月末の集計に丸2日かかっていた不動産会社が、Excel1枚の整理で5分に変わった話
この記事のポイント
「AIは早い」のではなく「データが散らかっているだけ」。反響管理シートを1枚に統合しただけで月20時間の集計が5分になった実話と、来週からできる3ステップを紹介します。
「AIを使ったほうがいいのは分かってる。でも、うちにはまだ早い」——不動産会社の社長と話していると、この言葉を本当によく聞く。ChatGPTの存在は知っている。ニュースで「AI活用」「DX」という文字も毎日のように見ている。でも、自分の会社で何に使えるのか分からない。触ったことがない人も多い。だから「まだ早い」になる。
気持ちはよく分かる。ただ、1つだけ伝えたいことがある。AIの前にやることが1つあって、それだけで月20時間の作業が5分になった会社がある。やったのは、Excel1枚の整理だけだ。
反響管理シートがバラバラだった不動産会社の話
ある不動産会社での話。従業員は数十名規模で、営業が各自でExcelの反響管理シートを持っていた。
物件への問い合わせが入ったら、それぞれが自分のシートに記録する。追客の状況もそこに書く。ここまではいい。問題は、フォーマットが営業ごとに全部違うということ。
Aさんのシートは「反響日・物件名・顧客名・TEL・メモ」。Bさんのシートは「日付・問い合わせ元・氏名・連絡先・内見日・ステータス」。Cさんに至っては、1つのセルに複数の情報をまとめて書いていて、もはや検索も集計もできない状態だった。
列の並びが違う。日付の書き方が違う。「成約」と「契約済み」と「決まり」が混在している。同じことを指しているのに、表記が人によって違う。
そして月末がやってくる。
管理部門の担当者が全営業のシートを集めて、反響数・内見数・成約数を1つずつ手で集計する。Aさんのシートからコピペして、Bさんのシートは列の順番が違うから並べ替えて、Cさんのシートは手で読み解いて入力し直す。数字を合わせて、グラフを作って、報告書にまとめる。
毎月20時間。丸2.5日分の仕事が、集計だけで消えていた。
やったことはシンプルだった
やったことを書くと拍子抜けするかもしれない。
エンジニアは関わっていない。特別なツールも使っていない。Excelの標準機能だけ。プルダウンもピボットテーブルも、調べれば30分で覚えられるレベルの操作だ。
結果、月20時間かかっていた集計作業が5分で終わるようになった。
ピボットテーブルを更新するだけで、全営業の反響数・内見率・成約率が一画面で見える。「先月スーモからの反響、何件だった?」という質問に、10秒で答えられる。月末に2.5日かけていた作業が、ボタン1つになった。
集計だけじゃない。見えるようになったもの
シートを統一したことで、集計が速くなっただけではなく、今まで見えなかったものが見えるようになった。
たとえば、流入元ごとの成約率。スーモ・ホームズ・自社サイト・紹介、どこから来た反響が一番成約につながっているか。バラバラのシートでは出しようがなかった数字が、ピボットテーブル1つで出る。
これが分かると、広告費の配分を根拠を持って判断できる。「なんとなくスーモに多く出している」から「スーモの成約率が高いから重点配分する」に変わる。感覚ではなく数字で意思決定できるようになった。
営業ごとの追客状況も一目で見えるようになった。「Aさんは反響を20件持っているのに内見が2件しかない」「Bさんは"未対応"のまま1週間放置している案件がある」。今までは本人に聞かないと分からなかったことが、シートを開くだけで把握できる。
マネジメントの質が、Excelの整理だけで変わった。
「AIは早い」のではなく「データが散らかっているだけ」
ここで冒頭の話に戻る。「うちにAIは早い」という言葉。
この不動産会社がもし先にAIを導入していたら、どうなっていたか。ChatGPTに「反響データを分析して」と言っても、営業ごとにバラバラのシートでは読み込めない。列名が違う、日付の書式が違う、抜け漏れがある。AIに食わせる以前の問題だ。
つまり「うちにAIは早い」のではなくて、「データが整理されていないだけ」というケースがほとんど。
逆に言えば、データさえ整っていれば、AIを使うかどうかは後から決められる。整理した時点で、集計や可視化はExcelだけで十分回る。AIが必要になるのは、そこからさらに「追客のタイミングを自動で通知したい」「反響の傾向から来月の成約数を予測したい」といった、一歩先をやりたくなったとき。
順番は、AI → 整理 ではなく、整理 →(必要なら)AI。
いきなりツールを入れて失敗するパターン
もう1つ、よくある失敗について書いておく。
「Excelじゃ限界があるから、SFAを入れよう」「顧客管理ツールを入れよう」という判断。不動産業界だと、反響管理や追客のクラウドサービスもたくさんある。
気持ちは分かるが、データが整理されていない状態でツールを入れても、混乱が移動するだけになることが多い。
ツールを導入すると、まず「項目設計」を求められる。「どんなデータを、どんな項目で、どういうルールで入れますか?」と聞かれる。でも、今のExcelがバラバラな会社は、この問いに答えられない。何を記録すべきで、何が不要なのか、基準がない。
結果、なんとなくの設計で走り出して、現場から「入力項目が多すぎる」「前のExcelのほうが楽だった」と言われ、3ヶ月後には「結局Excelに戻った」となる。
月額のツール代だけが残る。これが一番もったいない。
だからこそ、まずExcelで項目を整理する。フォーマットを統一して、集計が回る状態を作る。その上で「Excelだとこの部分が限界だな」と感じたら、そこで初めてツールを検討すればいい。Excelで項目設計ができていれば、ツール導入時の「何を入れますか?」にも即答できる。
来週からできる3ステップ
「うちもやってみるか」と思った人のために、具体的なステップを書いておく。
一番時間がかかっている集計作業を1つ選ぶ
反響の月次集計、売上の集計、入金管理、なんでもいい。「毎月これが面倒なんだよな」と思っている作業を1つだけ選ぶ。ポイントは、全部やろうとしないこと。1つでいい。欲張って3つ同時にやろうとすると、どれも中途半端になって結局どれも終わらない。
関連するExcelを全部集めて、項目を揃える
その集計に使っているExcelを全員分集める。そして全シートを並べて、「何が書いてあるか」を洗い出す。やることは3つだけ。
- 列名を統一する:「反響日」「問い合わせ日」「受付日」が混在していたら、1つに決める
- 書式を揃える:日付は「2026/3/14」に統一、金額はカンマ区切り、など
- 選択肢を定義する:ステータスや物件種別は自由記述をやめて、プルダウンの選択式にする
地味な作業だが、ここが一番大事。ここを雑にやると、統合した後もまた散らかる。
1シートにまとめて、集計行を追加する
全データを1シートに流し込む。そして、ピボットテーブルかSUMIFS関数で集計用のシートを作る。ピボットテーブルが初めてなら、「Excel ピボットテーブル 使い方」で検索すれば10分で理解できる。やっていることは「データを自動で分類・集計してくれる機能」、それだけ。
これで月次レポートの元データが、ボタン1つで更新される状態になる。
所要時間の目安:Step 1〜3で合計4〜5時間。1日あれば終わる。翌月からは毎月の集計時間が激減する。初月で元が取れる投資だ。
効果の測り方
やる前とやった後で、記録しておいてほしい数字がある。
| 指標 | Before | After(目標) |
|---|---|---|
| 月末集計にかかる時間 | ○時間 | 30分以内 |
| 集計データの抜け漏れ件数 | ○件/月 | 0件 |
| 「あのデータどこ?」の問い合わせ回数 | ○回/月 | 0回 |
数字で記録しておくと、「整理してよかった」と実感できるし、次の改善にも踏み出しやすくなる。副次的に変わるのは、こういうところ。
- データの抜け漏れが減る:フォーマットが統一されるので、「この列が空欄」にすぐ気づける
- 報告が早くなる:月末に2日待たなくても、リアルタイムで数字が見える
- 判断が早くなる:「先月の反響数」「スーモ経由の成約率」をすぐ出せるので、広告費の見直しがその場でできる
- 引き継ぎが楽になる:フォーマットが統一されていれば、人が変わっても同じように使える
それでも自分でやるのが難しければ
まずは自分でやってみてほしい。Excel1枚の整理なら、今日からできる。
ただ、実際にやろうとすると壁にぶつかることがある。
- 「項目をどう設計すればいいか分からない。何を残して何を捨てるべき?」
- 「何を集計すれば経営判断に使えるのか分からない」
- 「現場に"やり方を変えろ"と言いづらい」
特に3つ目は根が深い。長年自分のやり方でやってきた営業に「シートを統一します」と言うのは、想像以上にハードルが高い。項目設計がしっかりしていて、「これなら今までより楽になる」と現場が思えるフォーマットでないと定着しない。
そういう場合は、御社の業務に合わせたKPI管理シートのひな形を1枚、無料でお作りしている。元リクルートの事業企画が、ヒアリングをもとに実務でそのまま使えるフォーマットを設計する。
まずは自分でやってみて、詰まったら気軽に相談してほしい。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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