行政書士の仕事はAIに奪われる?改正行政書士法から見る、AIに渡せる業務と残る業務
行政書士と、これから行政書士を目指す人に向けて、法律の線引きと事務所の業務の分け方から考えます。
行政書士の仕事はAIに奪われるのか:結論
AIを入れるかどうかの前に、事務所の業務を「AIに渡す」「AIに下書きさせる」「行政書士に残す」に分け、案件ごとの作業時間を1週間測ると、何から手をつけるかが決まります。
- 行政書士の仕事がAIでまるごとなくなる可能性は低いです。他人の依頼を受けて報酬を得て、官公署に出す書類を作ることを業とできるのは、行政書士法第19条で原則として行政書士と行政書士法人に限られています(他の法律に定めがある場合などの例外があります)。
- 2026年1月施行の改正法は、この制限に「いかなる名目によるかを問わず」という文言を加え、同時に、行政書士に情報通信技術を活用して業務を改善する努力義務を課しました。AIを使う側に回ることが、法律の上でも求められています。
- 減っていくのは、様式への転記や必要書類の案内のような定型の作業です。書類を作るだけで報酬を受け取ってきた事務所ほど、作業時間で値段を説明しにくくなります。
この記事は行政書士の業務とAIの関係を扱います。税理士・社労士を含む士業全体の使い方は士業のためのAI顧問活用で扱っています。
AIで行政書士の仕事がなくなる見通しはありませんが、申請書類の下書きや要件の洗い出しのような作業はAIに移り、行政書士の時間は要件の判断や官公署とのやり取りに寄っていきます。この記事では、その根拠を法律と試算の両方から確かめ、事務所で何から始めるかまで説明します。
AIで行政書士の仕事はなくならないが、書類を作るだけの仕事は変わる
結論から書くと、行政書士という仕事がAIに置き換わる見通しは、いまの法律の上では立っていません。他人の依頼を受け、報酬を得て、官公署に出す書類や権利義務・事実証明に関する書類を作ることを業とできるのは、原則として行政書士と行政書士法人に限られます(行政書士法第1条の3・第19条。他の法律に定めがある場合などの例外があります)。AIが書類の文面を作れるようになっても、その書類を報酬と引き換えに作って責任を持つ立場は、法律で決まっています。
それでも「行政書士はAIに代替される確率が93.1%」という話が繰り返し出てくるのは、2015年に発表された試算と結びつけて広く紹介されてきたからです。
93.1%という数字が示しているもの
野村総合研究所は2015年12月、英オックスフォード大学のオズボーン准教授とフレイ博士との共同研究で、国内601の職業について人工知能やロボットに代替される確率を試算し、日本の労働人口の約49%が技術的には代替できるようになる可能性が高いと発表しました。ただし、同社のニュースリリース本文には職業別の数値は載っておらず、行政書士の93.1%は、この試算に結びつけた二次的な紹介で広まった数字です。数値の一次資料は確認できていません。
同社のニュースリリースは、この試算はコンピューターによる技術的な代替可能性であり、実際に代替されるかどうかは労働需給を含めた社会環境要因の影響も大きいと注記しています。NRIの試算は、職業を構成する知識やスキルなどの定量データから、一人の業務全てを66%以上の確率でコンピューターが代わりに遂行できる職種かどうかを推計したものです。法律が業務の担い手を決めていることや、書類に誰が責任を持つかという点は、計算に入っていません。
2026年1月施行の改正行政書士法とAIの関係
2025年6月13日に公布され、2026年1月1日に施行された改正行政書士法(令和7年法律第65号)には、AIを考えるうえで見落とせない改正が2つあります。
- 業務の制限の明確化(第19条):「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が加わりました。総務省の通知は、手数料やコンサルタント料などどんな名目でも、対価を受け取って業として官公署に出す書類を作れば違法だという、これまでの解釈を条文に書いたものだと説明しています。違反した人だけでなく、その法人にも罰則がかかる両罰規定も整いました。
- デジタル社会への対応の努力義務(第1条の2第2項):行政書士は、デジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用などを通じて、国民の利便の向上と業務の改善進歩を図るよう努めなければならない、と定められました。日本行政書士会連合会は、士業の法律で初めての規定だとしています。
改正後の第19条は、行政書士でない会社が名目を問わず報酬を得て申請書類を作ることを禁じています。AIで申請書を作るサービスも、報酬を受け取れば対象になります。一方、新設の第1条の2第2項は、行政書士に情報通信技術を活用して業務を改善するよう努めることを求めています。つまり改正法は、AIが行政書士を置き換える方向ではなく、行政書士がAIを使う方向で整っています。依頼者が自分の申請書を自分でAIに手伝わせて作ることは本人の申請であり、この制限とは別の話です。
事務所の業務を「AIに渡す・下書きさせる・残す」に分ける
行政書士事務所にAIを入れるとき、最初にやることはツール選びではありません。業務を一つずつ取り出して、どこまでをAIに寄せられるかを決めることです。下の表は、許認可や在留資格の申請を扱う事務所でよくある業務を3つに分けた例です。
業務ごとの分け方の例
| 業務 | AIに寄せられる部分 | 行政書士に残る部分 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 問い合わせの一次対応 | よくある質問への回答案、面談日程の候補出し、必要な情報の聞き取り項目 | 受任するかどうか、報酬の見積り | 渡す |
| 要件の確認 | 手引きや法令から要件を抜き出したチェックリストの下書き | 依頼者の状況が要件を満たすかの判断 | 下書き |
| 必要書類の案内 | 案件ごとの必要書類リストと、依頼者への案内文の下書き | 例外的な書類が要るかの見極め | 渡す |
| 申請書類の作成 | ヒアリング記録から様式への転記、表記ゆれや数字の食い違いの点検 | 内容の確定と、提出する書類への責任 | 下書き |
| 理由書・事業計画書 | 構成案と文章のたたき台 | 事実と合っているか、審査で何を見られるかの判断 | 下書き |
| 官公署とのやり取り | 事前相談で聞くことの整理、補正の指摘の要約 | 窓口での相談と補正への対応方針 | 残す |
| 依頼者への説明 | 説明資料や進み具合の連絡文の下書き | リスクや見通しをどう伝えるかの判断 | 残す |
「渡す」は、行政書士があとで目を通せば済む業務です。「下書き」は、作業の大部分をAIに任せ、行政書士が必ず確かめてから確定させる業務になります。要件を満たすかの判断と、官公署・依頼者とのやり取りは「残す」に置きます。生成AIは手引きの古い版や別の自治体の運用をもっともらしく答えることがあり、そのまま使うと補正や不許可につながるからです。
業務分野ごとの使いどころ
同じ「下書き」でも、分野によって効く場所が違います。建設業許可なら、手引きから経営業務の管理責任者や専任技術者の要件を抜き出してチェックリストにし、依頼者に渡す確認書類の一覧を作るところです。在留資格なら、質問票の項目整理と理由書の構成案に使えます。補助金の申請支援では、公募要領の要約と事業計画書の骨子づくりで時間が浮きます。どの分野でも、要件の根拠は所管官庁の手引きや法令の原文で確かめ直すことを手順に入れておきます。
依頼者の情報を生成AIに入れる前に決めておくこと
ChatGPTのような生成AIを事務所で使うとき、最初に引っかかるのが依頼者の情報の扱いです。行政書士には、業務で知った秘密を正当な理由なく漏らしてはならない義務があり、行政書士でなくなった後も続きます(行政書士法第12条)。在留資格の案件で扱う犯罪の経歴のように、個人情報保護法の要配慮個人情報にあたるものもあります。
個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入れる場合は、利用目的の範囲内かを十分に確かめるよう注意を呼びかけています。使うサービス、入れてよい情報、出てきた答えを誰が確かめるかの3点を、使い始める前に紙1枚で決めておきます。個人のアカウントで職員がばらばらに使い始めると、誰が何を入れたかを事務所が把握できなくなります。
ルールの作り方は生成AIの社内ルールの作り方にまとめています。決める項目は士業の事務所でもほぼ同じです。
AIを入れる前に、1週間だけ案件ごとの作業時間を測る
「AIで楽になるか」は、いま何に時間を使っているかが分からないと判断できません。行政書士事務所で最初にやるべきなのは、1週間分の作業記録を取ることです。1人で開業している事務所でも、補助者がいる事務所でも同じ方法で測れます。
記録の取り方
案件ごとに、受付・聞き取り、要件の確認、書類の作成、官公署とのやり取り、依頼者への連絡のどれに何分使ったかを書きます。紙でもスプレッドシートでも構いません。同じ種類の案件(たとえば建設業許可の新規)が複数あれば、1件あたりの平均を出しておきます。
最初に手をつける作業の選び方
記録の中で一番時間を取っている作業、または夜や週末に持ち越している作業を1つだけ選びます。必要書類の案内文を毎回一から書いているなら、そこが最初の候補です。選んだ作業について、AIに渡す・AIに下書きさせる・行政書士に残すのどれにあたるかを決め、4週間試します。
効果を見る数字
- 1件あたりの作業時間:同じ種類の案件で、受任から申請までに使った時間を比べます。
- 補正・差し戻しの回数:AIの下書きを使い始めてから、窓口で直しを求められる回数が増えていないかを見ます。増えていれば、確認の手順が足りていません。
- 受任から申請までの日数:依頼者を待たせる期間が短くなったかを見ます。
4週間後に同じ記録を1週間取り、最初の週と比べます。作業時間が減っていなければ、下書きを直す手間が元の作業と変わっていないかを見直します。業務の書き出し方は業務の棚卸しのやり方でも詳しく説明しています。
どの業務から手をつけるかを決めたい方へ
3分の診断で、いまの業務の回し方とAIを入れる順番の目安が分かります。事務所の作業記録の取り方やAIとの分担の決め方を相談したい場合も、診断の結果から予約できます。
3分の診断を受けるAIの時代に行政書士が伸ばしたい力
要件を満たすかの判断、官公署との事前相談や補正への対応、依頼者へのリスクの説明は、AIが下調べをしても行政書士に残る仕事で、これがそのまま行政書士の価値になります。依頼者の話から要件を満たす道筋を見つけること、窓口と事前に相談して審査で何を見られるかをつかむこと、補正を求められたときにどう直すかを決めることは、AIが下調べをしても最後は人が決めます。2026年の改正で特定行政書士が不服申立ての代理をできる範囲が広がったことも、書類を作った後まで依頼者に付き添う仕事が増える方向の変化です。
もう一つは、AIの答えを確かめる力です。手引きや法令の原文に当たって正誤を判断できる人が、事務所の中でAIを安全に使う役になります。AIを使わない行政書士より、AIの下書きを確かめて直せる行政書士が、浮いた時間を相談や提案に回せます。AIの導入全体の進め方は中小企業のAI導入 完全ガイドにまとめています。
一次情報・公式情報
- e-Gov法令検索「行政書士法」(昭和26年法律第4号)
- 総務省「行政書士法の一部を改正する法律の公布について(通知)」(2025年6月13日)
- 総務省「行政書士制度」
- 日本行政書士会連合会「会長年頭談話:行政書士法の一部を改正する法律の施行について」(2026年1月1日)
- 野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」(2015年12月2日)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
制度・統計は改定されます。最新の情報は公表元でご確認ください。
行政書士とAIのよくある質問
AIで行政書士の仕事は本当になくなりますか?
仕事そのものがなくなる可能性は低いです。行政書士法第19条は、行政書士でない者が他人の依頼を受けて報酬を得て、業として官公署に提出する書類などを作ることを、原則として禁じています(他の法律に定めがある場合などの例外はあります)。2026年1月の改正では「いかなる名目によるかを問わず」という文言が加わり、手数料やコンサル料という名目でも同じだと条文に書かれました。減っていくのは、様式への転記や必要書類の案内のような定型の作業です。
行政書士はAIに代替される確率が93.1%というのは本当ですか?
この数字は、野村総合研究所が2015年に英オックスフォード大学と共同で行った、国内601の職業についての試算と結びつけて紹介されてきたものです。ただし、同社のニュースリリース本文には職業別の数値は載っておらず、行政書士の93.1%は二次的な紹介で広まった数字で、一次資料は確認できていません。同リリースは、試算はコンピューターによる技術的な代替可能性であり、実際に代替されるかどうかは労働需給などの社会環境要因の影響も大きい、と注記しています。法律で業務の担い手が決まっている点は、この試算には入っていません。
依頼者の情報をChatGPTに入れて申請書の下書きを作ってもよいですか?
行政書士には第12条で秘密を守る義務があり、行政書士でなくなった後も続きます。在留資格の案件で扱う犯罪の経歴のように、個人情報保護法の要配慮個人情報にあたる情報もあります。業務用に契約し、入力内容が学習に使われない設定のサービスを事務所で1つに決め、氏名や住所を伏せてから入れる、出てきた文章は行政書士が確認してから使う、の3点を守るのが前提です。
1人で開業している行政書士でも、AIで効果が出る業務はありますか?
必要書類の案内文、要件のチェックリスト、ヒアリング記録から様式への転記は、事務所の規模にかかわらず時間がかかりやすい作業です。まず1週間、案件ごとに何に時間を使ったかを記録し、一番長い作業から手をつけると、効果を数字で確かめやすくなります。
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泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI自走プラン(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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