ネットで勤怠を管理する3つのルート—社労士経由・自社で契約・自社開発の違い
先に結論
ネットで勤怠を管理する手段は、機能ではなく契約の相手で3つに分かれます。①顧問の社労士事務所から案内されるサービス、②提供元と直接契約するクラウド勤怠、③自社開発。どれを選ぶかは、給与計算を誰がやっているかでほぼ決まります。社労士事務所に任せているなら①、社内で回しているなら②から試すのが早い。③は①②を試してから出てくる選択肢です。
「ネットで勤怠」で調べると、検索結果に性質の違うものが混ざって出てきます。顧問の社労士事務所のサイトに載っている「ネットde就業」のようなサービス名、飲食チェーン向けの店舗管理システムの勤怠機能、そして自分で申し込めるクラウド勤怠。名前が似ているので、同じものの言い換えなのか別物なのかが分かりにくい状態になっています。
結論から言うと、別物です。ただし違いは打刻できる/できないではなく、誰と契約して、誰が設定と法改正の面倒を見て、勤怠の数字がどこへ渡るかにあります。この記事では、提供元の公式ページに書かれている内容と、厚生労働省のガイドラインの記載だけを根拠に、その3つのルートを並べて整理します。価格や仕様は改定されるので、最終判断は必ず提供元の公式ページで確認してください。
なお、「クラウド勤怠とは何か」「いくらかかるのか」という手前の話はクラウド勤怠とは何か—中小企業の費用・法令要件・つまずく場所に分けて書いています。この記事は、その次に来る「どのルートで入れるか」を扱います。
ネットで勤怠を管理する方法は、契約の相手で3つに分かれる
打刻をブラウザやスマホから行い、集計を自動でやる、という機能面はどのルートでもほぼ同じです。違いが出るのは運用に入ってからで、それは最初の契約の形で決まります。
| 比較項目 | ①社労士事務所経由 | ②提供元と直接契約 | ③自社開発 |
|---|---|---|---|
| 窓口 | 顧問の社労士事務所 | 提供元のサポート | 開発した相手 |
| 価格の見え方 | 公式ページに未掲載のものが多く、見積もりになる | 1人あたり単価を公式に出している製品がある | 個別見積もり |
| 設定の担い手 | 事務所側が担うことが多い | 自社 | 要件を出すのは自社 |
| 法改正への追随 | 提供元+事務所の助言 | 提供元 | 自社に残る |
| 給与計算への渡し方 | 同じ提供元の給与計算とつながる構成がある | 連携先を自社で選ぶ | 設計次第 |
| 自社ルールの表現 | 設定項目の範囲内 | 設定項目の範囲内 | 制約が外れる |
表の中で実務に一番効くのは、下から2行目の「給与計算への渡し方」です。勤怠は、集計した数字を給与へ渡して初めて仕事が終わります。ここが切れていると、月末に誰かが手で転記する作業が毎月残ります。
社労士事務所から案内される勤怠サービスとは何か
「ネットで勤怠」で検索したときに、社労士事務所のサイトが並ぶことがあります。あれは事務所が勤怠システムを自作しているのではなく、社労士事務所向けに提供されているサービスを顧問先に案内しているためです。
代表的なのが、株式会社エムケイシステムの「ネットde就業」です。公式ページでは「タイムカードに代わる勤怠管理システム」として、給与計算・賃金データと連携する位置づけで説明されており、社会保険労務士事務所向けに提供され、事務所がその顧問先企業へ渡す流通の形が示されています。同社の「社労夢給与計算」や、顧問先向けの「ネットde賃金」と組み合わせる構成です。
公式ページに書かれている具体的な内容は次の通りです(2026年8月13日時点)。
ネットde就業(エムケイシステム)の公式ページ記載
- 打刻は「PC・スマホ(GPS機能)・ICカード・指紋・静脈」の5種類から選択可能
- 時間外労働のアラート、各種申請の承認フロー、有給残数の表示
- 60日間の無料お試しの案内
- 料金の記載はなく、見積もり・相談は問い合わせ経由
このルートの良さは、勤怠の設定と法改正時の判断を、すでに自社の就業規則や給与を見ている相手が受け持つことです。就業規則の改定と勤怠の設定変更が同じ相手の頭の中でつながるので、変形労働時間制のような制度の話を自社で翻訳し直す手間が減ります。
弱さは、価格が並べて比べにくいことです。公式ページに単価が出ていないため、提示された金額が高いのか安いのかを自分で確かめる材料がありません。ここは、次に出す直接契約型の公表価格を基準に置くと判断しやすくなります。
提供元と直接契約するルートは、価格が公表されているぶん比較できる
自分で申し込めるクラウド勤怠は、公式ページに1人あたりの単価が出ているものがあります。たとえばKING OF TIMEは公式ページで「300円/1人(月額・税別)」「初期費用 0円」「30日間無料体験」と案内しています(2026年8月13日時点)。
この数字は、社労士事務所から提示された見積もりを読むときの物差しになります。上乗せぶんが何に対する対価なのか(設定の代行か、改正時の相談か、給与計算までの一体運用か)を聞けるようになります。差額を否定するためではなく、何を買っているのかを自分の言葉で言えるようにするためです。
直接契約型のなかにも、汎用型と業種特化型があります。業種特化型の例として、株式会社ジャストプランニングの「まかせてネットEX」は外食チェーン向けの店舗管理システムで、売上や発注と同じ画面の中に勤怠・シフト管理を持ち、静脈認証・顔認証・FeliCaなど複数の打刻方法に対応すると公式ページに記載があります。こちらは価格の記載がなく、見積もり依頼の形です。
つまり「価格が公表されている=直接契約型」ではありません。公表しているのは汎用型の一部で、業種特化型や事務所経由型は見積もりが基本、という分かれ方をしています。
どのルートを選ぶかは、給与計算を誰がやっているかで決まる
ここまでの違いを、実際の決め方に落とすと1つの問いになります。いま給与計算をやっているのは誰か。
判断のしかた
- 顧問の社労士事務所に給与計算まで任せている → ①事務所経由から検討する。勤怠だけ別のサービスで入れると、集計値を事務所へ毎月送る作業が新しく生まれる
- 社内で給与計算まで回している → ②直接契約から検討する。無料期間中に自社の勤務パターンを入れて試せるので、判断が早い
- 店舗ごとのシフトと売上をまとめて見たい → ②の業種特化型を候補に入れる。勤怠単体で選ぶと、シフトと売上が別画面に残る
- ①②を試して、自社ルールが設定項目に収まらなかった → ③を検討する。順番を飛ばして③から入るのはおすすめしません
勤怠と給与を別々のサービスにしても構いません。ただしその場合、間の受け渡しが誰の作業になるのかを先に決めておく必要があります。決めないまま入れると、月初の数日が毎月転記で埋まります。
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ネット経由の打刻に変えると、法令上は何が変わるのか
どのルートで入れる場合でも共通して確認しておくところがあります。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に書かれている内容です。ネット経由の打刻に変えることで満たしやすくなるものと、ツールを入れても自社に残るものが分かれます。
| ガイドラインの記載 | ネット経由の打刻にすると |
|---|---|
| 始業・終業時刻の確認・記録の原則的な方法として「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」(4(2)イ) | 客観的な記録が自動で残る。満たしやすくなる |
| 自己申告制を併用する場合、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など事業場内にいた時間の分かるデータを持っていて、自己申告との間に著しい乖離が生じているときは、実態調査を実施し所要の補正をすること(4(3)ウ) | 打刻データと申告のズレを確認して補正する作業は自社に残る |
| 賃金台帳に、労働者ごとの労働日数・労働時間数・休日労働時間数・時間外労働時間数・深夜労働時間数を適正に記入しなければならない(4(4)) | 勤怠から給与への受け渡し経路が必要になる |
| 出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類は、労働基準法第109条に基づき3年間保存しなければならない(4(5)) | 記録が提供元側にあるため、解約時の持ち出し方法を確認しておく必要がある |
3行目は見落とされやすいところです。ガイドラインは、賃金台帳への記入について労働基準法第108条および同法施行規則第54条を挙げ、記入していない場合や故意に虚偽の労働時間数を記入した場合は同法第120条に基づき30万円以下の罰金に処されるとしています。勤怠を入れる話は、打刻の便利さの話で終わらず、台帳側に数字が正しく渡るところまでが範囲だということです。
だから前の章の「給与計算を誰がやっているか」が判断の軸になります。法令が求めているのは打刻の仕組みではなく、記録と台帳がつながっている状態のほうです。
4行目も、契約の前に一度聞いておく価値があります。3年間の保存義務がある記録を提供元のサーバーに預ける形になるので、解約時にどの形式で出せるのかを書面で確認しておくと、後から困りません。
契約の前に確認する5つ
ルートが決まったら、次の5つを無料期間や見積もりの段階で確認します。順番に意味があります。
- 自社で一番面倒な勤務パターンを実際に登録する。平均的なパターンではなく、変形労働時間制、深夜や休日をまたぐシフト、直行直帰など、毎月手直しが出ているものを入れる
- そのパターンが追加入力なしで集計まで通るかを見る。通らない場合、その差を毎月誰が埋めるのかを確認する
- 集計値が給与計算側へどう渡るかを確認する。自動連携か、CSVの書き出しか、手入力か。手入力なら月あたり何時間かかるかまで見積もる
- 打刻手段が現場で使えるかを確認する。スマホを持たない従業員がいる、屋外で電波が弱い、といった条件は事前に洗い出す
- 解約時のデータ持ち出し方法を問い合わせる。3年間の保存義務がある記録なので、出せる形式を書面で確認しておく
1と2で引っかかる会社が多いです。逆に言えば、無料期間に平均的なパターンだけ試すと、導入後に一番困る場所を見つけないまま契約することになります。
3つ目のルート(自社開発)が出てくるのはどんなときか
ほとんどの会社は①か②で足ります。法改正の追随を提供元がやってくれて、人数課金なら月数千円から始められるので、これを自前で作る理由は基本的にありません。
③が出てくるのは、勤怠ルールそのものが会社の運営の一部になっている場合です。当社で医療・美容分野の医療法人向けに勤怠システムを開発した事例では、既製の勤怠ツールは入っていたものの、自社独自の勤怠ルールを製品側で表現できず、管理したい情報を項目として持てない状態が続いていました。結果としてツールの外で別管理が発生し、その差を運用側が毎月吸収し続けていました。
このケースでは、ツールに業務を合わせるのをやめて、自社のルールがそのまま乗る形で勤怠システムを開発しています。スマホからの打刻に対応し、申請から承認までを同じ場所で完結させました。他の事例は導入事例のページに置いています。
すでにkintoneなどのノーコード基盤を入れていて「ついでに勤怠も」と考えている場合は、記録と判定を分けて考える必要があります。この線引きはkintone 勤怠管理は向くのかに整理しました。Excelから何かに移すかどうかの判断基準はExcelでの管理、いつ卒業すべき?にあります。
出典・一次情報
- 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省)─ 4(2)イ 客観的な記録を基礎とした確認・記録、4(3)ウ 実態調査と補正、4(4) 賃金台帳の記入と第120条の30万円以下の罰金、4(5) 第109条に基づく3年間保存
- 「ネットde就業」(株式会社エムケイシステム)─ 社会保険労務士事務所向けの提供、打刻5種類(PC・スマホ〈GPS機能〉・ICカード・指紋・静脈)、60日間無料お試し、料金の記載なし
- 「クラウド勤怠管理でどこでも簡単・便利に」(KING OF TIME)─ 300円/1人(月額・税別)、初期費用0円、30日間無料体験
- 「まかせてネットの勤怠・シフト管理機能」(株式会社ジャストプランニング)─ 外食チェーン向け店舗管理システム、静脈認証・顔認証・FeliCaなどの打刻方法、料金の記載なし
取得日は2026年8月13日。価格・プラン構成・提供形態・法令の運用は変わります。判断の前に公表元でご確認ください。
まとめ
ネットで勤怠を管理する手段は、打刻できるかどうかでは分かれません。分かれるのは契約の相手で、①社労士事務所経由、②提供元と直接契約、③自社開発の3つです。①は設定と改正対応を任せられるかわりに価格が比べにくく、②は価格が公表されていて自分で試せるかわりに設定と運用が自社に残ります。
選ぶ順番は、給与計算を誰がやっているかで決めるのが確実です。厚生労働省のガイドラインが求めているのは打刻の仕組みそのものではなく、客観的な記録を残し、それを確認・補正し、賃金台帳へ正しく記入されている状態のほうです。勤怠と給与が切れているルートを選ぶと、その分の手作業が毎月残ります。
そのうえで、無料期間には自社の一番面倒な勤務パターンを入れて試してください。そこが通らず、補正作業が毎月まとまった時間になり、しかもそのルール自体が事業のやり方と結びついているなら、そこで初めて③の話が出てきます。最初から作る前提で考えるのはおすすめしません。
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よくある質問
ネットで勤怠を管理するには、何を契約すればいいですか
契約の相手は3つに分かれます。①顧問の社会保険労務士事務所から案内されるサービス(エムケイシステムの『ネットde就業』のように、社労士事務所向けに提供され、事務所が顧問先へ渡す形のもの)、②提供元と直接契約するクラウド勤怠(KING OF TIMEなど、公式ページに価格が出ているもの)、③自社の勤怠ルールが①②の設定項目に収まらない場合の自社開発です。給与計算を顧問の社労士事務所に任せているなら①が最短で、社内で給与計算まで回しているなら②のほうが安く始められます。
ネットde就業とは何ですか
株式会社エムケイシステムが提供している、タイムカードを置き換える形の勤怠管理サービスです。公式ページでは、社会保険労務士事務所向けに提供され、事務所がその顧問先企業へ渡す流通の形が示されています。同社の『社労夢給与計算』や顧問先向けの『ネットde賃金』と連携する構成です。打刻は「PC・スマホ(GPS機能)・ICカード・指紋・静脈」の5種類から選べると記載があり、60日間の無料お試しが案内されています。料金はこのページには掲載されておらず、問い合わせでの見積もりになります。
社労士から案内された勤怠サービスと、自分で契約するクラウド勤怠は何が違いますか
機能の差より先に効くのは、窓口と価格の見え方です。社労士事務所経由の場合、設定や法改正時の運用相談を事務所側が受け持ち、勤怠のデータがそのまま給与計算に渡ります。一方で料金は公式ページに出ていないことが多く、他社と並べて比較しにくい。直接契約型は公式ページに1人あたりの単価が出ているため比較でき、無料期間に自社で試せますが、設定と運用の担い手は自社に残ります。
ネット経由の打刻に変えれば、労働時間の把握は足りますか
記録を作るところまでは足りますが、確認する作業は残ります。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、始業・終業時刻の確認と記録の原則的な方法として「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」を挙げています。ネット経由の打刻はこの客観的な記録を自動で残す手段になりますが、記録を確認して補正する責任は使用者側に残ります。
打刻の記録はどれくらい保存する必要がありますか
3年間です。上記ガイドラインは「使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければならないこと」としています。ネット経由のサービスは記録が提供元のサーバー側にあるため、解約するときにどの形式で持ち出せるかを契約前に確認しておく必要があります。
勤怠と給与を別々のサービスにしても問題ありませんか
問題はありませんが、間の受け渡しが誰の作業になるかを決めておく必要があります。上記ガイドラインは、労働基準法第108条および同法施行規則第54条により、労働者ごとに労働日数・労働時間数・休日労働時間数・時間外労働時間数・深夜労働時間数を賃金台帳に適正に記入しなければならないとしており、記入していない場合や故意に虚偽の労働時間数を記入した場合は同法第120条に基づき30万円以下の罰金に処されるとしています。勤怠の集計値が毎月きちんと台帳側へ渡る経路を持っておくことが、ルート選びの判断材料になります。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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