不動産会社のAI活用、9割が同じところで止まっている — 現場で聞いた5つのリアル
この記事のポイント
不動産会社のAI研修は「受けて終わり」になりがち。現場で本当に必要なのは汎用的なAI知識ではなく、自社の業務にAIをどう組み込むかを一緒に設計してくれるパートナーです。
「AI、うちも何かやらなきゃ」。不動産会社の社長からこの言葉を聞く回数が、ここ半年で明らかに増えた。
でも、その先がいつも同じパターンになる。社長が号令をかける。人事か総務が「AI研修」で検索する。出てきた研修会社に依頼する。講師が来て、ChatGPTの使い方を2時間教える。翌週、誰も使っていない。
これは特定の会社の話ではない。不動産の仲介・買取再販の会社を何社も見てきた中で、ほぼ全社で起きていること。
「不動産向け」を謳うAI研修が、不動産の業務を知らない
ある会社で聞いた話。社長が「もっとAIを取り入れて生産性を上げよう」と号令を出した。人事部にボールが投げられた。人事は「不動産 AI研修」で検索して、出てきた研修会社に依頼した。
講師が来て、プロンプトの書き方やChatGPTの基本操作を教えてくれた。丁寧な研修だった。ただ、内容が不動産の業務にまったく寄り添っていなかった。
「議事録を要約しましょう」「メールの下書きを作りましょう」——それ、不動産の現場で一番困っていることではない。
仲介の営業が困っているのは、物件入力に毎日2時間取られていること。仕入れ担当が困っているのは、国のデータベースから建ぺい率や用途地域を1件ずつ手で調べてExcelに転記していること。店長が困っているのは、月次の数字をGoogleスプレッドシートに手打ちで集計していて、締めが毎月遅れること。
汎用的なAI研修では、この「不動産の業務固有の非効率」に触れない。だから現場が「で、結局うちの仕事で何に使えるの?」となって、そのまま終わる。研修費用だけが消える。
現場で聞いた、不動産会社がAI活用で止まる5つのポイント
1. 仕入れの物件調査が全部手作業
買取再販の会社で、物件を仕入れるかどうかを判断するまでのプロセスを聞いた。
物件情報が入ってくる。担当者がまず国土交通省の「不動産情報ライブラリ」にアクセスして、建ぺい率、容積率、用途地域を調べる。次に最寄り駅までの距離を調べる。周辺の取引価格を調べる。ハザードマップを確認する。
これを全部Excelに転記して、社内の稟議フォーマットに整えて、社長に提出する。1件あたり2〜3時間。月に30〜50件やると、それだけで60〜150時間。
この情報のほとんどが国や自治体が公開しているデータから自動取得できる。住所を1回入力すれば、APIで全部引っ張れる。でもそれを知らないし、知っていてもやり方がわからない。
結果、「仕入れができる人」が限られる。ベテランしかできないから、人を増やしても仕入れ件数が増えない。これは採用の問題ではなく、業務設計の問題。
2. スプレッドシートの手打ち集計が限界を迎えている
ある会社では、社長が数字を細かく見たいタイプで、KPIをかなり詳細に取っている。問い合わせ数、内見数、成約率、客単価、広告費対効果——全部追っている。
ただし全部Googleスプレッドシートで、全部手打ち。事務員さんが1人で管理している。
事務員さんのExcelスキルが高いから、なんとか回っている。でも「なんとか」であって、月末は毎回残業。新しい集計軸を追加したいと言われても、シートの構造が複雑になりすぎていて怖くて触れない。
30人規模の不動産会社では、かなりよくある光景。社長の要求レベルと、スプレッドシートの手運用の限界がぶつかっている。SalesDockの現場の数字スッキリは、まさにこの状態を解消するために作ったサービスです。
3. 導入したAIツールが現場で使われない
フランチャイズ系のシステムにAI機能が組み込まれている会社がある。本部が「AIを活用しましょう」と推進している。
でも現場の営業に聞くと「使いにくい」「結局手でやったほうが早い」という声が返ってくる。使っているのを見たことがない、という店長もいた。
これはAIの問題ではなく、UIの問題。もっと言えば、現場の業務フローを理解せずにツールを作っている問題。不動産の営業は、オフィスにいる時間より外にいる時間のほうが長い。スマホで使えなければ意味がない。入力項目が多すぎたら使われない。
4. 「興味はある」と「アナログでいい」の二極化
不動産会社のAIに対するスタンスは、今はっきり二極化している。
片方は、社長がChatGPTを触り始めて「これ使えるんじゃないか」と思っているけど、何から始めればいいかわからない会社。もう片方は、「不動産はアナログでやるもんだ」と、そもそも関心がない会社。
興味がある会社でも「使いこなせている」と言える会社は1社もない。みんな入り口で止まっている。ChatGPTに物件紹介文を書かせてみた、ぐらいで止まっている。
業務の中にどう組み込むか、どの作業を自動化すれば効果が出るか、効果をどう測るか——ここまで一緒に考えてくれる人がいない。
5. 「ツールを買う」と「業務が変わる」の間にある溝
ここが一番大きい。不動産会社に必要なのは、月額いくらのAIツールではない。「うちの業務のどこが非効率で、どうすれば30分短くなるか」を一緒に考えてくれるパートナー。
ツールは手段でしかない。LINEで物件情報を自動通知する仕組みも、スプレッドシートの集計を自動化するのも、仕入れの調査を半自動化するのも、全部「その会社の業務を理解している人」がいて初めて機能する。
不動産会社に必要なのは「AI研修」ではなく「AI担当」
問題は「AIの知識がない」ことではない。「自社の業務にAIをどう組み込むかを設計できる人がいない」こと。
単発のAI研修では、この問題は解決しない。研修が終わった翌週に誰も使っていない、という冒頭の話に戻る。
必要なのは、月に1〜2回ミーティングをして、現場の困りごとを拾って、その場で「これ、こうすれば自動化できますよ」と解決していく存在。いわば、社外の「AI担当部長」。
たとえばこんなことができる。
- 物件の住所を入れたら、建ぺい率・用途地域・最寄り駅・周辺取引価格が自動で出てくるツールを作る
- 営業がLINEで「昨日の問い合わせ何件?」と聞いたら数字が返ってくる通知を組む
- 月次のKPIを自動集計して、ダッシュボードで見られるようにする
- 事務員さんが手打ちしていた集計表を、AIに関数を組ませて半自動化する
これを全部、1人の外部パートナーがやる。ツールを売るのではなく、業務を理解した上で最適な仕組みを作る。KPIの異常値をLINEやSlackに自動通知する仕組みはKPIアラート通知パックで、経営ダッシュボードの構築は現場のダッシュボードで対応しています。
来週からできる3つのこと
いきなり全部を変える必要はない。
1. 「毎月繰り返している手作業」を1つだけ書き出す(10分)
物件調査の転記、月次集計の手打ち、報告書のフォーマット整え——何でもいい。「毎月やっていて、正直めんどくさい」と思っている作業を1つだけ特定する。
2. その作業に月何時間かかっているか計算する(5分)
1回30分 × 月20回 = 10時間。こういう数字が出てくると「これ、なんとかしたほうがいいな」と具体的に見える。
3. 「それ、自動化できないか?」と詳しい人に聞いてみる(30分)
社内にいなければ、外部でいい。無料で相談に乗ってくれるところもある。大事なのは「自社の業務を具体的に説明すること」。「AIで何かしたい」ではなく「この作業を毎月10時間やっていて、なくしたい」と言えば、具体的な答えが返ってくる。
効果の測り方
| 指標 | Before | After(3ヶ月後の目標) |
|---|---|---|
| 物件調査1件あたりの時間 | 2〜3時間 | 30分以内 |
| 月次集計の締め日 | 翌月10日 | 翌月3日 |
| 事務員の月末残業時間 | 20時間 | 5時間以内 |
| 仕入れ担当以外が物件調査できるか | できない | チェックリスト+ツールでできる |
まずは「1件あたりの調査時間」か「月次集計の締め日」のどちらか1つだけ測ればいい。
あなたの会社では、誰がAIのことを考えていますか?
社長が号令を出して、人事が研修を探して、現場が「使えない」と言って終わる。このループを繰り返している会社は多い。
必要なのは、研修ではなく「うちの業務を理解して、一緒に改善し続けてくれる人」。
もし「うちもそうだ」と思ったら、まずは今の業務で一番時間がかかっている作業を1つ教えてほしい。そこから変えられる。
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不動産のAI活用の定着でお悩みの方は、不動産の物件査定をAIで効率化する方法もご覧ください。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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