介護も歯科も建築も—"Excel地獄"から抜け出せない業界に共通する構造
この記事のポイント
介護・歯科・建築—業界は違ってもExcel地獄の構造は同じ。属人化→フロー不明→DX停滞の悪循環を断ち切る第一歩は、ツール導入ではなく業務フローの可視化から。
業界はまったく違うのに、悩みはなぜか同じ。
「Excelのマクロが壊れて、作った人がもういない」「誰かが列を消して、月次の集計が合わなくなった」—こうした声は、介護でも歯科でも建築でも、驚くほど似ている。
KUIX社の調査によると、Excelでのデータ管理に「限界を感じている」と答えた企業は約70%。それでも過半数が脱Excelを検討していない(出典:KUIX「Excel利用状況調査」2023年)。限界はわかっている。でも代わりがない。この構造こそが"Excel地獄"の本質だと思う。
介護・歯科・建築—それぞれのExcel地獄の実態
介護:利用者ごとのデータがバラバラのファイルに散在
実際に企業から出ている依頼を見ると、「複数のCSVを利用者単位で集約して、各種リストを自動作成してほしい」という内容がある。つまり、利用者一人ひとりのデータが複数のExcelやCSVに分散していて、それを手作業でまとめている状態だ。
厚生労働省の調査では、介護ソフトの導入率は67.5%とされている(出典:厚生労働省「介護現場におけるICT環境の整備状況等に関する実態調査」)。一見高いように見えるが、実態は「ソフトを入れたけど、結局Excelで転記している」というケースが少なくない。ヘルスケア機関全体のDX達成率はわずか46.4%にとどまる(出典:日販テクシード「ヘルスケア機関IT実態調査」2025年)。
歯科:経営データの整理を外部に頼らざるを得ない
歯科医院からは「経営に必要なデータを整理して、分析できる状態にしてほしい」という依頼が出ている。患者数、売上、施術内容—数字は手元にあるのに、それを経営判断に使える形に加工できない。
歯科診療所の電子カルテ普及率は約30%程度で、医科診療所を大きく下回っている(出典:厚生労働省「医療DX推進に関する調査」)。紙とExcelの混在が当たり前の世界では、データを整理するだけで一仕事になる。
建築:積算フォーマットの更新が属人化
建築業界では「積算用のExcelフォーマットをアップデートしてほしい」という依頼がある。積算は建築の根幹だが、そのフォーマットがExcelに依存し、しかも更新できる人が限られている。
総務省の調査によると、建設業で「DXに取り組んでいる」と回答した企業は約20%。6割以上が「今後も予定なし」と答えている(出典:総務省「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」)。業界全体として、デジタル化への踏み出しが遅れている。
共通する構造:属人化→フロー不明→DX着手できない
業界は違っても、Excel地獄に陥る構造は同じだ。
第1段階:属人化—「この集計はAさんしかできない」「このマクロはBさんが作った」。特定の人に業務が張り付く。
第2段階:業務フローが不明確になる—属人化が進むと、そもそも「誰が」「何を」「どの順番で」やっているのかが見えなくなる。ある製造業の商談でも、まさにこのパターンだった。業務フローが明文化されていないため、DXの着手点がわからない。
第3段階:DXに踏み出せない—フローが不明確なまま「とりあえずツールを入れよう」としても、何を自動化すべきかが定まらない。ツールの話をする前に、業務の流れそのものを整理する必要がある。
AI OCR+RPAで何が変わるか—請求書処理の具体例
構造を理解した上で、実際にどう変えられるのか。わかりやすい例が請求書処理だ。
ある企業では、複数のITベンダーから異なるフォーマットで請求書が届いていた。担当者が1枚ずつ目視で確認し、手入力で会計ソフトに転記する。月末は残業が当たり前だった。
AI OCRとRPAを組み合わせると、この流れが変わる。
- AI OCRが請求書を読み取り、フォーマットの違いを吸収してデータ化
- RPAが会計ソフトへの入力を自動実行
- 人間は例外処理と最終確認に集中
導入効果の実例として、ある企業では月30時間かかっていた請求書入力作業が3時間まで削減された—約90%の時間短縮だ(出典:SmartRead導入事例)。また、医療業界では手書き書類や電子カルテの処理を自動化し、年間約1,800時間の削減に成功した事例もある(出典:RPA Technologies導入事例)。
ただし、ここで大事なのは「AI OCRやRPAを入れれば解決する」という話ではないということ。ツールを入れる前に、「どの書類が」「どこから届いて」「誰がどう処理しているか」を整理しないと、自動化の対象が定まらない。
Excel脱却の第一歩は「業務フローの可視化」
Excel地獄から抜け出すために、いきなり新しいシステムを導入する必要はない。
最初にやるべきことは、今の業務フローを紙に書き出すことだ。
- 誰が、どんなデータを、どこから受け取っているか
- そのデータをどう加工して、誰に渡しているか
- その中で、Excelでしかできない作業は本当にどれか
これをやるだけで、「実はこの転記作業、なくせるのでは」「この集計、自動化できるのでは」という気づきが出てくる。
業務フローの可視化は、外部に依頼するまでもなく、社内のミーティングで始められる。ホワイトボードに付箋を貼って業務の流れを並べるだけでも十分だ。大事なのは、業務を「見える化」して初めて、どこにテクノロジーを入れるべきかが判断できるということ。
まとめ
介護・歯科・建築—業界は違っても、Excel地獄の構造は驚くほど似ている。
- 属人化が進み、特定の人しか触れないファイルが増える
- 業務フローが不明確になり、何を変えればいいかわからなくなる
- 結果、DXに踏み出せないまま、Excelに依存し続ける
この悪循環を断ち切る第一歩は、ツール導入ではなく「業務フローの可視化」。今の仕事の流れを書き出して、どこに無駄があるかを見つけるところから始めてみてほしい。
SalesDockでは、業務フローの可視化から、Excel依存の解消設計、AI活用の伴走支援まで一気通貫で対応しています。まずはお気軽にご相談ください。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 不動産・製造業・クリニックなど現場産業向けのAI業務効率化コンサルを提供。 30社以上の中小企業のAI活用・業務改善を支援。
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