製造業の原価管理をExcelで始める方法—材料費・労務費・経費を見える化するテンプレート付き
「原価がよくわからない」から脱却する、現場で使えるExcelテンプレートの作り方
この記事は製造業の業務改善 完全ガイドの一部です。全体像を知りたい方はまず完全ガイドをご覧ください。
この記事のポイント
原価管理は「材料費・労務費・経費」の3要素をExcelで整理するところから始められる。高額なシステムは不要。テンプレートの列構成と自動計算式を整えれば、月次で原価率の推移が見えるようになり、利益改善のアクションが打てる。
「うちは原価管理をやっていない」—そう言う製造業の経営者は少なくない。正確に言えば、やっていないのではなく「見える形になっていない」。材料を仕入れて、人を動かして、電気を使って、モノを作っている。原価はすでに発生している。問題はそれが数字として整理されていないことにある。
なぜ原価管理が必要なのか—「儲かっているはず」の落とし穴
売上は伸びているのに、手元にお金が残らない。その原因の多くは原価の把握不足にある。ある金属加工会社(従業員35名)では、売上3億円に対して利益がわずか500万円。調べてみると、特定の製品の材料費が2年間で15%上がっていたのに、売価は据え置きのままだった。原価を把握していれば、値上げ交渉か工程の見直しで年間400万円の利益改善ができた計算になる。
原価の3要素—材料費・労務費・経費の整理方法
原価管理の第一歩は、コストを3つに分類することから始まる。
| 要素 | 含まれるもの | 製造業の目安比率 | 把握のコツ |
|---|---|---|---|
| 材料費 | 主原料・副資材・梱包材 | 原価の40〜60% | 仕入れ伝票を品目別に集計 |
| 労務費 | 直接工の賃金・残業代・社会保険料 | 原価の20〜35% | 工数×時間単価で計算 |
| 経費 | 電力・ガス・消耗品・外注加工費・減価償却 | 原価の10〜25% | 月額固定費÷生産数で按分 |
最初から完璧に分類する必要はない。まずは「だいたいこのくらい」の精度で構わないので、3つの箱に振り分けるところから始める。精度は後から上げていけばいい。
Excelテンプレートの列構成—12列で原価が見える
実際にExcelで原価管理を始めるためのテンプレート列構成を紹介する。この12列があれば、製品別の原価と原価率が一目でわかる。
原価管理Excelテンプレート—列構成
| 列 | 項目 | 入力例 |
|---|---|---|
| A | 製品名 | 部品A-001 |
| B | ロット番号 | LOT-20260301 |
| C | 製造日 | 2026/03/01 |
| D | 材料費合計 | ¥45,000 |
| E | 労務費合計 | ¥22,500 |
| F | 経費合計 | ¥8,000 |
| G | 原価合計(D+E+F) | ¥75,500(自動計算) |
| H | 数量 | 100個 |
| I | 個あたり原価(G÷H) | ¥755(自動計算) |
| J | 売価(個あたり) | ¥1,100 |
| K | 原価率(I÷J) | 68.6%(自動計算) |
| L | 備考 | 材料値上げ反映済 |
ポイント
G列・I列・K列は数式で自動計算にしておく。手入力にすると入力ミスが増えるし、更新も面倒になる。=D2+E2+F2、=G2/H2、=I2/J2 の3つだけで十分。
原価率の自動計算と異常値の検出
テンプレートを作ったら、次は「異常値」を自動で検出する仕組みを入れる。Excelの条件付き書式を使えば、原価率が一定の閾値を超えたセルを赤く表示できる。
条件付き書式の設定例
原価率80%以上:セルを赤色に → 即座に売価見直しか工程改善が必要
原価率70〜80%:セルを黄色に → 要ウォッチ。3ヶ月連続なら対策を検討
原価率70%未満:通常(緑色)→ 適正範囲
もう1つ有効なのが、前月比の変動率を出す列を追加すること。前月の原価率との差分を計算し、3ポイント以上変動した製品を自動でハイライトする。これで「知らないうちにコストが上がっていた」を防げる。
月次レビューの仕組み—作って終わりにしない
原価管理の最大の敵は「最初は頑張るけど3ヶ月で止まる」こと。これを防ぐには、月次レビューの仕組みを最初から組み込む。
月次原価レビュー—3つのステップ
月末にデータ入力を締める(所要時間:30分)
その月の材料費・労務費・経費を集計してExcelに入力。仕入れ伝票と勤怠データから転記するだけ。
異常値をピックアップ(所要時間:15分)
条件付き書式で赤・黄色になっている製品をリストアップ。原因が材料費なのか労務費なのか経費なのかを特定する。
アクションを決める(所要時間:15分)
値上げ交渉・工程見直し・仕入先変更など、具体的なアクションを1つ決めて実行する。全部やろうとしない。1つだけ。
月1回、合計1時間の作業で原価が見えるようになる
よくある失敗パターンと対策
| 失敗パターン | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 列が多すぎて入力が続かない | 最初から完璧を目指した | まず12列で始める。細分化は3ヶ月後 |
| 入力するのが経理だけ | 現場との連携がない | 材料費は購買担当、労務費は現場リーダーが入力する分担制に |
| データは溜まるがアクションがない | レビューの仕組みがない | 毎月1日に30分の原価レビュー会議を設定 |
まとめ—原価管理は「見える化」がゴールではない
Excelで原価を見える化するのはあくまでスタート地点。本当のゴールは「見えた数字をもとにアクションを打つ」こと。材料費が上がっていたら仕入先を見直す。労務費が高い製品は工程を改善する。経費が膨らんでいたら設備の稼働率を確認する。
まずは今月から、Excelを1枚作るところから始めてほしい。12列のテンプレートと月1回のレビュー。これだけで、「なんとなく儲かっている気がする」から「どの製品でいくら儲かっているか」が見える状態に変わる。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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