製造業の離職率は9.8%—平均より低いのに若手が定着しない本当の原因と打ち手3つ
製造業の離職率と若手が定着しない原因の結論
若手が辞める本当の原因は「きつい」ではなく「意味がわからない」ことにある。給料や休み、空調を改善しても辞めるのはそのためだ。1人辞めるたびに採用費や育成に使った時間が戻らない以上、根性論ではなく仕組みで潰すのが経営者の仕事になる。
- 製造業の離職率は9.8%(令和7年雇用動向調査)で、産業計13.7%より低い。新卒3年以内離職率も大卒21.2%・高卒28.6%で調査産業計より低い。
- 全産業で見ると、5〜29人の事業所では新卒の半数以上が3年以内に辞めている。業種より規模の差が大きく、中小の工場にとっては「自社の問題」だ。
- 原因は3つ。作業の全体像が見えない、「見て覚えろ」式で教育の型がない、改善提案が「昔からこうだから」で説明なく却下される。
- 打ち手は全体像シート、スキルマップ、月1回15分の改善ミーティング。ツール導入は不要で、来週から始められる。
この記事のポイント
統計を見ると、製造業の離職率は9.8%(令和7年)で産業計13.7%より低く、新卒3年以内離職率も大卒21.2%・高卒28.6%で全産業平均(大卒33.8%・高卒37.9%)より低い。効いているのは業種より事業所規模で、若手が定着しないのは「業界の問題」ではなく自社の問題として見たほうがいい。その本質は「きつい」ではなく「意味がわからない」。作業の全体像を見せる、教育を型にする、改善提案を受け止める——この3つの仕組みで変わる余地がある。
「最近の若い子は根性がない」。製造業の経営者から、何度この言葉を聞いたかわからない。
ただ、データを見ると印象とは違う姿が出てくる。製造業の離職率は、厚生労働省「令和7年雇用動向調査」で9.8%と、産業計の13.7%を下回る。新卒の3年以内離職率も製造業は大卒21.2%・高卒28.6%で、全産業の平均(大卒33.8%・高卒37.9%)より低い。問題は業界ではなく、自社の規模と仕組みにある。
そして1人辞めるコストは変わらない。採用にかけた費用、研修期間の人件費、先輩社員の指導時間——足し合わせると、1人あたり数十万〜百万円台になることもある。金額は採用経路や育成期間で大きく変わるので、自社の数字で一度試算してみてほしい。従業員100名以下の工場にとって、無視できない金額になりやすい。
出典・一次情報
- 令和7(2025)年 雇用動向調査結果の概要/厚生労働省・令和8年8月31日公表 — 産業別・就業形態別の年間離職率(表4-2)はこの統計。2026年9月28日に報道発表資料(公表日)と資料PDF(表4-2)で確認
- 新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)/厚生労働省・令和7年10月24日公表 — 産業別・事業所規模別の3年以内離職率はこの統計。製造業の値は別紙2(高卒)・別紙3(大卒)の産業別グラフ。2026年9月28日に資料PDFで確認
「雇用動向調査」は在職者全体の年間離職率、「新規学卒就職者の離職状況」は新卒が3年以内に辞めた割合で、別の統計です。混同されやすい点にご注意ください。調査は年ごとに更新されます。最新の数値は公表元でご確認ください。
転職サイトには「工場を辞めたい理由」が山ほど載っている。でもそれは辞める側の話。この記事は、辞められる側——経営者が「なぜうちの工場は若手が定着しないのか」を構造的に理解するための記事。
製造業の離職率は何%か — 公的統計で見る現状
「製造業の離職率」と言うとき、よく使われる統計は2つある。1年間に在職者の何%が辞めたかを示す厚生労働省「雇用動向調査」と、新卒が就職後3年以内に何%辞めたかを示す「新規学卒就職者の離職状況」だ。どちらで見ても、製造業は全産業の平均より低い。
年間の離職率:製造業9.8%、産業計13.7%
令和7(2025)年の雇用動向調査では、製造業の離職率は9.8%。産業計の13.7%より3.9ポイント低い。前年(令和6年)も製造業9.6%・産業計14.2%で、同じ傾向だった。就業形態別に見ると、一般労働者(正社員など)は9.2%、パートタイム労働者は14.2%で、どちらも産業計(11.4%・19.9%)を下回る。16産業の中で見ると、製造業(9.8%)は宿泊業・飲食サービス業(23.7%)や医療・福祉(14.3%)より低く、建設業(8.7%)や金融業・保険業(6.6%)よりはやや高い。
新卒3年以内の離職率:製造業は平均以下、ただし工場の規模で大きく変わる
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」によると、製造業の就職後3年以内離職率は大卒21.2%・高卒28.6%。調査産業計は大卒33.8%・高卒37.9%なので、ここでも製造業は平均より低い。
業界平均が低いことと、自社で定着しているかは別の話。同じ統計の事業所規模別(全産業)を見ると、5人未満の事業所では高卒63.2%・大卒57.5%、5〜29人でも高卒54.6%・大卒52.0%が3年以内に辞めている。1,000人以上だと高卒26.3%・大卒27.0%。効いているのは業種より規模で、中小の工場が向き合っているのは「業界の問題」ではなく「自社の問題」ということになる。
若手が辞める3つの構造的原因
「給料を上げた」「休みを増やした」「空調を入れた」。それでも辞める。なぜか。若手が離職する本当の原因は、待遇ではなく「仕事の意味がわからない」ことにある。
1. 作業の全体像が見えない — 「自分の仕事の意味がわからない」
新人に「この部品のバリを取って」と指示する。新人はバリを取る。1日中バリを取る。翌日もバリを取る。
この部品が何に使われるのか。完成品はどんな製品なのか。自分のバリ取りが品質にどう影響するのか。誰も教えない。教える必要がないと思っている。
でも今の20代は「なぜこの作業をやるのか」がわからないと、モチベーションが続かない。これは根性の問題ではない。意味を求めるのは人間として自然なこと。ベテランは長年の経験で全体像を知っているから、単純作業にも意味を見出せる。新人にはそれがない。
2. 「見て覚えろ」式で教育体制がない — 成功体験を積めない
「先輩の横について見てろ」。製造業の多くの現場で、これが教育のすべて。マニュアルがない。チェックリストがない。「どこまでできるようになったか」の基準もない。
結果、新人は「自分が成長しているかどうか」がわからない。3ヶ月経って、先輩と同じことができているのか、まだ半分なのか、判断する基準がない。「なんとなく毎日同じことをやっている」感覚が続く。
成功体験がないまま半年が経つと、「この仕事を続けても成長できないのでは」と思い始める。そして辞める。
3. 改善提案しても「昔からこうだから」で却下 — 成長実感がない
若手が「この工程、こうしたほうが効率いいんじゃないですか?」と提案する。返ってくるのは「昔からこうやってるから」「余計なことをするな」。
提案が却下されること自体は問題ではない。問題は「理由を説明せずに却下する」こと。なぜこの工程がこの順番なのか、過去にどういう経緯でこうなったのか——その説明があれば、若手も納得できる。でも説明がないから、「この会社は変わらない」と感じる。
| 経営者が思う離職理由 | 若手の本音 | 構造的な原因 |
|---|---|---|
| 仕事がきつい | 何のためにやってるかわからない | 作業の全体像を説明していない |
| 根性がない | 教えてもらえない | 教育の「型」がない |
| 製造業が合わない | 成長している実感がない | スキル評価基準がない |
| 給料が安い | 意見を聞いてもらえない | 改善提案の受け皿がない |
仕組みで解決する3つの打ち手
打ち手1:新人に「製品の全体像」を見せる時間を作る
入社1週目に、完成品を見せる。自社の製品がどこに使われているか、最終的なユーザーは誰か、を説明する。所要時間は30分。コストはゼロ。
さらに、工程の流れを1枚の紙にまとめる。「自分が今やっている作業は、全体の中でここ」とわかるだけで、単純作業への向き合い方が変わる。効果を確かめるなら、導入前後で「入社3ヶ月以内に辞めた人数」を数えておくとよい。
打ち手2:スキルマップを作り、成長を「見える化」する
「何ができるようになったら一人前か」を一覧にする。バリ取り、旋盤操作、検査、図面の読み方——作業を分解して、レベル1〜3くらいで段階をつける。
毎月、上長と15分の面談で「今どこまでできているか」を確認する。スプレッドシート1枚で十分。「先月はレベル1だったけど、今月はレベル2になった」——この実感があるだけで、若手の定着率は大きく変わる。
打ち手3:改善提案の受け皿を作る
月に1回、15分の「改善ミーティング」を設ける。若手に「困っていること」「もっとこうしたいこと」を1つ出してもらう。全部を実行する必要はない。「聞いてもらえた」という実感が大事。
却下する場合も「なぜダメなのか」を説明する。「以前この方法を試して、こういう問題が起きたから今のやり方になった」と経緯を伝えるだけで、若手の納得感はまったく違う。
3つの打ち手の導入コスト
※ ツール導入不要。来週から始められる
来週からできること
まずは1つだけ。自社の製品が最終的にどこで使われているか、新人に説明する時間を30分取る。それだけでいい。
「きつい」を理由に辞める若手は、実はそこまで多くない。「意味がわからない」「成長している実感がない」「意見を聞いてもらえない」——この3つを仕組みで潰すだけで、若手の定着は変わる。
採用と育成にかけた投資を無駄にしないために、仕組みを整える。それが経営者の仕事。
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よくある質問
製造業の離職率は何%?全産業より高い?
厚生労働省「令和7年雇用動向調査」では製造業の年間離職率は9.8%で、産業計13.7%より低くなっています。新卒の3年以内離職率も製造業は大卒21.2%・高卒28.6%で、調査産業計(大卒33.8%・高卒37.9%)を下回ります。ただし同じ統計の事業所規模別(全産業)では、規模が小さいほど新卒の離職率が高く、5〜29人の事業所では高卒54.6%・大卒52.0%が3年以内に辞めています。
製造業で若手が辞める本当の原因は?
「きつい」ではなく「意味がわからない」が本質的な原因です。作業の全体像が見えない、「見て覚えろ」式で教育体制がない、改善提案が「昔からこうだから」で却下される、という3つの構造的な問題が若手の離職を生んでいます。
製造業の若手1人が辞めるとどれくらいのコストがかかる?
採用費・研修期間の人件費・先輩社員の指導時間を足すと、1人あたり数十万〜百万円台になることもあります。金額は採用経路や育成期間で大きく変わるため、自社の数字で試算するのが確実です。従業員100名以下の工場にとって無視できない金額になりやすい点は共通しています。
製造業の若手定着率を改善するために何から始めればいい?
まず入社1週目に完成品を見せて「自分の作業が全体のどこか」を説明する全体像シートを作ること(30分・コストゼロ)。次にスキルマップで成長を見える化し、月1回15分の改善ミーティングで若手の意見を受け止める仕組みを作ります。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI自走プラン(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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