インボイス経過措置の切替準備|控除割合と1億円判定は基準が違うので分けて決める
同じ改正でも、日付で切り替わるものと課税期間で切り替わるものがある
免税事業者からの仕入れに対する控除が、8割から7割へ変わる。会計ソフトの設定を変えればいい、という理解で止まると、決算のときに合わなくなる。今回の改正には、切り替わり方の違う2つの変更が入っているからだ。
改正の中身そのものはインボイス経過措置は2026年10月にどう変わるかで扱った。この記事は、その改正を自社の処理へ落とすときに決めることに絞る。
切り替わり方が違う2つの変更
国税庁の資料を並べると、控除可能割合と控除限度額は別の基準で動くことが分かる(国税庁「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」、2026年8月26日に原文を確認)。
| 変更 | 切り替わる基準 | 実務での効き方 |
|---|---|---|
| 控除可能割合(80%→70%) | 課税仕入れの時期の区分で分かれる。令和8年10月1日以後の区分が70% | 全社共通。決算月に関係なく日付で切り替わる |
| 控除限度額(10億円→1億円) | 令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用 | 決算月で開始時期が変わる。12月決算は令和9年1月から、3月決算は令和9年4月から |
控除限度額の見直しについて、資料は「令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます」と明記している。一方、控除可能割合は課税仕入れの時期の区分(令和8年10月1日〜令和10年9月30日が70%)で示されている。この2つを1行にまとめて管理すると、決算月がずれている会社ほど合わなくなる。
決算月で開始時期が変わるのは限度額のほう
12月決算なら令和9年1月から始まる課税期間、3月決算なら令和9年4月から始まる事業年度が、控除限度額の見直しの対象になる。令和8年10月の時点では限度額の見直しがまだ効いていない会社があるということだ。
実務では、この差を意識せずに「10月から全部変わる」と社内へ伝えてしまう場面が起きやすい。切替の連絡を出す前に、自社の課税期間がいつ始まるかを1回確認しておく。
1億円の判定は取引先ごとの年間合計
限度額の条文は「一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で1億円を超える場合」と書かれている。判定単位が免税事業者等1者ごとである以上、会社全体の支払合計では判定できない。
ここで必要になるのは税務の知識ではなく、集計できる形のデータだ。次の6列が取引先ごとに揃っていれば、判定も影響額も出せる。
取引先ID
自社の取引先マスタのID。名称だけで持たない
適格請求書発行事業者か
登録番号の有無。不明を空欄にせず「不明」として残す
年間支払額
その年またはその事業年度での合計。1億円判定の単位はここ
控除割合の適用区分
課税仕入れの時期がどの区分に入るか
設定変更の担当と実施日
会計システム側を誰がいつ変えたか
確認者
切替後の初回の締めで数字を見た人
2列目でつまずく会社が多い。請求書を見れば登録番号の有無は分かるが、その情報がマスタに戻っていないと集計できない。誰がこの列を維持するかは取引先マスタの責任者設計の話になる。「不明」を空欄にしないのも同じ理由で、空欄は集計から静かに落ちる。
切替は締めのカレンダーに載せる
設定を変える日と、変えた結果を最初に確認する日は別物だ。切替後の初回の締めで、免税事業者等への支払がある仕訳を抜き出し、控除できない部分が想定どおり増えているかを見る。ここで数字が合わなければ、原因は設定か区分のどちらかに絞られる。
締め自体の進め方は月次決算の早期化、証憑の電子保存は電子帳簿保存法 中小企業の対応、負担増を価格へ反映する場合は値上げ対象の抽出と承認で扱っている。
来週できる一歩:切替表を2行だけ作る
- 1行目に控除可能割合を書く。令和8年10月1日以後の課税仕入れが70%になること。
- 2行目に控除限度額を書く。自社の課税期間がいつ始まるかを入れて、1億円の判定が効き始める日を書く。
- それぞれについて、設定を変える担当者と実施予定日を入れる。
- 切替後の初回の締めで数字を見る人と、その日付を入れる。
- 取引先マスタに登録番号の区分が入っていない場合、それを埋める担当をここに足す。
2行で足りる。足りないのは表の大きさではなく、2つの変更が別の基準で動くという前提のほうだ。
切替表が埋まらないときに疑うところ
2行の表が埋まらない理由は、日付が分からないことではない。多くの場合、取引先の区分と、その区分を維持する人が決まっていないことにある。制度と税額の判断は顧問税理士の領分なので、そこは分けて考えてよい。
会計ソフトの設定は変えられる。変えられないのは、マスタに登録番号の区分が無いこと、判断がつかない取引先や期をまたぐ請求を誰が承認するか決まっていないことだ。仕入先の区分、マスタの維持、会計設定、例外の承認。切替が動くかどうかは、この4つがつながっているかで決まる。
件数が流れていて、判断基準と責任者が後から付いてくる形になっていると、切替のたびに同じ確認をやり直すことになる。最後に社長が全部見ている場合はそこが待ち行列になる。心当たりがあれば、どこから整えるかを3分・8問の事業基盤診断で確認できる。
経理と取引データの整理は業務改善カテゴリで確認できる。
よくある質問
控除割合の変更と1億円の上限は、同じ日から始まりますか?
同じではありません。控除可能割合は課税仕入れの時期の区分で分かれており、令和8年10月1日からの区分が70%です。一方、控除限度額を10億円から1億円へ下げる見直しは、国税庁の資料で「令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます」とされています。決算月によって、限度額の見直しが効き始める時期は変わります。
3月決算だと何がどう変わりますか?
控除限度額の見直しは令和8年10月1日以後に開始する課税期間からなので、3月決算法人の場合は令和9年4月1日から始まる事業年度が対象になります。割合の区分とは開始時期がずれるため、切替表を2行に分けて持つのが安全です。
1億円の判定は会社全体の合計ですか?
違います。国税庁の資料は「一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの額の合計額」と書いており、免税事業者等1者ごとの年間合計で判定します。会社合計では判定できません。
会計ソフトを更新すれば済みますか?
済みません。控除割合の設定はソフト側で対応できますが、どの取引先が適格請求書発行事業者でないかという区分は自社のマスタが持つ情報です。区分が入っていないと、1億円の判定も影響額の集計もできません。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
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