不動産DXで成果を出した6社は、全社“同じ順番”で始めていた
この記事のポイント
不動産DXで成果を出した6社を分析したところ、全社「受付→分業→見える化」の同じ順番で進めていた。やっていることは特別じゃない。違いは順番だけ。フェーズ別セルフチェックで自社の現在地がわかる。
「DX、うちもやらないと」。この1年で何回聞いたかわからない。
でも不思議なことに、成果が出ている会社と出ていない会社で、やっていること自体はそこまで変わらない。オンライン申込、電子契約、追客の自動化——メニューは同じ。
違いは「何をやったか」じゃなく「どの順番でやったか」だった。
不動産会社6社のDX事例を調べていて、これに気づいた。全社バラバラの会社規模・エリア・業態なのに、成果が出た順番がきれいに揃っている。偶然とは思えなかったので、整理してみた。
成果が出た6社の数字
まず、6社がどんな成果を出したのかを並べる。
A社:都心のマンション管理会社(グループ40名・管理2,000戸)
担当者ごとにExcelやスプレッドシートがバラバラだった。物確・内見・申込・修繕の管理を一元化したところ、「一日に何度も何往復していたやり取りが、検索一発で済むようになった」。
B社:埼玉の仲介会社(創業44年・1店舗)
営業が仕入れから契約まで全部やっていた。追客を分業化してDX推進室を設置。RPAで100タスクを自動化した結果、営業1人あたりの年間売上が917万円→3,000万円に。3.3倍。1店舗で、だ。
C社:首都圏の賃貸仲介チェーン
追客の初回対応に2時間かかっていた。追客システムを入れてLINEと連動させ、専門チームを置いた。月間の対応件数が600件→1,200件に倍増。営業の残業はほぼゼロになった。
D社:福岡拠点の管理会社(全国展開・6,000戸管理)
2022年の法改正に合わせて電子契約を導入。申込から契約までが1週間→2日に短縮。リモートワークが普及して、介護と仕事を両立できるようになったベテラン社員の離職も防げた。
E社:埼玉の管理会社(管理1,300戸)
内見予約と申込をオンライン化。内見予約数が前年比139%に増加。営業時間外の予約が全体の8%を占めるようになり、入居率は過去最高の99.2%を記録した。電話対応は約半分に減った。
F社:地方の管理・ビルメンテナンス会社
解約受付が電話と郵送で回っていた。繁忙期はパンクして聞き漏れが頻発。デジタル化したら対応時間が1/3に。郵送費は1件252円→0円。修繕依頼も写真付きになってやり取りがスムーズになった。
6社に共通する「始め方の順番」
6社の取り組みを時系列で並べてみると、全社がほぼ同じ順番で進んでいた。
ステップ1:まず「受付・対応」を自動化した
E社は内見予約と申込のオンライン化から。F社は解約受付のデジタル化から。A社は物確・内見・申込の管理一元化から。D社は電子契約から。
全社、最初に手をつけたのは「お客さんとの接点の入口」だった。
これが地味に大事なポイントで、受付や対応の自動化は「社内の仕事のやり方を変える」のではなく「お客さんからの入口を整える」だけ。だから現場の抵抗が少ない。「営業のやり方を変えろ」じゃなくて「申込をWebで受けられるようにしよう」の方が、よほど通りやすい。
E社は内見予約をオンライン化しただけで、営業時間外の予約が8%入ってきた。「今まで取りこぼしていた」需要が可視化された。これは営業の頑張りじゃなく、仕組みの効果。
ステップ2:次に「追客・営業」を分業化した
B社は追客専門のWEB戦略室を作った。C社は追客専門チームを設置してLINE対応に集中させた。
ここでのポイントは「ツールを入れた」じゃなくて「役割を分けた」こと。B社は営業の業務範囲が広すぎて新人が育たなかった。追客を切り離したことで、営業は接客に集中、追客チームはフォローに集中。結果として1人あたり売上が3倍になった。
C社も同じ構造。追客の返信スピードが来店率に直結するから、そこだけに集中するチームを置いた。初回対応が2時間→即時に変わって、対応件数が倍になった。
ツールは分業を支えるためのインフラであって、ツールが先じゃない。
ステップ3:最後に「経営数字の見える化」に進んだ
A社は一元管理したデータの活用フェーズに入っている。B社はRPAで100タスクを自動化した上で、売上データの分析に着手した。D社はコミュニケーションログが溜まったことで「言った言わない問題」が解消し、業務の可視化が進んだ。
面白いのは、ダッシュボードやデータ分析を「最初から」やった会社が1社もないこと。全社、受付→分業→可視化の順番。
なぜこの順番なのか
理由は3つある。
1. 受付の自動化は、現場の痛みが一番わかりやすい
「電話がパンクしてる」「申込書の不備で差し戻しが多い」「郵送に時間とお金がかかる」——これは誰が見ても「なんとかしたい」と思える。だから導入の合意が取りやすい。
いきなり「ダッシュボードを作りましょう」と言っても、「今の数字管理で困ってないけど?」と返されることが多い。困っているのは社長だけで、現場は日々の業務で手一杯だから。
2. 分業化は、受付が整ってからじゃないと機能しない
追客チームを作っても、そもそもの反響データがバラバラだったら分業にならない。B社もC社も、まず受付の情報が一元化されてから分業に進んでいる。
順番を飛ばすと「追客チームを作ったけど、情報が来ないから動けない」という事態になる。実際にそうなっている会社も見たことがある。
3. 見える化は、データが溜まってからやるもの
ダッシュボードは「見るデータ」がないと意味がない。受付をデジタル化して、分業で運用を回して、半年〜1年分のデータが溜まって初めて「数字で経営判断しよう」が機能する。
最初からBIツールを入れて、中身がスカスカ——これもよく聞く失敗パターン。
あなたの会社は今どのフェーズ?
セルフチェックしてみてほしい。
| フェーズ | 現状 | 次にやること |
|---|---|---|
| 0 | 紙・電話・FAXが主力 | 受付の1つだけオンライン化。一番件数が多いものから |
| 1 | 受付はデジタル化した。でも営業が全部やってる | 追客だけ切り離す。専任1人でもいい。返信スピードを測り始める |
| 2 | 分業はできた。でも数字が見えない | 月次で追っている指標を1シートにまとめる。ダッシュボードはその後 |
| 3 | データが溜まっている | ダッシュボード化・AI活用。仕入れの自動スクリーニングなど |
効果の測り方
各フェーズで追うべき指標を1つだけ決める。
| フェーズ | 追う指標 | 測り方 |
|---|---|---|
| 0→1 | 受付1件あたりの対応時間 | 今週の平均と、導入1ヶ月後を比較 |
| 1→2 | 反響→来店の転換率 | 月次で追客チームの数字を集計 |
| 2→3 | 月次レポートの締め日 | 翌月何日に数字が出揃うか |
全部同時に測る必要はない。自分がいるフェーズの指標を1つだけ。
DXの成果は、順番で決まる
6社の事例を見ていて一番感じたのは、「特別なことをやった会社は1社もない」ということ。
内見予約をオンラインにした。追客を分業にした。電子契約にした。どれも今ある技術で、今日から始められること。ただ、順番を間違えると同じことをやっても成果が出ない。
受付を整えて、分業で回して、データを溜めて、見える化する。この順番を守った会社だけが、数字を出している。
あなたの会社は今、どのフェーズにいますか?
SalesDockでは、不動産・製造業向けに業務の自動化支援を行っています。「うちは今どのフェーズだろう?」「次に何をやればいいかわからない」という方は、まず現状を聞かせてください。フェーズに合った一手を一緒に考えます。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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