AI 人手不足解消の事例5選|宿泊・製造・警備・小売・清掃の公的事例と進め方
AIに任せた作業と、浮いた人の回し先を実例で見る
AI 人手不足解消の事例5選の結論
AIで人手不足を解消した事例は、業種よりも「どの作業を手放したか」で読むと自社に移しやすくなります。この記事では5社の課題・AIに任せた作業・公表された成果を、公的事例集の記載どおりに整理します。
- 中小機構の公的事例集「省力化ナビ」に掲載された実在5社の事例では、AIに任せたのはよくある質問への回答・型式の確認・映像の監視・汚れの判定など、範囲の決まった作業だけ
- 成果は「人を減らした」ではなく、朝夕の2名を接客へ回す、定期清掃の人手を約3分の2にするなど、今いる人の使い道を変えた形で出ている
- 自社で試すなら、手放す作業を1つに絞り、AIの判定を人が確かめる形にし、浮いた人の行き先まで先に決める
日本商工会議所・東京商工会議所が2023年に中小企業3,120社から回答を得た調査では、「人手不足」と答えた企業が68.0%で、2015年の調査開始以降で最も高くなりました。採用だけでは埋まらない穴を、AIでどう埋めるか。ここでは公的な事例集に載った実在企業の取り組みから、その答えを探します。
出典・一次情報
制度・統計・事例の掲載内容は更新されます。最新の情報は公表元でご確認ください。
この記事は、AIで人手不足を解消した実在企業の事例を扱います。自社で業務を選ぶ手順や効果の測り方は人手不足にAIをどう使う?中小企業が業務を減らす5つの実践パターン、AI導入の全体像は中小企業のAI導入 完全ガイドをご覧ください。
AIで人手不足を解消した5事例の一覧
中小企業基盤整備機構の「省力化ナビ」は、業種ごとの省力化事例をまとめた公的な事例集です。2026年9月25日時点で掲載されている84事例から、AIを使って人手不足に対応した5件を選びました。いずれも社名・所在地・従業員数・成果が公開されています。
小売と清掃の2社は従業員が数千人規模で、成果の大きさをそのまま中小企業に当てはめることはできません。ただ、「AIに何を任せ、人に何を残したか」という設計は会社の規模に関係なく参考になるため、あわせて紹介します。
事例1:宿泊業(従業員12人)— AIチャットボットで問い合わせ対応を減らし、朝夕の2名を接客へ
事例1|宿泊業
株式会社FIKA(東京都・宿泊業・従業員12人)
課題:外国人宿泊客への対応と翻訳がスタッフの大きな負担になっていた。メールや電話の問い合わせに時間を取られて接客に人を割けず、教育の時間も確保できないため対応が属人化し、クレームも起きていた。
AIに任せたこと:多言語に対応したAIチャットボットを導入し、フロントや予約に関するよくある質問への回答をAIに任せた。
公表された成果:
- 問い合わせ対応の時間を減らし、スタッフ1人あたり最大180分の業務軽減
- 朝夕のピーク時に常駐していた2名を、接客や館内業務へ再配置
- 回答の一貫性が保たれ、クレームの件数が減少
読みどころ:従業員12人の小さな宿でも、「よくある質問」という範囲の決まった仕事から始めている。浮いた2名の行き先(接客・館内業務)まで決めていたのが、人手不足の解消につながった点。
事例2:製造業(従業員125人)— AI搭載の画像センサで型式の目視確認をなくす
事例2|製造業
群馬合金株式会社(群馬県・非鉄金属ダイカスト製造業・従業員125人)
課題:ダイカスト製品には形の似た部品が多く、人の見間違いで製品を取り違え、異品の納入につながっていた。生産数量などのマシン情報は作業者が手書きの日報で提出しており、外国人の従業員も多いため記載の誤りが見られた。
AIに任せたこと:AIを搭載したカメラ(画像センサ)で型式を識別し、それまで目視だった型式確認を自動で正誤判定するようにした。あわせて、マシンのデータを直接出力する自社製の生産実績モニタで手書き日報をなくした。
公表された成果:
- 型式の自動判別で型式間違いをなくし、顧客トラブルを未然に防止
- 手書き日報の入力が不要になり、生産実績の管理を自動化
- 人の作業を減らしてデータ化し、正確でタイムリーな実績管理が可能に
読みどころ:AIに任せたのは「似た部品を見分ける」という、人が疲れや慣れで間違えやすい確認作業。AI単体ではなく、手書き日報をなくすデータの流れと組み合わせている。
事例3:警備業(従業員380人)— 行動認識AIで定点監視の一部を代替
事例3|警備業
東海警備保障株式会社(愛知県・警備業・従業員380人)
課題:大型施設は死角が多く、有害な事象にすぐ気づけないことが多かった。監視カメラを増やしても全画面をリアルタイムには見られず見逃しが出るうえ、長時間の定点監視(立哨)は心身の負担が大きかった。
AIに任せたこと:既設の監視カメラを利用できる行動認識AIを導入(条件あり)。侵入・暴力行為・長時間の滞留・転倒などを検知し、防災センターだけでなく巡回中の携帯電話にもアラートを送る。
公表された成果:
- 人による定点監視の一部をAIで代替
- 事象に気づいて現場に介入するまでの時間が大幅に短縮し、警戒対象の見逃しもほぼゼロに
- 監視や調査に必要な人員を減らし、業務負担とコストが減少
読みどころ:「全部の画面を人が見続ける」をやめ、AIが知らせたときだけ人が動く形に変えている。判断と現場対応は人に残したまま、見張りの時間を減らした例。
事例4:小売業 — AIチャットボットで店舗から本部への問い合わせを自動化
事例4|小売業
株式会社エコス(東京都・食品スーパー・従業員2,948人)
課題:店舗従業員からの業務に関する問い合わせが多く、本部スタッフの仕事がたびたび中断されていた。同じ内容の問い合わせが多くの店舗から届き、本部スタッフのいない早朝・深夜にも開店・閉店作業の問い合わせがあった。
AIに任せたこと:AIが作った回答案を前もってチャットボットに登録し、あえて一問一答で動かすことで回答内容に責任を持てるようにした。お客様向け、店舗従業員向け、本部の部門マニュアル用など、用途別に複数のボットを電子マニュアルと連動させて稼働。
公表された成果:
- 利用はお客様が月平均650件、店舗従業員が月平均230件
- 店舗従業員からの業務に関する問い合わせ件数が大きく減少
- 対応手順の誤りによるトラブルが減り、担当者が不在でも業務が止まらなくなった
読みどころ:従業員数は大きい会社だが、仕組みは中小企業でも移しやすい。AIには回答案づくりまでを任せ、公開する回答は人が確かめて登録する。誤回答の不安を、運用の設計で抑えている。
事例5:清掃業 — AI画像診断で定期清掃の人手を約3分の2に
事例5|ビルメンテナンス業
株式会社JR東日本環境アクセス(東京都・ビルメンテナンス業・従業員約3,400人)
課題:スタッフの高齢化と採用難が続くなか、汚れがたまっていない場所でも決まった周期で清掃する契約のため、定期清掃に人手と時間がかかっていた。広い床のごみ取りのような単純作業にも人手をかけていた。
AIに任せたこと:きれいな状態で撮影した写真と比べて汚れ具合をAIが判定する画像診断ツール(自社開発のスマホアプリで撮影し、A判定などのランクで表示)を導入。単純作業には清掃ロボットを使った。
公表された成果:
- 品質を前提にした契約へ見直し、定期清掃の場所と時期を大幅に見直し
- 定期清掃にかかる人手を従来の約3分の2に
- 単純作業をロボットに任せ、人はトイレなど細かな品質が求められる作業へ
読みどころ:AIの役割は「どこを掃除すべきか」を客観的に決めること。やらなくてよい作業を見つけたうえで、残った仕事の中身を人に合わせて配分し直している。
AIで人手不足を解消した5事例に共通する3つの条件
業種も規模も違う5社ですが、進め方には共通点があります。
- 1. 手放す作業を1つに絞っている — よくある質問、型式の確認、映像の監視、汚れの判定。いずれも「何ができれば完了か」がはっきりした作業です。業務全体をAIに置き換えようとした事例はありません。
- 2. AIの判定を人が確かめる形にしている — 警備ではAIが知らせたときに人が現場へ向かい、小売ではAIが作った回答案を登録してから一問一答で動かしています。最終的な判断と責任は人に残しています。
- 3. 浮いた人の行き先を決めている — 宿泊では朝夕の2名を接客と館内業務へ、清掃では人を細かな品質が求められる作業へ回しました。行き先を決めずに時間だけ浮かせても、現場の人手不足感は変わりません。
自社でAIによる人手不足解消を試す順番
事例をそのまま真似るより、自社の業務で同じ3つの条件を満たす作業を探すほうが確実です。
- 1. 人が足りずに止まっている作業を書き出す — 問い合わせの返答待ち、確認待ち、担当者の不在で止まる作業など。1週間分を記録すると、くり返し発生している作業が見えます。
- 2. その中から「範囲が決まっていて、人が確かめられる」作業を1つ選ぶ — 回答の正解がある質問、見本と比べられる判定などが候補です。価格・契約・苦情対応のように人の判断が必要な作業は、最初の対象にしません。
- 3. 導入前の時間と件数を測っておく — 対応件数、1件あたりの時間、確認や修正にかかった時間を記録します。確認の時間を含めないと、本当に楽になったかが分かりません。
- 4. 浮いた時間で誰に何をしてもらうかを先に決める — 接客、品質の確認、新人の教育など。ここが決まっていると、導入後の効果を現場も実感しやすくなります。
業務の選び方と効果の測り方は「人手不足にAIをどう使う?」、費用の考え方は「AI導入費用の実態」、使える補助金は「AI導入で使える補助金まとめ」で詳しく扱っています。
まとめ
- 公的事例集に載った5社は、AIに範囲の決まった作業を1つだけ任せ、判断と現場対応は人に残している
- 成果は「人を減らした」よりも、朝夕の2名を接客へ回す、定期清掃の人手を約3分の2にするなど、人の使い道を変えた形で出ている
- 自社で試すなら、止まっている作業を書き出し、1つに絞り、導入前の数字と浮いた人の行き先を先に決める
よくある質問
中小企業の人手不足にAIは本当に効果がありますか?
効果は業務の選び方で決まります。この記事で紹介した5事例はいずれも、よくある質問への回答、型式の確認、カメラ映像の監視、汚れ具合の判定など、範囲の決まった作業だけをAIに任せています。人の判断が必要な接客・現場対応・最終確認は人に残し、浮いた時間を別の仕事に回したことで、人を増やさずに業務を回せるようになっています。
AIで人手不足を解消するのに、どのくらいの費用がかかりますか?
費用はツールの種類と、既存データや設備をそのまま使えるかで大きく変わります。今回参照した公的事例集には導入費用が記載されていないため、この記事では金額を示していません。費用の考え方はAI導入費用の記事を、補助金は制度ごとに対象と補助率が異なるため公募要領を確認してください。
AIを導入したら社員を減らさないといけませんか?
減らす必要はありません。紹介した宿泊業の事例では朝夕の2名を接客や館内業務へ再配置し、清掃業の事例では単純作業をロボットに任せて人を細かな品質が求められる作業へ回しています。人手不足の会社にとってAIは、今いる人を顧客対応や品質に直結する仕事へ移すための手段として使われています。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI自走プラン(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
代表者情報を読む →この記事の数値について
本文中に一次資料へのリンクがある数値は、リンク先を出典としています。 リンクのない業務設計、判断基準、実務上の目安は、SalesDockが累計40社以上の支援と自社運用で得た知見を一般化したものです。 個別企業での成果を保証する数値ではなく、条件によって変わります。
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