売上は増えてるのに利益が残らない製造業 — 原価の「見えない穴」
この記事のポイント
中小製造業の営業利益率は平均3〜4%。売上が増えても利益が残らない原因は、原価計算の曖昧さ・段取り替えコスト・不良品コストの3つの「見えない穴」。製品別の原価をスプレッドシートで見える化するだけで、不採算品の見直しが始められる。
「今年は売上が1億2,000万になった。去年より2,000万増えた。でも利益は去年とほぼ同じ」。こういう製造業の経営者は少なくない。
経済産業省の調査によると、中小製造業の営業利益率は平均3〜4%。売上1億円で利益300〜400万円。売上が2,000万円増えても、利益が60〜80万円しか増えないことになる。「頑張って受注を増やしたのに、手元にお金が残らない」——この感覚は間違っていない。
原因は、売上の中に「見えないコスト」が紛れ込んでいること。この記事では、利益を食いつぶす3つの「見えない穴」と、それを見える化する方法を解説する。
利益を食いつぶす3つの「見えない穴」
1. 原価計算が曖昧 — 不採算品を作り続けている
「うちの製品の原価率は60%くらい」。こう答える経営者は多い。でも、それは全製品の平均値であって、製品ごとの原価率を把握している経営者は驚くほど少ない。
実際に製品別の原価を計算すると、原価率40%の高収益品もあれば、原価率85%の不採算品も混ざっている。不採算品を忙しく作り続けた結果、売上は増えるが利益は増えない——というのが、多くの中小製造業で起きていること。
ある金属加工の工場では、製品別原価を初めて計算したところ、売上の15%を占める製品が実は赤字だった。その製品の受注を止めたところ、売上は下がったが利益は20%増えた。
2. 段取り替えの時間コストが計上されていない
多品種少量生産の工場では、1日に何回も段取り替えが発生する。金型を交換する。治具を付け替える。プログラムを入れ替える。この段取り替えの時間は、1回あたり30分〜2時間。
問題は、この段取り替えの時間コストが、製品の原価に反映されていないこと。1日に5回段取り替えをして、合計3時間かかっている場合、作業者の時給2,500円×3時間=7,500円が「見えないコスト」として消えている。月20日稼働で15万円。年間180万円。
段取り替えが多い製品ほど、見かけの原価率と実際の原価率の差が大きくなる。「原価率60%だから利益が出ている」と思っていた製品が、段取り替えコストを入れると75%だった——ということが起きる。
3. 不良品・手直しのコストが「品質管理」に埋没している
不良品が出た。手直しで修正できた。出荷できた。一件落着——ではない。
手直しにかかった時間、材料の追加使用、検査のやり直し。これらのコストが「品質管理費」として一括計上されていて、どの製品で不良が多いのかが見えない。
不良率2%の製品と不良率8%の製品では、実際の原価が大きく異なる。でも両方とも同じ原価率で見積もっている。結果、不良が多い製品の受注を増やすほど、利益が減る。
| 見えない穴 | よくある状態 | 年間の影響額(目安) |
|---|---|---|
| 原価計算の曖昧さ | 不採算品に気づかず作り続ける | 売上の5〜15% |
| 段取り替えコスト | 製品原価に未反映 | 100〜300万円 |
| 不良品・手直しコスト | 「品質管理費」に一括計上 | 50〜200万円 |
製品別の原価を見える化する3ステップ
ステップ1:売上上位20製品の原価を個別に計算する
全製品をやる必要はない。パレートの法則で、売上の80%は上位20%の製品が占めている。まず売上上位20製品について、材料費・加工時間・段取り替え時間を記録する。スプレッドシートで十分。
加工時間は現場に1週間だけ記録してもらう。ストップウォッチは不要。「この製品に何分かかったか」を大まかに書いてもらうだけ。精度は±10%で十分。
ステップ2:製品ごとの「本当の利益率」を出す
材料費+(加工時間×時間単価)+(段取り替え時間×時間単価÷ロットサイズ)+不良率分の上乗せ。これが製品1個あたりの「本当の原価」。売価からこれを引いたものが「本当の利益」。
この計算をするだけで、「利益が出ていると思っていた製品が実は赤字だった」「地味だと思っていた製品が実は高収益だった」という発見がある。
ステップ3:不採算品の対応を決める
赤字品が見つかったら、3つの選択肢がある。(1)値上げ交渉する (2)工程を改善してコストを下げる (3)受注を止める。どれを選ぶかは経営判断。でも「不採算品の存在に気づいていない」状態より、はるかにまし。
見える化にかかるコスト
来週からできること
まずは、売上トップ5の製品だけでいい。材料費と加工時間を確認して、本当の利益率を計算してみる。2時間あればできる。
「売上を増やせば利益も増える」は、原価管理ができていない工場では成り立たない。受注を増やす前に、今の受注の中に「見えない穴」がないかを確認する。それだけで、同じ売上でも残る利益は変わる。
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製造業への業務効率化支援の活用事例を掲載しています。
活用事例一覧を見る →泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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