電子帳簿保存法 中小企業の対応|電子取引データ保存の要件と猶予措置
要件は3つ。うち2つはシステムを買わずに満たせる
この記事のポイント
電子取引データの保存は2024年1月から要件に従った保存が必要になっている。要件は「改ざん防止措置」「ディスプレイ・プリンタの備付け」「日付・金額・取引先で検索できること」の3つ。基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下なら検索要件は満たさなくてよく、間に合わない場合は相当の理由があれば猶予措置がある。逆に絶対にやってはいけないのは、データを消すことだ。
メールに添付されてきた請求書のPDF、ECサイトの購入履歴からしか取れない領収書、ネットバンキングの明細。これらは電子帳簿保存法上の「電子取引」に当たり、データのまま一定の要件を満たして保存しなければならない。厄介なのは、対応が「システムを買う」話だと思われがちなところだ。国税庁の資料を読むと、要件のうち2つはシステムを買わずに満たせる。この記事は国税庁の一次資料の記述だけを根拠に、中小企業が最低限やることを整理する。
何が「電子取引」に当たるのか
国税庁の「電子取引データ保存要件チェックシート」(令和6年11月)は、電子取引を「取引に関して、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などに相当する電子データを受領又は交付すること」と説明し、具体的に次の4類型を挙げている。
- いわゆるEDI取引
- インターネット等による取引
- 電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルの場合を含む)
- インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引
同じチェックシートは、該当する具体例として「取引先からのメール、EDI、クラウド等で受領した見積書・納品書・請求書、ECサイトで購入した商品の請求書や領収書、インターネットのみで確認できるクレジットカード、ネットバンキング、水道光熱費などの明細書等」を挙げている。受け取った場合だけでなく、送った場合も保存が必要である点が見落としやすい。自社が発行してメール添付で送った請求書のPDFも対象だ。
対象者は、申告所得税および法人税に係る国税関係帳簿書類の保存義務のあるすべての者。会社の規模や業種で外れることはない。
保存要件は3つ
国税庁のパンフレット「電子取引データを適切に保存できていますか?」(令和6年11月)は、原則的な電子取引データ保存のルールを3つに整理している。
| # | 要件 | 満たし方 |
|---|---|---|
| ① | 改ざん防止のための措置をとること | 次のいずれか ・タイムスタンプが付与されたデータを受領 ・受領したデータにタイムスタンプを付与 ・訂正・削除の履歴が残るシステム等で授受・保存 ・改ざん防止のための事務処理規程を策定、運用、備付け |
| ② | 保存データを確認するためのディスプレイやプリンタ等を備え付けること | 性能や設置台数は要件とされていない。スマートフォンのみで取引している場合でも、近隣の有料プリンタ等により速やかに出力できれば満たすと取り扱われる |
| ③ | 「日付・金額・取引先」の3つの要素で検索できること | 加えて次のいずれか ・日付または金額での範囲指定検索、2つの要素を組み合わせた検索ができること ・税務調査等の際に電子取引データのダウンロードの求めに応じることができること |
出典: 国税庁「電子取引データを適切に保存できていますか?」令和6年11月/「電子取引データ保存要件チェックシート」令和6年11月
②はほぼすべての会社が満たしている。実質的に判断が必要なのは①と③だ。そしてどちらも、専用システムなしで満たす道が国税庁の資料に明記されている。
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資料を無料でダウンロード①改ざん防止—事務処理規程で満たせる
改ざん防止の4つの選択肢のうち、費用がかからないのは4つめの「改ざん防止のための事務処理規程を策定、運用、備付け」である。国税庁のパンフレットには「システム費用等をかけずに導入できる“改ざん防止のための事務処理規程”については、国税庁HPでサンプルを公表しています」「Wordファイルで公表していますので、ひな形としてご活用いただけます」と書かれている。チェックシートにも同じ案内がある。
ここでの注意は「策定、運用、備付け」の3語がセットになっていることだ。規程を作って共有ドライブに置いただけでは「運用」に届かない。誰がデータを保存し、訂正・削除をする場合は誰の承認を経るのか、その記録をどこに残すのかまで、実際の担当者の動きと一致していなければならない。ひな形を落として社名だけ入れて終わっている会社は、そこを一度突き合わせたほうがいい。
③検索要件—索引簿かファイル名規則で満たせる
国税庁のパンフレットは、検索要件を満たす簡易な方法として次の2つを示している。
| 方法 | やり方 |
|---|---|
| 索引簿を作る | 表計算ソフト等で「連番/日付/金額/取引先/備考」の列を持つ索引簿を作成し、その検索機能で電子取引データを探せるようにする |
| ファイル名に規則性をもたせる | 「日付・金額・取引先」の順で表記したファイル名のデータを特定のフォルダに集約し、フォルダの検索機能を活用できるようにする。国税庁の例は「20240331_110000_(株)霞商店」の形 |
出典: 国税庁「電子取引データを適切に保存できていますか?」令和6年11月(裏面「原則的な保存ルール③の検索要件は簡易な方法による対応が可能です」)
さらに、検索要件そのものが不要になる場合がある。パンフレットの注記には「基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下の方」等は、電子取引データのダウンロードの求めに応じることができるようにしていれば、③の検索要件を満たす必要はないと書かれている。チェックシートでは、この条件が次の2つのいずれかとして整理されている。
- 基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下
- 電子取引データを出力した書面を、取引年月日および取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている
後者は見落とされやすい。売上規模が大きくても、印刷したものを取引年月日と取引先ごとに整理して出せる状態にしてあれば、検索要件の代わりになる。既に紙のファイリング運用が回っている会社は、それを捨てずに併用するほうが早いことがある。
なお、この売上高の基準は過去のパンフレットでは1,000万円以下と案内されていた時期がある(国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」令和3年11月版・令和3年12月改訂の記載は1,000万円以下)。二次情報を再掲した記事や社内資料に1,000万円と書かれている場合は、現行の案内である5,000万円と食い違うので、必ず最新版で確認すること。
要件を満たせないときの猶予措置
原則的なルールへの対応が間に合わない場合の扱いも明記されている。パンフレットは「原則的な保存ルールへの対応が間に合わない場合でも、次の⑴と⑵の両方を満たす場合には、電子取引データを保存しておくだけで大丈夫です」としている。
⑴ 原則的な保存ルールに従って電子取引データを保存することができなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合
※事前届出は不要で、「人手不足」「システム整備の資金不足」「システム整備が間に合わない」なども相当の理由として認められる
⑵ 税務調査の際に、電子取引データのダウンロードの求め、および電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めに、それぞれ応じることができるようにしている場合
出典: 国税庁「電子取引データを適切に保存できていますか?」令和6年11月(裏面「原則的な電子取引データ保存のルールに対応するまでの猶予措置!!」)
同じパンフレットの締めくくりは「まずは、電子取引データを消さずに保存することが重要なんですね!」というやり取りになっている。要件の細部で悩んで手が止まるより、データを残すことのほうが優先度が高いという整理だ。逆に言えば、データを消してしまうと猶予措置の⑵を満たせない。メールの保存期間を短く設定していたり、担当者の受信箱にしか請求書が存在していない状態は、そこが一番危ない。
で、自社は何をいつまでにやるのか
すでに義務化の期間に入っているので、期限を待つ話ではない。次の順で1〜2週間で確認できる。
| 順番 | やること | 判断 |
|---|---|---|
| 1 | 電子取引データの入口を全部書き出す(メール/EDI/ECサイト/ネットバンキング/各種明細サイト) | 担当者の受信箱にしか無いものがあるか |
| 2 | 自社が送信した請求書・見積書のPDFが残っているか確認する | 送信側の保存が抜けていないか |
| 3 | 改ざん防止措置を決める。システムがなければ事務処理規程を策定・運用・備付け | 規程の内容と実際の担当者の動きが一致しているか |
| 4 | 基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下かを確認する | 検索要件が必要かどうかが分かれる |
| 5 | 必要なら索引簿かファイル名規則を決め、保存先フォルダを1箇所に決める | 「日付_金額_取引先」の順で統一できるか |
| 6 | 満たせない要件があるなら、猶予措置の2条件を満たす状態を確保する | データを消さずに残し、印刷して出せるか |
実務で詰まるのは3と5ではなく、1と2である。「どこから電子データが入ってきているか」の一覧が社内に存在しない会社が多い。特に、現場の担当者が自分のメールで受け取ってそのまま処理している支払・購買は、経理から見えていない。ここを可視化すると、電子帳簿保存法の話とは別に、承認を通っていない支出が出てくることがある。制度対応をきっかけに使えるのはむしろそちらだ。
また、ファイル名規則で対応する場合、命名を人手で毎回やると必ず崩れる。国税庁が示す形式は「日付_金額_取引先」で機械的に決まるので、受信したPDFから3項目を読み取って命名・格納するところは自動化の対象になる。紙とデータを併存させながら段階的に移す進め方は中小企業のペーパーレス化で整理している。
確認できなかったこと
本記事は国税庁が公表しているパンフレットとチェックシートの記述を根拠にしている。個別の判断(自社の取引がどの類型に当たるか、事務処理規程の内容が十分か、猶予措置の「相当の理由」に当たるか)は所轄税務署の判断事項であり、本記事では確定できない。判断が分かれる論点は、国税庁の「電子帳簿等保存制度特設サイト」の一問一答を確認するか、所轄税務署または顧問税理士に確認してほしい。
また、電子帳簿保存法にはスキャナ保存(紙で受領・作成した書類を画像データで保存)と電子帳簿等保存(電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存)という別の区分もあるが、本記事では電子取引の区分のみを扱っている。優良な電子帳簿の要件や過少申告加算税の軽減措置は別の話なので、混ぜて判断しないこと。
出典
- 国税庁「電子取引データを適切に保存できていますか?」令和6年11月(3つの保存要件、事務処理規程のサンプル、索引簿・ファイル名規則、売上高5,000万円以下の注記、猶予措置の2条件)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/pdf/0024011-003_01.pdf - 国税庁「電子取引データ保存要件チェックシート」令和6年11月(電子取引の4類型と具体例、要件の判定フロー、書面を取引年月日・取引先ごとに整理する代替)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/pdf/0024011-003_02.pdf - 国税庁「電子取引データ」パンフレット令和3年11月(令和3年12月改訂)(令和6年1月からの義務化、当時の売上高1,000万円以下の基準)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0021011-068.pdf - 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」(一問一答・説明動画)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm
よくある質問
電子取引データの保存はいつから義務になっているのですか?
国税庁の案内では、令和5年12月31日までに行う電子取引についてはプリントアウトして保存し税務調査等の際に提示・提出できるようにしていれば差し支えないとされ、令和6年(2024年)1月からは保存要件に従った電子データの保存が必要とされています。つまり2026年時点ではすでに義務化の期間に入っています。対象は申告所得税・法人税に関して帳簿書類の保存義務があるすべての方です。
専用システムを入れないと対応できませんか?
できます。改ざん防止措置は、タイムスタンプや訂正・削除の履歴が残るシステム以外にも「改ざん防止のための事務処理規程を策定、運用、備付け」する方法が認められており、国税庁のサイトで規程のサンプルが公表されています。検索要件についても、表計算ソフト等で索引簿を作る方法、または「日付・金額・取引先」の順で規則性をもったファイル名を付けて特定のフォルダに集約する方法が国税庁の資料で例示されています。
要件を満たせていない場合、すぐに違反になりますか?
猶予措置があります。国税庁の資料では、①原則的な保存ルールに従って保存できなかったことについて所轄税務署長が相当の理由があると認める場合、かつ②税務調査の際に電子取引データのダウンロードの求めと、それをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合には、電子取引データを保存しておくだけでよいとされています。相当の理由には「人手不足」「システム整備の資金不足」「システム整備が間に合わない」も含まれ、事前届出は不要です。ただしデータそのものを消してしまうと猶予措置も使えません。