担当でもなかったと分かる。
対策として業務分掌表を作ると、今度は表が実態と合わない。部署が3つしかないのに業務は50個あり、1人が3部署の業務を持っている。部署を単位に取ると、兼務の会社では箱しか決まらない。単位を業務側に取り、1業務につき持ち主を1人に決めるほうが、同じ労力で止まらなくなる。
取引先データという1つの対象に絞った責任分担は取引先マスタの責任者設計、問い合わせが集まる窓口の割り当ては共有受信箱の担当割り当て設計、人が抜けるときの引き継ぎは退職時の業務引き継ぎで扱っている。この記事は、その前提になる「誰が何を持っているか」を1枚にする工程に絞る。
業務分掌・職務分掌・職務権限を混ぜない
この3つは近い言葉だが、決めているものが違う。混ぜて1枚にすると、担当なのに決められない人が生まれ、結局判断が上へ戻る。
業務分掌
どの部署・組織単位が何を担当するか。組織図と対になる
職務分掌
どの職位・役職が何を担当するか。人事制度と対になる
職務権限
誰がいくらまで、何を決めてよいか。決裁基準と対になる
よくある詰まり
担当を決めた表と決裁範囲の表を1枚にすると、担当なのに決められない人が生まれ、結局上へ上がる
業務分掌も職務分掌も、法令で定義された用語ではない。社内で使い分けを決めておけば足りる。分けておくべきなのは呼び方ではなく、担当の表と決裁の表を別々に持つことだ。決裁側の作り方は職務権限規程の作り方で扱っている。
法令が触れているのは、規程の形ではなく体制
業務分掌規程を作れと定めた法令はない。関係してくるのは、取締役会設置会社における体制整備のほうだ。会社法第362条第4項第6号は「業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を取締役に委任できない事項として挙げ、その中身を定める会社法施行規則第100条第1項第3号が「取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制」を挙げている(e-Gov法令検索「会社法」、同「会社法施行規則」、いずれも2026年8月26日に条文を確認)。
誰が何を担当するかを決める作業は、この体制の一部として位置づけられている。規程という文書を作るかどうかは選べるが、決めること自体は選べないという読み方になる。
もう1つ、分掌で降ろせる範囲にも境界がある。会社法第362条第4項第3号は「支配人その他の重要な使用人の選任及び解任」を取締役会の決議事項としている。部門長に「うちの部の採用と人事は任せた」と口頭で渡していても、重要な使用人に当たる範囲は取締役会側に戻る。分掌表に人事権を書き込む前に、ここだけは確認しておく。
先に決めるのは、どこにも属さない業務の受け皿
分掌表が途中で止まる原因は、分類が難しい業務にぶつかったときに手が止まることにある。郵便物の仕分け、備品の発注、Webサイトの問い合わせフォームから来た営業メールの処理。どの部署の仕事とも言い切れないものが必ず残る。
ここで分類を完成させようとしない。先にデフォルトの引き取り手を1つ決めて、決まらないものは全部そこへ入れる。管理部門でも、社長本人でもいい。重要なのは、決まらない業務が宙に浮かず、必ずどこかに着地することだ。
そのうえで、引き取り手に溜まった業務のリストを次の見直しの材料にする。溜まったものを眺めると、業務そのものが不要だったもの、他の業務に付ければ済むもの、本当に新しい担当が要るものの3つに分かれる。受け皿は分類の失敗ではなく、分類のための観測装置として置く。
分掌表に持つのは5列でいい
業務名
「請求書の発行」ではなく「月末締めの請求データを作る」まで具体化する。動詞まで書かないと持ち主が決まらない
持ち主
部署ではなく個人名を1人だけ書く。2人書いた時点で、その業務は落ちる候補になる
代替
持ち主が5日休んでも回す人。空欄のままにしないで、当面は社長と書いてでも埋める
発生の合図
その業務が始まるきっかけ。日付、受注、問い合わせ、前工程の完了。合図が言えない業務は、気づいた人がやっている状態
記録の置き場
終わった証跡がどこに残るか。ここが空欄の業務は、やったかどうかを誰も確認できない
この5列のうち、埋まらない列が出た業務が、次に手を入れる対象になる。代替が空欄なら持ち主が休むと止まる業務、記録の置き場が空欄ならやったかどうかを確認できない業務だ。1人しかできない業務が積み上がったときにどう解けるかは属人化解消の事例パターン8選で整理している。
作るまでの5手順
1. 部署割りを一旦やめる
組織図を横に置き、いま実際に発生している業務を名詞ではなく動詞で書き出す。部署名から入ると、既にある箱に業務を押し込むことになる
2. 受け皿を先に1つ決める
どこにも属さない業務の引き取り手を先に決める。分類が終わるのを待たない。ここが決まっていないと、決まらない業務が全部社長に戻る
3. 持ち主を1人にする
共同担当を作らない。2人で持っている業務は、忙しいほうが降りて片方に寄るか、両方が相手を待って止まるかのどちらかになる
4. 代替と発生の合図を埋める
代替が空欄なら、その業務は持ち主が休むと止まる。合図が空欄なら、その業務は誰かの記憶で動いている。この2列の空欄が、次に手を入れる場所
5. 決裁範囲は別の表に書く
担当と決裁を同じ表に混ぜない。担当は業務分掌、いくらまで決めていいかは職務権限規程の側に置く
手順3の「持ち主を1人にする」で反発が出ることがある。共同で見ているほうが安心に見えるからだ。ただし共同担当は、2人とも動く状態ではなく、片方が相手を待つ状態を作りやすい。持ち主を1人にして、もう1人は代替の列に置けば、責任と手数の両方を確保できる。
表を作っても動かないときに疑うところ
5列が埋まったのに、実務が以前と変わらないことがある。そのとき詰まっているのは分掌表の外側だ。担当は決まったが、その人が判断するための数字が別の人のExcelにある。記録の置き場と書いた場所に、他の人がアクセスできない。前工程が終わったという合図が、口頭でしか流れてこない。
件数は流れているのに、判断基準・責任者・データの受け渡しが後回しになっている会社ほど、この段階で止まる。最後の確認が社長へ集まっていればなおさらだ。担当を決める作業と、担当が動けるようにデータをつなぐ作業は別なので、後者に心当たりがあるなら3分・8問の事業基盤診断でどこから整えるかを確認できる。就業規則や人事制度そのものの設計は社会保険労務士の領分になるため、そこは分けて考える。
来週できる一歩:落ちた業務を5個書き出す
- 直近1か月で「誰の担当か分からずに止まった業務」を5個書き出す。
- 5個それぞれに、いま実際にやっている人の名前を1人だけ書く。
- その人が5日休んだときに代わる人を書く。思いつかなければ空欄のままにする。
- どこにも属さない業務の引き取り手を1つ決める。
- 空欄になった代替の列だけを、次の1か月で埋める対象にする。
5個で回してみると、止まっていた原因が「担当が決まっていないこと」ではなく、担当は暗黙に決まっていたが、代わりがいなかったことだった業務が混ざっているのが分かる。この2つは打ち手が違うので、分けてから手を入れる。
担当と責任の設計を含む記事は業務改善カテゴリで確認できる。
よくある質問
業務分掌と職務分掌はどう違いますか?
業務分掌は部署や組織単位が何を担当するかを分ける言い方、職務分掌は職位や役職が何を担当するかを分ける言い方として使われます。どちらも法令で定義された用語ではないため、社内で使い分けを決めておけば十分です。混同よりも問題になるのは、担当を決めた表と、決裁できる範囲を決めた表を1枚にまとめてしまうことです。
業務分掌規程は作らないといけませんか?
分掌規程そのものを義務づける法令はありません。ただし取締役会設置会社では、業務の適正を確保するための体制の整備が取締役会の決議事項とされ、その中身として「職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制」が会社法施行規則に挙がっています。規程という形にするかは別として、誰が何を持つかを決める作業自体は避けられません。
兼務が多くて部署単位で分けられません
部署単位で分けられないなら、部署ではなく業務単位で持ち主を置きます。1人が5つの業務の持ち主になっても構いません。分掌表の目的は組織図を作ることではなく、ある業務が発生したときに誰へ行けばよいかを一意にすることなので、単位を業務側に取るほうが実態に合います。
どの部署の担当か決まらない業務はどうしますか?
決まらない業務を保留にすると、そこが毎回止まります。先にデフォルトの引き取り手を1つ決めて、決まらないものは全部そこへ入れます。そのうえで、引き取り手に溜まった業務のリストを次の見直しの材料にします。分類を完成させてから運用するのではなく、受け皿を決めてから分類を進めます。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
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