受注確度の決め方|A・B・Cを担当者の感覚から確認できた事実へ置き換える
「Aが3件あります」を、社長が数えられる数字にする
営業会議で「Aが3件あります」と報告される。社長はうなずくが、月末になると1件しか決まらない。翌月も同じことが起きる。担当者が嘘をついているわけではない。Aの意味が、報告する人ごとに違うだけだ。
ある人のAは「先方が前向きだった」、別の人のAは「見積を出した」、もう1人のAは「決裁者から今月中と言われた」。この3つを足して3件と数えているので、合計が当たらない。確度の精度を上げる作業は、担当者の読みを鍛えることではなく、ランクの入口条件を全員で1つにすることから始まる。
出した予測が当たったかを後から検証する方法は営業予測の精度を案件別に検証する方法、段階に入ったまま動かない案件の扱いは商談停滞の理由コード設計、案件表に何列持つかは営業の案件管理シートを1枚で回すで扱っている。この記事は、その手前にある「1件の案件をどのランクに置くか」だけに絞る。全案件を積み上げて今月の着地を出すところは営業パイプライン管理の作り方へ渡す。
確度を動かしているのが「気持ち」か「段階」か
確度の付け方には2通りある。案件ごとに担当者が手で置く方法と、商談段階に既定の確率を紐づけて段階を動かすと確度も動く方法だ。日本語で「ヨミ」と呼ぶときは前者を指すことが多く、CRMの既定は後者になっている。
HubSpotの取引プロパティ一覧では、確度にあたる Deal probability を「the probability that the deal will close」と定義し、この値は取引が段階を移動したときにパイプライン設定の勝率にもとづいて自動更新されると説明している。そのうえで、手で書き換えるとそれ以降は自動更新されなくなる(closed won の100%、closed lost の0%に到達した場合を除く)と明記している(HubSpot Knowledge Base「HubSpot's default deal properties」、2026年8月26日に記載を確認)。
この仕様は、そのままExcelやスプレッドシートの運用にも当てはまる。手で置いた確度は、置いた瞬間から更新が止まる。段階が2つ進んでも、担当者が思い出して直さない限り古い数字が残る。手で置く運用を選ぶなら、いつ見直すかを別に決めておかないと成立しない。逆に段階へ紐づける運用にするなら、段階の入口条件のほうを先に決める必要がある。
ランクは3つでいい
段階を増やしても、隣り合うランクの違いを担当者が同じ言葉で説明できなければ精度は上がらない。まず実案件を並べ、次の行動や確認事項が変わる境目だけをランクとして残す。
3つで始めて、同じランクの中に明らかに扱いの違う案件が混ざっていると現場から声が出たときに、その1つだけを割る。割る理由が現場から出てくる前に細かくしない。
ランクの入口条件を、確認できた事実で書く
A(今月中に決まる)
決める人と直接話し、金額の出所と決める時期を相手の言葉で確認できている。社内で反対している人がいれば、その人の懸念まで聞けている
B(決まる要素はそろっている)
課題と金額感は合っているが、決める人・決める時期・比較対象のどれか1つがまだ相手から出てきていない
C(相手側でまだ動いていない)
こちらの提案は届いているが、相手側でいつ・誰が判断するかの合意がない。担当者の個人的な前向きさだけがある
対象外
上のどれにも当てはまらない。次に何を確認するかだけを書いて、確度は空欄のままにする
ポイントは、条件を「自社が何をしたか」ではなく「相手側で何が確認できたか」で書くことだ。見積を出した、提案した、訪問した、はすべて自社の行動で、相手が動いた証拠にならない。合意した次回予定日を過ぎても動かない案件は、同じランクに置き続けず再確認へ戻す。
ランクを上げてよい5つの事実
入口条件を具体的にするために、案件ごとに次の5つを確認できているかを見る。全部そろえてからAにするのではなく、そろっていない項目が次に聞くことになる。
金額の出所
その予算がどこから出るか。既存の予算枠か、新しく取るか、他の支出を止めて回すか。ここが分からない案件は、金額だけ合意していても時期が読めない
決める人と会えたか
決裁者の名前を聞いただけと、その人と直接話したのでは違う。会えていないなら、会う日が決まっているかまでを書く
決める時期の理由
「今期中に」ではなく、なぜその時期なのか。相手側の期末、契約更新、人の入れ替わり、法改正など、動かせない事情があるかどうかで前倒しの余地が変わる
比較対象
他に何を検討しているか。「特にない」と言われたときは、何もしないという選択肢と比較されている場合が多い
反対している人
推進者以外に誰が関わるか。反対者の懸念を聞けていない案件は、決裁の直前で止まる
このうち現場でいちばん抜けやすいのが「金額の出所」と「反対している人」だ。金額の合意は取れているのに予算がどこから出るか聞いていない案件は、金額ではなく時期で外れる。推進者としか話していない案件は、決裁の直前で知らない人の反対が出てくる。
下げる基準を、上げる基準と同時に決める
確度の運用が崩れるいちばんの原因は、上げる基準しか決めないことだ。上がった案件は下りてこないので、パイプラインの中にAが溜まり、合計だけが膨らむ。
下げる条件は、担当者の判断を挟まない機械的なものを1つ置くと機能する。たとえば「相手と合意した次回日を過ぎたら自動で1段下げる」。下がったこと自体は失敗ではなく、次に何を確認すればよいかが1件ずつ分かる合図として扱う。合意した次回日そのものを案件へ残す方法は商談停滞の理由コード設計で扱っている。
確度を担当者の評価に使うと、数字が保守的になる
確度を達成率や査定に直接結びつけると、担当者が安全側のランクを選ぶ誘因が生まれる。予測値と評価値を同じ列で持たず、確度は着地を読む入力、評価は行動と実績の記録として分ける。
確度は担当者の成績ではなく、会社が今月いくら見込めるかを読むための入力として扱う。値引きで前倒しした結果が採算にどう出るかは顧客別採算の計算方法で確認できる。
月に1回、確度の棚卸しをする
入口条件を決めても、案件は放っておくと古い確度のまま残る。月末か月初に、A案件だけを対象に「いま新しい基準で見てもAか」を1件ずつ確認する。全案件を見ようとすると時間切れになるので、金額の大きいランクから見る。
棚卸しで落ちた案件の数と金額を記録しておくと、翌月からは落ちる前に気づけるようになる。この記録は、予測が外れた理由を後から検証するときの材料にもなる。
基準を作っても数字が当たらないとき
入口条件をそろえたのに着地が読めない場合、詰まっているのは確度の外側にある。案件が案件表に載っていない、載っていても金額が見積前の概算のまま、受注しても納品と請求の時期が読めない、といった受け渡しの問題だ。
件数は流れていて粗利もあるのに、最後の確認が社長へ集まっている会社ほど、この段階で止まりやすい。営業・判断・データのどこから整えるかを先に見たい場合は3分・8問の事業基盤診断で現在地を確認できる。
来週できる一歩:A案件だけ仕分け直す
- いまのA案件を全部並べる:ランクの定義を変える前に、現在Aが付いている案件を一覧にする。ここに「担当者が3人いれば3種類のA」が混ざっているのを見てから基準を作る
- Aだけ入口条件を書く:全ランクを一度に定義しない。いちばん判断に効くAだけ、何を確認できたらAかを1行で決める
- 現在のA案件を新基準で仕分ける:条件を満たさない案件はBへ落とす。この落とした分が、いま会社が過大に見込んでいた金額になる
- 下げる基準を同時に決める:上げる基準だけ決めると、一度上がった案件が下りてこない。相手と合意した次回日を過ぎたら自動で1段下げる、のような機械的な条件を1つ置く
- 確度の置き場を1か所にする:案件表の確度列と、会議資料の確度と、担当者の頭の中の確度が別々にあると、どれが正かで会議が終わる。表の列を正とし、会議はその列を見ながら直す
手順3でBへ戻る案件が多い場合、担当者の見立てだけを責めず、Aの入口条件が共有されていなかった可能性を確認する。戻した分の金額を今月の見込みから引いて、そこから不足をどう埋めるかを決める。埋め方の順番は営業パイプライン管理の作り方で扱っている。
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よくある質問
受注確度のランクはいくつに分けるのが良いですか?
担当者全員が隣り合うランクの違いを説明できる最小数にします。この記事のA・B・Cは開始例であり、3段階が正解という意味ではありません。実案件を当てはめ、同じランク内で次の行動が明らかに違うときだけ分けます。
確度と商談段階(ステージ)は何が違いますか?
商談段階は案件がいまどこにいるかを表す位置、確度はその案件が受注に至る見込みの高さです。多くのCRMは段階に既定の確率を紐づけて、段階を動かすと確度も自動で動く設計になっています。段階と確度を別々に手で管理すると、段階は進んでいるのに確度が3か月前のまま、という食い違いが起きます。
確度を担当者の評価に使ってもよいですか?
使い始めた月から数字が保守的になります。低く出しておけば達成率が良く見えるので、Aに置くべき案件がBに残ります。確度は担当者の成績ではなく、会社が今月いくら見込めるかを読むための入力なので、評価とは切り離して運用します。
確認できた事実がそろわない案件はどう扱いますか?
無理にランクを付けず、対象外へ置きます。対象外に溜まった案件を月末に眺めると、その多くは「相手の予算の出所を一度も聞いていない」など、確認していない項目が共通しています。確度が付かない案件の山は、次に何を聞けばよいかの一覧として使えます。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
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