CRMに入れたデータが検索しても出てこない。原因は「命名規則」だった
この記事のポイント
CRM導入時にプロパティ名の命名規則を決めておかないと、後から統合・分析が困難になります。部門横断で使える命名テンプレートを最初に設計することが成功の鍵です。
CRM導入プロジェクトで最も地味だが、最も後から効いてくるのが「プロパティ(項目)の命名規則」だ。営業部は「初回アポ日」、マーケ部は「初回接触日」、カスタマーサクセスは「オンボーディング開始日」。同じ概念を3つの名前で呼んでいる状態でCRMに突っ込むと、半年後にはプロパティが200個に膨れ上がり、誰も正しいデータがどこにあるかわからなくなる。
部門ごとのExcel管理→CRM統一で起きる問題
従業員30〜100名のBtoB企業でありがちなのが、営業・マーケ・CSがそれぞれ独自のExcelやスプレッドシートで顧客情報を管理しているパターン。各部門のExcelは、その部門にとって最適化されているが、用語体系がバラバラだ。
| 概念 | 営業部の呼び方 | マーケ部の呼び方 | CS部の呼び方 |
|---|---|---|---|
| 最初の接点 | 初回アポ日 | 初回接触日 | - |
| 案件の金額 | 見込み金額 | MQL金額 | 契約金額 |
| 顧客のステージ | 商談フェーズ | リードステータス | 契約ステータス |
| 失注・解約の理由 | 失注理由 | 離脱理由 | 解約理由 |
この状態のままCRMにデータを移行すると、「初回アポ日」と「初回接触日」が別プロパティとして作成され、片方にしかデータが入っていない。レポートを作ろうとすると、どちらを参照すべきかわからない。この混乱は、CRM導入後3ヶ月で必ず表面化する。
命名規則テンプレート:カテゴリ_項目名_属性
プロパティ名は「カテゴリ_項目名_属性」の3層構造で統一する。英語のスネークケース(小文字+アンダースコア)が基本。
命名規則の構造
カテゴリ(どの領域か)
lead_ / deal_ / company_ / cs_ / billing_
項目名(何のデータか)
first_contact / amount / stage / lost_reason
属性(データの性質)
_date / _amount / _status / _count / _flag / _note
命名例
lead_first_contact_date ← リードの初回接触日
deal_expected_amount ← 案件の見込み金額
deal_stage_status ← 案件のステージ
deal_lost_reason_note ← 失注理由(自由記述)
cs_onboarding_start_date ← CS開始日
cs_churn_reason_status ← 解約理由(選択式)
日本語のラベル名(CRM上の表示名)は自由に設定してよい。重要なのは、内部名(API名)が統一されていること。HubSpotの場合、プロパティの「内部名」は後から変更できないので、最初に正しく設定する必要がある。
HubSpotのプロパティ設計で避けるべき5つのアンチパターン
1. 同じ概念を複数プロパティで持つ
「初回アポ日」と「初回接触日」を別プロパティで作るパターン。データが分散し、レポートの信頼性が落ちる。1つの概念は1つのプロパティに統一する。部門ごとに「表示名」を変えたい場合は、ビューのカスタマイズで対応する。
2. 自由記述フィールドを乱発する
「備考」「メモ」「その他」のような自由記述フィールドは便利だが、集計・分析ができない。失注理由を自由記述にすると「価格が高い」「高い」「コスト的に難しい」「予算超過」が全て別データになる。選択式にして、選択肢に「その他(自由記述)」を設けるのが正解。
3. 日本語の内部名を使う
HubSpotのプロパティ内部名に日本語を使うと、API連携やワークフローでの参照が煩雑になる。外部ツールとの連携時にエンコード問題が発生するケースもある。内部名は必ず英語のスネークケースで統一する。
4. プロパティグループを整理しない
HubSpotはプロパティをグループ単位で管理できる。グループを使わずにプロパティを作り続けると、100個を超えたあたりから「どこに何があるか」がわからなくなる。最低限、以下のグループ分けをしておく。
推奨プロパティグループ
- basic_info:基本情報(会社名、住所、業種等)
- lead_management:リード管理(リードソース、スコア、ステータス)
- deal_management:案件管理(フェーズ、金額、確度)
- cs_management:CS管理(契約開始日、利用状況、NPS)
- marketing_tracking:マーケ計測(流入元、キャンペーン、CV日)
- custom_scoring:カスタムスコアリング(独自の評価項目)
5. 削除せずにプロパティを増やし続ける
使われなくなったプロパティを放置すると、データ入力時に「どれに入れればいいかわからない」状態になる。四半期に1回、プロパティの利用状況を確認し、過去90日間で1回も更新されていないプロパティは非表示にするか削除する。HubSpotの場合、プロパティの「最終更新日」でフィルタリングできるので、この棚卸し作業は30分程度で完了する。
10名以上の営業チームでの運用ルール
命名規則を決めただけでは、運用は回らない。10名以上の営業チームで統一的にCRMを使い続けるには、以下の3つのルールが必要になる。
ルール1:プロパティ追加は管理者のみ
一般ユーザーにプロパティ追加権限を与えない。追加が必要な場合は、Slackの専用チャンネルでリクエストし、管理者(1〜2名)が命名規則に沿って作成する。
ルール2:プロパティ辞書を維持する
全プロパティの一覧表(内部名・表示名・説明・データ型・作成者・作成日)をスプレッドシートで管理する。新規追加時に必ず辞書に追記する運用を徹底する。
ルール3:四半期に1回の棚卸し
使われていないプロパティ、重複しているプロパティ、入力率が10%以下のプロパティを洗い出す。不要なものは非表示化し、プロパティ辞書を更新する。
まとめ:命名規則は「CRMの基礎工事」
プロパティの命名規則は、CRMの設定の中で最も地味な作業だ。しかし、ここを手抜きすると半年後に「データがぐちゃぐちゃでレポートが信用できない」「どのプロパティを見ればいいかわからない」という状態になる。CRM導入の最初の1〜2週間で命名規則とプロパティ辞書を整備する。この「基礎工事」が、1年後のデータ活用の可否を決める。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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