薬剤師の仕事はAIでなくなる?薬局の業務を「任せる・手伝わせる・残す」に分けて考える
調剤薬局の経営者と薬剤師向けに、制度の流れと業務の分け方から考えます。
薬剤師の仕事はAIでなくなるのか:結論
AIを入れるかどうかの前に、薬局の業務を「任せる」「手伝わせる」「残す」に分け、1週間の記録で対人業務に使えている時間を測ると、何から手をつけるかが決まります。
- 薬剤師の仕事がAIでまるごとなくなる可能性は低いです。調剤の最終的な責任は薬剤師にあり、鑑査や疑義照会の判断は資格者に残ります。
- 変わるのは仕事の中身です。取り揃えや一包化薬の数量確認は2019年の厚生労働省通知で薬剤師以外にも任せられるようになり、一包化の外部委託は2025年の改正法で認められました(施行は2027年5月まで)。薬歴の下書きをAIで作るのは制度の外の取り組みで、確定させるのは薬剤師です。
- 先に困るのは、対物業務だけで1日が埋まっている薬剤師と、業務時間を測っていない薬局です。厚生労働省の検討会資料の推計では、2045年に薬剤師の供給が需要を2.4万〜12.6万人上回る計算になります。
この記事は薬局と薬剤師の業務でAIをどう使うかを扱います。クリニック全体の業務改善はクリニックの業務効率化ガイドで扱っています。
AIで薬剤師の仕事がなくなる見通しはありませんが、取り揃えや薬歴の下書きのような定型作業はAIや機械に移り、薬剤師の時間は服薬指導や疑義照会のような判断の仕事に寄っていきます。この記事では、薬剤師本人と薬局の経営者の両方に向けて、その根拠と業務の分け方を説明します。
AIで薬剤師の仕事はなくならないが、時間の使い方は変わる
結論から書くと、薬剤師という仕事がAIに置き換わる見通しは、いまの制度の上では立っていません。調剤は薬剤師にしかできない、という決まりは薬剤師法ができた1960年から変わっておらず、2019年の通知も2025年の改正法もこの前提の上で、薬剤師以外に任せられる作業を決めています。
一方で、薬剤師の手を離れていく作業ははっきり増えています。制度の上では、次の2つが大きな節目でした。
- 2019年4月の通知:厚生労働省の「調剤業務のあり方について」(いわゆる0402通知)が、PTPシートに包装されたままの薬の取り揃えや、鑑査の前の一包化薬の数量確認を、薬剤師の指示と目が届く範囲で薬剤師以外の人が行えると整理しました。
- 2025年5月の改正法:一包化のような定型の調剤業務を、都道府県知事等の許可を得て外部へ委託できる仕組みが入りました。施行は公布から2年以内の予定です。
2019年の通知で取り揃えを薬剤師以外に任せられるようになり、2025年の改正法で一包化の外部委託が認められました。AIはその次の手段で、人手の作業を減らして薬剤師を患者と向き合う仕事に回す、という方向は同じです。
薬剤師が余るという推計とAIの関係
将来性の不安を強めているのは、AIよりも需給の数字かもしれません。厚生労働省の検討会資料(2021年4月)では、2045年の薬剤師の供給は43.2万〜45.8万人、需要は33.2万〜40.8万人と推計されており、供給が需要を2.4万〜12.6万人上回る計算になります。
- 供給:2045年に43.2万人から45.8万人の見込みです。
- 需要:業務が今と同じなら33.2万人、業務の充実を見込んでも40.8万人程度です。
- 効率化の影響:資料自身が、機械化やICTで対物業務が効率化すれば、地域の薬剤師の必要数が減ることも考えられると書いています。AIはこの効率化を進める側に働きます。
厚生労働省の需給推計では、2045年に薬剤師の供給が需要を上回る見込みで、資料は対物業務の効率化で地域の必要数が減ることもあり得るとしています。そのため筆者は、在宅訪問や服薬後のフォローなど対人業務を担えるかどうかが、薬剤師の役割を左右すると考えています。医師への情報提供のように、患者ごとに考えて動く仕事を持っている人ほど、AIが入っても役割が残ります。
薬局の業務を「任せる・手伝わせる・残す」に分ける
薬局にAIを入れるとき、最初にやることはツール選びではありません。業務を一つずつ取り出して、どこまでを人以外に寄せられるかを決めることです。下の表は、調剤薬局でよくある業務を3つに分けた例です。
業務ごとの分け方の例
| 業務 | AI・機械・薬剤師以外に寄せられる部分 | 薬剤師に残る部分 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 処方箋の受付・入力 | 処方箋の読み取り、レセコンへの入力の下書き | 入力内容の確認 | 任せる |
| 取り揃え(ピッキング) | PTPシートのままの薬の取り揃えは、薬剤師の指示と目の届く範囲で薬剤師以外も可能 | 取り揃えた薬の鑑査 | 手伝わせる |
| 一包化 | 分包機、一包化の数量確認、改正法で外部委託の対象になる見込み | 最終の鑑査と、一包化の要否の判断 | 手伝わせる |
| 処方監査・疑義照会 | 相互作用や重複投与の候補の洗い出し | 照会するかどうかの判断と、医師とのやり取り | 残す |
| 服薬指導 | 説明用の資料や、聞き取り項目の下書き | 患者の様子を見て、何をどう伝えるかの判断 | 残す |
| 薬歴の記載 | 会話の録音や入力メモからの下書き | 内容の確認と確定 | 手伝わせる |
| 在庫・発注 | 過去の処方量から発注量の案を出す | 急な処方変更や供給停止への対応 | 任せる |
「任せる」は、薬剤師の確認が後から入れば済む業務です。「手伝わせる」は、作業の大部分を人以外が行い、薬剤師が必ず確かめてから確定する業務になります。判断そのものが価値になっている疑義照会と服薬指導は「残す」に置きます。ここをAIに任せると、誤った情報がそのまま患者に届くおそれがあるからです。
薬局で使われ始めているAIの例
製品名よりも、どの業務のどの部分を支えるかで見ると比べやすくなります。薬局向けのAIの使い方としては、たとえば次のようなものがあります(製品ごとの機能は各社の公式情報でご確認ください)。
- 薬歴の下書き:服薬指導の会話を録音し、要点を薬歴の形に起こします。閉局後に残りがちな記載時間を減らすための使い方です。
- 処方監査の補助:相互作用や重複、用量の確認が要りそうな箇所に印を付けます。照会するかどうかは薬剤師が決めます。
- 一包化の鑑査補助:分包した薬を撮影し、錠剤の種類と数を画像で照合します。
- 在庫・発注:過去の処方の量から発注量の案を出し、期限切れや欠品を減らします。
どれも「最後に薬剤師が確かめる」前提で作られています。導入を考えるときは、確認にかかる時間を差し引いても元の作業より短くなるかを見ます。下書きの手直しに毎回5分かかるなら、記載時間はほとんど減りません。
生成AIに患者情報を入れる前に決めておくこと
ChatGPTのような生成AIを薬局で使うとき、最初に引っかかるのが患者情報の扱いです。病名や処方内容は要配慮個人情報にあたり、扱いを誤ったときの影響が大きい情報です。
日本病院薬剤師会が2026年3月に公表した「病院薬剤師向け生成AI利活用ガイダンス」は、生成AIを判断を代わりに行うものではなく判断を支える参考の道具と位置づけ、個別の患者への直接の意思決定には使わないとしています。病院向けの文書ですが、薬局でも同じ線を引いておくと迷いません。入れる情報、使うサービス、出てきた答えを誰が確かめるかの3点を、使い始める前に紙1枚で決めておきます。
どの情報を入れてよいかの具体的な分け方は、AIに患者情報を入れる前の線引きにまとめています。院内のルールの作り方は生成AIの社内ルールの作り方が参考になります。
AIを入れる前に、1週間だけ業務時間を測る
「AIで楽になるか」は、いま何に時間を使っているかが分からないと判断できません。薬局で最初にやるべきなのは、1週間分の業務記録を取ることです。大がかりな調査は要りません。
記録の取り方
薬剤師と事務スタッフが、それぞれ15分刻みで「何をしていたか」を書きます。紙でもスプレッドシートでも構いません。1週間たったら、取り揃えや一包化、入力のような対物業務、服薬指導や在宅、医師とのやり取りのような対人業務、レセプトや電話の取り次ぎのような事務の3色に塗り分けます。
最初に手をつける業務の選び方
対物業務の中で一番時間を取っているもの、または閉局後まで残っているものを1つだけ選びます。薬歴の記載が閉局後に残っているなら、そこが最初の候補です。選んだ業務について、さきほどの表のように機械・AI・人の分担を決め、4週間試します。
効果を見る数字
- 対人業務の時間の割合:薬剤師の勤務時間のうち、患者や医師と向き合っている時間が何割あるかを見ます。
- 閉局後の残業時間:薬歴や発注が営業時間内に終わるようになったかを見ます。
- 患者の待ち時間:受付から薬を渡すまでの時間を、混む曜日で比べます。
4週間後に同じ記録を1週間取り、最初の週と比べます。対人業務の割合が増えていなければ、浮いた時間がほかの対物業務に吸われていないかを見直します。業務の記録と分担の決め方は、クリニック受付の業務別の削減試算でも同じ手順を使っています。
どの業務から手をつけるかを決めたい方へ
3分の診断で、いまの業務の回し方とAIを入れる順番の目安が分かります。薬局の業務記録の取り方や分担の決め方を相談したい場合も、診断の結果から予約できます。
3分の診断を受けるAIの時代に薬剤師が伸ばしたい力
表の右の列に残った仕事が、そのまま薬剤師の価値になります。患者の話から飲み忘れや副作用の兆しを拾うこと、医師に処方の変更を提案すること、在宅で生活の様子を見て薬の形や回数を変えることは、AIが下調べをしても最後は人が決めます。
もう一つは、AIの答えを確かめる力です。生成AIはもっともらしい誤りを出すことがあり、添付文書やガイドラインに当たって正誤を判断できる人が、薬局の中でAIを安全に使う役になります。AIを使わない薬剤師より、AIの下書きを確かめて直せる薬剤師が、これからの薬局で頼られます。
一次情報・公式情報
- 厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」(2015年10月)
- e-Gov法令検索「薬剤師法」(昭和35年法律第146号)
- 厚生労働省「調剤業務のあり方について」(2019年4月2日通知)
- 厚生労働省「医薬品医療機器等法等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要」
- 厚生労働省「薬剤師の需給推計(案)」第8回 薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会(2021年4月)
- 日本病院薬剤師会「病院薬剤師向け生成AI利活用ガイダンス」(2026年2月18日版)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」
制度・統計は改定されます。最新の情報は公表元でご確認ください。
薬剤師とAIのよくある質問
AIで薬剤師の仕事は本当になくなりますか?
仕事そのものがなくなる可能性は低いです。調剤の最終的な責任は薬剤師にあり、厚生労働省の通知でも、薬剤師以外に任せてよい業務は薬剤師の指示と確認がある前提で整理されています。減っていくのは、取り揃えや数量確認、薬歴の下書きのような定型の作業です。
薬剤師が余るという話は本当ですか?
厚生労働省の検討会資料(2021年)の需給推計では、2045年の供給43.2万〜45.8万人に対し需要は33.2万〜40.8万人で、供給が需要を2.4万〜12.6万人上回る計算になります。業務の充実で需要が増える前提を置いても、供給が上回ると推計されています。同じ資料は、対物業務の効率化が進めば地域で必要な薬剤師の数が減ることもあり得る、とも書いています。
ChatGPTに患者の情報を入れて服薬指導の文章を作ってもよいですか?
病名や処方内容のように、病歴や調剤を受けたことが分かる情報は、個人情報保護法の要配慮個人情報にあたります。氏名や生年月日と一緒に入れると本人が特定できます。業務用に契約し、入力内容が学習に使われない設定のサービスで、薬局として決めたルールの範囲で使うのが前提です。個人が特定できない形に直してから入れる、出てきた文章は薬剤師が確認してから使う、の2点も守ります。
小さな薬局でも、AIで効果が出る業務はありますか?
薬歴の記載と在庫・発注は、店舗の規模にかかわらず時間がかかりやすい業務です。まず1週間、誰が何に時間を使っているかを記録し、閉局後に残っている作業から手をつけると、効果を数字で確かめやすくなります。
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泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI自走プラン(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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