CRM構築の進め方|導入前に作るデータ定義書の7項目
ツールを設定する前に、現場が迷わない言葉とデータの型を揃える
この記事の対象
顧客情報がExcel、名刺、メール、担当者の記憶に分かれ、CRMを入れても入力や集計が続かない会社。ツール選定前に、会社・担当者・商談を同じ言葉で扱う方法を整理します。
CRM導入の相談では、製品比較と管理画面の設定から始めた結果、「顧客名」「案件」「確度」の意味が担当者ごとに違うケースがあります。この状態では入力が止まり、同じ項目が増え、経営会議の数字を再びExcelで作ることになります。
先に必要なのはデータ定義書です。難しい設計書ではありません。何を、どの名前と形式で、いつ入力し、何に使うかを1行ずつ決めた表です。
CRM構築は「業務→データ→ツール」の順で進める
- 営業の流れと判断を整理する
- 必要なデータと更新タイミングを定義する
- 必要条件を満たすCRMを選び、設定する
- 小さな範囲で入力と出力を一巡する
- 実測を見て項目と運用を直す
IPAも要件定義では、利用企業と開発側が合意し、業務要件とシステム要件を文書化すること、実際の業務利用者を参加させることを重視しています。CRMも同じで、設定担当だけでは業務上の意味を決められません。
最初に分ける3つの箱
最小構成では、データを「会社」「担当者」「商談」に分けます。CRMではこれらをオブジェクトなどと呼び、その中の項目をプロパティやフィールドと呼びます。
| 箱 | 1行が表すもの | 主な項目 |
|---|---|---|
| 会社 | 取引先の組織 | 会社名、業種、所在地、担当営業 |
| 担当者 | 会社に所属する個人 | 氏名、部署、役職、連絡先 |
| 商談 | 具体的な提案・契約機会 | 商談名、金額、段階、次回行動、予定日 |
会社と商談を同じ表にすると、同じ会社の2回目の提案で会社情報が重複します。担当者が異動したときも、過去商談との関係が崩れます。まず箱を分け、箱同士を関連付けます。
データ定義書に入れる7項目
| 項目 | 決めること | 例 |
|---|---|---|
| 1|対象の箱 | どのデータに属するか | 商談 |
| 2|表示名 | 現場に見せる名前 | 商談段階 |
| 3|内部名 | 連携や移行で使う一意のキー | deal_stage |
| 4|型・形式 | 文字、数値、日付、単一選択など | 単一選択 |
| 5|選択肢・入力規則 | 許可する値と必須条件 | 初回接触/提案/見積/受注/失注 |
| 6|入力元・更新時点 | 誰が、いつ、どこから更新するか | 担当営業が商談終了時に更新 |
| 7|利用目的・責任者 | 何の判断・出力に使い、誰が管理するか | 週次案件会議/営業責任者 |
HubSpotの公式資料でも、プロパティはレコード上の情報を格納するフィールドとされ、既定項目の確認、ラベル、フィールドタイプ、ルールやアクセスの設定が案内されています。製品固有の画面は違っても、「名前・型・規則を先に決める」という原則は共通です。
7項目を決める実践手順
1|毎週使う出力から逆算する
最初に「何を入力できるか」ではなく、「何を判断したいか」を決めます。たとえば週次会議で、案件数、金額、停滞日数、次回行動を確認したいなら、その4つを作るための項目が優先です。誰も見ない情報は後回しにします。
2|現物の表・メール・報告を集める
現在使っているExcel、見積書、日報、メール件名を集め、同じ意味の言葉をまとめます。「案件」「商談」「引合」が同じ意味なのか、段階が違うのかを現場へ確認します。ここを推測で統一すると、導入後に別項目が復活します。
3|選択肢を業務上の判断へ結び付ける
「確度A・B・C」だけでは、人により意味が変わります。Aは「見積提出済みかつ決裁者と面談済み」のように、確認できる条件で定義します。自由入力を減らしつつ、選択肢を増やしすぎないことも重要です。
4|入力する瞬間を業務の中へ置く
「空いた時間に入力」は運用ルールになりません。「商談終了後、次回予定を入れるとき」「見積送付時」のように、既存業務へ結び付けます。自動連携できる情報は人に再入力させません。
5|10件だけ入れて、出力まで試す
全件移行の前に、実在する10件程度で入力、検索、一覧、週次会議の出力まで一巡します。空欄が多い項目、判断に使えない選択肢、二重入力を記録し、定義書を直してから範囲を広げます。
構築前に避ける4つの失敗
- 既存Excelをそのまま移す:使われていない列や重複まで持ち込む
- 役職者だけで項目を決める:入力のタイミングと現場の言葉が合わない
- 自由入力を増やす:表記揺れで集計と自動化が止まる
- 全項目を必須にする:分からない値が仮入力され、信頼できない数字になる
すでにCRMが使われていない場合は、入力されない5つの構造と直す順番を先に確認してください。乗り換えだけでは同じ問題が再発します。
無料CRMを比較する前にも使える
データ定義を作ると、必要なオブジェクト、項目、権限、連携、レポートが明確になります。その条件で製品を比較すれば、知名度や機能数ではなく、自社の業務に必要な条件で選べます。候補を探す段階では、中小企業向け無料CRMの比較も参照できます。
構築後に測る5つの数字
- 必須項目の入力率:必要な情報が期限内に入った割合
- 不統一値の件数:同じ意味で別表記になった数
- 重複率:同じ会社・担当者が複数登録された割合
- 停滞レコード数:一定期間更新されていない商談数
- 集計時間:会議用の数字を出すまでの時間
入力件数だけをKPIにすると、使われないデータが増えます。判断に必要なデータが揃い、集計時間が減ったかを見ます。
来週やること
- 週次会議で見たい数字を3つ選ぶ
- 会社・担当者・商談の3シートを作る
- 各シートに7つの列を作り、必要項目を10行以内で定義する
- 営業担当と責任者に、項目の意味と更新時点を説明してもらう
- 実在する10件で入力から会議用出力まで試す
ツールの契約前でもスプレッドシートで実施できます。この一巡で、必要な機能と不要な機能が見えるようになります。
まとめ
CRM構築は、製品選定より先にデータの意味を揃える仕事です。対象の箱、表示名、内部名、型、選択肢、入力元と時点、利用目的と責任者の7項目を定義すれば、入力者の迷いと集計側の手直しを減らせます。小さく一巡してから設定と移行を広げることが、現場で使われるCRMへの近道です。
よくある質問
CRMのデータ定義書は、誰が作るべきですか?
システム担当だけで作らず、実際に入力する営業、数字を見る責任者、設定担当の3者で作ります。入力者が意味を説明できず、責任者が利用目的を説明できない項目は、必須にしないのが基本です。
最初から全項目を定義する必要がありますか?
必要ありません。会社・担当者・商談の3つから始め、毎週の会議や次の行動に使う項目を優先します。使い道が確認できた後に追加すれば、入力負担と設計変更を抑えられます。
無料CRMでもデータ定義は必要ですか?
必要です。無料か有料かに関係なく、同じ意味の項目が複数ある、選択肢が担当者ごとに違う、更新タイミングが決まっていない状態では、集計に使えません。ツール比較の前に定義すると選定基準も明確になります。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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