kintone 案件管理アプリ|Excel台帳から移す設計と向かない場合
この記事はExcelの案件台帳をkintoneのアプリに移すときの設計と、kintoneの構造では素直に解けない部分だけを扱います。操作手順やフィールドの追加方法は書きません。 不動産会社での顧客管理・物件管理の作り方は「不動産会社がkintoneで顧客管理・物件管理を始める方法」、他のツールとの比較は「中小企業向けCRM比較」で扱っています。
この記事のポイント
案件管理アプリで最初に詰まるのは操作ではなく「1レコード=何か」です。 Excelの台帳は1行の意味が途中で変わっていても動きますが、アプリにすると動かなくなります。 次に効くのがルックアップと関連レコード一覧の使い分け—— 参照元を直したときに過去の案件へ反映されるかどうかが逆になります。どちらが欲しいかを 先に決めないと、あとから直すのは移行のやり直しになります。
「案件の管理をExcelでやっているが、そろそろ限界なのでkintoneに移したい」。 この相談はよく受けます。そしてほとんどの場合、詰まる場所は kintoneの操作ではありません。アプリを作り始めて数日で、 「この1行は何を1件として数えていたんだろう」という問いにぶつかります。
この記事では、台帳をアプリに移す前に決めておくべきことを整理したうえで、 kintoneの構造では素直に解けない部分と、案件管理アプリが向く会社・向かない会社の線を引きます。 Excelが劣っているという話ではありません。構造が違うので、そのまま移すと壊れるという話です。
先にお断り。この記事では提供元が公表していない金額や仕様を推定で書きません。 プラグインや連携サービスの製品名・価格、公表を確認できていない上限値は扱いません。 引用する数値はサイボウズが公表している情報に限り、出典と時点を都度示します。 それ以外の整理は、当社が支援の現場で見てきた傾向であり、統計ではありません。 自社の要件で本当に組めるかどうかは、無料お試しの期間に実データで確認してください。
「1レコード=何か」を決めないアプリは必ず崩れる
案件管理アプリを作るとき、最初に決めるのはフィールドではなく1レコードが何を表すかです。ここが決まっていないと、 そのあとに作るビュー・グラフ・集計のすべてが意味を持ちません。
候補はふつう3つあります。どれも「案件」と呼ばれているので、 会議では区別されないまま話が進みます。
引き合い単位:問い合わせ・反響を1件と数える。受注率や リードの歩留まりを見たいときの単位。失注したものも残る
案件単位:受注が見込める仕事を1件と数える。進行中の状況や 担当ごとの持ち件数を見たいときの単位
請求単位:請求書1本を1件と数える。分割請求や検収のタイミングで 増えるので、案件1つに対して複数になる
この3つは件数が一致しません。たとえば、複数の引き合いから 案件が1つ生まれ、その1案件から請求が何本も出る、という入れ子の関係になります。だから 「今月の案件は何件?」という単純な質問への答えが、どの単位を採ったかで変わります。 1つのアプリで3つを兼ねようとすると、レコードによって1件の意味が違う状態になり、 件数を数えるだけの集計も合わなくなります。
Excel台帳は「1行の意味が変わっても動く」
ここがExcelから移すときに最初に詰まる点です。Excelの案件台帳は、 1行の意味が途中で変わっていても動き続けます。上の200行は引き合いを1行にしていて、 途中から案件を1行にしていて、下のほうには請求の分割が別行で入っている。 それでも表としては壊れないので、誰も気づきません。 人が目で見て「これはあの案件の2回目の請求だ」と補完しているからです。
アプリにすると、この補完が効かなくなります。ビューの絞り込みも、 ステータスごとの集計も、1レコードの意味が全部同じであることを前提にしているからです。台帳が動いていたのは、意味のゆらぎを人が吸収していたからで、 アプリはそれをやってくれません。つまり移行作業の実体は、 データを写すことではなく、これまで人が吸収していたゆらぎを言葉にすることです。
実務的な進め方としては、既存の台帳を上から見ていき、 「この行は引き合い/案件/請求のどれか」を分類してみるのが早いです。 分類できない行が出てきたら、そこがゆらぎの発生地点です。 台帳の列を眺める前に、行の意味から入ります。台帳そのものの棚卸しの手順は「業務の棚卸しのやり方」で扱っています。
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業務・判断・道具の3層で整理する30項目のチェックリストと、90日の進め方。道具を選ぶ前に、自社のどこが決まっていないかを確かめられます
設計ガイドを無料でダウンロードkintoneはリレーショナルデータベースのテーブルではない
システムに慣れている人が案件管理アプリを設計すると、 顧客マスタ・案件・活動履歴・請求をきれいに分けて、 キーでつなぐ形にしたくなります。データの持ち方としては正しい発想です。 ただ、kintoneでそれをやると現場が使えなくなることがあります。
サイボウズの開発者向け情報(cybozu developer network)の 「kintoneにおけるデータ設計の基本」では、 「kintone の1つのアプリがリレーショナルデータベースの1つのテーブルに相当するように思えますが、別物として考えることが重要です」 と明記されています。提供元自身が「別物」と言っているので、 RDBの設計をそのまま持ち込む前提はいったん外す必要があります。
何が起きるかというと、入力の手数です。1件の案件を登録するために 4つのアプリを行き来する設計にすると、営業は入力しません。 そして入力されないアプリは、集計の材料が揃わないので、 Excelの台帳より情報が少ない箱になります。正規化の正しさと、入力される確率は、しばしば逆を向きます。 当社が支援の現場で見てきた傾向であり、統計ではありませんが、 アプリの数が増えるほど「結局Excelで管理している」に戻る確率は上がります。
ルックアップと関連レコード一覧の使い分けが分かれ目
アプリをまたいでデータを参照する手段は主に2つあり、更新が反映されるかどうかが逆になっています。 同じ解説では、ルックアップは参照元のデータが変わっても参照先のデータが自動では更新されず、 取得ボタンを押し直すかAPIで更新する必要があると説明されています。 一方で、関連レコード一覧は参照元の変更が自動的に反映されます。 また、ルックアップでコピーしたフィールドは編集できません。
| 観点 | ルックアップ | 関連レコード一覧 |
|---|---|---|
| 参照元を直したとき | 自動では更新されない(取得ボタンの押し直し、またはAPIでの更新が必要) | 自動的に反映される |
| コピーされた値の編集 | できない | 参照元のレコードを直す形になる |
| 案件管理で向く使い方 | 契約時点の単価・住所・担当など、その時点の値を証跡として残したいもの | 取引先の現在の連絡先や、案件にぶら下がる活動履歴・請求など、常に最新を見たいもの |
| 選び間違えたときの症状 | マスタを直したのに過去の案件が古い値のまま残る | 当時の条件が分からなくなる(値が今のものに置き換わって見える) |
顧客名や単価をルックアップで持たせておいて、あとで 「マスタを直したのに過去の案件が更新されない」と相談になることがあります。 これは不具合ではなく仕様です。逆に、値引き後の単価を関連レコードで見せていると、 マスタが変わった瞬間に当時の条件が追えなくなります。 どちらが困るかは会社によって違うので、「証跡が欲しいのか、最新が欲しいのか」を項目ごとに決めるのが設計です。 この判断はアプリを作る前に、紙の上で終わります。
Excelの列をそのまま持ち込むと重くなる
移行でよくあるのが、既存の台帳の列をすべてフィールドにしてしまうやり方です。 「あとで使うかもしれない」と全部残すと、フィールド数が膨らみます。
kintone SIGNPOSTの「性能上の考慮点と改善策」には、 「1アプリの最大フィールド数は500ですが、100を超えるとレコード一覧/詳細画面の表示などに遅延が生じる可能性があります。」 と記載されています。上限の500まではまだ遠いように見えても、体感が落ち始める目安は100だと提供元が書いているわけです。 Excelの台帳は使っていない列が並んでいても重くならないので、 列が増えていることに気づかないまま移行に入りがちです。
レコード件数についても目安が示されています。同ページでは 「利用者の快適さを考慮すると、レコード数は多くても100万レコードが目安となります。」 とされ、あわせて 「絞り込みやアクセス権の設定を行っていない1つのアプリに、100万件を登録した状態で快適に使用できることを確認しています。」 と記載されています。案件管理でこの件数に届く中小企業はそう多くないので、 実務で先に当たるのはフィールド数のほうです。
列を絞る基準は「集計に使うか」
残す列を選ぶ基準は、重要そうかどうかではなく集計・検索・絞り込みに使うかです。 使わない情報は、フィールドとして持つ代わりに、 メモ欄や添付ファイル、別アプリに寄せる判断ができます。 直近1年の台帳で一度も埋まっていない列は、たいてい移行しなくても運用が回ります。
Excel側で起きていた限界の整理は「原価管理をエクセルでやる限界」でも触れています。列が増える理由と、増えたあとに何が起きるかは、 案件台帳でも原価表でも同じ形をしています。
向く場合と、向かない場合
kintoneで案件管理を組むのが素直な会社と、無理をすることになる会社があります。 否定したいのではなく、先に分かっていれば選び方が変わるという話です。
| 観点 | 向く | 向かない |
|---|---|---|
| 案件の進み方 | 引き合い→提案→受注→納品のように、段階で表せる | 案件ごとに項目も進み方もバラバラで、共通の型に落とせない |
| 入力する人 | 社内にいる(内勤・事務が代行入力できる形も含む) | 営業が外出中心で、その日のうちに入力する習慣がない |
| 出したい集計 | 軸が数個に絞れる(担当別・ステータス別・月別など) | 案件をまたいだ再計算や配分が必要で、軸も毎回変わる |
| 人数 | 10人前後以上で、複数人が同じ案件を見る | 数人で、必要なのはアプリ1つだけ(最低契約ユーザー数の床を踏む) |
案件をまたいだ再計算が必要なとき
向かない側で最も判断が難しいのが、集計の形です。 1レコードの中で完結する計算(数量×単価、粗利など)は素直に載ります。 一方で、他のレコードを参照して合計や配分をやり直す集計—— 共通費を案件ごとに按分する、前月の残を持ち越して再計算する、 同じ取引先の複数案件を一本化して見る——は、 1レコード内で完結する計算とは別の作りが必要になります。
この種の集計を前提にするなら、集計用のアプリを分ける、 外部サービス連携で処理する、といった判断が入ります。 なお、API・プラグイン・JavaScriptカスタマイズによる外部サービス連携はライトコースでは使えず、スタンダード以上が必要と サイボウズが公表しています(2026年8月時点の掲載)。 「まずライトで始めて、足りなければカスタマイズ」という順番を想定していると、 コースの選び方から変わります。自社の集計が本当に載るかどうかは、 30日間の無料お試しの期間に、実際のデータで試しておくのが確実です。
人数が少ない会社は「最低契約ユーザー数」の床を踏む
サイボウズが公表している料金(2026年8月時点の掲載)では、 ライトコースが1ユーザーあたり月額1,000円、スタンダードコースが1,800円(いずれも税抜)で、最低契約ユーザー数は10ユーザーです。 つまり社員が5人でも、ライトなら月10,000円、スタンダードなら月18,000円(税抜)が下限になります。 大規模向けのワイドコースは1ユーザーあたり月額3,000円(税抜)で、 最低契約ユーザー数は1,000ユーザーです。
アプリ数はライトで200個、スタンダードで1,000個と公表されているので、 アプリを増やす余地は十分にあります。ここで論点になるのは、「アプリが1つ欲しいだけ」の会社もこの床を踏むということです。 案件管理だけのために契約するのか、それとも見積・請求・日報なども含めて 社内の器として使うのか。人数が少ない会社では、この判断が先に来ます。 他ツールと並べて考えるときの観点は「不動産会社にSalesforce・HubSpotは合うのか」でも整理しています。
アプリを作る前に決める4つ
ここまでの内容は、全部アプリを作る前に紙の上で決まります。 逆に言えば、決まっていないまま作り始めると、 設定画面で決めていなかったことを順番に聞かれて止まります。
- 1レコードの単位:引き合い・案件・請求のどれを1件と数えるか。 複数必要なら、どれを主にしてどれを別アプリに分けるか
- ステータスの定義:それぞれの段階に入る条件と出る条件を書く。 「提案中」が人によって違う状態だと、ステータス別の集計は読めない
- 誰がいつ入力するか:入力者と、入力するタイミング。 その日のうちに入らない設計なら、入力の代行者を先に決める
- 出したい集計を3〜5個:具体的な画面イメージで書く。 これが1レコードの単位と参照方法(ルックアップか関連レコード一覧か)を決めます
この4つが決まっていないなら、まだ道具を選ぶ段ではありません。 kintoneが良いか悪いかではなく、何を1件と数えて、何を見たいのかが 決まっていないだけです。そこが書けていれば、kintoneでも、他のCRMでも、 Excelを整えるだけでも、選択の判断ができます。逆にそこが空欄のままだと、 どの道具を選んでも同じ場所で止まります。
当社は道具の導入を推し進める立場ではなく、 この「先に決める」部分の言語化を仕事にしています。 在庫や原価など案件の周辺の管理も同じ構造なので、「製造業の在庫管理」も参考になります。
出典
- サイボウズ「kintone(キントーン)の料金プラン」:ライト/スタンダード/ワイドの月額(1ユーザー・税抜)、最低契約ユーザー数、 アプリ数、外部サービス連携の対象コース、30日間無料お試し(2026年8月12日取得の掲載内容)
- kintone SIGNPOST「性能上の考慮点と改善策」:1アプリの最大フィールド数と100を超えた場合の表示遅延、レコード数の目安
- cybozu developer network「kintoneにおけるデータ設計の基本」:リレーショナルデータベースのテーブルとは別物として考える旨、 ルックアップと関連レコード一覧の更新反映の違い、ルックアップでコピーしたフィールドの編集可否
※ 本記事の料金・仕様は、サイボウズが公表している情報を2026年8月12日時点で参照したものです。 料金や機能の提供条件は変更される可能性があるため、契約前に必ず提供元の最新の記載を確認してください。 「5人の会社でも月10,000円/月18,000円」は、公表されている1ユーザー月額と最低契約ユーザー数10から 当社が計算したものです(いずれも税抜)。1レコードの単位の分け方、向く/向かないの線引き、 アプリを作る前に決める4つは、当社が支援の現場で見てきた傾向を整理したものであり、 統計的に検証された区分ではありません。自社の要件がkintoneの標準機能で組めるかどうかは、 無料お試しの期間に実データで確認することをおすすめします。
よくある質問
kintoneの案件管理アプリは、1レコードを何にすればいいですか?
「出したい集計の単位」に合わせるのが原則です。受注率を見たいなら引き合い1件が1レコード、進行中の仕事の状況を見たいなら案件1件が1レコード、入金の消し込みを見たいなら請求1件が1レコードになります。全部を1つのアプリで兼ねようとすると、1レコードの意味が途中で変わり、件数を数えるだけの集計も合わなくなります。先に「1件と数えたいものは何か」を決めて、それ以外の単位は別アプリに分けて関連付けるほうが後が楽です。
顧客名や単価はルックアップで持たせるべきですか?
どちらの挙動が欲しいかで決まります。cybozu developer networkの解説では、ルックアップは参照元のデータが変わっても参照先のデータが自動では更新されず、取得ボタンを押し直すかAPIで更新する必要があると説明されています。一方で関連レコード一覧は参照元の変更が自動的に反映されます。つまり、契約時点の単価を証跡として残したいならルックアップ、いまのマスタの値を常に見たいなら関連レコード一覧です。マスタを直したのに過去の案件が古い値のままなのは不具合ではなく仕様なので、先に決めておく必要があります。
Excelの案件台帳の列は、そのままkintoneのフィールドにしていいですか?
そのまま全部持ち込む移行は避けたほうが安全です。kintone SIGNPOSTでは「1アプリの最大フィールド数は500ですが、100を超えるとレコード一覧/詳細画面の表示などに遅延が生じる可能性があります。」と記載されています。Excelの台帳は使わない列が残っていても重くならないので、列が増えても気づきません。移行時は、直近1年で実際に埋まっている列と、集計や検索に使っている列だけを残し、残りは別アプリか添付に寄せる判断をします。
社員が5人でもkintoneで案件管理はできますか?
使えますが、料金は人数分にはなりません。サイボウズが公表している料金(2026年8月時点の掲載)では、ライトコースが1ユーザーあたり月額1,000円、スタンダードコースが1,800円(いずれも税抜)で、最低契約ユーザー数は10ユーザーです。したがって5人の会社でも、ライトで月10,000円、スタンダードで月18,000円(税抜)が下限になります。また、API・プラグイン・JavaScriptカスタマイズといった外部サービス連携はライトコースでは使えず、スタンダード以上が必要です。30日間の無料お試しがあるので、この床を踏んでよいかは実際の入力運用で確かめるのが確実です。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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