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製造業

製造業の“1社依存”から抜け出す方法 — 取引先を分散するために中小工場ができること

10分で読める

この記事は製造業のAI活用・業務効率化 完全ガイドの一部です。全体像を知りたい方はまず完全ガイドをご覧ください。

この記事のポイント

中小製造業の約34%が1社依存の構造にある。抜け出すには、既存顧客へのヒアリングで強みを言語化し、HPを営業ツールに変え、展示会・Web・横展開で新規ルートを仕組み化する。まずは顧客5社へのヒアリングから。

「売上の6割が1社からの受注なんです。正直、怖いですよね」

ある金属加工の社長が、ぽつりと言った言葉だ。従業員35名、技術力は確か。大手メーカーの二次請けを15年続けてきた。仕事の質には自信がある。でも、その大手が発注量を減らしたら—と考えると夜眠れないことがある、と。

この話は珍しくない。中小企業白書(2025年版)によると、製造業の中小企業のうち「主要取引先1社への売上依存度が50%以上」の企業は約34%にのぼる。3社に1社が、1社依存の構造に置かれている。

この記事では、1社依存から抜け出すために中小製造業ができることを、僕がクライアントと一緒に取り組んできた経験をもとに整理してみる。


1社依存の何がまずいのか

「今うまくいっているなら別にいいのでは」と思うかもしれない。でも1社依存には、じわじわ効いてくるリスクが3つある。

リスク1: 取引先の業績悪化がそのまま直撃する

主要取引先の業績が悪化すると、真っ先に切られるのは外注だ。内製化に切り替える、海外に発注を移す、単純に発注量を減らす。自社の技術力とは関係なく、相手の都合で売上が消える。

リスク2: 値下げ要求を断れない

「来期から単価を5%下げてほしい」と言われたとき、他に売上の柱がなければ断れない。断ったら仕事がなくなる。飲むしかない。これが毎年続くと、利益率はどんどん削られていく。

ある支援先では、5年間で主要取引先からの単価が累計18%下がっていた。その間、材料費は上がっている。利益はほとんど残っていなかった。

リスク3: 突然の取引停止

M&Aや事業再編で、ある日突然「来期からの発注はありません」と通告されるケースもある。予兆がないこともある。売上の半分以上がそこに依存していたら、会社の存続に関わる。

リスク起きるタイミングインパクト
業績悪化による発注減相手の業績次第(予測困難)売上が段階的に減少
値下げ要求年度切替・契約更新時利益率が年々悪化
取引停止M&A・事業再編時売上が一気に消失

なぜ中小製造業は1社依存になりやすいのか

「わかってはいるんだけど、なかなか……」という声をよく聞く。1社依存が解消できないのには、構造的な理由がある。

営業専任がいない

従業員30〜80名くらいの製造業だと、営業専任がいないことが多い。社長が営業を兼ねていて、既存の取引先対応で手一杯。新規を取りにいく余力がない。この点については、製造業の営業属人化の問題を以前の記事でも書いた

社長の人脈が唯一の営業ルート

新規の仕事は、社長の知り合い経由か、展示会での名刺交換。これ以外のルートがない。だから社長が忙しくなると、新規開拓が完全に止まる。

「技術があれば仕事は来る」という思い込み

製造業には「良いものを作っていれば仕事は続く」という文化が根強い。たしかに技術力は大前提だ。でも、技術力と営業力は別の話。技術があっても知られていなければ、発注先の候補にすら入らない。

HPが“名刺代わり”で止まっている

会社概要と設備一覧だけのHP。問い合わせフォームが見つからない。加工事例がない。これでは、Webから新規が来るわけがない。HPの改善については別の記事で詳しく書いたので、そちらも参考にしてほしい。


Step 1: 自社の強みを言語化する

取引先を分散させたい。新規を取りたい。でもその前に、まず「自社は何が強いのか」を明確にする必要がある。

既存顧客に聞くのが一番早い

自分たちで「うちの強みは精度です」と言うのは簡単だ。でもそれが本当に発注の決め手になっているかは、顧客に聞かないとわからない。

僕がクライアントと一緒にやったのは、主要取引先5〜10社に対する簡単なヒアリングだ。聞くことは3つだけ。

  • 「最初にうちを知ったきっかけは?」
  • 「発注を決めた理由は?」
  • 「他社と比べてどこが違う?」

1社30分、合計で3〜5時間。これだけで、自分たちが思っていた強みと、顧客が感じている強みが違っていたことがわかることが多い。

よくあるギャップ

自社が思っている強み顧客が感じている強み
高精度な加工技術レスポンスの速さ
最新の設備小ロットでも嫌がらない
長年の経験短納期対応

ある会社では、「技術力」だと思っていた強みが、顧客からすると「見積もり回答が当日中に来ること」だった。技術力はどの会社もある程度持っている。差がつくのは、むしろ対応の部分だったりする。

→ この「顧客が感じている強み」を、そのままHPや営業資料のメッセージに使う。自分で考えるより、よほど刺さる。


Step 2: HPを「営業ツール」に変える

強みが言語化できたら、次はそれをHPに反映する。HPを「名刺代わり」から「営業ツール」に変えるということだ。

最低限やるべきこと

  • 加工事例を載せる: 写真付きで10件。素材、サイズ、加工方法、納期を明記する。スマホ撮影で十分
  • 対応範囲を明確にする: 素材、加工方法、ロット、納期の目安を一覧にする
  • 問い合わせフォームを目立つ位置に置く: トップページとすべてのページの下部に設置
  • 実績・対応業界を書く: 「自動車部品」「医療機器」「半導体関連」など、対応業界を明示する

町工場がWebから月5件の問い合わせを獲得した具体例は、こちらの記事にまとめている

加工事例が最も効く理由

発注者がHPを見るとき、一番知りたいのは「この会社にうちの案件を頼めるか?」ということだ。設備一覧ではそれが判断できない。でも、似た加工事例があれば「あ、これに近いことができるんだな」と伝わる。

ある支援先では、加工事例を10件掲載した翌月から、HPからの問い合わせがゼロから月3件に増えた。大きな数字ではないかもしれない。でも、1社依存の会社にとって「HPから新規が来る」という体験自体が大きい。


Step 3: 新規ルートを仕組み化する

HPを整えたら、そこに人を呼び込む仕組みを作る。ポイントは「社長がいなくても回る」状態にすること。

展示会を「仕組み」で回す

展示会は製造業にとって重要な新規接点だ。問題は、名刺を集めた後のフォローが属人的になっていること。

→ 展示会当日に名刺をA/B/Cでランク分けして、翌営業日にスプレッドシートに入力。ランクごとにフォロー手順を決めておく。展示会の名刺を商談に変える手順はこちらの記事で詳しく書いた

Webからの流入を増やす

HPに加工事例と対応範囲を載せたら、次はそのページが検索で見つかるようにする。

  • 「素材名 × 加工方法 × エリア」のキーワードでページを作る(例: 「SUS304 切削加工 関東」)
  • Google ビジネスプロフィールに登録して、地域検索に対応する
  • 加工事例を月1〜2件のペースで追加し続ける

大がかりなSEO施策は不要だ。発注者が検索するキーワードに合わせたページを淡々と増やしていく。それだけで、半年後には検索からの流入が変わっている。

既存取引先からの横展開

見落としがちだが、既存の取引先の別部署や関連会社を紹介してもらう方法もある。今の担当者との関係が良好なら、「他に困っている部署があれば紹介してほしい」と言うだけでいい。

新規営業のハードルが高いと感じるなら、まずはこの横展開から始めるのも一つの手だ。

新規ルート立ち上げの手間期待できる件数備考
展示会フォロー仕組み化中(手順設計が必要)年5〜10件名刺のフォロー率を上げるだけで変わる
HP改善 + 加工事例掲載小〜中(撮影+ページ作成)月2〜5件半年で効果が出始める
既存取引先の横展開小(声をかけるだけ)年3〜5件信頼関係がベースなので成約率が高い
Web広告(リスティング)中(運用コストあり)月3〜10件HP改善後に検討

「下請け」から「選ばれる会社」へ

1社依存から抜け出すというのは、単に取引先の数を増やすことではない。自社の強みを理解して、それを必要としている会社に見つけてもらえる状態を作るということだ。

ステップをまとめると、こうなる。

  • 既存顧客にヒアリングして、自社の強みを言語化する
  • HPを「名刺代わり」から「営業ツール」に変える
  • 展示会・Web・横展開で新規ルートを仕組み化する

一気にやる必要はない。まずはStep 1の顧客ヒアリングから始めてみるのがいい。5社に聞くだけで、見えてくるものがある。

「下請け」というポジションが悪いわけではない。でも、選択肢がない状態は苦しい。取引先を分散させることで、値下げ交渉にも余裕が持てるし、自社の得意分野に集中できるようにもなる。

焦る必要はないけれど、始めるなら早いほうがいい。取引先が元気なうちに、次の柱を育てておく。それが一番のリスクヘッジだと思う。

泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。

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