製造業の原価率の目安と管理方法—「なんとなく粗利が出ている」から脱却する
この記事のポイント
製造業の原価率は業種で60〜85%と幅がある。問題は「目安を知らないこと」ではなく「自社の原価率を正しく計算できていないこと」。見落としがちな3つのコスト、原価率を5%改善する打ち手、スプレッドシートで始める記録方法を解説。
「原価率って何%くらいが普通ですか?」——製造業の経営者からよく聞かれる質問だ。
答えは「業種と製品による」としか言えない。金属加工なら70〜80%、食品製造なら60〜70%。幅が広すぎて、目安だけ知っても意味がない。
業界平均を調べるときの一次情報
中小企業実態基本調査では、業種別の売上高・原価・利益の実数を公表しています。記事中の目安ではなく、自社と同じ業種区分の数値を確認してください。
本当の問題は、目安を知らないことじゃない。自社の原価率を「正しく計算できていない」こと。材料費と外注費だけ足して「うちの原価率は65%」と言っている会社が多いけど、段取り替えの時間コストや不良品のロス、光熱費の按分を入れると、実際は75%を超えている——そういうケースをよく見てきた。
この記事では、製造業の原価率の目安、見落としがちなコスト、改善の打ち手、そしてスプレッドシートで始める原価管理の方法を整理する。
製造業の原価率の目安
まず、業種別の原価率の目安を整理しておく。あくまで一般的な範囲なので、自社の数字と比較する参考程度に。
| 業種 | 原価率の目安 |
|---|---|
| 金属加工 | 70〜80% |
| 食品製造 | 60〜70% |
| プラスチック成形 | 65〜75% |
| 電子部品 | 55〜65% |
この数字を見て「うちは目安の範囲内だから大丈夫」と思うかもしれない。でも、そもそも自社の原価率の計算に抜け漏れがあると、比較すること自体に意味がなくなる。
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資料を無料でダウンロード原価率の正しい計算方法—見落としがちな3つのコスト
「原価 = 材料費 + 外注費」で計算している会社は多い。でもそれだけだと、実際の原価率より5〜10%低く見積もることになる。見落としがちなのは以下の3つ。
なお外注費は、金額そのものより発注と受入の管理が甘いことで膨らむことが多い。急な追加発注や納期遅れのリカバリーが積み上がると、見積もり時の想定から外れていく。発注・納期・受入をどう回すかは製造業の仕入れ・外注管理を仕組み化する方法|発注・納期・受入の管理設計でまとめている。
1. 段取り替え時間のコスト
金型の交換、治具のセッティング、機械の調整。製品を切り替えるたびに発生する時間は、直接的に売上を生まない。にもかかわらず、人件費と設備費はかかっている。小ロット多品種の工場ほど、段取り替えのコストが原価に占める割合が大きい。ある金属加工の会社では、段取り替えの時間を計測したら、加工時間全体の25%を占めていた。
2. 不良品・廃棄ロス
不良率3%は「許容範囲」と思っているかもしれない。でも月の生産量が1万個なら300個が廃棄。材料費だけでなく、その300個にかかった加工時間もロスになる。不良品の原価を「材料費×不良率」で見ている会社が多いけど、加工時間を含めると倍近くになることがある。
3. 間接費(光熱費・減価償却費の按分)
工場の電気代、設備の減価償却費、品質管理部門の人件費。これらは製品に直接紐づかないから、原価計算に入れていない会社が多い。でも製品を作るために必要なコストであることに変わりはない。売上比率や稼働時間比率で按分して、製品ごとの原価に上乗せする必要がある。
この3つを含めると、「うちの原価率は65%」と思っていた会社が実は75%だった——ということが普通に起きる。まずは正しい原価率を出すことが、改善の出発点になる。
原価率を5%改善する3つの打ち手
原価率の改善は、いきなり大きな設備投資をしなくてもできる。現場の数字を見えるようにするだけで、5%程度の改善は十分に射程圏内。
打ち手1:材料の歩留まりを可視化する
投入した材料のうち、製品になった割合(歩留まり率)を記録する。端材や切り粉の量を把握するだけで、「この製品は材料の30%が端材になっている」ということがわかる。端材を別の小ロット品に転用する、切断パターンを見直す、仕入れ先にサイズ指定で発注する——歩留まりが見えるだけで打ち手が出てくる。
打ち手2:外注と内製のコスト比較を数字で出す
「外注した方が安い」「内製した方が安い」——感覚で判断している会社が多い。でも内製コストには、材料費だけでなく加工時間×時間単価、段取り替え時間、不良ロスも含まれる。一方、外注コストには輸送費や品質検査の時間も加える必要がある。両方をちゃんと数字にすると、「この工程だけ外注した方が粗利が3%上がる」という判断ができるようになる。
打ち手3:ロット別の原価を記録して赤字製品を特定する
全体の原価率だけ見ていると、どの製品が利益を出していて、どの製品が足を引っ張っているかがわからない。ロットごとに材料費・加工時間・外注費を記録して、製品別の原価率を出す。赤字製品が特定できたら、値上げ交渉をするか、製造方法を見直すか、受注を減らすかの判断ができる。
原価・業務・データの詰まりを診断する
原価管理を始める前に、先に整えるべき数字と業務を確認
Excelで始める原価管理—最低限これだけ記録する
原価管理システムを導入する余裕がない会社でも、スプレッドシートで十分始められる。記録する項目は5つだけ。
| 項目 | 記録する内容 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 品目 | 製品名・型番 | 製品別の原価率を出すため |
| 材料費 | 1ロットあたりの材料費 | 原価の最大構成要素 |
| 加工時間 | 段取り+加工の合計時間 | 時間単価をかけて加工費を算出 |
| 外注費 | 外注した工程の費用 | 内製との比較に使う |
| 不良数 | ロットごとの不良品数 | 廃棄ロスの把握と改善 |
この5項目を1ロット1行で記録するだけでいい。最初は手入力で構わない。1ヶ月続ければ、製品ごとの原価率が見える。3ヶ月続ければ、季節変動やロットサイズによるコストの違いが見えてくる。
大事なのは「完璧な原価計算」を目指さないこと。まずは記録を始めて、ざっくりでも数字を見える状態にする。精度は後から上げればいい。
効果をどう測るか
| 指標 | Before | After(目標) |
|---|---|---|
| 製品別の原価率 | 不明(全体のざっくり値のみ) | 全製品で把握 |
| 赤字製品の特定 | できていない | 月次で把握・対策実施 |
| 原価率 | 実態より5〜10%低く見積もり | 間接費含めた正確な数値 |
数字が見えるようになると、「この製品は値上げ交渉が必要」「この工程は外注に切り替えた方がいい」「この不良率は設備更新で改善できる」という判断が、感覚ではなくデータに基づいてできるようになる。
最後に
あなたの工場の原価率、製品ごとに即答できるだろうか。
「全体ではだいたい70%くらい」とは言えても、「この製品は82%で赤字」「この製品は58%で一番利益が出ている」まで言えるかどうか。言えないなら、まずはスプレッドシートに5項目を記録するところから始めてみてほしい。
「なんとなく粗利が出ている」から「どの製品でいくら稼いでいるか」が見える状態にする。それだけで、経営判断のスピードと精度が変わる。
よくある質問
製造業の原価率の目安はどれくらいですか?
業種によって異なりますが、金属加工で70〜80%、食品製造で60〜70%、プラスチック成形で65〜75%、電子部品で55〜65%が目安です。自社の原価率がこの範囲から大きく外れている場合は、計算方法に見落としがないか確認する必要があります。
原価率の計算で見落としがちなコストは何ですか?
段取り替え時間のコスト、不良品・廃棄ロス、間接費(光熱費・減価償却費の按分)の3つが見落とされがちです。材料費と外注費だけで原価を計算していると、実際の原価率より低く見積もってしまいます。
原価管理を始めるには何から記録すればいいですか?
品目・材料費・加工時間・外注費・不良数の5項目をスプレッドシートに記録することから始めます。この5項目があれば、製品ごとの原価率を算出でき、赤字製品の特定や改善の優先順位づけができるようになります。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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