社労士とAI|社労士の仕事はなくなる?AIに渡せる業務と、社労士に残る業務
社労士と、社労士に頼んでいる会社の人事・労務担当に向けて、法律の線引きと業務の分け方から考えます。
執筆:泉 款太(株式会社SalesDock 代表取締役)累計40社以上の中小企業を支援

結論
入退社手続き、就業規則、労務相談を一覧にし、連絡文はAIへ任せる、書類案は社労士が確認して確定する、事実関係の聞き取りは社労士が行う、というように担当を区切ります。そのうえで所要時間を記録すると、最初に試す業務を選べます。
- 社会保険労務士法第27条により、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成や帳簿書類の作成を、他人の求めに応じて報酬を得て業とできるのは、原則として社労士と社会保険労務士法人に限られます(他の法律に別段の定めがある場合などの例外があります)。AIが普及しても、この立場が変わるわけではありません。
- AIに移っていくのは、手続きの下書き、規程と法改正の突き合わせ、問い合わせへの回答案のような作業です。書類を作る作業時間で価値を説明してきた事務所ほど、仕事の中身を見直す必要があります。
- 顧問先の会社側は、AIの前に休暇や勤怠のルールを文書にしておくことが先です。詳しくは記事の終わり近くで触れます。
この記事は社労士の業務とAIの関係を扱います。税理士・行政書士を含む士業全体の使い方は士業のためのAI顧問活用、行政書士については行政書士の仕事はAIに奪われる?で扱っています。
報酬を得て申請書等を作る立場は、法律上、社労士に限られています。手続き書類の下書きや規程の突き合わせのような作業はAIに移ると考えられ、社労士の時間は事実関係の判断や顧問先との対話に寄っていくでしょう。この記事では、その線引きを法律の条文から確かめ、事務所で何から始めるかを説明し、最後に顧問先の会社側が先にやることを短く扱います。
AIで社労士の仕事はなくならないが、書類を作るだけの仕事は変わる
結論から書くと、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成や帳簿書類の作成などを業として行ってはならない、と社会保険労務士法第27条が定めています(他の法律に別段の定めがある場合などの例外があります)。AIが書類の文面を作れるようになっても、その書類を報酬と引き換えに作る立場は法律で決まっています。ただし、AIの普及で業務量がどうなるかや、会社が自社の手続きとして内製するかまでは、この条文は決めていません。同じように資格が前提の仕事での分け方は行政書士の仕事はAIに奪われる?でも整理しています。
ただし、独占なのは申請書等の作成と帳簿書類の作成までです。労務に関する相談や指導は、社労士でない人も行えます。そのため、相談対応の部分は、AIや他のサービスと比べられやすい領域です。
「社労士はなくなる」と言われる理由と、実際に変わること
なくなりません。減るのは作業で、残るのは判断と責任です。「社労士 AI なくなる」と調べる人がいるのは、AIが書類の下書きまで作れるようになり、書類を作って出すだけの作業が不要になると感じられるからだと考えられます。電子申請の入力も、AIの下書きも、内容が会社の実態に合っているかを確かめる人が要ります。減っていく作業と残る仕事を分けて見るのが、この記事の考え方です。
なお「士業の代替確率」のような数字が紹介されることがありますが、この記事では出典を確認できた法令の範囲だけで書いています。数字を見るよりも、事務所の業務のどこが下書きに向くかを自分の目で確かめるほうが役に立ちます。
社労士事務所の業務を「AIに渡す・下書きさせる・残す」に分ける
社労士事務所にAIを入れるとき、最初にやることはツール選びではありません。業務を一つずつ取り出して、どこまでをAIに寄せられるかを決めることです。下の表は、顧問契約で手続き・規程・相談を扱う事務所でよくある業務を3つに分けた例です。
業務ごとの分け方の例
| 業務 | AIに寄せられる部分 | 社労士に残る部分 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 入退社・変更の手続き | 必要書類のチェックリスト、顧問先への依頼文、届出内容の入力ミスや日付の食い違いの点検 | 手続きの要否と提出する書類への責任 | 下書き |
| 月次の問い合わせ対応 | よくある質問への回答案、法改正の要点の要約 | 顧問先の事情に合わせた回答の確定 | 下書き |
| 就業規則・賃金規程 | 改定箇所の洗い出し、現行規程と法改正の突き合わせ、条文案のたたき台 | その会社の運用と実態に合うかの判断、労使の合意の進め方 | 下書き |
| 労務相談(解雇・ハラスメント等) | 論点の整理、判例や通達の下調べの補助 | 事実関係の聞き取りと、リスクと進め方の判断 | 残す |
| 給与計算・勤怠の確認 | 勤怠データの異常値の洗い出し、計算結果の突き合わせ | ルールの解釈と、例外の扱いの確定 | 下書き |
| 顧問先への連絡・月次報告 | 連絡文や月次報告の下書き、期限のリマインド | 伝え方の判断が要る連絡 | 渡す |
| 行政機関の調査・紛争対応 | 経緯の時系列整理 | 主張や陳述の方針、代理人としての対応 | 残す |
社労士事務所の業務は、AIに任せて社労士があとで目を通すだけの業務(表の「渡す」)、AIに作業の大部分を任せて社労士が確かめて確定する業務(表の「下書き」)、社労士が自分で判断する業務(表の「残す」)の3つに分けられます。事実関係の聞き取りと、リスクを踏まえた進め方の判断は、3つめの社労士が自分で判断する業務に置きます。生成AIは古い法改正や別の制度の運用をもっともらしく答えることがあり、そのまま使うと手続きの誤りや、顧問先への誤った案内につながるからです。
顧問先の従業員情報を生成AIに入れる前に決めておくこと
ChatGPTのような生成AIを事務所で使うとき、最初に引っかかるのが顧問先の情報の扱いです。社会保険労務士法第21条は、開業社会保険労務士と社会保険労務士法人の社員に、業務に関して知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らしたり盗用したりしない義務を課し、その資格でなくなった後も同様としています。生成AIに入力するのが事務所の職員であっても、使用人その他の従業者として第27条の2が同じ秘密保持の義務を課し、従業者でなくなった後も同様です。給与や病歴、家族の情報は、顧問先の従業員にとって特に知られたくない情報です。
個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、個人情報を含むプロンプトを生成AIに入れるときの確認を求めています。顧問先の従業員の情報を預かる社労士事務所では、事務所が預かる目的の範囲を超えて入力していないかを、入力する前に確かめる必要があります。案件の受付票に、AIへ渡す目的、除く項目、照合する法令や届出様式、最終確認者を記録します。たとえば入社手続きの依頼文を作るだけなら、従業員本人の氏名や個人番号を入力せず、不足書類の種類だけで下書きできます。
ルールの作り方は生成AIの社内ルールの作り方にまとめています。決める項目は社労士事務所でもほぼ同じです。
AIを入れる前に、1週間だけ業務ごとの作業時間を測る
「AIで楽になるか」は、いま何に時間を使っているかが分からないと判断できません。社労士事務所で最初にやるべきなのは、1週間分の作業記録を取ることです。1人で開業している事務所でも、職員がいる事務所でも同じ方法で測れます。
記録の取り方
顧問先ごとに、手続き、相談への回答、規程の確認、月次の連絡のどれに何分使ったかを書きます。紙でもスプレッドシートでも構いません。同じ種類の業務(たとえば入社手続き)が複数あれば、1件あたりの平均を出しておきます。
最初に手をつける作業の選び方
1週間の記録から、合計時間が最も長かった定型業務を選びます。入社手続きのたびに不足書類の案内を書き直しているなら、その案内文が候補です。AIには案内文だけを作らせ、届出の要否と提出内容は社労士が確定する分担で4週間試します。
効果を見る数字
- 1件あたりの作業時間:同じ種類の業務で、受付から完了までに使った時間を比べます。
- 差し戻し・訂正の回数:AIの下書きを使い始めてから、行政機関や顧問先から直しを求められる回数が増えていないかを見ます。増えていれば、確認の手順が足りていません。
- 顧問先への返答までの日数:問い合わせから回答までの日数が短くなったかを見ます。
試行後の1週間も同じ項目を記録し、初週と比べます。受付から完了までの時間が変わらなければ、AIの原案を修正した時間を切り出し、職員が一から書く場合より短くなったかを確かめます。
どの業務から手をつけるかを決めたい方へ
3分の診断で、いまの業務の回し方とAIを入れる順番の目安が分かります。作業記録の取り方や、ルールの文書化の進め方を相談したい場合も、診断の結果から予約できます。
3分の診断を受けるAIの時代に社労士が伸ばしたい力
事実関係を聞き取り、リスクを踏まえて進め方を決めることは、AIが論点を整理しても最後は社労士が決めます。解雇やハラスメントのような相談は、法律の条文より、その会社で何があったかの聞き取りで結論が変わります。就業規則も、条文のたたき台はAIが作れますが、その会社の運用に合うか、従業員にどう説明するかは人が決める仕事です。
もう一つは、AIの答えを確かめる力です。通達や法令の原文に当たって正誤を判断できる人が、事務所の中でAIを安全に使う役になります。AIを使わない社労士より、AIの下書きを確かめて直せる社労士が、浮いた時間を顧問先との対話に回せます。AIの導入全体の進め方は中小企業のAI導入 完全ガイドにまとめています。
顧問先の会社側で、AIの前に決めておくこと
ここからは、社労士に頼んでいる会社の人事・労務担当に向けた話です。支援の現場では、AIや勤怠システムを入れる前に、休暇や勤怠のルールが文書になっていない会社に出会うことがあります。
- ルールが文書にない:ある中小企業では、勤怠システムに休暇の付与を組み込もうとして、先にルールを文書にする話になりました。有給の付与月は人ごとに違い、自社基準の休暇もありましたが、まとまった資料がありませんでした。
- 拠点ごとにルールが違う:多くの拠点を持つ法人では、勤怠管理の要望はありましたが、拠点ごとに運用が違い、雇用契約書の整備も追いついていなかったため、最初のシステム化の範囲から外しました。ルールがそろっていない領域は、無理にAI化せず後に回す判断もあります。
経理と労務を少人数で回す本部にAIの利用状況を聞くと「調べ物には使っている」との答えで、日々の仕訳や書類作成で使っている業務はありませんでした。AIを「調べ物に使っている」だけの会社は、日々の仕訳や書類作成といった業務で使っているわけではありません。労務で調べ物止まりにしないためには、休暇の付与や締めの手順を文書にして、AIに渡せる形にすることが最初の一歩です。
SalesDockは、こうした業務の構造を先に文書にし、経営管理の仕組みとして定着させるところまでを月額で支援しています。業務の書き出し方は業務の棚卸しのやり方に、勤怠を外部サービスで運用する場合の選び方はネットで勤怠を管理する3つのルートにまとめています。
一次情報・公式情報
制度は改定されます。最新の情報は公表元でご確認ください。
社労士とAIのよくある質問
社労士はAIでなくなる仕事ですか?
社会保険労務士法第27条は、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者が、他人の求めに応じて報酬を得て、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成や帳簿書類の作成などを業として行うことを禁じています(他の法律に別段の定めがある場合などの例外があります)。つまり、報酬を得て申請書等を作る立場は、AIが普及しても社労士に限られます。そのうえで、手続きの下書きや規程の突き合わせのような作業はAIに移ると考えられるため、書類を作る作業そのものを価値としてきた事務所ほど、仕事の中身を見直す必要があります。
顧問先の従業員情報をChatGPTに入れてもよいですか?
顧問先から預かった従業員情報を、そのまま入力する前提にはしません。入退社の届出、傷病手当金、給与計算では、下書きに必要な項目が異なります。案件ごとにAIへ渡す必要がある項目だけを選び、氏名、住所、個人番号など本人を直接特定できる情報を外します。項目を外しても内容から本人が分かる場合や、顧問先から預かった目的の範囲を超える場合は入力しません。社会保険労務士法第21条と第27条の2の秘密保持義務、個人情報保護委員会の注意喚起に沿って入力可否を決め、出力は根拠資料と突き合わせて社労士が確定します。
1人で開業している社労士でも、AIで効果が出る業務はありますか?
あります。最初は、入社手続きで不足している書類の案内や、顧問先へ送る月次連絡の下書きのような定型業務を1つ選びます。受付から送付までの時間と、社労士が直した箇所を1週間記録し、所要時間が短くなり、訂正も増えていなければ次の業務へ広げます。労務相談への回答や手続きの要否を決める業務から始めないことが大切です。
会社の人事・労務担当は、社労士に任せずAIだけで済ませられますか?
手続きの書類を作って提出する業務は、社労士に頼む場合もあれば自社の担当者が自社の手続きとして行う場合もあります。AIを使うかどうかより先に、休暇や勤怠のルールが文書になっているかが分かれ目です。ルールが文書にないまま、AIや勤怠システムに載せようとすると、設定の段階で止まります。
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泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI内製化(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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