kintone 原価管理|案件別の集計をどこまで載せられるか
この記事は案件別・製品別の原価をkintoneに載せる設計だけを扱います。 表計算ソフトで回している場合の限界と作り方は「原価管理をエクセルで回し切る現場の型」で扱っているので、そちらと役割を分けています。エクセル側はシート構造と更新ルールの話、この記事はkintoneというアプリ型の道具に載せたときに何が残るかの話です。
この記事のポイント
原価が案件別に出ないのは、集計する道具が足りないからではなく何を原価に入れるかの取り決めがないからであることが多い。 費用の記録は取引先単位と人単位で来るので、それを案件に寄せる決めがなければどんな道具でも出ない。 kintoneには「見る」ところまでは素直に載る。ただし合計を保持して使うには外部連携が要り、配賦は最後まで取り決めの問題として残る。
「案件ごとの利益が見えないので、kintoneで原価管理をやりたい」という相談を受けたとき、 最初に確認するのはアプリの構成ではありません。その会社で「原価」に何が入っているのかです。 材料費と外注費は入っている。社内の人が動いた時間は入っていない。 現場の運搬費は営業経費に混ざっている。この状態で集計の仕組みだけ作ると、 出てきた数字が「案件ごとの原価」なのか「案件ごとの支払額」なのか誰も言えなくなります。
この記事では、kintoneで案件別原価をやるときに先に決めておくべき取り決めを整理したうえで、 kintoneに素直に載る部分と、載せると苦しくなる部分を分けます。 最後に、向く場合と向かない場合を表で置きます。
先にお断り。この記事では提供元が公表していない金額や仕様を推定で書きません。 プラグインや連携サービスの製品名と価格も扱いません。推定を混ぜると、 読んだ人の見積もり前提が狂います。引用する数値はサイボウズが公表している 情報に限り、出典を都度示します。それ以外の整理は、 当社が支援の現場で見てきた傾向であり、統計ではありません。 原価率や削減時間のような、当社が実測していない数字も出しません。
「原価が見えない」の正体は、集計する道具の不足ではない
案件別原価が出ない会社を見ていくと、集計の手段がないのではなく、費用側の記録に案件番号が付いていないことが原因になっている場合が多いです。 これは道具の問題ではないので、道具を変えても直りません。
理由は費用の発生の仕方にあります。仕入や外注の請求は取引先の単位で届きます。1枚の請求書に複数案件のぶんが混ざることもあります。 社内の工数は人の単位で記録されます。日報も勤怠も、人と日付で並んでいます。 どちらも案件を主語にしていません。この2つを案件に寄せる決めがないと、 月末に「この請求はどの案件だったか」を思い出す作業が発生し、 思い出せなかったぶんが共通費に流れます。
| 費用の出どころ | 記録が来る単位 | 案件に寄せるために必要な決め |
|---|---|---|
| 材料・仕入 | 取引先・納品書・請求書の単位 | 発注のときに案件番号を入れる。在庫から出す材料は、出庫のときに案件を書く |
| 外注 | 取引先・請求単位(複数案件が1枚に混ざる) | 発注時点で案件を確定させる。1請求に複数案件が混ざるときの分け方を先に決める |
| 社内工数 | 人・日の単位 | 日報で案件を選ばせる。同時に「案件に紐づかない作業」の入れ先も作る |
| 間接費・共通費 | 案件に紐づかない | 配賦するかしないかを決める。決まっていないなら、当面は配賦しない |
表の右の列は、すべて入力のタイミングと入力する人の話です。 集計画面の話が1つも出てきません。ここが決まっていない状態でアプリを作ると、 入力欄はあるのに埋まっていないアプリができます。そして 「使われないので集計もできない」という結論になり、道具のせいになります。
もうひとつ、案件番号そのものの話があります。案件番号をいつ発番するかが決まっていないと、材料の発注のときに 書く番号が存在しません。原価を案件別に出すつもりなら、 番号は最初の支払いより前に発番されている必要があります。 受注確定を待って発番する運用だと、受注前に動いた費用は入りません。
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取り決めができている前提で、kintone側の形を書きます。素直なのは、案件アプリを親にして、費用を子のアプリに1件1レコードで積む形です。
案件アプリ(案件番号・顧客・受注金額・期間)を1件1レコードで持つ。 そこへ材料アプリ(発注・納品の1明細=1レコード)、外注アプリ(外注先ごとの1明細=1レコード)、工数アプリ(1人・1日・1案件=1レコード)を、 すべて案件番号で紐づける。案件アプリ側では関連レコード一覧で子のレコードを一覧・合計として見る。
ポイントは、費用を明細のまま積むことです。 案件アプリに「材料費合計」「外注費合計」の入力欄を作って人が打ち込む形にすると、 根拠が消えます。あとから「この材料費は何を買ったぶんか」を聞かれたときに、 答えられるのは明細を持っている側だけです。集計は明細から作れますが、 合計から明細は復元できません。
入力の入口を作るときは、業務のどの動作に乗せるかを決めておきます。 材料は発注のとき、外注は発注と請求の受け取りのとき、工数はその日の終わりに、 という具合です。既存の業務動作に乗らない入力は残りません。 この整理そのものは「業務の棚卸しのやり方」と同じ手順で進められます。案件そのものの管理アプリを先に作る場合は「kintone 案件管理アプリ|Excel台帳から移す設計と向かない場合」を見てください。
レコード数とフィールド数の見通しを先に持つ
工数を日次で積む設計にすると、件数は人数と日数の掛け算で伸びます。 材料の明細も、案件が増えれば積み上がります。 kintone SIGNPOSTでは、性能の考慮点として 「利用者の快適さを考慮すると、レコード数は多くても100万レコードが目安となります。」 と示されています。同じページには 「絞り込みやアクセス権の設定を行っていない1つのアプリに、100万件を登録した状態で快適に使用できることを確認しています。」 という記載もあります(2026年8月時点の掲載)。
フィールド数についても 「1アプリの最大フィールド数は500ですが、100を超えるとレコード一覧/詳細画面の表示などに遅延が生じる可能性があります。」 と示されています。 原価管理のアプリは費目を増やしたくなる場所なので、この目安は効きます。 費目をフィールドとして横に増やすのではなく、費目を選択肢にして明細を縦に積むほうが、フィールド数は増えません。
kintoneの構造から来る壁を、3つだけ押さえる
ここからが「載せると苦しくなる部分」です。どれも不具合ではなく、 kintoneがそういう作りだという話です。知らずに設計すると後で作り直しになります。
壁1:計算フィールドは、同じレコードの中でしか計算しない
kintoneの計算フィールドは、そのレコードの中にある値を計算するものです。 つまり子アプリのレコードを合計して、案件アプリのフィールドに書き戻すという処理は、標準の設定では素直に書けません。 関連レコード一覧やグラフで合計を見ることはできますが、 その合計を案件アプリのフィールドとして保持して、ほかの計算に使うには手当てが要ります。
原価管理では、この差が実務にそのまま出ます。 「案件ごとの原価合計を見たい」だけなら見るだけで足ります。 しかし「受注金額から原価合計を引いた粗利をフィールドに持って、 粗利率で絞り込む」「粗利が一定を下回ったら色を変える」「粗利つきの一覧を書き出す」 となると、合計を保持している必要があります。
保持したい場合はAPI・プラグイン・JavaScriptカスタマイズといった外部サービス連携を使います。 サイボウズが公表している(2026年8月時点の掲載)とおり、 これらはライトコースでは使えず、スタンダードコース以上の機能です。 スタンダードコースは月額1,800円(1ユーザー・税抜)、最低契約ユーザー数は10ユーザーなので、 5人の会社でも10ユーザー分、月18,000円(税抜)から始まります。原価管理をやるなら実質スタンダード以上が前提と考えておくと、 後から「ライトで始めたのに足りなかった」という乗り換えを避けられます。 なお、サイボウズは30日間の無料お試しを用意しています。
壁2:kintoneはリレーショナルデータベースのテーブルではない
サイボウズの開発者向け資料には 「kintone の1つのアプリがリレーショナルデータベースの1つのテーブルに相当するように思えますが、別物として考えることが重要です」 と明記されています。 これは原価管理でとくに効きます。会計システムの勘定科目体系や、 原価計算の集計構造をそのままアプリに移そうとすると噛み合いません。
だから当社は、kintoneに載せるのは現場が入力できる粒度の一次データまでにするようお伝えしています。 そして、会計側で締めた数字と一致させることを目的にしない。 ここは曖昧にするとあとで必ず揉めるので、はっきり線を引いておきます。
一致を目的にすると、毎月「会計とkintoneが合わない」を追う作業が生まれます。 消費税の扱い、月をまたぐ請求、締め後の修正伝票、在庫の評価—— 合わない理由はいくらでもあり、そのどれも現場の入力ミスではありません。 kintone側の目的は案件ごとの赤黒を早く見ることに置いて、 制度としての原価計算は会計側に置く。目的が2つあると、どちらも中途半端になります。
壁3:ルックアップで持たせた単価は、改定後も古いまま残る
材料単価や外注の標準単価をマスタから引いてくるとき、 kintoneではルックアップと関連レコード一覧という2つの手段があります。 この2つは参照元が変わったときの挙動が違います。 サイボウズの開発者向け資料では、ルックアップは参照元のデータが変わっても 参照先のデータが自動では更新されない(取得ボタンを押し直すかAPIで更新する必要がある)、 一方で関連レコード一覧は参照元の変更が自動的に反映される、と説明されています。 ルックアップでコピーしたフィールドは編集できないという性質もあります。
ここで大事なのは、この「古いまま残る」挙動が原価では正しい場合が多いということです。原価は発生した時点の単価で固定したいのが普通です。 去年の案件の材料費が、今年の単価改定に合わせて書き換わってしまったら、 過去の赤黒が変わってしまいます。逆に「常に最新の単価で見たい」のは見積の側です。
つまり選ぶ順番は、機能の比較ではありません。その数字を過去のまま固定したいのか、常に最新にしたいのかを先に決める。 決まれば手段は自動的に決まります。ここを決めずに作ると、 「なぜ去年の原価が変わったのか」または「なぜ単価を直したのに反映されないのか」 のどちらかで問い合わせが来ます。
配賦は最後まで残る。だから直接費だけで始める
間接費や共通費を、どの案件にいくら乗せるか。これが配賦です。 そして配賦は計算方法の問題ではなく、取り決めの問題です。 売上比で割るのか、工数比で割るのか、案件数で割るのか。 どれも間違いではなく、どれも誰かにとって不利になります。
この取り決めが決まっていないうちにアプリへ配賦の計算を入れると、 何が起きるか。出てきた数字を誰も信じない状態になります。 自分の案件の利益が薄く出た人は「この配賦はおかしい」と言い、 その主張には根拠があるので反論できません。 そして数字は使われなくなり、入力も止まります。
だから当社は配賦なしの「直接費だけの案件別原価」から始めることを 提案しています。材料費・外注費・社内工数の直接ぶんだけを積む。 これでも「どの案件が薄いか」の順番はかなり見えます。 そして直接費が原価の大半を占める会社なら、判断に足ります。
配賦を入れるのは、直接費の入力が安定して回りはじめてからです。 入力が回っていない段階で配賦を議論すると、議論だけで数か月使います。 順番としては、直接費が毎月ずれなく積まれる状態を先に作り、 そのうえで「共通費をどう見るか」を経営の議題として別に立てるほうが早いです。
向く場合と向かない場合
ここまでを踏まえて、kintoneで案件別原価をやるのが向く条件と、 別の道具を見たほうがよい条件を分けます。
| 向く | 向かない |
|---|---|
| 案件・工事・製造ロットのように、原価をまとめる単位がはっきりしている | 標準原価と実際原価の差異分析を制度として回したい |
| 直接費(材料・外注・工数)が原価の大半を占めている | 会計と一致する原価計算を求められている(監査・原価計算基準への準拠など) |
| 必要なのは案件ごとの赤黒の把握と、その順位づけ | 工程別の仕掛品評価まで必要(生産管理・原価計算システムの領域) |
| 費用側の入力を既存の業務動作に乗せられる(発注時・日報時など) | 配賦のルールが未決のまま、配賦後の数字を成果物として求められている |
右の列に当てはまるものが複数あるなら、kintoneは原価計算の器としてではなく、一次データを集める入口として使い、 計算そのものは別の仕組みに置くほうが素直です。 また、いま表計算ソフトで回している段階なら、どこが限界でどこはまだ足りているのかを 確かめてから移すかを決めても遅くありません。乗り換えそのものが目的になると、 同じ取り決めの欠落を新しい道具に持ち込むだけになります。
先に決める3つ
道具の選定より前に決まるものだけを並べます。 この3つが決まっていれば、kintoneでも別の道具でも同じ設計が組めます。 逆にここが空欄のままだと、どの道具の設定画面でも同じ場所で止まります。
- 案件番号を費用側に付けるルール——いつ発番するか、 発注書・請求書・日報のどこに書くか、書き忘れたときに誰が拾うか
- 原価に入れる費目の一覧——材料・外注・社内工数のほかに何を入れるか。 社内工数を入れるなら、賃率をどう決めて、いつ見直すか
- 配賦はいつから始めるか——当面やらないと決めるのも決定です。 始める条件(直接費の入力が何か月安定したら、など)を先に書いておく
当社がやっているのは、この3つを埋める作業です。 アプリを作るのはそのあとで、順番を逆にすると作り直しになります。 構造を決めてから道具を選ぶ、というだけの話ですが、 原価はとくに決めていないことが数字になって出てくる領域なので、 前後を入れ替えたときの手戻りが大きくなります。
出典
- サイボウズ「kintone 料金プラン」:スタンダードコースの月額1,800円(1ユーザー・税抜)、最低契約ユーザー数10ユーザー、 外部サービス連携(API・プラグイン・JavaScriptカスタマイズ)はスタンダードコース以上、 30日間無料お試し(いずれも2026年8月時点の掲載)
- kintone SIGNPOST「性能上の考慮点と改善策」:レコード数100万レコードの目安、1アプリの最大フィールド数500と100超での表示遅延の可能性、 100万件登録時の動作確認の記載(2026年8月時点の掲載)
- cybozu developer network「kintoneにおけるデータ設計の基本」:リレーショナルデータベースのテーブルとは別物として考えることの記載、 ルックアップは参照元の変更が自動更新されないこと、 関連レコード一覧は参照元の変更が自動反映されること、 ルックアップでコピーしたフィールドは編集できないこと
※ 本記事は公開されている資料をもとにした一般的な整理です。 引用したkintoneの料金・仕様・性能の目安はサイボウズが公表している内容 (2026年8月時点の掲載)で、変更される場合があります。実際の検討時は最新の公表内容を 確認してください。「月18,000円(税抜)」は、公表されている月額1,800円(1ユーザー・税抜)と 最低契約ユーザー数10ユーザーを当社が掛けたものです。 費用の寄せ方・配賦の進め方・向く/向かないの区分は、 当社が支援の現場で観察した傾向を整理したものであり、統計的に検証された区分ではありません。 原価率や削減時間などの数値は、当社が実測していないため記載していません。
よくある質問
kintoneで案件別の原価は出せますか?
出せますが、その前に決めることがあります。案件別の原価が出ない原因は集計手段の不足ではなく、材料や外注の請求が取引先単位で、工数が人単位で記録されていて、それを案件に寄せるルールがないことです。発注のときに案件番号を入れる、日報で案件を選ばせる、という入力側の決めができていれば、案件アプリを親にして材料・外注・工数を子アプリで1件1レコードずつ積み、案件番号で紐づける構成で案件ごとの直接費は見られます。逆にこの決めがないままアプリを作ると、どの道具を使っても案件別原価は出ません。
子アプリで積んだ金額の合計を、案件アプリのフィールドに持たせられますか?
標準の設定だけでは素直にできません。kintoneの計算フィールドは同じレコードの中の値を計算するものなので、別アプリのレコードを合計して案件アプリのフィールドへ書き戻す処理は標準機能の範囲から外れます。関連レコード一覧やグラフで合計を「見る」ことはできますが、その合計を案件アプリのフィールドとして保持し、ほかの計算や条件分岐に使いたい場合はAPI・プラグイン・JavaScriptカスタマイズが必要になります。サイボウズが公表している(2026年8月時点の掲載)とおり、これらの外部サービス連携はライトコースでは使えず、スタンダードコース以上の機能です。
ライトコースで原価管理を組めますか?
見るだけなら組めますが、合計を保持して使う設計にすると足りなくなります。サイボウズが公表している(2026年8月時点の掲載)内容では、外部サービス連携(API・プラグイン・JavaScriptカスタマイズ)はライトコースでは使えず、スタンダードコース以上とされています。スタンダードコースは月額1,800円(1ユーザー・税抜)で、最低契約ユーザー数は10ユーザーです。つまり5人の会社でも10ユーザー分、月18,000円(税抜)からになります。原価管理を目的にするなら、実質スタンダード以上を前提に費用を見ておくほうが安全です。
会計システムの原価と一致させられますか?
一致させることを目的にしないほうがうまくいきます。サイボウズの開発者向け資料では、kintoneの1つのアプリがリレーショナルデータベースの1つのテーブルに相当するように思えるが、別物として考えることが重要だと説明されています。会計側の勘定科目体系をそのままアプリに移そうとすると噛み合わず、締めた数字と突き合わせる作業が毎月増えます。kintoneに載せるのは現場が入力できる粒度の一次データにとどめて、案件ごとの赤黒を早く見るために使う。制度としての原価計算や差異分析は会計・原価計算システム側の役割として分けるのが現実的です。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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