SalesDock ロゴSalesDock
業務改善

業務設計とは|業務フロー・運用設計との違いと、形骸化させない進め方6ステップ

20分で読める

この記事のポイント

業務設計とは、手順を並べる作業ではなく、誰が・何を・どの順で・何を基準に決めるかを先に決めること。設計が形骸化するのは書き方が悪いからではなく、例外の扱いと更新する人が決まっていないから。ツールを選ぶのは設計の後半でよい。

業務設計という言葉は、業務フロー図を描くこととほぼ同じ意味で使われることが多い。ただ、実際に現場へ入って詰まりを直していくと、図が無いから止まっているケースはあまり無い。止まっているのは、誰が決めるのかが決まっていない場所と、例外が来たときの逃がし方が決まっていない場所だ。

この記事では、業務設計を「図を描く作業」から切り離して整理する。用語の違い、始める前に決めておくこと、進め方の6ステップ、フレームワークの使い分け、ツールを決める順番、そして設計が形骸化する理由まで扱う。中小企業の業務とデータをつなぐ支援をしている立場で書いているので、大企業の標準化プロジェクトを前提にした話は出てこない。専任の担当者がいない会社が、通常業務を回しながらどこまでやるか、という前提で書く。

業務設計とは—「誰が・何を・どの順で・何を基準に決めるか」を先に決めること

業務設計とは、ある業務が現場で実際に回るように、その構造をあらかじめ決めておく作業のことだ。構造という言葉が抽象的なので、中身を分解しておく。設計に含まれるのは、次の7つになる。

決める対象具体的に決めること抜けやすさ
1. 目的この業務は何を達成するためにあるか。無くすと誰が困るか高い
2. 範囲どこから始まり、どうなったら終わりか。前後の業務との境目高い
3. 担当と責任作業する人、決める人、承認する人、報告先
4. 順番工程の並び、並行してよい箇所、待ちが発生する箇所低い
5. 判断基準分岐のたびに何を見て決めるか。どこからが例外か最も高い
6. 情報扱うデータの項目、入力する人、見る人、置き場所高い
7. 測り方うまく回っているかを何の数字で確認するか最も高い

よく作られるのは4番の順番だけを表した図で、その図を配って終わりになる。だが現場で人が止まるのは、たいてい5番の判断基準と6番の情報だ。この案件は例外扱いにしてよいのか、この金額なら上長の承認が要るのか、この数字はどこを見れば正なのか。順番の図には答えが書かれていないので、結局いつもの人に聞くことになる。

もうひとつ抜けやすいのが7番の測り方だ。設計した時点では良し悪しを判断する材料が無いので、うまくいっているかどうかは体感で語られることになる。体感は人によって違うので、改善したのかどうかで議論が割れる。何をもって回っているとみなすかまで含めて決めて、はじめて設計と呼べる。効果の測り方は業務改善の費用対効果の測り方で計算の仕方まで整理しているので、数字の置き方に迷う場合はそちらも見てほしい。

業務設計と業務フロー・運用設計・業務改善はどう違うか

この4つは会議のなかで混ざりやすい。混ざったまま話すと、誰かは図の話をしていて、誰かは日々の当番の話をしていて、噛み合わないまま時間が過ぎる。先に整理しておく。

用語扱う対象問いの形
業務設計業務が回るときの構造そのものどう組み立てるか
業務フロー設計を図で表した成果物どう見せるか
運用設計決めた形を維持するための決めごとどう保つか
業務改善いま回っているものの不具合どう直すか

業務フローは設計そのものではなく、設計の表現

業務フロー図は、設計した内容のうち順番と分岐を図にしたものだ。共有と合意形成には強い。全員で同じ紙を見ながら、この矢印はおかしいと言える。ただし図に載るのは順番と分岐までで、なぜその分岐なのか、誰の権限で決まるのか、どこからが例外なのかは載せきれない。詰め込むと読めない図になる。

つまり図は要約であって、設計の本体は別にある。図を描いたのに何も変わらなかったという話をよく聞くが、たいていは図の出来ではなく、その手前の決めごとが決まっていないだけだ。図の書き方そのものは業務フロー図のテンプレートと書き方で製造業を例にまとめている。記法や粒度の目安が要る場合はそちらを参照してほしい。

運用設計は、決めた形を保つための決めごと

業務設計が「正しく回るときの形」だとすると、運用設計は「その形を明日以降も保つ仕掛け」になる。誰がいつ点検するか、アカウントと権限は誰が管理するか、障害や例外が起きたらどこへ上げるか、設計を直すときは誰の承認が要るか。地味だが、ここが無い設計は数か月で実態と離れる。

順番としては業務設計が先、運用設計が後だ。ただし後回しにしてよいという意味ではなく、業務設計の最後に運用設計へ引き渡すところまでを一続きの作業として計画したほうがよい。引き渡しが無い設計は、作った人が異動した瞬間に止まる。

業務改善との違いは、出発点が現状か目的か

業務改善は、いま動いているものの不具合を直す活動だ。出発点は現状にあり、時間がかかっている工程、ミスが出る工程、二度手間になっている工程を見つけて潰していく。範囲が限定されるぶん着手しやすく、効果も見えやすい。

業務設計の出発点は目的にある。この業務は何のためにあり、どういう形なら達成できるのかを先に置いて、そこから逆算して組み立てる。現状の工程が全部無くなることもある。改善が引き算だとすると、設計は組み直しに近い。

どちらが優れているという話ではなく、使いどころが違う。工程単位の詰まりなら改善で足りる。人が増えた、拠点が増えた、扱う商材が変わった、担当者が辞める見込みがある、といった前提そのものの変化には、改善を積み重ねても追いつかない。改善を何度もやったのに毎回別のところが詰まる、という状態は、設計をやり直す合図だと考えている。

業務設計を飛ばしてツールから入ると何が起きるか

中小企業でよく見るのは、業務設計をしないままツールを決める流れだ。展示会や紹介で良さそうな製品に出会い、導入を決め、設定を始めた段階でようやく、自社の業務がどうなっているのか誰も説明できないことに気づく。

このとき起きることは、だいたい次の4つに分かれる。

その1:ツールの形に業務が寄る 製品ができることに合わせて業務を変える。それ自体は悪くないが、無自覚にやると、これまで人が挟んでいた確認や判断が理由も分からないまま消える。しばらくして、抜けたはずの確認が必要だったと分かる。

その2:例外だけが手作業で残る 標準的な案件はツールに乗るが、例外はどこにも定義されていないのでExcelとメールに残る。結果として、ツールと手作業の二重管理になり、以前より工数が増える。

その3:入力されない項目が増える 誰が何のために入力するかを決めずに項目を作ると、埋まらない列が並ぶ。埋まらない列があるデータは集計に使えず、やがて誰も見なくなる。

その4:設定の担当者に業務が貼りつく 設計が文書として残っていないため、なぜその設定なのかが担当者の記憶にしか無い。ツールを入れて属人化を解消するつもりが、設定という新しい属人化が生まれる。

4つに共通しているのは、決めていない箇所が製品の初期設定や現場の即断で自動的に埋まっていくことだ。決めなかったものは無くなるのではなく、誰かが黙って決めている。後から掘り返すと、なぜそうなっているのかを説明できる人がいない。

だから順番として、業務設計はツール選定より前に置く。ただし設計を完璧に終えてから選定するという意味ではない。後述するが、必要なのは業務の流れと判断基準、扱う情報の項目が固まっている状態までで、そこから先はツールに寄せて構わない。

業務設計を始める前に決める3つのこと

いきなり書き出しに入る前に、3つだけ決めておく。ここが曖昧なまま進めると、途中で議論が発散して終わらなくなる。実際、止まるプロジェクトの原因はほぼこの3つのどれかにある。

1. 目的—何が達成されたら成功と呼ぶか

効率化したい、という言い方では設計できない。効率化の中身が、時間を減らすことなのか、ミスを減らすことなのか、担当者を増やせるようにすることなのか、社長の確認を減らすことなのかで、設計はまるで別物になる。時間を減らす設計とミスを減らす設計は、しばしば逆方向を向く。確認を増やせばミスは減るが時間は増えるからだ。

おすすめは、達成条件を一文で書いてしまうことだ。たとえば、担当者以外でも一次対応を返せる状態にする、月末の締め作業を翌月3営業日以内に終える、といった形にする。目的が一文で書けないうちは、まだ着手しないほうがよい。

2. 範囲—どこからどこまでを設計するか

範囲を決めないまま始めると、話がどこまでも広がる。受注の話をしていたはずが、気づけば採用と評価制度の話になっている。会社全体の設計は一度にはできないので、開始のきっかけと終わりの状態で区切る。

区切り方の例を挙げると、問い合わせが入ってから初回提案を出すまで、契約が決まってから請求書を出すまで、月初から月次締めが終わるまで。前後を切ると、途中で情報が部署をまたぐ箇所が見えてくる。設計で一番価値が出るのは、この受け渡しの部分であることが多い。

3. 決める人—誰が最終的に判断するか

設計を進めると、必ず意見が割れる場面が来る。現場は今のやり方を残したいと言い、管理側は揃えたいと言う。どちらの言い分にも理由があるので、話し合いだけでは決まらない。決める人が最初に決まっていないと、この時点で止まる。

中小企業なら、決める人は経営者か事業責任者になることが多い。重要なのは、その人が会議に出るかどうかではなく、割れたときに決めるのはこの人だと全員が知っていることだ。合わせて、決める人は何を根拠に決めるのかも先に共有しておくと、現場が納得しやすい。

業務設計の進め方【6ステップ】

ここからが本体になる。順番には意味があるので、飛ばさずに進めたほうが結果的に早い。

ステップ1:現状をありのまま書き出す

最初にやるのは、いま実際に起きていることの書き出しだ。理想形から描き始めたくなるが、そこから入ると、現場が普段使っている迂回路と例外処理が設計から丸ごと抜ける。抜けたまま新しい形を配ると、現場は元のやり方に戻る。

聞き出すときに効くのは、手順を説明してくださいではなく、直近の1件を最初から最後まで再現してくださいという頼み方だ。一般化して説明されると滑らかな手順になるが、実際の1件を追うと、途中で電話をかけていたり、別のファイルを見に行っていたり、上長に確認していたりする。そこが設計対象になる。

対象業務の一覧づくり自体に迷う場合は、業務棚卸しのやり方に手順をまとめている。設計に入る前段として、何が存在しているかを並べる作業だと考えてもらえればよい。

ステップ2:詰まっている場所を特定する

書き出した流れを見て、どこで止まっているかを探す。探す観点は3つでよい。待ちが発生している箇所、同じ情報を二度以上入力している箇所、特定の人にしか判断できない箇所。

このうち見落とされやすいのが待ちだ。作業時間は意識されるが、承認待ちや返信待ちの時間は誰の工数にも計上されないので、報告に出てこない。ところが実務のリードタイムは、待ちの合計で決まっていることが多い。作業を速くするより、待ちを減らすほうが効くケースは珍しくない。

ステップ3:判断基準を言葉にする

設計の中心はここだ。分岐のたびに、何を見て、どう決めているのかを言葉にする。ベテランは自分が判断していることに気づいていないので、そのまま聞いても出てこない。質問を当てる形にする。

質問1:この工程で迷ったことがあるのはどこですか 迷った場所には必ず基準がある。基準が無ければ迷いようがない。記憶をたどってもらうと、本人の中の基準が言葉になる。

質問2:誰かに確認したことがあるのはどこですか 確認が要る箇所は、自分だけでは決められない箇所だ。つまり他の人も同じ場所で止まる。誰に確認したかまで聞けば、承認経路の設計にもそのまま使える。

質問3:この工程を飛ばすと何が起きますか 省略できない理由を聞く質問。答えが出てこない工程は、本当に不要かもしれない。答えが出る工程は、設計上いちばん守るべき箇所になる。

引き出した基準は、条件と行動の形にそろえる。もしこうなら、こうする。この形にしておくと、後で読み返せるし、チェックリストにも、システムの入力ルールにも変換しやすい。一次対応の言葉づかいまで揃える例は、入居者対応を標準化する手順で不動産管理を題材に書いている。業種は違っても、判断基準を条件と行動に分解する考え方は同じだ。

ステップ4:情報の項目と置き場所を決める

業務は情報を受け取り、加工し、次に渡すことで進む。だから、どういう情報が流れるのかを決めないと設計は完成しない。決めるのは、項目名、入力する人、入力するタイミング、見る人、置き場所の5つだ。

ここで効くのが、ひとつの事実は一箇所でしか編集できないようにする、という原則だ。同じ数字が複数の場所で更新できると、どちらが正なのか分からなくなる。よくあるのは、案件の金額が営業のスプレッドシートと経理の台帳の両方にあり、少しずつずれていく状態だ。どちらが正かを決めて、もう片方は参照だけにする。

項目を増やしすぎないことも大事だ。あったら便利という理由で作られた項目は埋まらない。埋まらない項目が並ぶと、そのデータ全体の信頼が落ちる。判断に使わない項目は作らない、くらいの厳しさでちょうどよい。

ステップ5:例外の扱いを決める

設計が現場で壊れるのは、ほぼ例外のところだ。標準的な流れは誰でも書けるし、書けば回る。問題は、標準に乗らない案件が来たときにどうするかが決まっていないことにある。

決めるべきことは3つある。どこからが例外か、例外は誰が判断してよいか、例外の記録をどこに残すか。特に3つ目を決めておくと後で効く。例外の記録が溜まると、それは設計を直すための材料になる。同じ例外が月に何度も出ているなら、それはもう例外ではなく、設計に取り込むべき標準だ。

逆に、例外を一切許さない設計にすると現場は必ず迂回する。迂回は記録に残らないので、設計者からは順調に回っているように見える。見えない迂回が増えている状態は、設計が壊れている状態よりたちが悪い。

ステップ6:測り方と、直す仕組みを決める

最後に、うまく回っているかどうかを何で確認するかを決める。ステップ1で決めた目的に対応する数字をひとつ選ぶ。時間を減らす目的なら、開始から完了までの日数。ミスを減らす目的なら、差し戻しの件数。担当を広げる目的なら、その業務を実行できる人の数。

数字は少ないほうがよい。たくさん測ると集計が業務になってしまい、本末転倒になる。ひとつかふたつに絞って、既存の記録から自動的に取れるものを選ぶ。取るために新しい入力作業を増やす指標は、たいてい半年で誰も出さなくなる。

合わせて、設計を直すきっかけも決めておく。定期的に見直しましょうという約束はまず守られないので、業務側の出来事に紐づける。例外が月3件を超えたら見直す、担当が交代したら見直す、扱う商材が増えたら見直す。イベントに紐づけたほうが続く。

業務設計のフレームワークは、どれをいつ使うか

業務設計の解説では、いくつかのフレームワークが並べて紹介されることが多い。ただ、並べられても使い分けが分からないと現場では使えない。用途で整理しておく。

道具何に効くか使うステップ
SIPOC業務の入口と出口、関わる相手を1枚で押さえる。範囲決めに使う1
5W1H工程ごとの抜けを機械的に潰す。特に「誰が」の抜けを見つける1〜3
ECRS工程を無くす・まとめる・順番を替える・簡単にするの順で検討2
RACI実行者・責任者・相談先・報告先を分ける。承認の詰まりに効く3
スイムレーン図部署をまたぐ受け渡しを可視化する。待ちの発見に強い2〜4

中小企業で実際によく効くのは、ECRSとスイムレーン図の2つだと感じている。ECRSは順番が重要で、無くせないかを先に検討する点に価値がある。多くの現場は、いきなり簡単にする、つまり効率化から入ってしまい、そもそも不要だった工程を上手にこなす形に落ち着く。無くす、まとめる、順番を替える、簡単にする。この順で当てると、消える工程が意外とある。

スイムレーン図が効くのは、部署をまたぐ受け渡しが見えるからだ。ひとつの部署の中だけを見ていると業務は速く見えるのに、全体では遅い。その差は受け渡しの待ちに溜まっている。図にすると、レーンをまたぐ矢印の数がそのまま待ちの回数になるので、議論の的が絞れる。

一方で、フレームワークを全部使う必要はまったくない。道具が増えるほど、設計そのものより道具を埋める作業に時間が流れる。専任がいない会社では、ひとつかふたつに絞ったほうが最後まで終わる。

ツールを決めるのは、業務設計のどの段階か

結論としては、ステップ4が終わった時点でよい。つまり、業務の流れと判断基準、扱う情報の項目と権限が決まったところだ。この状態になっていれば、ツール選定は要件との照合作業になる。逆にここが決まっていないと、選定はデモの印象と価格の比較になる。

照合に使う材料は、そう多くない。必要な項目が保持できるか、権限を分けられるか、いま使っている他のシステムと情報を受け渡せるか、例外の案件を扱えるか、運用の変更を自社で行えるか。この5つが確認できれば、たいていの判断はつく。

それから、設計の全部をツールに載せようとしないほうがよい。載せるのは繰り返し発生し、判断基準が言語化できている部分だけで十分だ。頻度が低い業務や、判断がまだ固まっていない業務は、人が回したほうが速いし、変更にも強い。全部を載せようとした結果、導入が長期化して途中で止まるケースを何度も見ている。

AIを組み込む場合も考え方は同じで、順番が変わるわけではない。判断基準が言葉になっていない業務にAIを当てても、出力の良し悪しを評価できない。評価できないものは運用に乗らない。先に判断基準を言葉にしておけば、AIに任せる範囲と人が見る範囲の線も引ける。

業務設計が形骸化する5つの理由

せっかく作った設計が使われなくなる。これは書き方の問題ではなく、ほぼ構造の問題だ。よく見る5つを挙げる。

理由1:理想から作られていて、現場の実態が入っていない

きれいな流れが書かれているが、実際の案件はそこを通らない。現場は例外のほうが多いことを知っているので、最初から自分のやり方で進める。設計は最初の日から使われていない。

理由2:例外の扱いが決まっていない

標準に乗らない案件が来たときの行き先が無いので、その場の判断で処理される。処理は記録されないため、次に同じことが起きても再現できない。例外が積み重なると、設計は標準案件だけの飾りになる。

理由3:更新する人と権限が決まっていない

最初の変更が起きた時点で、誰も直さない。直したい人に権限が無かったり、権限がある人が現場を知らなかったりする。設計と実態が一度ずれると、以降は誰も見なくなる。

理由4:作った人が現場にいない

外部が作って納品した設計や、本部だけで作った設計は、現場からするとやらされているものになる。書かれた通りにやらない理由を説明する場も無いので、静かに無視される。

理由5:測り方が決まっておらず、守る意味が説明できない

設計どおりにやると何が良くなるのかが数字で示せないと、忙しいときに真っ先に省かれる。省いても何も起きないなら、それが正しい判断だとみなされる。

5つを裏返すと、形骸化しない設計の条件が出てくる。現場の実態から作り、例外の逃がし方を決め、更新する人と権限を決め、現場の人が作る側に入り、守る意味を数字で説明できること。この5つが揃っていれば、多少書き方が雑でも設計は生き残る。

同じ構造はマニュアルでも起きる。書かれているのに使われない資料をどう作り替えるかは、営業マニュアルの形骸化の直し方で扱っている。更新される形にするという論点は、設計にもそのまま当てはまる。

設計を運用へ引き渡す—定着までが業務設計

設計書ができた時点では、まだ何も変わっていない。現場の動きが変わってはじめて設計が効いたことになる。引き渡しで決めることは4つある。

ひとつめは、いつから新しい形にするかだ。全業務を一斉に切り替えるより、対象を絞って先に始めたほうがよい。ひとつの部署、ひとつの商材、ひとつの拠点。うまくいかなかったときに戻せる範囲にしておく。

ふたつめは、進行中の案件をどう扱うかだ。切り替え時点で走っている案件を新しい形に載せ替えるのか、終わるまで旧来のやり方で通すのか。ここを決めないと、しばらくのあいだ二つのやり方が混在し、どちらが正か分からない期間が生まれる。

みっつめは、詰まったときの窓口だ。新しい形で進めていて分からなくなったとき、誰に聞けばよいかが決まっていないと、現場は前のやり方に戻る。最初の1か月だけでも、聞き先を明示しておく。

よっつめは、最初の一巡で出た違和感を回収する経路だ。実際にやってみると、設計時には見えなかった不便が必ず出る。それを言える場が無いと、不便のまま我慢するか、黙って迂回するかのどちらかになる。一巡した時点で、詰まった箇所を集めて設計に反映する。ここまでやって、業務設計はひと区切りになる。

中小企業では誰が業務設計を担うか

専任の業務改革担当がいる会社はまれだ。現実には、経営者か、管理部門の責任者か、現場のできる人が通常業務の合間にやることになる。それぞれに向き不向きがある。

経営者がやると、決めるのが速い。意見が割れても止まらないし、部署をまたぐ設計も通しやすい。一方で現場の細部が見えないので、実態から離れた設計になりやすい。現場の人と組むのが前提になる。

現場のできる人がやると、実態には合う。ただし、その人自身が例外処理の中心にいることが多く、自分の判断を言葉にするのが難しい。加えて、部署をまたぐ変更を決める権限が無いので、自分の担当範囲の中で最適化して終わりやすい。

管理部門の責任者は、両方の中間にいる。数字と実務の両方が見えるので、設計を任せるには一番向いていることが多い。ただ、日常の締め作業に追われていて時間が取れないことがほとんどなので、期間を区切って業務を外す判断が要る。

どのパターンでも共通して要るのは、決める人が別に立っていることだ。設計を進める人と、割れたときに決める人は分けたほうがよい。兼ねると、現場との合意形成のたびに自分で自分の案を通す形になり、納得が得られにくい。外部を入れる場合も、外部が決めるのではなく、外部は選択肢と論点を出し、決めるのは社内、という形が続く。

なお、そもそも何から手をつけるかで迷って何か月も動けていない場合は、設計に入る前に着手の順番を決めるところから始めたほうがよい。対象をひとつに絞り、目的を一文で書き、決める人を立てる。この3つが埋まっていれば、少なくとも動き出せる。

まとめ—業務設計は一度で完成しない

業務設計とは、誰が・何を・どの順で・何を基準に決めるかを先に決める作業だ。決める対象は7つで、目的、範囲、担当と責任、順番、判断基準、情報、測り方。このうち順番は書きやすいので必ず書かれるが、判断基準と情報と測り方は抜けやすい。抜けたところは、後から誰かが黙って決めることになる。

進め方は6ステップ。現状をありのまま書き出し、詰まりを特定し、判断基準を言葉にし、情報の項目と置き場所を決め、例外の扱いを決め、測り方と直す仕組みを決める。ツール選定を入れるのは4番目が終わってからでよい。

最後にひとつ。業務設計は一度作って終わる作業ではない。人が増えれば決め方が変わるし、扱う商材が変われば流れも変わる。だから完成度を上げることより、直せる状態にしておくことのほうが効く。誰が、どのきっかけで、どこを直すのか。それが決まっている設計は、多少荒くても長く使われる。逆に、きれいに作り込まれていて誰も直せない設計は、半年後には誰も開かない資料になる。

よくある質問

業務設計とは何ですか?

業務設計とは、ある業務が誰の手で、どういう順番で、何を基準に判断されながら進むのかを、あらかじめ決めておく作業です。作業手順を並べることだと思われがちですが、手順は設計の一部にすぎません。設計に含まれるのは、業務の目的、範囲、担当と責任、判断基準、扱う情報の形と置き場所、例外が起きたときの逃がし方、そして結果をどう測るかまでです。手順だけを決めて判断基準を決めないと、書いた本人以外は動けない資料になります。

業務設計と業務フローの違いは何ですか?

業務フローは業務設計の成果物のひとつで、設計そのものではありません。フロー図は仕事の流れを図で表したもので、順番と分岐は見えますが、なぜその分岐なのか、誰が決めるのか、判断の基準は何かまでは図の上に書き切れません。設計はその図の背後にある決めごとの集合で、フロー図はそれを共有するための表現手段です。図を描いたのに現場が変わらない場合、多くは図が悪いのではなく、その手前の決めごとが決まっていません。

業務設計と運用設計はどう違いますか?

業務設計は、業務が正しく回るときの形を決める作業です。運用設計は、その形を日々維持し続けるための決めごとで、誰がいつ点検するか、権限やアカウントを誰が管理するか、障害や例外が起きたときにどこへ連絡するか、更新は誰の権限で行うかといった内容が入ります。順番としては業務設計が先で、運用設計は後です。ただし業務設計を運用設計へ引き渡さないと、設計は数か月で実態と乖離します。

業務設計はどこから手をつければよいですか?

対象業務をひとつに絞って、現状のありのままを書き出すところからです。理想形から描き始めると、現場が実際にやっている迂回路や例外処理が設計から抜け落ちます。範囲は、開始のきっかけと終わりの状態で区切るのがおすすめです。たとえば問い合わせが入ってから初回提案を出すまで、というように前後を切ると、関係する部署と情報の受け渡しが自然に見えてきます。

業務設計にツールやシステムはいつ関わりますか?

設計の後半、業務の流れと判断基準、扱う情報の項目が決まってからです。ツールを先に決めると、そのツールでできることに業務が寄っていき、本来必要だった判断が省かれることがあります。逆に、必要な情報の項目と権限、入力する人と見る人が決まっていれば、ツール選定は要件との照合作業になります。選定にかかる時間も、導入後の作り直しも減ります。

業務設計をしても形骸化してしまうのはなぜですか?

多くは、設計が現場の実態ではなく理想から作られたこと、例外の扱いが決められていないこと、更新する人と権限が決まっていないことの3つが原因です。特に更新の主体が決まっていない設計は、最初の変更が起きた時点で実態と食い違い、以降は誰も見なくなります。設計と一緒に、誰がどのきっかけで直すのかまで決めておくと、形が残ります。

業務設計をどこから始めるか迷っている方へ

SalesDockは、経営・営業・業務・データのつなぎ目を設計し、現場で回る事業基盤づくりを支援している。自社のどこから設計し直すべきかを知りたい場合は、まず現在地を確認してみてほしい。

無料で診断する →

泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。

代表メッセージを読む →

NEXT STEP

業務・判断・データの詰まりを、3分で整理

自動化やシステム導入の前に、自社が先に整える場所を確認できます。