CRM戦略の立て方|「何を達成するか」ではなく「何をどの単位で数えるか」から決める
決める順番のほうが、決める内容より効く
CRM戦略の結論|先に決めるのは目的の文章ではなく、数える単位
CRM戦略を「何を達成するか」から書き始めると、どの会社にも当てはまる文章ができあがり、そこから先が進みません。営業が3〜15人の規模でつまずくのは、目的が弱いからではなく、目的と入力欄のあいだをつなぐ取り決めが無いからです。CRM戦略を「何をどの単位で数えるか」の取り決めに置き換えると、決めるべきことが5つに絞れて、順番も決まります。
- 「顧客との関係を強化する」のような目的文は、翌週の入力も会議の判断も変えない。CRM戦略の中身は、何を1件と数え、どうなったら進んだと見なすかという取り決めのこと
- 決める順番は、数える単位 → 前進の判定 → 記録が生まれる瞬間 → 毎週見る数字 → 道具の入れ替え。後ろから決めると、前がいつまでも決まらない
- ペルソナとカスタマージャーニーは、材料が揃っている会社が作ればよい。揃っていないうちは、直近の受注と失注の実記録がその代わりになる
CRM戦略という言葉で調べると、目的の設定、ペルソナの作成、カスタマージャーニーの作成、KPIの設計、ツールの選定、という順のテンプレートが並びます。手順としては筋が通っていますが、実際には2番目か3番目で止まる会社が多くあります。止まる場所が毎回同じなら、順番のほうを疑ったほうが早いというのがこの記事の立場です。
この記事が扱うのは、営業に関わる人が3〜15人くらいで、顧客情報がExcel・メール・個人の記憶に分かれている状態です。CRMをこれから入れる会社と、入れたが使われていない会社の両方を想定しています。製品の比較や価格の話は扱いません。扱うのは、製品を比べる前に社内で決めておくことです。
なぜ「顧客との関係を強化する」では戦略にならないのか
目的の文が悪いわけではありません。ただ、その文が翌週の何を変えるかを言えないなら、それは戦略ではなく標語です。判定は簡単で、次の2つに答えられるかどうかです。
- その文があることで、営業担当が来週入力する内容はどう変わるか
- その文があることで、週次会議で見る画面と、そこで下す判断はどう変わるか
「顧客との関係を強化する」も「営業を可視化する」も、この2問に答えられません。答えられる形にすると、たとえば「同じ会社への2回目の提案は別の1件として数える」「決裁者と会えていない案件は提案段階へ上げない」といった文になります。抽象度が下がったように見えますが、迷ったときに参照できるのはこちらだけです。CRM戦略を「何をどの単位で数えるか」と読み替えると、決めるべきことが具体的な5項目になります。
CRM戦略は5つを、この順番で決める
5つの項目には依存関係があります。後ろの項目は、前の項目が決まっていないと決められません。順番に意味があるのはそのためです。
| 決めること | 中身 | この順番である理由 |
|---|---|---|
| 1|何を1件と数えるか | 案件・顧客・引合のどれを1行にするか | ここが決まらないと、件数も金額も足せない。足せない数字は会議で使われず、入力も続かない |
| 2|どうなったら「進んだ」と見なすか | 段階を1つ上げてよい条件 | 1が決まっていないと、そもそも何が進むのかを書けない |
| 3|その記録は、誰のどの動作から生まれるか | 入力する人と、入力が発生する瞬間 | 2が決まっていないと、何を入力させるのかが決まらない |
| 4|毎週見る数字を3つに絞る | 週次で必ず開く数字と、その読み方 | 3が決まっていないと、その数字が今週ぶん揃っているかを保証できない |
| 5|道具を替えるかどうか | いまの道具のどこが足りないか | 1〜4が決まって初めて、足りないのが道具なのか運用なのかを切り分けられる |
1|何を1件と数えるか
最初に決めるのは、1行が何を表すかです。顧客を1行にするのか、案件を1行にするのか。ここが人によって違うまま入力が始まると、同じ会社に2つ提案したときに金額も次回行動も上書きされ、件数を足しても意味のない数になります。
目安としては、提案内容・金額・導入時期・決裁者のどれかが独立しているなら分け、複数の接点があっても1つの契約判断に収束するならまとめます。この単位の切り方と、段階・確度・停滞をどう組み立てるかは、営業案件管理の設計(ステージ・確度・停滞をどう決めるか)に具体的な表としてまとめてあります。CRM戦略の1つ目は、実質そこで決める話と同じです。この段階ではまだツールを開く必要はなく、直近の20件を並べて「これは1件か2件か」を声に出して決めるだけで足ります。
2|どうなったら「進んだ」と見なすか
次に、段階を1つ上げてよい条件を決めます。ここでよくあるのが、自社の作業を条件にしてしまうことです。「提案書を作成した」を提案段階の条件にすると、相手が何も返事をしていない案件が前に進んで見えます。条件は、相手側で起きた事実に置きます。提示した、質問が返ってきた、決裁の手順を教えてもらった、といった形です。
同時に、「止まっている」の定義も決めます。更新日から何日、という日数だけの定義は検知には使えますが、責任者が動くための情報になりません。止まっている理由を選択式で持ち、次回行動と期限をセットにします。理由の粒度をどう決めるかは、商談停滞の理由コード設計(滞留日数から次回行動と失注判断へつなぐ)で扱っています。
前進と停滞の定義は表裏です。片方だけ決めると、進んでいないものが「まだ提案中」という名前で残り続けます。
3|その記録は、誰のどの動作から生まれるか
2で決めた条件は、誰かが記録しなければデータになりません。ここで「空いた時間に入力する」と決めると、運用ルールになりません。既存の業務の中にある動作へ結び付けます。商談が終わって次回の予定を入れるとき、見積を送るとき、電話を切ったとき。人が新しく増やす動作ではなく、すでにやっている動作の直後に置くのが要点です。
項目名・型・選択肢・更新の時点までを表にして固める段階では、CRM構築の進め方(導入前に作るデータ定義書の7項目)がそのまま作業手順になります。CRM戦略の側で決めるのは「誰がいつ触るか」までで、項目の詳細はその次です。
すでにCRMを入れていて入力が続いていない場合は、道具より先にここを見てください。入力されない状態には型があり、CRMが使われない理由(入力されない5つの構造と、直す順番)に整理してあります。不動産の例で書いていますが、構造は業種を問いません。
4|毎週見る数字を3つに絞る
見ない数字は集めない、と先に決めます。数を増やすほど入力が重くなり、重くなった入力から出てくる数字は信用できなくなります。3つに絞ると、その3つを作るために最低限必要な項目が逆算で決まります。
選び方は、その数字が動いたときに来週の行動が変わるかどうかです。売上見込みの合計だけでは行動が決まらないので、確定した分・受注残・進行中を分けて足します。分け方と、不足額に打ち手を当てる順番は営業パイプライン管理の作り方(段階の入口条件と、着地見込みが足りないときの埋め方)にあります。
入力件数そのものをKPIにするのは避けます。入力件数は増やせてしまうので、増えたことが良いことなのか分からなくなります。
5|道具を替えるかどうかは、最後に決める
1〜4が決まると、いまの道具で困っていることが具体的に言えるようになります。同時に編集すると上書きされる、履歴が残らない、権限を分けられない、期限の通知を人が見て回っている、他システムとつながらない。この形で言えるようになってから比較を始めると、機能の多さではなく必要条件で選べます。
候補を探す段階では無料CRMおすすめ比較(中小企業が失敗しない選び方と無料版の限界)が、SFAとCRMのどちらから手を付けるか迷う場合はSFAとCRMの違い(「案件の進み方」を見る道具と「顧客との関係」を見る道具)が参考になります。SalesDockでは、道具を入れること自体を目的にはしません。1〜4が決まっていれば、しばらくシートのままでも回ることがあります。
順番を逆から始めると、何が起きるか
実際に多いのは、5から始まる進め方です。製品を決め、管理画面を開き、既定の項目に合わせて運用を考える。この順で進むと、1と2が「その製品の初期設定がそう言っているから」という理由で決まります。決めた本人が理由を説明できないので、現場から「なぜこれを入れるのか」と聞かれたときに答えられません。
4から始まる進め方も似た結末になります。見たい数字を先に並べると、その数字を作るための入力欄が増え続けます。増えた欄は3が決まっていないので、誰がいつ埋めるかが空白のまま必須項目になります。埋められない欄は仮の値で埋まり、数字の信用が落ちます。
どの業務から手を付けるかで迷っている段階なら、3分の事業基盤診断が使えます。選択式の設問に答えると、先に整える業務と、いまは触らない業務が分かれます。分けるところまでで、どのCRM製品が自社に合うかを判定するものではありません。
ペルソナとカスタマージャーニーを先に作ろうとすると止まる
CRM戦略の手順としてペルソナとカスタマージャーニーが置かれているのは、もともと顧客数が多く、行動データが溜まっている会社を想定しているからです。営業が3〜15人の会社が同じ順番でやろうとすると、3つの理由で止まります。
- 材料が社内に無い:顧客像を裏づける記録が、担当者の記憶とメールにしか無い。集める作業自体が数週間かかる
- 誰の案が正しいか決められない:営業ごとに見えている顧客像が違い、擦り合わせる会議が何度も必要になる
- 作っても入力欄が変わらない:できあがった資料と、明日から使う画面のあいだをつなぐ工程が残ったままになる
代わりに置けるのは、直近の受注と失注の実記録です。受注20件と失注20件くらいを並べ、次の3点だけを書き出します。最初に相談された困りごと、決めた人の役割、決まるまでにかかった期間。想像ではなく実際にあったことなので、擦り合わせの会議が要りません。
この3点は、そのまま2の段階条件と4の数字に落ちます。決めた人の役割が分かれば「決裁者を確認済みか」が段階の条件になり、決まるまでの期間が分かれば「何日動いていなければ止まっているのか」の基準になります。ペルソナは、こうした記録が溜まってから、必要になった時点で作れば十分です。
決めた5つは1枚に書いて、読み合わせる
CRM戦略の成果物は、分厚い資料ではなく1枚です。案件の単位、段階を上げてよい条件、入力する人と入力する瞬間、毎週見る3つの数字。この4つが書いてあれば、迷ったときの参照先になります。5つ目の道具の話は、決まるまで空欄で構いません。
書いたら、営業担当に読み上げてもらいます。読んだ本人が自分の言葉で言い換えられない行は、そのままでは運用されません。言い換えられなかった行だけを直します。責任者が書いて配るだけだと、この確認が飛びます。見直す時期も、四半期に1回か営業の人数が変わったときと決めておきます。
CRM戦略が働いているかは、自社の台帳から数える
効果を売上で測ろうとすると、他の要因と混ざって判定できません。決めた1枚が働いているかどうかは、自社の記録から直接数えられる項目で見ます。決めた日に1回数え、3ヶ月後にもう一度数えます。
- 週次会議で開いた案件のうち、次回行動と期限が両方埋まっていた行の割合
- 段階を上げた案件のうち、上げた根拠が相手側の事実で書かれていた件数
- 先週から一度も更新されていない案件の数(減らすのではなく、理由が説明できる状態を目指す)
- 会議用の数字を作るのにかかった時間(誰かが手で集計している時間を含める)
3つ目は減らすことが目的ではありません。止まっている案件がある状態は普通で、問題なのは止まっている理由を誰も説明できないことです。数が同じでも、理由が全件書かれている状態になっていれば前進しています。
来週の一歩:直近の受注1件を、決めた単位で書き直す
全体には手を付けません。直近で受注した案件を1件選び、いま決めようとしている単位で書き直します。1行に収まるか、2行に分かれるか。どの時点で段階が上がったのか。その記録は誰が、どの動作のときに書けたはずだったのか。
1件を通すと、決めきれていない箇所が具体的に出てきます。多いのは、段階を上げた根拠が「担当者がそう感じた」しか残っていないことと、入力する瞬間が業務のどこにも無いことの2つです。出てきた箇所だけを直してから、次の1件に進みます。何件か書き直すと、決めた条件のうち実際には使われないものが見えてきます。その時点で1枚を削ります。増やすより削るほうが、運用は続きます。
よくある質問
CRM戦略とマーケティング戦略は何が違いますか?
対象にしている判断が違います。マーケティング戦略は、誰にどう知ってもらうかを決めます。CRM戦略は、知ってもらったあとに生まれた接点を、どの単位で記録して次の判断に使うかを決めます。中小企業ではこの2つを同じ会議で話すことが多いのですが、決める順番としては、まず記録の単位を決めたほうが早く形になります。単位が決まっていないと、施策の効果を後から数えられないためです。
CRM戦略はどこまで文書にすればよいですか?
1枚で足ります。案件の単位、段階を上げてよい条件、入力する人と入力する瞬間、毎週見る数字の4つが書いてあれば、迷ったときの参照先になります。分厚い資料にすると、書いた人以外は読まないまま運用が始まります。足りない項目は、実際に運用してから足すほうが、使われない項目が残りません。
ペルソナやカスタマージャーニーは作らなくてよいのですか?
作れるなら作って構いませんが、CRM戦略を決める前提条件ではありません。営業が3〜15人の会社では、顧客像を裏づける材料が社内に揃っていないことが多く、想像で作ると誰も参照しない資料になります。先に直近の受注と失注の記録を読み、そこから言えることだけを2〜3行にするほうが、入力項目や段階の定義に直結します。材料が溜まってから作り直せます。
すでにCRMを導入していて使われていません。戦略から作り直すべきですか?
製品を替える前に、案件の単位と段階の条件が現場で共有されているかを確認してください。使われない状態の多くは、入力する意味が説明できないことと、入力した結果が本人に返ってこないことから来ています。この2つは製品を替えても残ります。逆に、単位と条件を決め直すだけで入力が戻ることもあります。替えるかどうかの判断は、そのあとで構いません。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI内製化(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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