クリニックでスタッフが辞め続ける本当の原因 — 「給料」じゃなく「仕組み」の問題
この記事のポイント
スタッフ退職の原因は給料より「業務の不透明さ」「教育の属人化」「院長への不満が言えない構造」。仕組みで変えられる。来週からできる3つのアクション付き。
「また辞めるの?」——採用してもすぐ辞める。引き継ぎもままならないまま次の求人を出す。小規模クリニックの院長なら、この繰り返しに心当たりがあるはずだ。
「うちは給料が安いから仕方ない」と思っていないだろうか。実はスタッフが辞める本当の理由は、給料ではない。業務の仕組みに問題がある。そしてそれは、院長自身が来週から変えられるものだ。
クリニックのスタッフ離職率データ — 医療業界の平均と比較
厚生労働省の調査によると、医療・福祉業界の離職率は約12〜15%。全産業平均の約14%と大差ないように見えるが、これは大病院を含んだ平均値だ。
問題は小規模クリニック。スタッフ5名以下の医院では離職率が20%を超えるケースも珍しくない。5人中1人が毎年辞める計算になる。
スタッフ1人が辞めたときのコスト
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 求人広告費(Indeed・ジョブメドレー等) | 15〜30万円 |
| 紹介会社の手数料(年収の20〜30%) | 50〜80万円 |
| 教育期間の生産性低下(3ヶ月) | 30〜50万円 |
| 残ったスタッフの残業代増 | 10〜20万円 |
| 合計 | 100〜180万円 |
1人辞めるたびに100〜180万円。年間2人辞めれば200〜360万円。これは看護師1人の年収に匹敵する金額だ。「離職を防ぐ仕組み」は、もはや経営課題そのものと言える。
「給料が安いから辞める」は本当か? — 退職理由の構造
院長に「スタッフが辞めた理由は?」と聞くと、多くの場合「給料に不満があったんじゃないか」と答える。しかし、実際の退職理由はまったく違う構造になっている。
| 順位 | 実際の退職理由 | 割合 | 院長の認識 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 人間関係・職場の雰囲気 | 33% | 5位 |
| 2位 | 業務負担の偏り・過重 | 25% | 3位 |
| 3位 | 教育体制の不備 | 18% | 4位 |
| 4位 | 給与・待遇への不満 | 15% | 1位 |
| 5位 | キャリアアップの見通し | 9% | 2位 |
院長は「給料」と「キャリア」が上位だと思っているが、実際は「人間関係」「業務負担」「教育不足」が上位3つを占める。つまり、給料を上げても離職は止まらない。構造を変える必要がある。
スタッフが辞める3つの構造的原因
原因1:業務範囲が不明確 — 「気づいた人がやる」文化
小規模クリニックでは「業務分担表」が存在しないことが多い。受付、電話対応、在庫管理、清掃、患者のクレーム対応——全てが「気づいた人がやる」暗黙ルールで回っている。
結果どうなるか。責任感が強い人ほど仕事が集中する。「私ばかりやっている」という不公平感が蓄積する。一方で、やらない人は「自分の仕事じゃない」と思っている。院長はこのギャップに気づかない。気づいたときには退職届が出ている。
原因2:教育がOJT頼み — ベテランの機嫌次第
新人教育を「ベテランスタッフに任せる」クリニックは多い。しかし、ベテランにも自分の業務がある。忙しい日は「見て覚えて」で終わる。教え方もベテランの性格やその日の機嫌に左右される。
新人は「何がわからないかもわからない」状態が続く。質問しても「前にも言ったよね?」と返される。3ヶ月後、新人は「ここでは成長できない」と判断して辞める。教育のマニュアルが1冊あれば防げた退職だ。
原因3:不満を伝える仕組みがない — 1on1もアンケートもない
「何かあったら言ってね」と院長は思っている。しかし、スタッフからすれば「院長に直接不満を言う」のは退職覚悟のアクションだ。日常的に不満を吸い上げる仕組みがなければ、スタッフの不満は地下水のように溜まり、ある日突然退職届として噴出する。
1on1面談を定期的にやっているクリニックは少数派。匿名アンケートも実施していない。結果、院長は「うちは雰囲気がいい」と思い込み、スタッフは「もう限界」と感じている——このギャップが離職を生む。
来週からできる3つのアクション
アクション1:業務分担表を1枚作る
ExcelやGoogleスプレッドシートで十分。以下のようなシンプルな表を1枚作って、スタッフ全員に共有する。
| 業務 | 主担当 | 副担当 | 頻度 |
|---|---|---|---|
| 電話対応 | Aさん | Bさん | 毎日 |
| 在庫発注 | Bさん | Cさん | 週1回 |
| 清掃 | 交代制 | — | 毎日 |
| クレーム一次対応 | Cさん | 院長 | 随時 |
| レセプト準備 | Aさん | Bさん | 月末 |
ポイントは「副担当」を必ず設定すること。主担当が休んでも業務が止まらない。そして「誰がやるか明確になっている」だけで、不公平感は大幅に減る。
アクション2:月1回15分の1on1を始める
院長とスタッフが1対1で話す時間を月1回、15分だけ設ける。診療後の15分で十分。話す内容はシンプルに3つだけ。
質問1:今月、仕事で困ったことはあった?
質問2:業務の中で「もっとこうしたい」と思うことはある?
質問3:他に何か伝えておきたいことはある?
重要なのは「聞く姿勢」。アドバイスや反論はしない。まずは聞く。それだけで「院長は自分の話を聞いてくれる」という安心感が生まれる。退職の前兆を早期にキャッチする効果もある。
アクション3:退職面談で「本当の理由」を聞く質問リスト
既に辞めたスタッフの退職理由は、次の離職を防ぐための最も貴重なデータだ。ただし、退職面談で「なぜ辞めるのか」と直球で聞いても本音は出てこない。以下の質問を使う。
質問1:入職前のイメージと実際のギャップはどこにあった?
質問2:「これがあったら続けられた」と思うことはある?
質問3:後任の人に「ここだけは気をつけて」と伝えるなら何?
質問4:うちのクリニックを友人に勧められるか?正直に教えてほしい。
この質問リストで集めた回答を3件分蓄積すれば、クリニックの構造的な問題が見えてくる。同じ理由が2回出たら、それは個人の問題ではなく仕組みの問題だ。
まとめ:「人」の問題ではなく「仕組み」の問題
スタッフが辞め続けるクリニックの共通点は、「業務範囲が曖昧」「教育が属人的」「不満を吸い上げる仕組みがない」の3つだ。これらは全て、院長の意思決定で変えられる。
業務分担表を1枚作る。月1回15分の1on1を始める。退職面談の質問リストを用意する。この3つに必要な投資はゼロ円。必要なのは「仕組みで解決する」という院長の意思だけだ。
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泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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