不動産会社の物件入力に1日30分—AIで消せる時間の正体
この記事のポイント
物件入力の30分は年間125時間・コスト換算で数十万円。外注・採用・AI活用のコスト比較と、ツール導入の前にやるべき業務フローの構造化について整理した。
朝、出社してパソコンを開く。ポータルサイトの管理画面にログインして、新着物件の情報を入力する。所在地、面積、価格、設備情報、写真の登録。店長と手分けしながら、だいたい30分。これが毎朝のルーティンになっている不動産会社は少なくない。
たかが30分。でも、この30分が年間でどれだけの時間とコストになっているか、一度立ち止まって計算してみる価値はある。
物件入力の実態—時間とコストの見える化
営業日を年間250日とすると、1日30分の物件入力は年間125時間になる。営業担当が2人いれば250時間。丸10日以上の労働時間が、物件情報の入力だけに消えている計算だ。
不動産業界は慢性的な人手不足が続いている。2024年度の営業職の有効求人倍率は2.25倍で、前年から0.16ポイント上昇した(出典:厚生労働省 一般職業紹介状況)。若年層の8割超が不動産業界に「興味がない」と回答しているという調査結果もある(出典:不動産業界の担い手確保に関する実態調査レポート 2025年)。人が足りない中で、営業担当が入力作業に時間を取られている構造は、思った以上に重い。
この125時間を時給換算してみる。営業担当の人件費を時給2,500円とすれば、年間約31万円。2人なら62万円。「入力作業」という名前のコストが、目に見えないまま発生し続けている。
外注 vs AI自動化のコスト比較
この問題に対して、すでに動いている会社もある。実際にクラウドワークスやランサーズで物件入力を外注している不動産会社があり、月額10万円程度が相場になっている。入力作業の負担が、発注として表に出てきている証拠だ。
外注の場合、月10万円×12ヶ月で年間120万円。一方、事務員を1人採用する場合はどうか。中途採用の1人あたり平均採用コストは約80万〜100万円(出典:マイナビ 中途採用状況調査2025年版)。採用後の人件費は月額20万円以上。合計すると年間340万円を超える。
ここにAI活用という選択肢が出てくる。物件情報の入力・転記は、定型的なデータ処理の典型例だ。ポータルサイトへの入力、情報の転記、写真の整理—これらはAIやRPAで自動化しやすい領域になる。初期構築に数十万円、月額の運用費を数万円と見積もっても、外注の月10万円や事務員採用の月20万円超と比べれば、投資回収は早い。
| 手段 | 月額コスト | 年間コスト | 備考 |
|---|---|---|---|
| 営業担当が対応(2名) | 約5.2万円相当 | 約62万円 | 機会損失は別途 |
| 外注(クラウドソーシング) | 約10万円 | 約120万円 | 品質管理が必要 |
| 事務員採用 | 約20万円〜 | 約340万円〜 | 採用コスト含む |
| AI・RPA活用 | 約3〜5万円 | 約36〜60万円 | 初期構築費別途 |
なぜCRMが定着しないのか—本当の壁
不動産特化型のCRMは複数存在する。いえらぶCLOUD、nomad cloud、Mazrica Salesなど、選択肢は増えている。しかし、2025年の調査ではDXサービスを導入・検討している不動産会社のうち、CRMに取り組んでいるのは約30%にとどまる(出典:不動産業界のDX推進状況調査2025)。DX全体で見ても、33.6%の企業が「知識・経験不足」「人材不在」を理由に着手できていない。
DX年間予算が50万円以下の企業のうち80.8%が従業員10名以下という調査結果もある(出典:同調査)。つまり、中小の不動産会社ほどIT投資の余裕がなく、CRMどころか基本的なデジタル化すら進んでいないのが現実だ。
ただ、CRMが定着しない理由は予算だけではない。現場で感じるのは「初期設定の壁」だ。CRMは導入して終わりではなく、自社の業務フローに合わせて項目を設計し、データを整理し、運用ルールを決める必要がある。この「最初の設計」が面倒で、結局Excelに戻ってしまうケースが多い。
売上につながる業務改善の考え方
ここが一番大事なポイントだと思っている。業務効率化の提案だけでは、経営者の心は動きにくい。「30分の入力作業がなくなります」と言われても、「まあ、なんとかなってるし」で終わってしまう。
経営者が反応するのは、売上に直結する話だ。
たとえば、物件のキャッチコピー最適化。同じ物件でも、ポータルサイトに掲載するキャッチコピーの書き方で反響数は変わる。AIを使えば、過去の反響データから効果的な表現パターンを分析し、物件ごとに最適なキャッチコピーを提案できる。
整理すると、業務改善を経営者に提案するときの順番はこうなる。
- 売上インパクトから入る—「反響が増える」「成約率が上がる」
- コスト削減を添える—「月10万の外注費が月3万になる」
- 業務フローの構造化を提案する—「まず何をどこに入力しているか整理しましょう」
いきなりツール導入の話をするのではなく、まず業務プロセスの構造を可視化する。何に時間がかかっているのか、どこにムダがあるのか。その整理ができて初めて、CRMなりAIなりの「手段」が意味を持つ。
まとめ
1日30分の物件入力は、年間125時間・コスト換算で数十万円の見えないコストになっている。外注すれば月10万円、事務員を雇えば月20万円以上。AI活用なら月3〜5万円で同等以上の効果が見込める。
ただし、ツールを入れれば解決するという話ではない。大事なのは、まず自社の業務フローを構造化して、「どこに時間がかかっているか」「どこを自動化すれば売上につながるか」を整理すること。
物件入力の30分は、消せる時間だ。でもそれ以上に、その30分を「営業活動」や「顧客対応」に振り替えたとき、どれだけの売上機会が生まれるか。そこに目を向けることが、業務改善の本当のスタートラインになる。
SalesDockでは、不動産会社の業務フローの可視化から、物件入力の自動化設計、スプレッドシートの整備まで一気通貫で支援しています。「うちの入力作業、本当にこのままでいいのか」と思ったら、まずはお気軽にご相談ください。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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