業務標準化の進め方|どこまで揃えるかを先に決めてから、手順書を作る
標準化しない業務を決めるところが、この仕事の本体です
業務標準化の結論|文書を増やす前に、揃える範囲を決める
業務標準化に取りかかると、たいてい手順書づくりから始まります。ところが、書き始めてすぐに手が止まります。担当者によってやり方が違い、どれを正にするかが決まっていないからです。決まっていないものは書けません。標準化の作業を「文書を作る」ではなく「どこまで揃えるかを決める」と読み替えると、順番がはっきりします。
- 業務標準化は、誰がやっても同じ結果になる状態をつくること。手順書を作ることそのものではなく、どこまで揃えるかを決めるところが先にくる
- 標準に乗らない案件は必ず出てくる。例外の置き場所を決めていない標準は、最初の1件で崩れて、そのあと誰も開かなくなる
- 決めたあとに要るのは、標準の持ち主と、直す合図。この2つが空欄のまま配ると、文書だけが古いまま残る
この記事は、社員が数人から数十人で、同じ業務を複数の人が担当していて、休むと止まる仕事がある会社を想定しています。大きな組織の標準化プロジェクトのように、専任の担当を置いて全社の業務を洗い出す進め方は扱いません。通常の仕事を回しながら、1つずつ範囲を決めていくやり方を書きます。
業務標準化とは、ばらつきを消して同じ結果にすること
業務標準化は、同じ業務を誰が担当しても同じ結果になる状態をつくることです。速くすることでも、工程を減らすことでもありません。似た言葉が並ぶので、社内で話す前に整理しておくと会話が早くなります。
| 言葉 | 目指している状態 | 出てくる場面 |
|---|---|---|
| 業務標準化 | 誰がやっても同じ結果になる状態にする | 担当者ごとに手順も判断も違う |
| 業務改善 | いまの流れそのものを変えて、良くする | 工程が多い、待ち時間が長い |
| 業務効率化 | 同じ結果を、より少ない手間で出す | 手作業や転記に時間を取られている |
| 業務平準化 | 人や時期による仕事量の偏りをならす | 特定の人と月末に負荷が寄る |
| マニュアル化 | 決まった標準を、読める形の文書にする | 口頭で教えていて引き継げない |
順番としては、標準化が効率化より先にきます。人によってやり方が違う状態のまま道具を入れると、誰の手順に合わせて設定したのかを説明できません。合わなかった人は元のやり方に戻り、道具と手作業の両方が残ります。流れそのものを変える話は業務プロセス改善の進め方(ツールを入れる前に決める5フェーズ)で扱っています。標準化はその手前で、いまの流れのばらつきを先に消す作業です。
標準化する業務と、しない業務を先に分ける
進め方の記事の多くは、全業務の洗い出しから始めます。人数が限られている会社でこれをやると、洗い出しの途中で通常業務に押し戻されて終わります。先に対象を絞ってください。分け方は3つです。
| 扱い | 当てはまる業務 |
|---|---|
| 標準化する | 毎週または毎月くり返す。担当が複数いるか、いずれ増える。間違えたときの影響が請求・納期・顧客対応に及ぶ |
| 後回しでよい | 年に数回しか起きない。担当も確認先も決まっていて、いま困っていない |
| 標準化しない | 案件ごとに条件が違い、判断そのものが商売の中身になっている。価格の決め方、例外的な取引条件、顧客ごとの交渉 |
いちばん抜けやすいのが3つ目です。判断そのものが商売の中身になっている業務まで手順に落とそうとすると、現場は守れないと感じて、標準全体を信用しなくなります。価格の決め方や交渉の進め方は、手順ではなく判断の材料と記録の残し方だけを決めます。誰が決めたか、何を見て決めたかが残っていれば、材料が溜まったあとで基準を作り直せます。
部署のあいだに落ちていて、そもそも誰の仕事か決まっていない業務もあります。その場合は標準化より先に持ち主を決めます。決め方は業務分掌の決め方(部署の間に落ちる業務に持ち主を置く手順)にまとめてあります。
業務標準化の進め方【5ステップ】
1|対象を1つに絞り、始点と終点を決める
選ぶのは1業務です。請求書の発行、入居申込の受付、見積の作成のように、始まりと終わりが言える単位にします。始点と終点を先に言葉にしておかないと、あとで担当者ごとに「どこまでが自分の仕事か」の認識が違っていたことが分かり、途中で範囲が伸びます。
2|同じ業務を、担当者ごとに並べて違いを取り出す
いきなり正解を書きません。いま実際にやっている手順を、担当している人の数だけ書き出します。書式は表で十分です。工程、その人がやっていること、迷ったときに誰へ聞いているか、の3列にします。
並べると、違いが出る場所は限られていることが分かります。多くは、承認をもらう相手、確認する画面、例外が来たときの扱いの3か所です。この違いこそが標準化の対象で、全員が同じようにやっている工程は書き写すだけで済みます。
3|違いが出た場所だけ、条件と行動の形で決める
違いが出た場所を1つずつ決めます。ここで「丁寧に確認する」「必要に応じて上長へ相談する」と書くと、また人によって解釈が分かれます。条件と行動の形にしてください。金額がいくらを超えたら誰の承認を取る、この書類が揃っていなければ受け付けない、という言い方です。
担当者に聞いても言葉にならない判断が残ることがあります。長く担当してきた人ほど、条件を意識せずに決めています。その場合は直近の案件をいくつか持ってきて、「この件はなぜこう処理したのか」を1件ずつ聞きます。3件か4件たどると、本人が意識していなかった条件が出てきます。決め方そのものを設計する手順は業務設計とは(業務フロー・運用設計との違いと、形骸化させない進め方6ステップ)で詳しく扱っています。
4|標準に乗らない案件の置き場所を決める
ここが抜けている標準は、最初の例外で崩れます。決めておくのは3つです。例外だと判断する条件、その場で誰に連絡するか、記録をどこに残すか。
記録の置き場所がいちばん忘れられます。例外はその場で処理されて終わり、次に同じことが起きたときに前回どうしたかが分かりません。同じ例外が何度も来ていると分かれば、それは例外ではなく標準の一部だったということです。標準を直す材料がここから出てきます。
5|1か月回して、詰まった場所だけ直す
決めた標準は、そのまま清書して配らずに、まず1か月そのとおりにやってみます。守れなかった箇所には理由があります。標準どおりだと時間がかかる、前工程からの情報が足りない、そもそも書いてある画面が変わっている、といったことです。
この期間に直すのは、詰まった箇所だけです。ついでに他の工程も整えたくなりますが、範囲を広げると1か月では終わりません。落ち着いてから文書にします。手順書の書き方と、書くべき項目は事務の業務マニュアルの作り方(使われる手順書の7項目)にまとめてあります。
標準の持ち主と、直す合図を決める
標準は作った日から古くなります。古くなること自体は避けられないので、直す仕組みのほうを決めます。必要なのは2つです。
1つは持ち主です。その業務を実際にやっている人のなかから1人決めます。管理職に持たせると、現場のずれに気づくのが遅れます。もう1つは直す合図です。「半年ごとに見直す」のような期限だけの決め方だと、期限が来ても誰も動きません。合図は出来事にします。使っているシステムの画面が変わったとき、担当が入れ替わったとき、同じ例外が続けて起きたとき。この3つのどれかが起きたら持ち主が見る、という形にします。
持ち主を決める考え方は、業務でも台帳でも同じ形になります。取引先の情報側の決め方は取引先マスタの責任者設計(作成・変更・重複解消・廃止を分担する)で扱っています。
少人数の会社で、標準が形だけ残る4つの場所
標準化が続かなかった会社を見ていくと、崩れる場所はだいたい同じところです。
- 標準を作った人が、そのまま持ち主になっていない。作った時点で担当が変わり、直す人がいなくなる
- 例外の置き場所が無い。標準に乗らない案件が来たときに、その場で誰かが独自に処理し、記録が残らない
- 標準どおりにやると遅くなる箇所がある。現場は黙って元のやり方に戻し、標準だけが文書として残る
- システムの画面が変わったのに、文書が追いついていない。一度でも古い記述に当たると、その後は誰も開かない
共通しているのは、標準そのものの出来ではなく、標準を持つ人と直す合図が決まっていないことです。よくできた文書を作ることより、直せる状態にしておくほうが長く効きます。属人化がどこまで進んでいるかを先に見たい場合は、属人化解消の事例パターン8選(どの業務が、どう詰まり、どう解けたのか)が参考になります。
どの業務から手を付けるかで迷っている段階なら、3分の事業基盤診断を使ってください。選択式の設問に答えると、先に整える業務と、いまは触らない業務が分かれます。分けるところまでの道具で、標準の中身を作るものではありません。
標準化が効いているかは、自社の記録から数える
効果を「時間がどれだけ減ったか」で測ろうとすると、繁忙期や案件数の増減と混ざって判定できません。始めた日に一度数え、3か月後にもう一度数えられる項目で見ます。
- 同じ業務を担当した2人の記録を並べて、手順が分かれた箇所の数
- 標準に乗らなかった案件のうち、例外として記録が残っていた件数
- その業務について担当者へ質問が来た回数(減らすことより、同じ質問が繰り返されていないかを見る)
- 新しく入った人が、聞かずに最後まで通せた工程の数
2つ目を入れているのは、例外の記録が残るようになったかどうかが、標準が実際に使われているかの手がかりになるからです。例外がゼロになっている場合は、標準がうまくいったのではなく、例外がどこにも記録されないまま処理されている可能性を先に疑ってください。
数えた結果を社内へ報告する段になると、着手前の記録が残っていないことに気づく場合があります。前と後をどう並べて書くかは業務改善報告書の書き方(着手する前に決めておく数え方)にまとめました。始める前に読んでおくと、あとで測り直さずに済みます。
来週の一歩:担当2人に、同じ業務を書き出してもらう
最初にやるのは会議ではありません。同じ業務を担当している2人に、いまのやり方を書き出してもらいます。所要は30分ほどで、書式は工程と自分がやっていることの2列で足ります。
2枚を並べると、違っている行が数行だけ見つかります。その数行が、そのまま今回決めるべきことの一覧です。全体を眺めてから範囲を決めようとすると着手が遅れますが、この順番なら来週のうちに1つ目が決まります。決まったものから、標準に乗らない案件の扱いを足していってください。
よくある質問
業務標準化と業務効率化はどう違いますか?
目指している状態が違います。業務標準化は、誰がやっても同じ結果になる状態をつくることです。業務効率化は、同じ結果をより少ない手間で出すことです。順番としては標準化が先になります。人によってやり方が違う状態のまま道具を入れると、誰の手順に合わせて設定したのかが説明できなくなり、合わなかった人が元のやり方に戻ります。標準が決まっていれば、どこを速くするかを絞り込めます。
標準化してはいけない業務はありますか?
判断そのものが商売の中身になっている業務は、手順として固定しないほうがうまくいきます。価格をいくらにするか、例外的な取引条件を飲むかどうか、顧客ごとの交渉の進め方などです。ただし、判断を固定しないことと、記録を残さないことは別の話です。誰が決めたか、何を根拠にしたかは残す形にしておくと、後から基準を作り直せます。
少人数の会社でも業務標準化は必要ですか?
人数が少ないほど、1人が抜けたときの影響が大きく出ます。ただし、大きな会社と同じやり方は向きません。全業務を対象にした棚卸しから始めると、通常の仕事が回らなくなります。くり返し起きていて、担当が休むと止まる業務を1つ選び、そこだけ標準を決めるほうが最後まで進みます。範囲を狭くすることが、少人数の会社での進め方です。
マニュアルを作れば業務標準化になりますか?
マニュアルは標準化の結果を文書にしたものなので、それだけでは足りません。どの業務を対象にするか、標準に乗らない案件をどう扱うか、誰が標準を直すかが決まっていないと、文書は作った時点から古くなります。逆に、この3つが決まっていれば、文書は簡単なもので構いません。まず決めて、決まったことだけを書く順番にしてください。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI内製化(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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