不動産仲介の利益率が低い原因を構造から見直す
売上が伸びても利益が残らないなら、コスト構造を疑うべき
この記事は不動産会社の業務改善 完全ガイドの一部です。全体像を知りたい方はまず完全ガイドをご覧ください。
この記事のポイント
仲介会社の営業利益率が5〜10%に留まるのは、広告費・人件費・事務コストの3つが構造的に利益を食っているから。月次P/Lの3行を確認するだけで、どこから手をつけるべきかが見えてくる。
「売上は去年より伸びているのに、なぜか手元にお金が残らない」—仲介会社の経営者から、この相談を受けることが少なくない。売上が1億円を超えていても、営業利益が500万円に満たない会社は珍しくない。問題は売上ではなくコスト構造にある。P/Lを3つの視点で見直すだけで、改善の糸口が見えてくる。
仲介業の営業利益率、御社は何%か
業界平均の利益率データ—5〜10%の現実
中小不動産仲介会社の営業利益率は、おおむね5〜10%。売上1億円なら500万〜1,000万円が手元に残る計算だ。大手仲介会社は10〜15%に達するところもあるが、中小がそこに届かないのには理由がある。規模の経済が効きにくい構造だからだ。
仲介手数料は物件価格×3%+6万円(税別)が上限。売上を伸ばすには「取引件数を増やす」か「高額物件を扱う」しかない。しかし件数を増やすには営業人員が必要で、人件費が上がる。高額物件はそう簡単に増やせない。構造的に、売上を伸ばすほどコストも膨らむ。
出典・一次情報
- 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号/最終改正 令和6年6月21日国土交通省告示第949号・PDF)(国土交通省)
- 宅地建物取引業法関係(法令・告示の一覧)(国土交通省)
制度・統計は改定されます。最新の情報は公表元でご確認ください。
ただしこの5〜10%は仲介単体で見たときの数字で、買取再販や管理を併せ持つ会社と同じ土俵では比べられない。業態ごとにP/Lの形が違うので、自社がどの水準にいるのかを判断するには業態別に分解して見る必要がある。分解の手順は不動産業の営業利益率・粗利率を業態別に見る|業界平均の正しい使い方にまとめている。
「売上は上がっているのに手元に残らない」構造
典型的なパターンはこうだ。売上が前年比120%に伸びた。ところが広告費も130%に増えていて、新人営業を2人採用したから人件費も上がった。結果、営業利益は前年とほぼ同じ。経営者としては頑張っているのに報われない感覚になる。
この構造を変えるには、売上を伸ばす努力と同時に「利益を食っているコスト」を特定して削る必要がある。
利益を食う3大コストの内訳
広告費:売上の15%超えていないか
仲介会社にとって最大の変動費は広告費だ。SUUMO・HOME'S・at homeなどのポータルサイト掲載料、リスティング広告、チラシ印刷。これらを合算すると売上の10〜20%を占めているケースが多い。15%を超えているなら、まずここから見直すべきだ。
問題は「どの媒体から何件の反響が来て、何件成約したか」を把握していない会社が多いこと。媒体別のROIが見えていないまま、前年踏襲で予算を組んでいるなら、無駄が潜んでいる可能性が高い。
人件費:営業1人あたり粗利で見る
営業マンの人件費を「1人あたり粗利」で評価しているだろうか。年間の営業1人あたり粗利が800万円を下回っている場合、人件費率が高すぎる可能性がある。営業マン1人の総コスト(給与+社保+交通費+教育費)は400万〜600万円。粗利が800万円なら、人件費率は50〜75%になる。
人件費を下げる方法は「人を減らす」だけではない。営業マンの生産性を上げる—つまり1人あたりの成約件数を増やす—ことで、人件費率は改善できる。
もう一つ効くのが、固定給と歩合の配分をどう置くかだ。固定給に寄せると件数が伸びない月に人件費率が跳ね上がり、歩合に寄せすぎると採用で不利になる。粗利のどこまでを歩合の対象にするかを含めた設計は不動産営業の歩合給設計|採用と定着を両立する報酬制度の考え方にまとめている。
事務コスト:物件入力・書類作成に月何時間かかっているか
見落としがちなのが事務コストだ。物件情報のポータルサイト入力、契約書類の作成、追客メールの送信、社内報告書の作成。これらは直接P/Lの1行に出てこないが、営業マンの時間を確実に食っている。
営業マン1人が事務作業に月40時間費やしているなら、時給換算で月10万円相当のコストだ。5人の営業チームなら月50万円、年間600万円。これが「見えないコスト」として利益を圧迫している。
仲介会社の利益率診断表
| コスト項目 | 売上比率目安 | 危険水域 | 自社の数値 |
|---|---|---|---|
| 広告宣伝費 | 10〜15% | 15%超 | __% |
| 人件費(営業) | 30〜40% | 45%超 | __% |
| 事務所賃料 | 5〜8% | 10%超 | __% |
| システム・ツール費 | 2〜5% | 7%超 | __% |
| その他経費(通信・交通・雑費) | 5〜8% | 10%超 | __% |
仲介の利益構造のどこが詰まっているか3分で確認
売上・粗利・手間の3つに分けて、削るべき工程を整理します
利益率を5ポイント改善するための優先順位
①広告のROI管理を「媒体別」にする
最も手をつけやすく、効果が出やすいのがここだ。やることはシンプルで、媒体ごとに「反響数」「反響単価」「成約数」「成約単価」を月次で記録するだけ。スプレッドシート1枚で十分だ。
これをやると「SUUMO経由の成約単価は5万円だが、リスティング広告は15万円」といった差が見えてくる。費用対効果の低い媒体を縮小し、高い媒体に予算を寄せるだけで、広告費率を2〜3ポイント下げられるケースは珍しくない。
コストを削る前に、売上側で漏れていないかも見ておきたい。仲介手数料の値引き要求に担当ごとバラバラで応じていると、広告費を2ポイント削った効果が簡単に飛ぶ。どこまで応じてどこから断るかの基準は仲介手数料の値引き要求への対応|不動産会社が判断基準をそろえる方法で整理している。
②営業事務の工数を週5時間削る
営業マンが事務作業に費やしている時間を週5時間削れば、月20時間の余裕が生まれる。この時間を営業活動に充てれば、1人あたりの成約件数が上がり、人件費率が改善する。
具体的には、物件入力の一括化、追客メールのテンプレート化、契約書類の自動生成あたりから始めるのが現実的だ。大きなシステム投資は不要で、既存のツールの使い方を変えるだけで対応できることが多い。
③両手取引率を意識した媒介戦略
仲介手数料は片手なら3%、両手なら6%。同じ1件の取引でも、両手か片手かで売上が倍になる。全取引を両手にするのは現実的ではないが、専任媒介の獲得比率を上げることで両手取引の機会は増やせる。
専任媒介を増やすには、売主との信頼関係がカギになる。査定時の丁寧な説明、売却活動の定期レポート、相場情報の提供—こうした「売主フォロー」を仕組み化しておくことで、専任を獲得しやすくなる。
来週やること:月次P/Lの3行だけ確認する
利益率の改善は、まず現状を知ることから始まる。来週、以下の3つの数字だけ確認してほしい。
1. 広告宣伝費÷売上=何%か
15%を超えていたら、媒体別の内訳を出す。どの媒体に月いくら払っているかをリストにするだけでいい。
2. 営業1人あたりの年間粗利はいくらか
粗利÷営業人数。800万円を下回っていたら、生産性向上の余地がある。
3. 営業マンが事務作業に使っている時間は週何時間か
営業マン本人に聞くのが一番早い。「物件入力・書類作成・メール返信に1日何時間使ってる?」と聞くだけでいい。
この3つの数字を把握するだけで、利益率改善のどこから手をつけるべきかが見えてくる。大掛かりな改革は必要ない。まずは現状の「見える化」から始めよう。
なお、営業マンが事務作業に時間を取られ続けると、長時間労働で疲弊して離職率が悪化し、採用コストで利益率がさらに削られる悪循環に陥る。利益率改善と並行して、不動産業界の離職率と定着率を上げる打ち手もあわせて見直してほしい。
よくある質問
不動産仲介業の平均的な営業利益率はどのくらいですか?
中小不動産仲介会社の営業利益率は5〜10%が一般的です。売上1億円の会社で手元に残る利益が500万〜1,000万円という計算になります。大手は10〜15%に達しますが、中小は広告費や人件費の比率が高くなりやすく、利益率が圧迫される傾向があります。
仲介会社の広告費は売上の何%が適正ですか?
一般的に売上の10〜15%が目安とされています。15%を超えている場合は、媒体別のROIを確認する必要があります。ポータルサイトの掲載費が膨らんでいるケースが多く、反響単価と成約率を媒体ごとに把握するだけで無駄な支出を見つけやすくなります。
仲介業で利益率を改善する最も効果的な方法は何ですか?
最も即効性があるのは広告費のROI管理です。媒体別に反響単価と成約率を可視化し、費用対効果の低い媒体を見直すだけで、売上比率で2〜3ポイント改善できるケースがあります。次に営業事務の効率化で人件費の実質コストを下げることが有効です。
両手取引率を上げるにはどうすればいいですか?
専任媒介・専属専任媒介の獲得比率を上げることが基本です。そのためには売主への査定対応の質を高め、売却活動レポートを定期的に提出するなど、売主との信頼関係構築が重要になります。両手取引は1件あたりの手数料が倍になるため、利益率への影響が大きいです。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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