収益物件の再販で利益がどこから出ているか|仕入れ・保有・出口の3段で分ける
既存記事との違い:「買取再販の利益率」と「仲介と買取再販の利益の出方」は、区分・戸建など実需向けの再販を前提にしています。この記事が扱うのは買主が投資家である収益物件の再販で、売値の決まり方そのものが違います。金額の議論ではなく、その構造の違いを整理した記事です。
この記事のポイント
実需の再販は原価に粗利を乗せて売値を作りますが、収益物件は純収益を利回りで割って売値が決まります。この違いのせいで、年間50万円の純収益改善が、利回り7%なら約714万円の価格差になります。工事費より賃料のほうが効く、という構造です。
買取再販を実需でやってきた会社が収益物件に手を広げるとき、最初につまずくのが値付けです。実需の感覚で「原価にこれくらい乗せて」と考えると、売れる価格と噛み合いません。
理由は単純で、買主の計算方法が違うからです。実需の買主は「近所の似た物件がいくらか」を見ます。投資家は「この物件がいくら稼ぐか」を見て、そこから逆算します。売値の決まり方が根本から違います。
この記事では、収益物件の再販で利益がどこから出ているのかを、仕入れ・保有・出口の3段に分けて整理します。
売値の決まり方が違う、という前提
| 項目 | 実需の再販 | 収益物件の再販 |
|---|---|---|
| 売値の基準 | 周辺の成約相場 | 純収益 ÷ 利回り |
| 工事の効き方 | 見た目の改善が直接売値に効く | 賃料が上がらなければ売値には反映されにくい |
| 空室の意味 | 空室のほうが売りやすい(内見できる) | 空室は収入の欠損。埋めるほど売値が上がる |
| 保有中の収支 | 収入なし。保有コストだけが出ていく | 家賃収入がある。ただし物件によっては保有コストを下回る |
| 買主の資金調達 | 住宅ローン。属性で決まる部分が大きい | 事業性の融資。物件の収益力と構造・築年が効く |
この表で一番実務に効くのは3行目です。実需では退去してもらってから売るのが基本ですが、収益物件では逆で、空室のまま売ると価格が下がります。同じ「再販」という言葉なのに、やるべきことが反対になります。
純収益を50万円上げると、価格はいくら動くか
収益物件の再販で一番大きい論点がここです。売値は「純収益 ÷ 利回り」で決まるので、純収益の改善は利回りの逆数の倍率で価格に効きます。実際に計算してみます。
| 想定される還元利回り | 年間の純収益が50万円増えたときの価格の変化 |
|---|---|
| 6% | 約833万円上がる |
| 7% | 約714万円上がる |
| 8% | 約625万円上がる |
※ 「純収益 ÷ 利回り」で計算した場合の理論値。実際の取引価格は買主の資金調達条件や市況によって変わります。
月4万円ちょっとの賃料改善が、年間で50万円です。それが価格では数百万円になる。だから収益物件の再販では、工事に何を使うかより、その工事で賃料がいくら上がるかが判断軸になります。
逆に言うと、賃料に効かない工事は売値に反映されません。実需の感覚で内装を整えても、賃料が据え置きなら価格は動かない。ここが最初につまずくところです。
同じ理屈で、空室を1戸埋めることの価値も大きくなります。年間賃料60万円の部屋を埋めれば、諸費用を引いた純収益の増加分に対して、上の倍率が乗ります。売却前に空室を埋める作業は、単なる見栄えの話ではありません。
3段に分けて記録する
利益がどこから出たのかを後から説明できるようにするには、3段に分けて記録します。ここを分けずに「売値 − 取得原価 − 工事費」だけで見ていると、次の仕入れ判断に使える情報が残りません。
1. 仕入れ段階の利益
取得時点で、想定する売却価格との差がどれだけあったか。ここが大きい案件は「安く買えた」案件です。相場より安く買えた理由(売り急ぎ、空室が多い、資料が不足していた、など)を書き残すと、次に同じパターンを探せます。
2. 保有中の改善
保有期間中に純収益をいくら上げたか。空室を何戸埋めたか、賃料をいくら上げたか、運営費をいくら下げたか。ここが収益物件ならではの利益源です。改善額に還元利回りの逆数を掛けると、価格への貢献が計算できます。
3. 出口の条件
売却時に、どの利回り水準で売れたか。同じ純収益でも、買主が求める利回りが下がれば価格は上がります。ここは市況と買主層で決まる部分が大きく、自社でコントロールできる範囲は限られます。だからこそ、1と2の貢献と分けて記録する意味があります。
この3段が分かれていると、「今期は儲かったが、それは市況で利回りが下がったからで、自社の運営が効いたわけではない」といった判断ができます。市況が変わったときに、何が効かなくなるのかも見えます。金利環境が買取再販の構造に与える影響については「金利上昇と買取再販の構造」で扱っています。
保有コストは「月あたり」で持つ
収益物件は家賃収入があるので、実需の再販ほど保有が怖くない、と考えられがちです。ただ、これは物件によります。
仕入れの段階で計算しておきたいのは、月あたりの持ち出し(または手残り)です。家賃収入から、借入の返済・固定資産税・管理費・保険を引いて、月いくら残るのか、あるいは足りないのか。この1つの数字があると、保有が3ヶ月延びたときの影響が即座に分かります。
在庫の台帳に何を持たせるかについては「買取再販の仕入れ管理」も参考になります。収益物件の場合は、この台帳に「月あたりの手残り」と「空室戸数」の2列を足す形になります。
規模別に見た、記録の作り方
| 規模 | よくある状態 | 現実的な一歩目 |
|---|---|---|
| 中小(〜30人) | 利益は決算で分かる。案件ごとの内訳は社長の記憶の中にある | 直近で売却した3件について、3段の内訳を後追いで書き出す。全件は無理でも3件なら書ける |
| 準大手(50〜300人) | 物件台帳はあるが、仕入れ担当と販売担当で数字の持ち方が違う | 取得原価・工事費・保有中収支・売却価格の4項目だけ、全社で同じ定義に揃える |
まとめ
収益物件の再販は、売値が「純収益 ÷ 利回り」で決まります。年間50万円の純収益改善が、利回り7%なら約714万円の価格差になる。だから判断軸は工事の内容ではなく、その工事で賃料がいくら上がるかです。
そして利益を、仕入れ・保有中の改善・出口の条件の3段に分けて記録する。分けておくと、市況が変わったときに何が効かなくなるのかが分かります。まずは直近3件を後追いで書き出すところからで十分です。
関連記事
※ 本記事の数値は「純収益 ÷ 利回り」で計算した理論値であり、実在の物件や特定市場の相場を示すものではありません。実際の取引価格は買主の資金調達条件や市況によって変わります。記述は当社が支援している会社の事例をもとに一般化したもので、特定の企業・案件の情報ではありません。
よくある質問
収益物件の再販は、実需の買取再販と何が違いますか?
売値の決まり方が違います。実需の再販は、取得原価とリフォーム費に粗利を乗せた金額が、周辺の成約相場に収まるかどうかで決まります。収益物件は、賃料から生まれる純収益を利回りで割った金額が基準になります。この違いから、収益物件では「賃料を上げる」「空室を埋める」といった運営面の改善が、そのまま売値に何倍にもなって効きます。逆に、工事をしても賃料が上がらなければ、売値には反映されにくいという性質もあります。
保有期間が伸びると、なぜ利益が減るのですか?
借入金利と、固定資産税・保険・管理費などの保有コストが、保有している期間だけ発生するためです。収益物件の場合は家賃収入があるので実需の再販ほど単純ではありませんが、家賃収入が保有コストを上回っているかどうかは物件ごとに違います。上回っていない物件は、保有が伸びるほど利益が減ります。仕入れの段階で、月あたりの持ち出しがいくらになるかを計算しておくと、値付けと保有方針の判断が早くなります。
利益がどこから出ているかを、どう記録すればよいですか?
取得原価・工事費・保有中の収支・売却価格の4つを、物件ごとに1行で並べる台帳を作ります。決算後にまとめて集計する形では、判断に使えるタイミングを過ぎています。仕入れの段階で1行作り、動きがあるたびに更新する形にすると、次の仕入れ判断の材料になります。列を増やしすぎると更新されなくなるので、まずはこの4つに絞るのが現実的です。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
代表メッセージを読む →