表面利回りと実質利回りがズレる理由|募集資料の数字を社内でそろえる
この記事のポイント
利回りがズレる原因は、計算間違いではなく定義の違いです。分子(どの収入まで数えるか)と分母(どこまでを投資額に入れるか)を動かすだけで、同じ物件が7.0%にも5.1%にもなります。社内でまず決めるのは、数字ではなく定義です。
収益物件の商談で、投資家から「この利回り、どういう計算ですか」と聞かれることがあります。この質問に即答できないと、その先の話が全部止まります。
やっかいなのは、社内でも同じことが起きている点です。募集資料に書いた利回りと、社内の検討資料に書いた利回りと、売主から受け取った資料の利回りが、それぞれ別の計算になっている。誰も間違っていないのに、3つの数字が並びます。
この記事では、そのズレがどこで生まれるのかを1つの数値例で追いながら、社内の表記を統一する手順を整理します。
7.0%が5.09%になるまで
説明のために、次の前提を置きます。実在の物件ではなく、計算の流れを示すための数値例です。
物件価格:1億円
満室想定の年間賃料収入:700万円
年間の運営費(管理費・固定資産税・保険・修繕の平均):120万円
購入時の諸費用(仲介手数料・登録免許税・不動産取得税など):700万円
想定する空室率:5%
| 計算のしかた | 分子 | 分母 | 利回り |
|---|---|---|---|
| 表面(満室想定) | 700万円 | 1億円 | 7.00% |
| 運営費を引く(分母は価格のまま) | 580万円 | 1億円 | 5.80% |
| 購入諸費用を分母に入れる | 580万円 | 1億700万円 | 5.42% |
| 空室率5%も見込む | 545万円 | 1億700万円 | 5.09% |
4つとも計算は合っています。それでも7.00%と5.09%では、投資判断としては別の物件です。この差はすべて定義の差で、物件の差ではありません。
同じことが、社内の3つの資料で起きています。募集資料には1行目を、社内の検討資料には4行目を書いていれば、同じ物件について2つの数字が存在する状態になります。どちらも正しいので、誰も間違いを指摘できません。
ズレが生まれる4か所
| 場所 | 分かれ方 | 利回りへの効き方 |
|---|---|---|
| 分子:満室想定か現況か | 空室に賃料を入れるかどうか | 空室が多い物件ほど差が大きい。最も影響が大きい |
| 分子:収入の範囲 | 共益費・駐車場・自販機・アンテナ収入を含めるか | 駐車場が多い物件では無視できない差になる |
| 分子:引く費用の範囲 | 管理費・固都税・保険・修繕・原状回復のどこまで引くか | 引く項目が1つ増えるごとに下がる。会社ごとに最も定義が割れる場所 |
| 分母:投資額の範囲 | 物件価格だけか、購入諸費用も含めるか | 諸費用の割合がそのまま効く。上の例では0.38ポイント下がった |
このうち、受け取った資料から読み取りにくいのが1番目です。満室想定かどうかはレントロールを見れば判別できます。見分け方は「レントロールで最初に見る5項目」に整理しました。
社内で統一する手順
統一といっても、大掛かりなことをする必要はありません。決めるのは次の4つだけです。
1. 対外用と社内用の2種類だけ持つ:3種類以上作ると、どれがどれか分からなくなります。募集資料に載せる形と、買うかどうかを判断する形の2つに絞ります。
2. それぞれの定義を1行で書く:「対外用=満室想定の年間賃料収入 ÷ 物件価格」のように、分子と分母を明記します。
3. 引く費用の項目を列挙する:社内用の実質利回りで引く費用を、項目名で並べます。「その他」を入れないのがポイントです。
4. 資料の様式に前提を印字する:計算の前提が資料に印字されていれば、担当者が忘れても数字がずれません。人の記憶に頼らない形にします。
4番目が実際には一番効きます。ルールを決めても、資料の様式が古いままだと、次の物件で元に戻ります。募集資料の様式については「収益物件のマイソクに何を載せるか」で扱っています。
売主から受け取った資料の利回りは、そのまま使わない
売主側の資料に「実質利回り」と書かれていても、こちらの定義とは違う計算である前提で見ます。特に、購入諸費用を分母に含めているかどうかは、書かれていないことがほとんどです。
実務では、受け取った資料の利回りをそのまま転記せず、元になる収入と価格から自社の定義で計算し直すようにしています。手間ではありますが、この工程を挟まないと、社内の物件一覧に定義の違う数字が混ざります。混ざると、その一覧は物件の比較に使えなくなります。
なお、募集資料に利回りを載せる場合、不動産の広告表示には公正競争規約があります。表記のルールを決めるときは、公表元で最新の内容を確認したうえで社内の書き方を固定しておくと安全です。
利回りと、実際に残る利益は別の話
最後に1つ。利回りが揃っても、それは物件の収益力の指標であって、自社の利益ではありません。仲介であれば手数料、再販であれば売買の差額が自社の利益になります。
この2つを混ぜて議論すると、「利回りの高い物件を扱えば儲かる」という結論になりがちですが、実際にはそうなりません。自社の利益の出方については「収益物件の再販で利益がどこから出ているか」と「買取再販の利益率」で扱っています。
まとめ
同じ物件の利回りが資料ごとに違うのは、計算間違いではなく定義の違いです。満室想定か現況か、収入にどこまで含めるか、費用をどこまで引くか、分母に諸費用を入れるか。この4つを動かすと、7.00%が5.09%になります。
やることは、対外用と社内用の2つの定義を決めて、資料の様式に印字することだけです。ルールをどれだけ丁寧に決めても、様式が変わらなければ元に戻ります。
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出典・一次情報
※ 本記事の数値は計算の流れを示すための例であり、実在の物件・相場を示すものではありません。広告表示に関する規約は改定されるため、表記ルールを定める際は公表元で最新の内容をご確認ください。
よくある質問
表面利回りと実質利回りは、どちらを使うべきですか?
用途が違うので、両方を持つのが実務的です。表面利回りは物件を並べて比較するときの目安として使い、実質利回りは実際に買うかどうかを判断するときに使います。問題になるのはどちらを使うかではなく、同じ会社の中で計算方法が統一されていないことです。担当者ごとに引く費用が違うと、社内で物件を比べたときに比較が成立しなくなります。
実質利回りの計算で、諸費用は分母に入れるべきですか?
購入時の諸費用を分母に加える方法が一般的ですが、これも決まった定義があるわけではありません。加えると利回りは下がり、加えないと上がります。重要なのはどちらが正しいかではなく、社内で1つに決めて全物件で同じにすることです。売主側から受け取った資料の実質利回りは、こちらとは違う定義で計算されている前提で見るのが安全です。
募集資料に載せる利回りは、表面と実質のどちらがよいですか?
どちらでも構いませんが、どちらなのかを必ず併記します。あわせて、満室想定か現況か、分子に共益費や駐車場収入を含めているかも書き添えます。不動産の広告表示には公正競争規約があるため、表記のルールを定める際は公表元で最新の内容を確認したうえで、社内の書き方を1つに固定しておくことをおすすめします。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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