人材・派遣会社が職務経歴書をAIに入れる前に—求職者情報の線引きと、要約業務の現実解
求職者情報は、集めた目的の範囲でしか使えない。AIへの入力はその範囲内か
この記事のポイント
職務経歴書は個人を特定できる情報の塊で、しかも「求人紹介のために集めた」という目的の縛りがある。ただし要約やマッチングは、固有名詞を外しても成立する。受託業務の場合は自社ルールの前に委託契約の確認が要る。
職務経歴書の要約、求人票の作成、候補者と求人のマッチング、面談メモの整理。人材業界の仕事には、AIで速くなる作業が並んでいる。実際に現場では使われ始めている。一方で扱っているのは求職者の経歴という、極めて個人的な情報だ。この記事では、他業種と何が違うのか、どこに線を引けば現場が動けるのか、要約業務を実際にどう回すのかを整理する。
求職者情報が特殊な2つの理由
1|特定できる情報が1枚に集中している
職務経歴書と履歴書には、氏名・生年月日・住所・学歴・職歴・現在の勤務先が並んでいる。1枚で個人が完全に特定できる密度は、他業種の顧客情報より高いことが多い。
さらに、現職の企業名が入っていることの意味が大きい。転職活動をしている事実そのものが、本人にとって知られてはいけない情報だからだ。漏れたときの不利益が、単なる連絡先の流出とは質的に違う。
2|集めた目的の範囲が限定されている
求職者は「求人を紹介してもらうため」に情報を提供している。個人情報保護法でも職業安定法でも、集めた目的の範囲を超えた利用には制限がかかる。
AIサービスへの入力が、その目的の範囲に収まっているかは別途の検討が要る。業務効率化のためであっても、外部サービスに情報が渡ること自体を求職者が想定していない可能性がある。ここは自社の運用として整理しておく価値がある。
出典・一次情報
- 職業紹介事業に係る法令・指針(厚生労働省)
- 職業紹介事業者等がその責務等に関して適切に対処するための指針(PDF)第五 求職者等の個人情報の取扱いに関する事項(厚生労働省)
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(別添1・PDF)(個人情報保護委員会)
制度・統計は改定されます。最新の情報は公表元でご確認ください。
3分類で線を引く
| 分類 | 例 |
|---|---|
| 入れない | 氏名、生年月日、住所、電話番号、メールアドレス、現職の企業名、卒業校名、顔写真、職務経歴書のファイルそのもの |
| 加工して入れる | 「30代・法人営業7年・SaaS業界・チームリーダー経験あり」のように要素へ分解した内容。企業名は「大手SIer」「従業員50名の製造業」など属性に置き換える |
| そのまま入れてよい | 公開されている求人票、業界動向の調べ物、面談で使う質問リストの作成、社内マニュアル、スカウト文の型作り |
現場で最も抜けやすいのが現職の企業名。氏名を伏せても、「従業員80名の地方の印刷会社で、営業部長を5年」まで書くと、業界内では特定できてしまうことがある。「業界の人が読んで誰か分かるか」を基準にすると判断しやすい。
要約・マッチングは固有名詞なしで成立する
「個人情報を入れないと要約できない」と思われがちだが、実務では成立する。順序を変えるだけだ。
- 社内システム上で、経歴を要素に分解する。職種・経験年数・業界・使用ツール・マネジメント経験・希望条件
- 要素だけをAIに渡す。ここで固有名詞は落ちている
- AIには判断材料の整理をさせる。求人との適合点、確認すべき点、懸念点
- 候補者の識別と最終判断は、人と社内システムで行う
この分け方の利点は、情報保護だけではない。要素に分解する過程で、担当者が候補者を構造的に見るようになる。結果としてマッチングの精度も上がる。
受託業務(BPO・コールセンター)は契約の確認が先
事務代行やコールセンターを受託している場合、扱っている情報は委託元の顧客情報であって自社のものではない。
多くの業務委託契約には、再委託の制限や、情報の取扱いに関する条項が入っている。AIサービスへの入力が「再委託」や「第三者提供」にあたると解釈される余地があるため、自社のルールだけで判断できない。
- まず委託契約書の情報取扱いの条項を確認する
- 不明なら委託元に確認する。事後に発覚するより、先に聞くほうが心証もよい
- 許容される場合も、範囲を書面で残しておく
ここを飛ばして効率化を進めると、契約違反という形で問題が表面化する。技術の問題ではないので、社内のAIルールだけ整備しても防げない。
自社で候補者管理ツールを作る場合
AIで候補者リストの管理ツールや、マッチングの補助ツールを内製するケースも増えている。この場合、チャットへの入力とは別の確認が必要になる。
- 誰が閲覧できるか。担当外の候補者情報まで全社員が見られる状態になっていないか。権限設定の不備は、この業種では致命的になりうる
- データがどこに保存されるか。外部サービスなら委託先として整理できているか
- 退職者のアクセスが残っていないか。人材業界は人の動きが速く、権限の外し忘れが起きやすい
- 作った人が抜けても維持できるか。引き継ぎの確認
線引きと、作ったツールの安全性を確認する
テクミルは、社内で作ったAIツールや利用ルールについて、第三者のエンジニアが技術面の懸念点と対応方針を整理するサービスです。確認したい範囲を指定して相談できます。月額8万円(税別)から、初回の相談は30分無料。
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求職者情報は、密度が高く、目的の縛りがあり、転職活動という事実自体が秘密になる。他業種と同じ感覚では扱えない。一方で、要約もマッチングも固有名詞なしで成立するので、順序を変えるだけで効率化と保護は両立する。受託業務の場合だけは、自社ルールの前に委託契約の確認から始めてほしい。
よくある質問
職務経歴書をそのまま生成AIに貼り付けてよいですか?
避けてください。職務経歴書には氏名・生年月日・学歴・職歴・現在の勤務先など、個人を特定できる情報が集中しています。求職者から情報を集めた目的は求人の紹介であり、AIサービスへの入力がその目的の範囲に収まっているかは別途の検討が必要です。実務では、氏名や勤務先名を伏せたうえで、経験内容だけを入力する運用が現実的です。
候補者の要約や求人とのマッチングにAIを使いたい場合は?
固有名詞を外した状態でも、要約とマッチングの大部分は成立します。「職種・経験年数・使用ツール・希望条件」といった要素に分解してから入力すれば、氏名や現職の企業名は不要です。逆に、候補者の識別が必要な処理は社内のシステムで行い、AIには判断材料の整理だけを任せる、という分け方が安全です。
コールセンターや事務代行の業務でAIを使う場合の注意点は?
受託業務では、扱う情報が委託元の顧客情報であることが多く、委託契約の中で再委託や外部サービスの利用が制限されている場合があります。AIサービスへの入力が契約上許容されるかを、まず委託契約で確認してください。自社のルールだけで判断できない領域です。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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