不動産の電子契約、何から始める?—導入手順と費用感をわかりやすく解説
不動産の電子契約を始める前の結論
不動産の電子契約は、サービスを選ぶ前に「どの書面を、誰へ、どの方法で渡すか」を決めるところから始めます。国土交通省の実施マニュアルが扱うのは宅建業法上の書面電子化とIT重説です。売買契約書そのものの合意や押印まで、同じルールで一括判断できるわけではありません。
- IT重説と書面電子化を別の作業として整理する
- 自社が扱う書面ごとに、電子化の根拠と紙で残す部分を確認する
- 相手方の承諾から保存までを、実際の1案件で通してから広げる
「電子契約のサービスを比較してほしい」と相談を受けても、最初に聞くのはサービス名ではない。賃貸か売買か、媒介か自社売主か、重要事項説明はどこで行い、締結後の書面をどこへ保存しているか。この流れが分からないまま契約すると、紙と電子が並行して現場の手間が増える。
IT重説と書面電子化は別の手続き
国土交通省は、IT重説をテレビ会議などで行う重要事項説明、書面電子化を宅建業法第34条の2、第35条、第37条に基づく書面を電子メールやWebからのダウンロードなどで提供すること、と分けている。IT重説を対面での説明と同様に扱うには、説明を受ける人が映像と音声を確認し、その場で質問できる環境が必要になる。
電子化の対象を、書面ごとに分ける
2022年5月18日の制度改正で、宅建業法に基づく次の書面を電磁的方法で提供できるようになった。電子化するかは書面単位で確認する。
| 書面 | 確認すること |
|---|---|
| 媒介契約締結時書面(34条の2) | 依頼者へ提供する方法とファイル形式を示し、承諾の記録を残す |
| 重要事項説明書(35条) | 書面の提供と説明を分ける。IT重説なら映像・音声・書面の確認環境も試す |
| 契約締結時書面(37条) | 契約書と兼ねる場合でも、宅建業法が定める部分と当事者間の合意を混同しない |
| 指定流通機構への登録を証する書面 | 媒介業務のどの時点で渡すかを既存フローに追加する |
国土交通省のマニュアルは、宅建業法の規制範囲を説明するものだ。売買契約書と37条書面を兼ねる場合でも、民間の取引慣行による押印や当事者間の合意まで一律に判断していない。自社の契約書式にどの書面が組み込まれているかは、顧問弁護士や所属団体にも確認する。
相手方の承諾は、方法と形式を示して取る
電子交付へ進む前に、相手方へ提供方法とファイル形式を示して承諾を得る。実務では「電子契約に同意します」だけを保存しても、あとから何に同意したのか確認しにくい。
承諾記録に残す項目
- 対象の書面名
- 電子メール、Webダウンロードなどの提供方法
- PDFなどのファイル形式
- 承諾した人と日時
- 紙へ戻す場合の連絡先
承諾を断られた案件は紙へ戻す。電子と紙のどちらでも進められる分岐を用意しておけば、営業担当がその場で迷わない。
本人確認と電子署名を一緒にしない
メールアドレスに届いたリンクを開けたことと、契約当事者本人であることは同じではない。電子署名サービスの認証方法だけに任せず、対面確認、本人確認書類、既存顧客情報との照合など、自社が現在行っている本人確認を電子の流れへ移す。
また、電子書面の要件と、契約の成立を示す電子署名の方式も分けて検討する。電子署名法については法務省が制度とQ&Aを公開している。サービスの「法的に有効」という広告文だけで選ばず、誰の意思をどの記録で確認できるかを見る。
導入前に1案件を通す
比較表で機能を数えるより、自社の書式と担当者で1案件を通すほうが早い。テストでは次の順に進める。
- 対象を1つに絞る。賃貸更新など、件数があり流れを追いやすい手続きから始める。
- 相手方役を別の社員が担当する。承諾画面とメールが、説明なしでも読めるか確認する。
- IT重説の通信を試す。映像、音声、書面表示、質問のやり取りが成立するかを見る。
- 本人確認から締結まで進める。誰が確認し、誰が送信し、誰が完了を確認するかを記録する。
- 締結後の書面を探す。担当者が休んでも、別の社員が顧客名や物件名で見つけられる状態にする。
止まった場所が、導入前に直す場所だ。送信まで進めても、承諾記録が顧客台帳に戻らない、締結済みPDFが個人フォルダへ入る、といった問題は残る。契約業務全体のデジタル化と合わせて、受領から保存までを見る。
費用は月額ではなく、1契約の総コストで比べる
電子契約サービスの料金はプラン、送信件数、本人確認、保管、システム連携、導入支援で変わる。特定の価格帯を業界相場として置かず、直近3ヶ月の契約件数で試算する。
電子側:月額料金 + 送信料 + 本人確認 + 初期設定 + 既存システムとの連携費
紙側:印刷 + 製本 + 郵送 + 印紙税 + 保管 + 差し戻し対応に使った時間
印紙税は契約書の種類と記載金額で変わる。税額を記事の一律値で判断せず、国税庁の印紙税額一覧で対象文書を確認する。電子化による削減だけでなく、差し戻し件数と締結までの日数も導入前後で記録する。
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初日は、直近3ヶ月に使った契約書式を集める。次に34条の2、35条、37条の書面と、それ以外の合意書類を分ける。5営業日目までに1案件をテストし、止まった箇所を担当者と直す。サービス比較は、このテスト項目を満たせる候補に絞ってからで十分だ。
顧客情報や契約履歴の置き場所まで見直す場合は、顧客管理と追客の仕組み化も合わせて確認すると、契約だけが別の台帳になるのを防げる。
よくある質問
IT重説と電子契約は同じですか?
同じではありません。IT重説はテレビ会議などを使って重要事項説明を行う方法です。書面電子化は、宅建業法第34条の2、第35条、第37条に基づく書面を、電子メールやWebからのダウンロードなどで提供することを指します。片方だけを実施する運用もあります。
相手方が紙を希望した場合も電子交付できますか?
相手方の承諾がなければ電子交付には進めません。電子で提供する方法とファイル形式を示して承諾を得ます。紙を希望された場合の手順も社内で残しておくと、担当者ごとの判断を減らせます。
電子署名サービスを契約すれば導入完了ですか?
契約だけでは足りません。自社が扱う書面の一覧、承諾の記録、本人確認、IT重説の通信確認、電子書面の保存場所までを1件のテスト契約で通してから本番へ広げます。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI自走プラン(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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