「CRM入れるなら今のツール全部捨てて」と言われて困っている人へ
この記事のポイント
- - CRM導入=既存ツールを全部捨てる、ではない。併用設計のほうが現場に合うケースは多い
- - Redmine(案件管理)+HubSpot(営業・メルマガ)の併用パターンを実例ベースで解説
- - APIでデータ連携すれば、ほぼゼロコストで双方向同期が組める
- - 10人利用で年間約180万円。「全移行」より安く、現場の混乱も少ない
「CRMを入れるなら、今のRedmineは捨てないとダメですか?」。クライアントとの打ち合わせで、この質問は何度も出てくる。答えはほぼ毎回「いや、捨てなくていい」だ。実際に支援先で検討した、RedmineとHubSpotの併用設計パターンをそのまま共有する。
なぜ「全移行」を疑うべきなのか
CRMベンダーやSIerは「全データを移行して一元管理しましょう」と提案してくる。理想論としては正しい。だが現実には、以下の3つの壁がある。
壁1:現場がすでに最適化済み
開発チームがRedmineを長年使っていて、チケット管理・ワークフロー・カスタムフィールドが業務にフィットしている。これをHubSpotに移すと、同等の機能を再構築するのに数ヶ月かかる。そしてRedmineほどの柔軟性は出ない。
壁2:移行メリットが薄い
実際に検討したOption 1(Redmine→HubSpotへの全移行)の結論は「移行メリットがほぼない」だった。Redmineで十分に回っている案件管理を、わざわざHubSpotに載せ替える理由がない。
壁3:移行コストが見えにくい
データ移行だけでなく、現場のトレーニング、ワークフローの再設計、過去データの整合性チェック。見積もりに出てこない「隠れコスト」が多い。30人規模の会社で、全移行プロジェクトが半年以上かかるのはザラにある。
実例:Redmine+HubSpot併用の設計パターン
打ち合わせで出した結論はこうだ。「Redmineで案件管理を維持し、HubSpotはメルマガ・営業管理に限定する」。それぞれのツールが得意な領域に集中させる。
役割分担の設計
| 領域 | 担当ツール | 理由 |
|---|---|---|
| 案件管理(チケット・進捗) | Redmine | 開発ベンダーが日常的に使用。カスタマイズ性が高く、現場にフィット済み |
| 営業パイプライン管理 | HubSpot | 商談フェーズの可視化、予実管理、営業レポートはHubSpotが圧倒的に強い |
| メールマーケティング | HubSpot | メルマガ配信・開封率トラッキング・リードスコアリングはHubSpotの得意領域 |
| 顧客マスタ | HubSpot(正) | 顧客情報の「正」をHubSpotに置き、Redmineにはプロジェクト単位で同期 |
ポイントは「顧客マスタの正をどちらに置くか」を最初に決めること。ここが曖昧だと、どちらのデータが正しいかわからなくなる。今回はHubSpotを「正」にして、Redmineへは必要なフィールドだけ同期する設計にした。
API連携:ほぼゼロコストで双方向同期を組む
「2つのツールを使うと、データの二重入力が発生するのでは?」。これが併用設計で最も多い懸念だ。結論から言うと、APIを使えばほぼゼロコストでデータ連携が組める。
連携の具体的な設計
HubSpot → Redmine(案件が受注したとき)
HubSpotの商談が「受注」に変わったら、RedmineにWebhookでチケットを自動作成。顧客名・案件概要・納期をRedmineに渡す。開発チームはRedmineだけ見ればいい。
Redmine → HubSpot(進捗が更新されたとき)
Redmineのチケットステータスが変わったら、HubSpotの対応する取引のカスタムプロパティを更新。営業は「納品進捗」をHubSpot上で確認できる。顧客から「あの件どうなりましたか?」と聞かれても即答できる。
同期頻度
リアルタイム(Webhook)またはバッチ(15分間隔のcron)。案件の状況共有なら15分バッチで十分。Webhookはリアルタイム性が必要なケース(受注通知など)に限定する。
技術的にはHubSpot APIとRedmine REST APIの両方が十分に整備されているので、中間にGoogle Apps ScriptやMake(旧Integromat)を挟むだけで連携が組める。自社でPythonスクリプトを書けるなら、外部サービスすら不要だ。
コスト試算:10人で年間約180万円
実際にこの併用パターンのコストを試算した結果が以下の通り。
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| HubSpot Starter(10シート) | 約12万円 | 約144万円 |
| Redmine(自社サーバー or クラウド) | 約1〜3万円 | 約12〜36万円 |
| API連携ツール(Make等) | 0〜2万円 | 0〜24万円 |
| 合計 | 約13〜17万円 | 約156〜204万円 |
打ち合わせでの試算は「10人で年間約180万円」。全移行した場合(HubSpot Professional以上+移行コンサル費)と比較すると、初年度で200〜400万円は安くなる。しかも現場の混乱が最小限で済む。
併用設計で失敗しないための3つのルール
ルール1:「正」のデータソースを1つに決める
顧客情報の「正」はHubSpot、案件チケットの「正」はRedmine。同じデータが2箇所にあるとき、どちらが正しいかを明確にしておく。迷ったら「最初にデータが入力される場所」を「正」にする。
ルール2:連携するフィールドを最小限にする
「全フィールドを同期しよう」とすると、連携の複雑さが爆発する。最初は5〜10フィールドに絞る。顧客名、案件名、ステータス、金額、担当者。これだけあれば、営業と開発の情報共有は十分に回る。
ルール3:エラー通知を仕込む
API連携は必ずどこかで失敗する。認証トークンの期限切れ、APIレートリミット、データ型の不整合。Slackにエラー通知を飛ばす仕組みを最初から組んでおく。「気づいたら3日間データが同期されていなかった」を防ぐ。
この設計パターンが合う会社・合わない会社
| 合う会社 | 合わない会社 |
|---|---|
| 既存ツール(Redmine, kintone等)が現場に定着している | 既存ツールが形骸化していて、誰も使っていない |
| 営業と開発/バックオフィスで使うツールが違う | 全社で同じツールを使いたい(統一志向が強い) |
| 移行コスト・現場の混乱を最小化したい | 予算が潤沢で、半年かけた全移行プロジェクトが許容できる |
| 社内にAPI連携を組めるエンジニアがいる(または外注できる) | 技術リソースがゼロで、ノーコードツールの運用もできない |
まとめ:「全部乗り換え」の前に、併用設計を検討する
CRM導入の相談を受けると、ほぼ全員が「今のツールを全部捨ててCRMに統一するんですよね?」と思い込んでいる。だが実際に検討すると、併用のほうが合理的なケースは多い。特にRedmineやkintoneのように、特定業務に深くフィットしているツールがある場合、それを無理にCRMに置き換える意味は薄い。
「営業・マーケはHubSpot、案件管理は既存ツール、APIで繋ぐ」。このシンプルな設計が、現場の混乱を抑えつつ、CRMの恩恵を最大化する最も現実的な方法だ。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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