kintone 稟議 申請の承認フロー|プロセス管理で組める範囲
この記事は稟議・各種申請の承認フローだけを扱います。案件の進行管理は「kintone 案件管理アプリ」、承認後の金額を案件別に積み上げる話は「kintone 原価管理」で扱っています。
この記事のポイント
kintoneのプロセス管理で申請→承認→完了を回す形は素直に作れます。 それでも「承認フローが複雑で組めない」となるのは、多くの場合ツールの制約ではなく決裁ルールが社内の文書として存在していないことが原因です。 アプリを作る作業が、そのまま決裁ルールを決める作業になるのでそこで止まります。 先にやるのは設定ではなく、決裁表を1枚書き出すこと。埋まらない欄が、 いま属人化している場所です。
「稟議が紙とメールで回っていて、いま誰のところで止まっているか分からない」。 この相談はよく来ます。そしてkintoneで組めるかという問いへの答えは、 機能の話としては「組めます」です。申請書をアプリにして、承認の状態を進めていく形は、 kintoneが標準で持っている仕組みの範囲に収まります。
ところが実際に作り始めると、設定画面ではなく手前で止まります。 「この金額は誰の承認が要るのか」を決めようとした瞬間に、社内に答えがないことが分かるからです。 この記事では、プロセス管理で組める範囲を整理したうえで、 本当のボトルネックがどこにあるのか、そして先に何を決めておけば作業が進むのかを書きます。
先にお断り。この記事では提供元が公表していない金額や仕様を推定で書きません。 プロセス管理のステータス数の上限や条件分岐の仕様上限は、当社が公表値を確認できていないため扱いません。 引用する数値はサイボウズの公表値に限り、出典と時点を都度示します。 それ以外の整理は、当社が支援の現場で見てきた傾向であり、統計ではありません。 削減時間や削減率のような効果の数値も、実測がないため書きません。
プロセス管理でできること——申請を回す形自体は素直に作れる
kintoneには、レコードにステータスと作業者を持たせて、 状態を順に進めていく仕組みがあります。プロセス管理と呼ばれるものです。 「申請中」「一次承認済み」「決裁済み」のようにステータスを並べ、 それぞれの段で誰が処理するかを作業者として設定すると、 レコードは「いま誰のところにあるか」を自分で持つようになります。
だから、稟議書や購買申請、経費精算、値引き申請といった「1枚の紙が人を渡っていく」種類の業務は、素直にアプリの形に落ちます。 紙とメールで回していたときに手作業でやっていたことのうち、 次の3つは仕組みの側が持ってくれます。
1. 現在地の可視化。誰の手元で止まっているかが一覧で分かる。 「あの稟議どうなりました」という確認の連絡が減ります。
2. 履歴の自動的な蓄積。いつ誰がどの段を通したかがレコードに残る。 紙の押印列と違い、後から並べ替えて集計できます。
3. 未処理の見える化。自分が作業者になっているレコードを絞り込める。 「承認を忘れていた」が個人の記憶に依存しなくなります。
ここまでは、kintoneを触ったことのある方なら想像がつく範囲だと思います。 そして多くの記事はここで終わります。実務で問題になるのはこの先です。
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業務・判断・道具の3層で整理する30項目のチェックリストと、90日の進め方。承認フローを組む前に、自社のどこが決まっていないかを確かめられます
設計ガイドを無料でダウンロード本当に詰まるのは「誰が決裁者か」が条件で変わるところ
「承認フローが複雑でツールに載せられない」と言われるとき、 複雑なのはフローの形ではなく決裁者を決める条件です。 実際に出てくるのは、だいたいこの4つです。
- 金額で分岐する。ある額までは部長、それを超えると役員、 さらに超えると社長——という区切りがある
- 部署で分岐する。同じ金額でも、部門によって承認者と段数が違う
- 不在時に代理が立つ。承認者が出張や休暇のとき、 誰が代わりに通してよいのかが決まっている(つもりになっている)
- 途中で金額が上がったらやり直す。申請時の見積が上振れしたとき、 承認を取り直すのか、そのまま進めるのかが分かれる
問題は、この分岐の一覧が社内に文書として存在していないことです。 当社が支援の現場で見てきた傾向であり統計ではありませんが、 「決裁権限規程はあるが、金額の区切りが実態と合っていない」あるいは 「規程そのものが無く、経験のある人の頭の中にある」という状態はかなり多いです。 そして今までは、それで回っていました。判断できる人が社内にいて、 その人に聞けば答えが出たからです。
ここが核心です。アプリを作る作業は、そのまま決裁ルールを決める作業になります。 設定画面は「この条件のときは誰ですか」と聞いてきますが、 その質問は情報システムの質問ではなく、経営の質問です。 だから担当者だけでは埋められず、作業が止まります。 「kintoneでは複雑な承認フローが組めなかった」という感想の多くは、 実際には会社の側が条件を確定できなかったという出来事です。
止まり方には見分けがつく
ツールの制約で止まっているのか、ルールが無くて止まっているのかは、 症状で見分けられます。ツールの制約なら、要件は言えるのに実現方法が見つからない。 逆にルールが無い場合は、要件を書こうとすると誰かに確認しないと文が完成しません。 後者なら、設定を工夫しても解決しません。連携サービスやカスタマイズを検討しても、 同じ空欄を別の画面で聞かれるだけです。
決裁ルールを先に書き出す——申請の種類ごとに5項目
やり方はごく素朴です。申請の種類ごとに1行を用意して、次の5項目を埋めます。 スプレッドシートでも紙でもかまいません。kintoneはまだ触らないでください。
| 埋める欄 | 書くこと | 埋まらないと起きること |
|---|---|---|
| ① 何を申請するか | 対象(購買・外注・値引き・採用・経費・契約など)と、申請が必要になる境目 | 「これは稟議が要るのか」を毎回口頭で確認することになる |
| ② いくらから誰の承認が要るか | 金額の区切りと、区切りごとの承認者。部署で変わるならその条件も | 承認者が案件ごとに変わり、アプリの分岐条件が書けない |
| ③ 代理は誰か | 承認者が不在のときに立つ人と、代理を立ててよい範囲 | 承認が特定の1人の予定に依存し、止まったまま日数が過ぎる |
| ④ 差し戻しはどこに戻るか | 申請者まで戻すのか、1つ前の承認者に戻すのか。金額が変わったら承認をやり直すのか | 差し戻し後に誰が何を承認したのか追えなくなる |
| ⑤ 承認後に何が起きるか | 発注、支払依頼、契約書の作成、予算の消化記録のうちどれが動くか | 承認は取れたのに次の作業が始まらない。承認が目的化する |
埋めていくと、たいてい②③④のどこかが空欄で残ります。 その空欄が、いま属人化している場所です。 裏を返せば、この表が埋まっていれば設定作業は淡々と進みます。 承認フローを組む前に業務そのものを並べ直したい場合は「業務の棚卸しのやり方」の手順が使えます。
kintoneで素直に解けない部分
決裁ルールが決まっていても、設計として引っかかる箇所はあります。 承認フローの周辺で当社がよく相談を受けるのは、次の3つです。
1. レコードをまたいだ計算は計算フィールドで書けない
「承認済みの稟議金額を積み上げて、予算の消化率を出したい」。 承認フローを作った次に必ず出てくる要望です。 ところがkintoneの計算フィールドは同じレコード内の値を計算するもので、 他のレコードや他のアプリの値を集めて計算することはできません。
一覧の集計やグラフで「承認済みの合計」を見ることはできます。 見るだけなら足ります。しかしその結果を別アプリの予算フィールドへ書き戻し、承認のたびに自動更新するとなると、外部連携やカスタマイズが必要になります。 サイボウズが公表している料金ページでは、外部サービス連携 (API・プラグイン・JavaScriptカスタマイズ)はライトコースでは使えず、 スタンダードコース以上(月額1,800円/1ユーザー・税抜、2026年8月時点の掲載)と案内されています。 自動反映まで必要かどうかで、契約するコースの前提が変わるので、 要件の順番を先に決めておくほうが安全です。
そもそもこの引っかかりは、cybozu developer networkの解説にある 「kintone の1つのアプリがリレーショナルデータベースの1つのテーブルに相当するように思えますが、 別物として考えることが重要です」という性質から来ています。 表計算やデータベースの発想で「集計して書き戻す」を前提に設計すると、 途中で必ずこの壁に当たります。案件別の積み上げについては「kintone 原価管理|案件別の集計をどこまで載せられるか」で単独に扱っています。
2. ルックアップの落とし穴——過去の申請は古い値のまま残る
申請時に、社員マスタから部署名や上司をルックアップで取ってくる設計はよく使われます。 このとき知っておく必要があるのは、cybozu developer networkの解説にあるとおり、ルックアップは参照元が変わっても参照先のデータが自動では更新されないという性質です。更新するには取得ボタンを押し直すか、APIで更新する操作が必要になります。 一方で関連レコード一覧は、参照元の変更が自動的に反映されます。 また、ルックアップでコピーしたフィールドは編集できません。
これは不具合ではなく、どちらが欲しいかという選択です。 稟議の場合、「申請時点の所属と承認者を記録として残したい」なら、古いまま残るのが正しい挙動です。 異動後にマスタを直したら過去の稟議の部署名まで書き換わってしまうほうが、 記録としては困ります。
逆に「常に最新の組織図を見たい」なら、ルックアップでコピーするのではなく 関連レコード一覧で参照する形にするか、判断のたびにマスタを見る運用にします。どちらが欲しいかを先に決める。決めずに作ると、 後から「過去分も直してほしい」と言われて手作業の更新が発生します。
3. 申請の種類を1アプリに詰め込むか、分けるか
購買も外注も値引きも経費も、ぜんぶ1つの「申請アプリ」で受けたくなります。 入口が1つになって分かりやすいからです。ただし種類ごとに必要な項目が違うので、 項目はどんどん増えます。kintone SIGNPOSTの「性能上の考慮点と改善策」には 「1アプリの最大フィールド数は500ですが、100を超えるとレコード一覧/詳細画面の表示などに遅延が生じる可能性があります。」 と記載されています。上限まで余裕があっても、体感の速さは早い段階から落ちうるという説明です。
一方、アプリ数のほうは余裕があります。サイボウズが公表している料金ページによれば、 アプリ数はライトコースで200個、スタンダードコースで1,000個 (いずれも2026年8月時点の掲載)です。 つまり分ける側にコストがかかりにくい構成になっています。 承認の段数や決裁者が違う申請を1つのアプリに同居させ、 条件分岐で切り分ける設計は、作るのも直すのも重くなります。素直に分けたほうが楽です。
なお料金面では、サイボウズが公表している料金ページによれば最低契約ユーザー数が10ユーザーです。 ライトコースは月額1,000円/1ユーザー、スタンダードコースは月額1,800円/1ユーザー (いずれも税抜・2026年8月時点の掲載)なので、 5人の会社でも10ユーザー分——ライトなら月10,000円、スタンダードなら月18,000円(税抜)——が前提になります。 30日間の無料お試しもあるので、決裁表を書き終えたあとに実際の設定を試すのが順番としては合っています。
向く場合と向かない場合
ここまでを、自社が向くかどうかの判定に落とします。 以下は当社が支援の現場で見てきた傾向を整理したものであり、統計ではありません。
| 自社の状況 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 申請の種類が数個〜数十個に収まる | 向く | 種類ごとにアプリを分けても、公表されているアプリ数の枠に余裕がある |
| 承認の段数が浅い | 向く | ステータスと作業者の並びがそのまま実態を表せる。分岐の設定が少なく済む |
| 分岐のルールを文書にできる | 向く | 設定画面の質問に自社で答えられる。担当者だけで作業が完了する |
| 決裁ルール自体をこれから作る段階 | 向かない(まだ) | 先に紙で決める。ツールの設定を議論の場にすると決まらないまま長引く |
| 添付する見積・契約書の版管理まで一体で回したい | 向かない | 承認の流れと文書の版の管理は別の要件。同じアプリに載せると両方が中途半端になる |
| 承認の記録を会計や電子帳簿の要件に合わせて保存したい | 要確認 | 法令や社内統制の要件がある領域。要件の中身は本記事では扱わないため、専門家への確認が先 |
最後の行だけ「向かない」ではなく「要確認」にしています。 会計処理や電子帳簿の保存に関わる要件は、 当社が本記事で正確に書ける範囲を超えるためです。 該当しそうな場合は、要件を先に確定させてから、 その要件を満たせる保存方法を選ぶ順番になります。 ツールを選んでから要件を確認すると、選び直しになります。
先に決めること——kintoneを触る前に決裁表を1枚作る
結論はシンプルです。kintoneを触る前に、決裁表を1枚作ってください。 申請の種類を縦に並べ、前掲の5項目を横に並べただけの表です。 これを作るのに専門知識は要らず、必要なのは決める人の同席だけです。
そして埋まらない欄が、本当のボトルネックです。 そこはツールを変えても、連携サービスを買っても埋まりません。 逆に埋まってさえいれば、kintoneでもほかの道具でも、 設定の作業は淡々と終わります。当社が繰り返しお伝えしているのは構造を決めてから道具を選ぶという順番で、 承認フローはその順番の効き方がいちばん分かりやすい領域です。
kintoneをそもそも自社の業務にどう当てるかという全体の話は「不動産会社がkintoneで顧客管理・物件管理を始める方法」、他のツールとの比較の観点は「中小企業向けCRM比較」「不動産会社にSalesforce・HubSpotは合うのか」で扱っています。勤怠のような専用システムがある領域との線引きは「kintone 勤怠管理は向くのか」に分けました。
出典
- サイボウズ「kintone 料金プラン」:コース別の月額(ライト1,000円/スタンダード1,800円・1ユーザー・税抜)、最低契約ユーザー数10ユーザー、アプリ数(ライト200個/スタンダード1,000個)、外部サービス連携(API・プラグイン・JavaScriptカスタマイズ)はスタンダード以上、30日間無料お試し。いずれも2026年8月時点の掲載
- kintone SIGNPOST「性能上の考慮点と改善策」:「1アプリの最大フィールド数は500ですが、100を超えるとレコード一覧/詳細画面の表示などに遅延が生じる可能性があります。」
- cybozu developer network「kintoneにおけるデータ設計の基本」:アプリとリレーショナルデータベースのテーブルを別物として考える必要性、ルックアップは参照元の変更が自動更新されない性質、関連レコード一覧は自動的に反映される性質、ルックアップでコピーしたフィールドは編集できないこと
※ 本記事は公開されている資料をもとにした一般的な整理です。引用した料金・仕様は 2026年8月時点の掲載内容であり、改定される可能性があります。導入前に提供元の最新情報をご確認ください。 「月10,000円」「月18,000円」は、公表されている最低契約ユーザー数10ユーザーと月額単価から当社が計算したものです(いずれも税抜)。 プロセス管理のステータス数の上限や条件分岐の仕様上限については、当社が公表値を確認できていないため記載していません。 会計処理・電子帳簿の保存に関する要件の中身も本記事では扱っていません。 決裁表の5項目と向く/向かないの整理は、当社が支援の現場で観察した傾向を整理したものであり、 統計的に検証された区分ではありません。
よくある質問
kintoneのプロセス管理で稟議の承認フローは作れますか?
作れます。kintoneはレコードにステータスと作業者を持たせて、申請から承認、完了へと状態を進める仕組みを備えているため、申請書をアプリにして承認を回す形自体は素直に組めます。実務で止まるのはこの機能の側ではなく、いくらから誰の承認が要るのか、不在時の代理は誰か、差し戻しはどこに戻るのかという決裁ルールが社内の文書として存在していないところです。アプリを作る作業が、そのまま決裁ルールを決める作業になります。なお、ステータス数の上限や条件分岐の仕様上限については、当社が公表値を確認できていないため本記事では扱いません。
金額で承認者が変わる稟議はkintoneで組めますか?
分岐の条件が文書として決まっていれば、設定の作業自体は進みます。問題は、その条件表が社内に無い会社が多いことです。金額の区切り、部署ごとの違い、承認者が不在のときの代理、申請後に金額が上がった場合に承認をやり直すのかどうか。この4つを書き出すと、どこかが必ず空欄になります。空欄のまま設定画面に向かうと、誰かに確認しないと先に進めない状態で作業が止まります。先に紙かスプレッドシートで決裁表を1枚作り、それを設定に写すほうが速く終わります。
承認された稟議の金額を予算の消化率に自動で反映できますか?
kintoneの計算フィールドは同じレコード内の値を計算するもので、レコードをまたいだ計算は書けません。承認済みレコードの合計を一覧の集計やグラフで見ることはできますが、その結果を別アプリの予算フィールドへ書き戻して自動更新するには、外部連携やカスタマイズが必要になります。サイボウズが公表している料金ページでは、外部サービス連携(API・プラグイン・JavaScriptカスタマイズ)はライトコースでは使えず、スタンダードコース以上(月額1,800円/1ユーザー・税抜、2026年8月時点の掲載)と案内されています。自動反映まで求めるなら、コースの前提が変わる点を先に確認してください。
申請の種類は1つのアプリにまとめるべきですか、分けるべきですか?
種類ごとに分けるほうが素直です。すべてを1つの申請アプリに詰め込むと、使わない項目が並び、フィールド数が増えていきます。kintone SIGNPOSTでは「1アプリの最大フィールド数は500ですが、100を超えるとレコード一覧/詳細画面の表示などに遅延が生じる可能性があります。」と説明されています。一方でアプリ数は、サイボウズが公表している料金ページによればライトコースで200個、スタンダードコースで1,000個(いずれも2026年8月時点の掲載)です。分ける側に余裕がある構成になっているため、承認の段数や決裁者が違う申請を無理に同居させる必要はありません。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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