スタッフがすぐ辞めるクリニックの原因—辞める理由は給料より「仕組み」にある
スタッフがすぐ辞めるクリニックの原因の結論
給料を上げる前に、仕事の割り振り・教え方・不満の受け止め方という仕組みを見直します。
- すぐ辞めるクリニックに共通するのは、業務範囲の曖昧さ・OJT頼みの教育・不満を言う場がないことの3つ
- 公的統計でも、辞めた理由は給料より労働条件や人間関係が上に来る
- 3つとも院長の決め方で変えられる。業務分担表・月1回の1on1・退職面談の質問から始める
スタッフがすぐ辞めるクリニックの原因は、多くの場合、給料ではなく仕組みにある。誰が何をやるかが決まっていない、新人教育がベテラン任せ、不満を院長に伝える場がない。この3つが重なると、真面目な人から先に辞めていく。
「うちは給料が安いから仕方ない」と考える院長は多い。しかし公的な統計を見ても、仕事を辞めた理由として給料より上に来るのは労働条件と人間関係だ。そしてどちらも、院長自身が来週から手を付けられる。
スタッフがすぐ辞めるクリニックに共通する5つのサイン
まず自院に当てはまるかを確かめる。次の5つは、どれも院長が意識しないと表に出てこない。
- 業務分担表がない。受付・電話・在庫・清掃・クレーム対応が「気づいた人がやる」で回っている。
- 新人教育が特定のベテラン任せ。教える内容と順番が、教える人とその日の忙しさで変わる。
- 院長とスタッフが1対1で話す場が決まっていない。「何かあったら言って」で止まっている。
- 退職理由が「一身上の都合」のまま残っている。辞めた人に何が足りなかったかを聞いていない。
- 辞めた人の仕事を、残った人の残業で埋めている。負担が次の退職を呼ぶ。
複数当てはまるなら、給料より先に仕組みを見直す余地が大きい。以下で、統計と現場の両面から理由を分けて説明する。
クリニックのスタッフ離職率データ — 医療・福祉と全産業の比較
厚生労働省「令和6年雇用動向調査」によると、2024年1年間の離職率は「医療,福祉」が13.8%、産業計が14.2%。医療・福祉だけが特別に高いわけではない。就業形態別に見ると、医療・福祉の一般労働者は13.1%、パートタイム労働者は15.7%だった。
ただしこの数字は病院・介護施設を含む業界全体の平均で、この概況には診療所だけの値は載っていない。5人のクリニックで1人辞めれば、その年の離職率は20%になる。小さな組織ほど1人の退職で数字が大きく動くので、業界平均と比べるより、自院の数字を毎年同じ式で数えるほうが役に立つ。
自院の離職率の出し方(雇用動向調査と同じ考え方)
1年間に辞めた人数 ÷ その年の1月1日時点で在籍していた人数 × 100
出典・一次情報
- 令和6年雇用動向調査結果の概況(厚生労働省) — 表4-2 産業、就業形態別離職率/表5 転職入職者が前職を辞めた理由別割合
調査は常用労働者5人以上の事業所が対象で、毎年更新されます。最新の数値は公表元でご確認ください。
1人辞めたときのコストを自院で数える
退職の損失は、求人費だけでは終わらない。金額は地域・職種・採用経路で大きく変わるので、次の4つを自院の実費で数えてみてほしい。
| 項目 | 数え方 | 見る資料 |
|---|---|---|
| 求人広告費 | 後任募集で使った媒体の実費 | 媒体の請求書 |
| 紹介会社の手数料 | 契約の料率 × 採用した人の年収 | 紹介会社との契約書 |
| 教える側の時間 | 新人に付いた時間 × 教えた人の時給 | 勤務表 |
| 欠員中の残業代 | 欠員期間に増えた残業時間 × 時給 × 割増率 | 勤怠記録 |
一度数えておくと、「離職を防ぐ仕組み」にどこまで時間を使ってよいかを院長が判断できる。
「給料が安いから辞める」は本当か? — 辞める理由の統計
院長に「スタッフが辞めた理由は?」と聞くと、給料を挙げる人が多い。しかし同じ令和6年雇用動向調査で、転職した女性が前の職場を辞めた理由を見ると、給料は上位ではない。クリニックのスタッフは女性が多いので、参考になる数字だ。
「その他の個人的理由」を除くと、最も多いのは「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%、次が「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%。「給料等収入が少なかった」は8.3%で、その下にある。全産業の数字でクリニックに限った値ではないが、「給料さえ上げれば辞めない」とは言えないことが読み取れる。
労働条件と人間関係は、クリニックの中では「誰に仕事が寄っているか」「誰がどう教えているか」「不満をどこで言えるか」として現れる。次の章で、この3つを仕組みの問題として分けて見ていく。
スタッフが辞める3つの構造的原因
原因1:業務範囲が不明確 — 「気づいた人がやる」文化
小規模クリニックでは「業務分担表」が存在しないことが多い。受付、電話対応、在庫管理、清掃、患者のクレーム対応——全てが「気づいた人がやる」暗黙ルールで回っている。
結果どうなるか。責任感が強い人にばかり仕事が集中する。「私ばかりやっている」という不公平感が蓄積する。一方で、やらない人は「自分の仕事じゃない」と思っている。院長はこのギャップに気づかない。気づいたときには退職届が出ている。
原因2:教育がOJT頼み — ベテランの機嫌次第
新人教育を「ベテランスタッフに任せる」クリニックは多い。しかし、ベテランにも自分の業務がある。忙しい日は「見て覚えて」で終わる。教え方もベテランの性格やその日の機嫌に左右される。
新人は「何がわからないかもわからない」状態が続く。質問しても「前にも言ったよね?」と返される。やがて新人は「ここでは成長できない」と判断して辞める。教える順番と確認する項目を1冊にまとめておけば、防げた退職だ。
原因3:不満を伝える仕組みがない — 1on1もアンケートもない
「何かあったら言ってね」と院長は思っている。しかし、スタッフからすれば「院長に直接不満を言う」のは退職覚悟のアクションだ。日常的に不満を吸い上げる仕組みがなければ、スタッフの不満は地下水のように溜まり、ある日突然退職届として噴出する。
1on1面談も匿名アンケートもなければ、院長は「うちは雰囲気がいい」と思い込み、スタッフは「もう限界」と感じている——このギャップが離職を生む。
来週からできる3つのアクション
ここまでが原因の話です。院長の立場で何をどの順で手を打つかはスタッフがすぐ辞めるクリニック—離職率を下げるために院長ができる3つのことに分けてまとめています。負担そのものを減らす具体策としては、受付の紙作業を止めるのが効きます。紙の問診票をまだ手入力?—クリニックの問診デジタル化で受付時間を半分にする方法が入口として取り組みやすいはずです。
アクション1:業務分担表を1枚作る
ExcelやGoogleスプレッドシートで十分だ。以下のようなシンプルな表を1枚作って、スタッフ全員に共有する。
| 業務 | 主担当 | 副担当 | 頻度 |
|---|---|---|---|
| 電話対応 | Aさん | Bさん | 毎日 |
| 在庫発注 | Bさん | Cさん | 週1回 |
| 清掃 | 交代制 | — | 毎日 |
| クレーム一次対応 | Cさん | 院長 | 随時 |
| レセプト準備 | Aさん | Bさん | 月末 |
ポイントは「副担当」を必ず設定すること。主担当が休んでも業務が止まらない。そして「誰がやるかが明確になっている」だけで、不公平感は大幅に減る。
アクション2:月1回15分の1on1を始める
院長とスタッフが1対1で話す時間を月1回、15分だけ設ける。診療後の15分で十分。話す内容はシンプルに3つだけ。
質問1:今月、仕事で困ったことはあった?
質問2:業務の中で「もっとこうしたい」と思うことはある?
質問3:他に何か伝えておきたいことはある?
重要なのは「聞く姿勢」。アドバイスや反論はしない。まずは聞く。それだけで「院長は自分の話を聞いてくれる」という安心感が生まれる。退職の前兆を早期にキャッチする効果もある。
アクション3:退職面談で「本当の理由」を聞く質問リスト
既に辞めたスタッフの退職理由は、次の離職を防ぐための最も貴重なデータだ。ただし、退職面談で「なぜ辞めるのか」と直球で聞いても本音は出てこない。以下の質問を使う。
質問1:入職前のイメージと実際のギャップはどこにあった?
質問2:「これがあったら続けられた」と思うことはある?
質問3:後任の人に「ここだけは気をつけて」と伝えるなら何?
質問4:うちのクリニックを友人に勧められるか?正直に教えてほしい。
この質問リストで集めた回答を3件分蓄積すれば、クリニックの構造的な問題が見えてくる。同じ理由が2回出たら、それは個人の問題ではなく仕組みの問題だ。
まとめ:「人」の問題ではなく「仕組み」の問題
スタッフがすぐ辞めるクリニックの共通点は、「業務範囲が曖昧」「教育が属人的」「不満を吸い上げる仕組みがない」の3つだ。これらは全て、院長の意思決定で変えられる。
業務分担表を1枚作る。月1回15分の1on1を始める。退職面談の質問リストを用意する。3つとも新しいツールは要らない。必要なのは「仕組みで解決する」という院長の決定だけだ。
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よくある質問
スタッフがすぐ辞めるクリニックの原因は?
多くは給料より仕組みの問題です。業務範囲が曖昧で「気づいた人がやる」状態、新人教育がベテラン任せのOJT頼み、不満を院長に伝える場がないことの3つが重なると、負担の大きい人から辞めていきます。厚生労働省「令和6年雇用動向調査」でも、女性の転職入職者が前職を辞めた理由は、「その他の個人的理由」を除くと「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%、「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%が、「給料等収入が少なかった」8.3%を上回っています(全産業)。
クリニックの離職率はどれくらい?
厚生労働省「令和6年雇用動向調査」では、2024年の「医療,福祉」の離職率は13.8%で、産業計の14.2%とほぼ同じ水準です。この概況には診療所だけの値が載っていないため、1年間に辞めた人数を1月1日時点の在籍人数で割って、自院の離職率を毎年同じ式で数えることをおすすめします。
スタッフがすぐ辞めるのを防ぐには、何から始めればいい?
業務分担表を1枚作って主担当と副担当を決める、月1回15分の1on1で困りごとを聞く、退職面談の質問リストで辞める理由を記録する、の3つから始めます。どれも新しいツールを買わずに来週から始められます。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI自走プラン(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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