社内で何個のAIツールが動いているか、答えられますか—内製ツールの棚卸し手順
作るコストが下がったぶん、記録するコストを払う。台帳は5列で足りる
この記事のポイント
AIで作れるようになると、5つを超えたあたりで誰も全体を把握できなくなる。把握していないツールは、止めることも守ることもできない。棚卸しは完璧を目指さず、5列の表を配って1週間で全体像を出す。以降は作ったら1行足す運用にする。
「社内で動いているツールは何個ありますか」。この質問に即答できる会社は少ない。AIで作れるようになったことで、業務ツールは申請も稟議もなく増えていく。1つ目は本人が覚えている。3つ目くらいまでは把握できる。5つを超えたあたりから、誰も全体を知らない状態になる。この記事では、その状態をどう解消するかを整理する。
把握していないツールは、止められない
棚卸しの目的は管理のための管理ではない。把握していないものは、何かあったときに手が出せないという一点に尽きる。
- 情報漏洩の疑いが出たとき、どのツールに何が入っているか分からないと調査ができない
- 退職者が出たとき、どのツールの権限を外せばいいか分からない
- 外部サービスの障害が起きたとき、影響範囲が特定できない
- 使っていないツールが、課金され続けデータを持ち続けている
どれも「知らなかった」では済まない場面で、しかもその場で調べ始めることになる。棚卸しは、その時間を先に払っておく作業だ。
完璧なリストを目指すと着手できない
棚卸しが進まない最大の理由は、最初から網羅的にやろうとすることにある。どこまでをツールと呼ぶのか、スプレッドシートのマクロは含むのか、と考え始めると止まる。
現実的なのは、「今月、業務で使ったもの」を各部署に書き出してもらうところから始めること。定義は曖昧でいい。出てきたものを見てから、必要なら基準を決める。
台帳は5列で足りる
| 列 | 書くこと | なぜ要るか |
|---|---|---|
| ツール名 | 呼ばれている通称でよい | 会話で特定できる |
| 作った人・管理者 | 現在の担当者 | 何かあったとき誰に聞くか |
| 用途 | 一文。使っている部署も | 止めたときの影響が読める |
| 扱う情報 | 顧客情報・個人情報の有無 | 優先順位はここで決まる |
| 置き場所 | 動いている場所・使っている外部サービス | 障害・課金・権限の確認先 |
これ以上増やすと、埋める側の負担で止まる。4列目の「扱う情報」だけは必ず埋めてもらう。ここで顧客情報ありと書かれたツールから優先して確認していけばいい。
出典・一次情報
- 中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン(付録6:資産管理台帳サンプル)(IPA 独立行政法人情報処理推進機構)
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)10 講ずべき安全管理措置の内容(個人情報保護委員会)
制度・統計は改定されます。最新の情報は公表元でご確認ください。
出てきたものを3つに仕分ける
台帳が埋まったら、1行ずつ次のどれかに振る。
- 使っている・重要(顧客情報あり、または止まると業務が止まる)→ チェックリスト12項目で確認する
- 使っている・軽微(個人の作業効率化、情報も軽い)→ 台帳に載せておくだけでよい
- 使っていない → 止める。ただし止め方に注意(下記)
使っていないツールの止め方
「使っていないので放置」が一番危ない。動き続けているツールは、認証情報を持ち、データを保持し、課金が発生している。止めるときは3点セットで行う。
- 停止する。まず動作を止める
- データの扱いを決める。移す・保管する・削除する。顧客情報が入っているなら削除の記録も残す
- アカウントと認証情報を整理する。外部サービスの契約を解約し、APIキーを失効させる。キーが残っていると、ツールを止めても使える状態が残る
以降は「作ったら1行」でいい
一度棚卸しをしたら、次からは新しく作ったときに台帳へ1行足すだけにする。この運用が回れば、次の棚卸しはほぼ確認作業で終わる。
大事なのは申請制にしないこと。承認を必要にすると、作る速度が落ちるうえに申請せずに作る人が出る。記録だけを求めるほうが、結果的に把握できる範囲が広くなる。
棚卸しで出てきた「要確認」を、第三者に見てもらう
テクミルは、社内で作ったAIツールについて、第三者のエンジニアが懸念点と対応方針を整理するサービスです。台帳から優先度の高いものだけを選んで相談できます。月額8万円(税別)から、初回の相談は30分無料。
テクミルのサービス内容を見る →まとめ
内製ツールが増えること自体は前進で、止める必要はない。ただし把握していないものは守れないし、止められない。完璧なリストを目指さず、5列の表を配って1週間で全体像を出す。あとは作ったら1行足す。この運用に乗せてしまえば、棚卸しは負担ではなくなる。
よくある質問
社内ツールの棚卸しは何から始めればよいですか?
全部を一度に洗い出そうとせず、まず「今月、業務で使ったツール」を各部署に書き出してもらうところから始めます。完璧なリストを目指すと着手できません。5列(ツール名・作った人・用途・扱う情報・置き場所)だけの表を配って埋めてもらえば、1週間で全体像が見えます。
使われていないツールは放置してよいですか?
放置は避けてください。使われていなくても、認証情報を持ったまま動き続け、データを保持し、外部サービスの課金が発生していることがあります。使っていないと分かった時点で、停止・データの取り扱い・アカウントの整理をセットで決めてください。
棚卸しはどのくらいの頻度でやるべきですか?
四半期に一度が現実的です。加えて、新しくツールを作ったときに台帳へ1行足す運用を回せば、棚卸しの負担はほぼなくなります。作るコストが下がったぶん、記録するコストを払う、という考え方です。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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