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製造業

FAXで届いた注文をExcelに手入力する毎日 — 製造業の受発注が非効率な構造

12分で読める

この記事は製造業のAI活用・業務効率化 完全ガイドの一部です。全体像を知りたい方はまず完全ガイドをご覧ください。

この記事のポイント

FAX・電話・Excelによる受発注業務をクラウドシステムに移行すると、年間480時間の工数削減が見込めます。段階的な移行ステップで現場の混乱を防ぎましょう。

取引先からFAXで注文書が届く。それを事務員が目で読み取り、手書きの受注台帳に転記する。さらにExcelの在庫表と突き合わせて、電話で在庫確認。納期を手計算して、またFAXで回答——。この一連の作業に、1件あたり平均20〜30分かかっている製造業は珍しくありません。

1日20件の受注がある工場なら、受発注業務だけで毎日6〜10時間。事務員2名がフル稼働しても回らない日が出てきます。しかも、FAXの文字が読みにくい、転記ミスで数量を間違える、在庫の反映が遅れて欠品を起こす——こんなトラブルが月に数回は発生しているはずです。

なぜ受発注業務は非効率なまま放置されるのか

受発注の非効率を感じていない経営者はほとんどいません。にもかかわらず改善が進まないのには、3つの構造的な理由があります。

理由1:取引先が「FAXでしか注文しない」

自社だけシステム化しても、取引先がFAXや電話を使い続ける限り、入口が変わらない。特に年配の担当者が多い取引先ほど「今まで通りで」と言われがち。

理由2:ベテラン事務員が「暗記」で回している

得意先ごとの品番・ロット数・納期パターンをベテランが頭の中で覚えている。システム化すると、この暗黙知を全部マスタに落とし込む必要があり、面倒に見える。

理由3:「基幹システム入れ替え」レベルの話に見える

受発注を変えるとなると、ERPや基幹システムの話になりがち。初期費用1,000万〜、導入期間1年〜と聞くと、経営者は「今じゃない」と判断する。

しかし実際には、基幹システムの入れ替えをしなくても、受発注業務を段階的に効率化する方法があります。年間480時間(事務員1人分の4ヶ月分に相当)を削減できるステップを、具体的に見ていきます。

受発注業務の「ムダ」を分解する

まず、受発注業務のどこに時間がかかっているかを分解します。従業員30〜80名の製造業10社にヒアリングした結果、時間の内訳はおおよそ以下のようになります。

工程1件あたり1日20件換算
FAX受信・内容確認5分100分
受注台帳への転記5分100分
在庫確認・納期算出8分160分
取引先への回答(FAX/電話)5分100分
出荷指示書の作成3分60分
合計26分520分(8.7時間)

1日8.7時間。事務員2名体制でギリギリ回っている計算です。繁忙期は残業が常態化し、それでもミスが出る。この状態が続くと、事務員が疲弊して退職するリスクも高まります。

ステップ1:FAX受注をデジタル化する(初月)

基幹システムの入れ替えではなく、まず「FAXの受け口」だけをデジタルに変えます。具体的には、FAXの内容を自動でPDF化してクラウドに保存するサービスを使います。

導入方法

クラウドFAXサービス(eFax、MOVFAX等)を導入すると、FAXが届くと自動でPDF化され、メールやクラウドストレージに保存されます。月額1,500〜3,000円程度。これだけで「FAXを取りに行く→紙を探す→紛失する」という問題が解消します。

さらに、AI-OCR(文字認識)を組み合わせると、FAXに書かれた品番・数量・納期を自動で読み取り、Excelやスプレッドシートに自動入力できます。読み取り精度は95%以上。残り5%は人がチェックすれば十分です。

ステップ1の効果

FAX受信・内容確認:5分 → 1分(PDF検索で即アクセス)

受注台帳への転記:5分 → 1分(AI-OCRで自動入力、確認のみ)

削減効果:1件あたり8分 → 1日20件で160分(2.7時間)削減

ステップ2:在庫・納期の自動連携(2〜3ヶ月目)

受注情報がデジタル化できたら、次は在庫確認と納期計算の自動化です。多くの製造業では、在庫はExcelの在庫表で管理していますが、更新のタイムラグがあり、「Excelでは在庫ありだが実際は出荷済み」という事態が頻発します。

具体的なやり方

Googleスプレッドシートに在庫マスタを作り、入荷・出荷のたびにリアルタイムで更新する運用に切り替えます。受注が入ったら、スプレッドシートの在庫数と自動で突き合わせ、在庫があれば即時回答、なければ生産リードタイムから納期を自動算出。これをGoogleフォーム+GAS(Google Apps Script)で実装できます。

もう少し本格的にやるなら、クラウド在庫管理サービス(ZAICO、ロジクラ等)を導入します。月額5,000〜15,000円程度で、バーコード読み取りによる入出庫管理、在庫アラート、受注との自動連携が可能です。

ステップ2の効果

在庫確認・納期算出:8分 → 2分(自動照合+自動計算)

在庫の食い違いによるトラブル:月3〜5件 → ほぼゼロ

削減効果:1件あたり6分 → 1日20件で120分(2時間)削減

ステップ3:受注→出荷指示の自動化(4〜6ヶ月目)

ステップ1・2で受注のデジタル化と在庫連携ができたら、最後は「受注→出荷指示書の自動生成」です。受注データが構造化されていれば、出荷指示書のフォーマットに自動で流し込むのは難しくありません。

Excelのマクロでもできますが、将来の拡張性を考えるとクラウド受発注システム(CO-NECT、BtoBプラットフォーム受発注等)の導入がおすすめです。月額10,000〜30,000円程度で、受注→在庫引当→出荷指示→請求書発行まで一気通貫で自動化できます。

「取引先がFAXしか使わない」問題の解決策

クラウド受発注システムの多くは、取引先にシステムを使ってもらう必要があります。「うちの取引先はFAXしか使わない」という声は必ず出ます。対処法は2つあります。

対処法1:並行運用から始める

全取引先を一度に切り替えようとせず、まずは「デジタル対応OK」な取引先からシステム化。FAXの取引先は従来通り受けて、社内でデジタル化する。徐々にシステム利用の取引先を増やしていく。

対処法2:AI-OCRで自動デジタル化

取引先はFAXのまま、受け取る側でAI-OCRを使って自動デジタル化する。取引先の負担ゼロで、自社の業務は効率化できる。

ステップ3の効果

取引先への回答:5分 → 1分(システムから自動送信)

出荷指示書の作成:3分 → 0分(自動生成)

削減効果:1件あたり7分 → 1日20件で140分(2.3時間)削減

年間削減効果のシミュレーション

3つのステップを合計すると、以下の効果が見込めます。

21分
1件あたりの削減
7時間
1日あたりの削減
1,680時間
年間の削減時間
420万円
年間のコスト削減

※1日20件受注、年間240営業日、時給2,500円で算出。実際の効果は企業規模・業務量により異なります。

年間1,680時間は、事務員1名のフルタイム勤務に相当します。つまり、受発注のデジタル化だけで「事務員1名分の人件費」を削減できる計算です。一方、導入にかかるコストは以下の通りです。

項目初期費用月額
クラウドFAX0円3,000円
AI-OCRサービス0円10,000円
クラウド在庫管理0円10,000円
クラウド受発注システム50,000円20,000円
合計50,000円43,000円/月

年間コスト:約52万円。削減効果420万円に対してROIは約8倍。

導入でよくある失敗パターン

失敗1:全取引先を一度に切り替えようとする

「全社一斉導入」は抵抗が大きく頓挫しやすい。まず社内の処理だけデジタル化し、取引先への展開は半年後からで十分。

失敗2:ベテラン事務員の意見を聞かずに進める

受発注の暗黙知を持っているのはベテラン事務員。システムのマスタ設定には必ず巻き込む。「あなたの知識をシステムに移すことで、後任が楽になる」という説明が効果的。

失敗3:最初から完璧を目指す

AI-OCRの読み取り精度が100%でないことを理由に導入を見送るケースがある。95%でも、残り5%を人がチェックすれば、手作業100%よりはるかに効率的。

まとめ:受発注のデジタル化は「事務員1名分」の効果がある

製造業の受発注業務は、FAX・電話・Excelの3点セットが長年の標準でした。しかし、クラウドFAX、AI-OCR、クラウド受発注システムを段階的に導入することで、年間1,680時間・420万円のコスト削減が可能です。初期費用5万円、月額4.3万円でこの効果が得られるなら、やらない理由はありません。

大事なのは「取引先を変える」のではなく「自社の処理を変える」こと。取引先はFAXのままでも、自社側でデジタル化すれば効率は大幅に上がります。まずはステップ1のクラウドFAX導入から、今月中に始めてみてください。

泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。

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