反社チェックのやり方|新規取引先を登録する前に踏む手順と記録の残し方
求められているのは全件調査ではなく、注意を払った事実が残っていること
新しい取引先と契約する直前に「相手を調べたか」と聞かれて止まる。調べろと言われても、何をどこまで見れば調べたことになるのか、社内に基準が無い。検索すると出てくるのは調査サービスの案内ばかりで、料金は分かっても自社が何をすべきかは分からない。
先に結論を書く。政府の指針が企業に求めているのは、全件の身元調査ではない。「通常必要と思われる注意」を常に払うことと、契約書に暴力団排除条項を入れること、そして確認した事実を一元的に残すことの3つが軸になっている。この記事は、その3つを新規取引先の登録手順に落とす。
取引先を誰がどう登録するかは取引先マスタの責任者設計、契約を続けるか止めるかの判断は契約更新の判断管理、本人確認や実質的支配者の記録は不動産取引の本人・権限確認記録が扱う。この記事は「登録する前に相手を確認する」工程だけに絞る。
まず、何が求められているのかを原文で確認する
基準になるのは、犯罪対策閣僚会議幹事会が平成19年6月19日に申し合わせた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(法務省の掲載ページ、2026年8月26日に原文を確認)。上場企業向けの文書ではなく、企業一般に向けたものだ。指針は基本原則として次の5つを挙げている。
組織としての対応
担当者や担当部署だけに任せず、倫理規程・行動規範・社内規則に明文の根拠を置き、経営トップ以下で対応する
外部専門機関との連携
平素から警察、暴力追放運動推進センター、弁護士と連絡先と担当者レベルでつながっておく
取引を含めた一切の関係遮断
取引関係を含めて一切の関係をもたず、不当要求は拒絶する
有事における民事と刑事の法的対応
民事と刑事の両面から法的対応を行い、刑事事件化を躊躇しない
裏取引や資金提供の禁止
不祥事を理由とする要求でも、隠蔽のための裏取引と資金提供は絶対に行わない
注目すべきは、5つのどれにも「全件を調査せよ」と書かれていないことだ。取引先の確認について指針が使っている言葉は、「相手方が反社会的勢力であるかどうかについて、常に、通常必要と思われる注意を払う」である。そして、知らずに関係を持ってしまった場合には「判明した時点や疑いが生じた時点で、速やかに関係を解消する」とされている。
つまり求められているのは調査の量ではなく、注意を払っていたと言える状態と、判明したときに抜けられる契約の2つになる。
指針が「平素からの対応」として挙げていること
指針の平素からの対応には、次の項目が並んでいる。中小企業がそのまま全部を持つのは重いので、どれが今の自社に無いかを確認する目的で読む。
- 経営トップが基本方針を社内外に宣言し、社内体制の整備・従業員の安全確保・外部専門機関との連携を行い、結果を取締役会等に報告する。
- 不当要求への対応を統括する部署を整備し、情報を一元的に管理・蓄積する。研修、対応マニュアル、外部連携もこの部署が担う。
- 相手方について常に通常必要と思われる注意を払い、疑いが生じた時点で速やかに関係を解消する。
- 契約書や取引約款に暴力団排除条項を導入する。
- 取引先の審査や株主の属性判断のために、情報を集約したデータベースを構築し、暴力追放運動推進センターや他企業の情報で逐次更新する。
- 外部専門機関の連絡先と担当者を確認し、平素から意思疎通しておく。
1人で全部を持てないなら、2と5を「取引先マスタを管理している人」に寄せるのが現実的だ。専任部署を作る話ではなく、確認結果の置き場所を1つにするという意味になる。
暴力団排除条項は2つの要素で書く
指針は暴力団排除条項の中身まで説明していて、指針本文の注では次の2つを盛り込むことが有効だとしている。
- 反社会的勢力が当該取引の相手方となることを拒絶する旨。
- 取引開始後に相手方が反社会的勢力だと判明した場合や、不当要求を行った場合に、契約を解除して取引から排除できる旨。
片方だけだと機能しない。入口で拒絶する条項しか無ければ、後から判明したときに解除の根拠が無い。確認作業を整えるより先に、この2つが自社の契約書に入っているかを見る。入っていなければ、確認して問題を見つけても抜けられない。
条例の側も同じ方向を向いている。東京都暴力団排除条例第18条は、事業に関する契約が暴力団の活動を助長し、または運営に資する疑いがあると認められる場合に相手方が暴力団関係者でないか確認するよう努めること、書面で契約するときは無催告解除の特約を定めるよう努めることを規定している(警視庁「東京都暴力団排除条例Q&A」、2026年8月26日に確認)。いずれも努力義務で、警視庁のQ&Aはスーパーやコンビニで日用品を売買するような、通常は相手方の身分を確認しない取引についてまで確認を求めるものではないと説明している。事業所の所在地によって条例は異なるため、自社の所在地の条例を確認する。
新規取引先を登録するまでの5手順
1. 契約書の条項を先に直す
暴力団排除条項には、相手方になることを拒絶する旨と、後から判明・不当要求があったときに解除できる旨の2つを入れる。条項が無いと、確認で判明しても抜けられない
2. 注意の払い方を取引の型で分ける
継続取引・前払・与信を伴う取引と、単発の少額購入を同じ手間で見ない。東京都の条例も、日用品の売買のように通常は身分確認をしない取引まで確認を求めるものではないとされている
3. 見る先を決めて固定する
商号・代表者名・所在地を、登記情報、公表されている行政処分、報道、当事者の説明で突き合わせる。毎回違う調べ方をすると、記録が比較できなくなる
4. 判断できない行を分けて残す
白・黒ではなく「確認できた」「確認できない」「疑いがある」の3つに分ける。確認できない行を空欄で流すと、後から注意を払った証拠が出てこない
5. 一元管理する場所を1つにする
指針は情報を一元的に管理・蓄積する対応部署と、取引先の審査に使うデータベースの構築を挙げている。担当者の受信箱に散らばった確認結果は、この要件を満たさない
4の「3つに分ける」が要になる。白か黒かで判定しようとすると、判断できない行が黒扱いを嫌って白へ流れる。確認できない行を確認できないまま残し、その状態で取引を始めるかどうかを人が決める形にすると、判断した事実が記録に残る。金額と継続性で扱いを変える発想は与信限度額の決め方と同じで、実務では同じ台帳で回すことになる。
記録に何を残すか
後から問われるのは「調べたか」ではなく「通常必要と思われる注意を払ったと言えるか」だ。次の項目が取引先ごとに1行で残っていれば、その説明ができる。
- 確認日と確認者。
- 確認した対象(商号、代表者名、所在地のどれを見たか)。
- 見た情報源。
- 判定(確認できた/確認できない/疑いがある)。
- 取引を開始する判断をした人と、その日付。
- 契約書に暴力団排除条項が入っているか。
指針は、被害の防止を業務の適正を確保するための法令等遵守・リスク管理事項として内部統制システムに位置付けることが必要だとしている。会社法上の大会社でなくても、ある程度以上の規模の株式会社の取締役は善管注意義務として体制を構築・運用する義務があると解されている、というのが指針の書きぶりだ。記録は、その義務を果たした形跡そのものになる。
来週できる一歩:直近10件の新規取引先を1枚に並べる
- 直近3か月に増えた取引先を10件だけ抜く。
- その10件の契約書に暴力団排除条項が入っているか、2要素の有無で見る。
- 登録時に何を見たかを、覚えている範囲で埋める。
- 埋まらなかった欄が、いまの手順に無い工程になる。
- 条項が無い契約が見つかったら、更新のタイミングで直す順番を決める。
10件埋めると、必要なのが調査サービスなのか、契約書の雛形なのか、記録の置き場所なのかがはっきり分かれる。多くの場合、先に足りないのは調査ではなく置き場所だ。
取引先の管理を含む改善事例は業務改善カテゴリで確認できる。
よくある質問
新規取引先は全件を調査しないといけませんか?
指針は全件の身元調査を求めていません。求めているのは「相手方が反社会的勢力であるかどうかについて、常に、通常必要と思われる注意を払う」ことです。取引の規模と継続性で注意の払い方を変え、どこまで見たかを記録に残す形が現実的です。
調査サービスを契約しないと反社チェックをしたことになりませんか?
なりません。指針が平素からの対応として挙げているのは、対応部署の整備、契約書への暴力団排除条項の導入、情報を集約したデータベースの構築、警察・暴力追放運動推進センター・弁護士との連携です。外部サービスはこのうちデータベースを補う手段の一つで、必須の要件ではありません。
確認して問題が無かったときも記録は要りますか?
要ります。後から問題が判明したときに争点になるのは「調べたか」ではなく「通常必要と思われる注意を払ったと言えるか」です。誰が、いつ、何を見て、どう判断したかが残っていないと、注意を払った事実を示せません。
契約後に相手が反社会的勢力だと分かったらどうしますか?
指針は「判明した時点や疑いが生じた時点で、速やかに関係を解消する」としています。解消できるかは契約書に暴力団排除条項があるかで決まるため、確認作業より先に契約書の条項を整えます。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
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