製造業の営業、"社長の人脈頼み"から抜け出す3つのステップ
この記事のポイント
製造業の営業は「社長の人脈頼み」になりがち。Step 1: 既存顧客ヒアリングで自社の強みを言語化、Step 2: HPと事例ページを検索で見つかる形に整備、Step 3: 展示会・紹介の後工程をスプレッドシートで仕組み化。ツールの前に営業プロセスを書き出すことが先決。
「新規? うちは社長が展示会で名刺交換してくるか、知り合いの紹介だよ」
製造業の営業について聞くと、だいたいこの答えが返ってくる。技術力には自信がある。品質も納期も真面目にやっている。でも新規開拓の方法が、社長個人の人脈と年2回の展示会だけ—という会社は本当に多い。
問題は、それが「今は回っている」こと。社長が元気なうちは仕事が入ってくる。でも5年後、10年後を考えたとき、後継者がその人脈をそのまま引き継げるかというと、ほぼ無理だ。
この記事では、僕が製造業のクライアントと一緒に取り組んできた「営業の仕組み化」について、3つのステップで整理してみる。ツールの話ではなく、営業プロセスをどう設計するかという話。
なぜ製造業の営業は属人化しやすいのか
「技術で勝負」という文化
製造業には「良いものを作れば仕事は来る」という空気がある。実際、それで30年やってきた会社も多い。だから営業に投資するという発想がそもそも薄い。
社長=トップ営業マンという構造
従業員30〜80人くらいの町工場だと、営業専任がいない会社が珍しくない。中小企業庁の調査でも、製造業の約45%が「経営者自身が主要な営業活動を担っている」と回答している。社長が業界団体の集まりに顔を出して、そこで仕事をもらってくる。これが唯一の新規ルートになっている。
展示会の「やりっぱなし」問題
展示会に出展して名刺を100枚集める。でもフォローアップの仕組みがないから、2週間後には机の引き出しで眠っている。ある会社では、展示会で集めた名刺のうち実際にフォローできていたのは全体の15%以下だった。残りの85枚は、そのまま消えていく。
| 営業の現状 | よくあるパターン | リスク |
|---|---|---|
| 新規開拓 | 社長の人脈・紹介のみ | 社長不在で新規ゼロに |
| 展示会 | 年1〜2回出展、名刺収集 | フォロー未設計で85%が死蔵 |
| HP | 会社概要と設備一覧だけ | 検索しても見つからない |
| 引き継ぎ | 口頭+同行 | 後継者が再現できない |
Step 1: 既存顧客を分析して「自社の強み」を言語化する
まず「なぜ発注してくれたのか」を聞く
新規を取りにいく前に、今の顧客がなぜ自社を選んだのかを整理する。これをやっていない会社が驚くほど多い。
僕がある金属加工の会社(従業員40名ほど)と一緒にやったのは、主要取引先10社に対して「最初にうちを知ったきっかけ」「発注を決めた理由」「他社と比べてどこが違うか」をヒアリングすること。時間にして1社30分、合計5時間くらいの作業だった。
見えてきたパターン
その会社の場合、こんな結果が出た。
- •10社中6社が「知り合いの紹介」で初回接触
- •発注の決め手は「短納期対応」と「小ロットでも嫌がらない」
- •競合との差は「技術力」ではなく「レスポンスの速さ」
社長自身は「うちは精度が強み」と思っていた。でも顧客から見た強みは別のところにあった。これはよくある話で、自社の本当の強みは顧客に聞かないとわからない。
→ 具体的な打ち手: 主要顧客10社にヒアリング(1社30分)。「きっかけ」「決め手」「差別化ポイント」の3つを聞く。スプレッドシートに記録して、共通するキーワードを抜き出す。
Step 2: HPと事例ページを「検索で見つかる形」に整備する
製造業のHPは「名刺代わり」で止まっている
町工場のHPを見ると、だいたいこの構成になっている。
- •会社概要
- •設備一覧(機械の型番がずらっと並んでいる)
- •アクセスマップ
- •お問い合わせフォーム
これだと、すでに社名を知っている人しかたどり着けない。「SUS304 小ロット 短納期」で検索している潜在顧客には永遠に見つからない。
事例ページが最強の営業ツールになる
Step 1で言語化した強みを、事例ページとして載せる。大げさなものじゃなくていい。
事例ページに書くこと(1事例あたり)
業界と課題(「食品機械メーカーから、試作品を2週間で欲しいと依頼があった」)
自社がやったこと(「5軸加工で一体成形し、通常4週間の工程を10日に短縮」)
結果(「量産前の検証が1ヶ月前倒しになった」)
これを5〜10本載せるだけで、検索経由の問い合わせが変わる。ある会社では、事例ページを6本追加した3ヶ月後に、HP経由の問い合わせが月0〜1件から月3〜4件に増えた。
| 項目 | 整備前 | 整備後 |
|---|---|---|
| HPの内容 | 会社概要+設備一覧 | 事例6本+強みページ追加 |
| 検索流入 | 月50セッション | 月180セッション |
| HP経由の問い合わせ | 月0〜1件 | 月3〜4件 |
| 問い合わせの質 | 「見積もりください」のみ | 具体的な加工相談が増加 |
→ 具体的な打ち手: まず事例を3本書く。1本あたり300〜500字でいい。「誰の・何を・どうやって・どうなった」のフォーマットで統一する。社内に書ける人がいなければ、社長が口頭で話した内容を録音してテキスト化するだけでも十分。
Step 3: 展示会・紹介の「後工程」を仕組み化する
名刺をもらった「後」が本番
社長の人脈や展示会で接点ができること自体は悪くない。問題は、その後のフォローが属人的で、続かないこと。
仕組み化といっても、やることはシンプル。
名刺→商談までのフロー
- •名刺をスプレッドシートに入力する(展示会の翌営業日中に)
- •3営業日以内にお礼メールを送る(テンプレートを用意しておく)
- •2週間後にフォローの電話 or メール(「その後いかがですか」ではなく、事例ページのURLを添えて「こんな実績があります」と伝える)
- •反応があった相手だけ商談リストに移す
これだけ。CRMなんて入れなくていい。Googleスプレッドシートで十分回る。
テンプレートを1つ作るだけで変わる
お礼メールのテンプレートを1つ作っておくと、送信のハードルが劇的に下がる。
お礼メールテンプレート例
件名: 【○○展示会】ブースにお立ち寄りいただきありがとうございました
○○様
先日は弊社ブースにお越しいただきありがとうございました。
○○(自社名)の△△です。
当日お話しした□□の件について、
類似の加工事例をまとめたページがございます。
→ [事例ページURL]
ご検討の際にお役立ていただければ幸いです。
お気軽にご連絡ください。
ポイントは、メールの中にStep 2で作った事例ページへのリンクを入れること。名刺交換の記憶が薄れても、事例を見れば「あ、こういうことができる会社か」と思い出してもらえる。
仕組み化の前後比較
| フェーズ | 仕組み化前 | 仕組み化後 |
|---|---|---|
| 名刺管理 | 社長の名刺入れ | スプレッドシートに翌日入力 |
| お礼メール | 気が向いたら送る | テンプレで3営業日以内に全員へ |
| フォロー | 覚えていればやる | 2週間後にリマインド+事例送付 |
| 商談化率 | 名刺100枚→商談2件 | 名刺100枚→商談8〜10件 |
→ 具体的な打ち手: まずスプレッドシートを1枚作る。列は「日付・会社名・担当者名・連絡先・接点(展示会/紹介/HP)・お礼メール送信日・フォロー日・ステータス」の8列。次の展示会や紹介があったときに、このシートに入れるところから始める。
まとめ: ツールより先に「プロセスを書き出す」
製造業の営業を仕組み化するというと、「CRMを入れましょう」「MAツールを導入しましょう」という話になりがち。でも僕の経験では、ツールを入れる前にやることがある。
営業プロセスを紙に書き出すこと。
- •今、新規の接点はどこから来ているか
- •その接点の後、誰が何をしているか
- •どこで止まっているか
これを書き出すだけで、「社長の人脈に依存している部分」と「仕組みに置き換えられる部分」が見えてくる。
全部を一気に変える必要はない。Step 1の顧客ヒアリングだけでも、自社の強みが明確になって営業トークが変わる。Step 2の事例ページを3本作るだけでも、HPが「名刺代わり」から「営業ツール」に変わる。Step 3のスプレッドシートを1枚作るだけでも、展示会の名刺が商談につながるようになる。
小さく始めて、回るところから仕組みにしていく。それが、社長の人脈頼みから抜け出す現実的な方法だと思う。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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