不動産会社で営業が定着しない原因 — 「根性論」ではなく「仕組み」の問題
この記事のポイント
不動産営業が辞める原因の多くは、待遇ではなく「仕組みの不在」。反響対応・追客・数字の振り返りの3つを仕組み化するだけで、新人が成功体験を積める環境になり、定着率は変わる。
「また辞めた」。不動産会社を経営していると、この言葉を何度も口にすることになる。
求人を出す。面接する。入社する。研修する。3ヶ月〜半年で「合わないので」と辞めていく。また求人を出す。この繰り返しに、1人あたり150〜200万円のコストがかかっている。採用広告費、研修期間の人件費、先輩営業の指導時間——全部足すと、年間で数百万円が「定着しなかった人」に消えている。
転職サイトには「不動産営業を辞めたい理由」がたくさん載っている。でもそれは辞める側の話。この記事は、辞められる側——経営者が「なぜうちの営業は定着しないのか」を構造的に理解するための記事。
経営者が見落とす3つの構造的原因
「うちは給料もいいし、休みも取れるのに辞める」。そう言う経営者は多い。でも辞める原因は待遇だけではない。むしろ、待遇以外の「仕組みの不在」が原因であることのほうが多い。
1. 反響対応が属人的で、新人が成功体験を積めない
SUUMOやアットホームから反響が来る。ベテラン営業は、長年の経験から「この問い合わせは本気度が高い」「このエリアならこの物件を提案すべき」と瞬時に判断できる。
新人にはその判断基準がない。だから、反響が来ても何を返せばいいかわからない。テンプレートもない。先輩に聞くと「自分で考えろ」と言われる。
結果、新人の初回対応が遅れる。お客さんは他社に流れる。アポが取れない。成約しない。「自分には向いていない」と思う。辞める。
これは新人の能力の問題ではない。反響対応の「型」がないことが原因。ベテランの暗黙知が共有されていないだけ。
2. 追客のルールがなく、「自分のやり方」で疲弊する
反響があっても、すぐに成約するのは全体の20〜30%。残り70〜80%は「まだ検討中」の顧客。この層をどうフォローするかで、成約率は大きく変わる。
でも多くの不動産会社では、追客のルールがない。「いつ、誰に、何を連絡するか」が営業個人の判断に委ねられている。
ベテランは自分なりのリズムがある。1週間後に電話、2週間後にメール、1ヶ月後に新着物件を送る——という感覚が身についている。新人にはそれがない。追客すべき顧客リストすら管理できていない。
結果、追客が抜け漏れだらけになる。成約できるはずだった案件を取りこぼす。数字が上がらない。「頑張っているのに結果が出ない」と感じる。辞める。
3. 数字の振り返りが「詰め会議」になっている
週次ミーティングで各営業の数字を発表する。目標に届いていない人が「なぜ達成できなかったか」を聞かれる。「頑張ります」と答える。翌週も同じことが繰り返される。
この「詰め会議」は、何も改善しない。なぜなら、数字を見ているだけで、数字の「原因」を分析していないから。
反響は何件あった?初回対応までの時間は?内見に進んだ割合は?成約率は?——このプロセスの数字が見えていれば、「反響は多いのにアポが取れていない」=初回対応に問題がある、という具体的な改善点が見つかる。
でも多くの不動産会社では、プロセスの数字を取っていない。だから「もっと頑張れ」しか言えない。営業は「何を改善すればいいかわからないまま、詰められる」状態になる。これが続けば辞める。
「うちは待遇もいいのに辞める」の正体
給与を上げた。休日を増やした。オフィスをきれいにした。それでも辞める。
なぜか。人が仕事を続ける理由は、待遇だけではないから。
「自分がやっていることに意味がある」「やり方がわかっていて、成果が出る」「成長している実感がある」——この3つがないと、いくら給料が良くても人は離れる。
| 経営者が思う離職理由 | 実際の離職理由(多くの場合) |
|---|---|
| 給料が安い | 成果の出し方がわからない |
| 仕事がきつい | 無駄な作業が多くて本来の営業に集中できない |
| 不動産業界が合わない | 教えてもらえない・放置される |
| 根性がない | 頑張り方がわからないまま詰められる |
「根性がない」で片付けている限り、同じことが繰り返される。問題は人ではなく、仕組みにある。
仕組みで解決する3つの打ち手
打ち手1:反響対応を標準化する
反響が来たら最初に何を返すか。テンプレートを用意する。ベテランの初回対応を録音して、文字起こしして、「型」にする。新人はまずその型通りにやる。
さらに、反響の自動振り分けを仕組み化する。エリア別・問い合わせ内容別に、適切な営業に自動で割り当てる。初回対応までの時間を「3時間以内」とルール化して、超えたらアラートが飛ぶようにする。
これだけで、新人でも「反響が来たら何をすべきか」が明確になる。迷わない。初回対応が早くなる。アポが取れる。成功体験が生まれる。
打ち手2:追客フローを見える化する
「いつ、誰に、何を連絡するか」のルールを決める。CRMを入れなくても、スプレッドシートで十分始められる。
顧客の状態を「反響直後」「内見済み」「検討中」「休眠」の4段階に分ける。それぞれの段階で「次に何をするか」を決めておく。反響直後なら翌日に電話。検討中なら週1で新着物件を送る。休眠なら月1でメール。
ルールがあれば、新人でも「次に何をすればいいか」がわかる。抜け漏れが減る。成約につながる案件を取りこぼさなくなる。
打ち手3:週次ミーティングを「改善会議」に変える
「なぜ達成できなかったか」ではなく「どこのプロセスで詰まっているか」を見る。
そのためには、プロセスの数字が必要。反響数→初回対応率→内見率→成約率。この数字を毎週追えるようにする。
「今月の成約が少ない」→「反響は十分あるが内見率が低い」→「初回対応が遅い」→「初回対応テンプレートを改善しよう」。こういう会話ができれば、営業は「詰められている」ではなく「一緒に改善している」と感じる。
3つの打ち手の導入コスト
※ ツール導入不要。今あるスプレッドシートと会議体だけで始められる
まとめ:「辞める原因」を仕組みで潰せば、採用コストも下がる
営業が辞めるたびに150〜200万円が消える。年間2人辞めれば300〜400万円。3人なら450〜600万円。このコストは、仕組みを整えることで大幅に減らせる。
反響対応の型を作る。追客のルールを決める。会議の質を変える。どれもツール投資ゼロで、来週から始められることばかり。
「根性がない」で片付けるのは簡単。でもそれでは何も変わらない。仕組みで解決できることは、仕組みで解決する。それが経営者の仕事。
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泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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