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不動産 査定書の作り方|1枚にまとめる前に決める項目・数値の出どころ・承認

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この記事のポイント

標準的な様式である「売却価格提案書」は全体が10数ページあります。つまり査定書を1枚にするのは足し算ではなく引き算です。だから先に決めるのは載せる項目ではなく、落とす項目と、落としてはいけない項目のほうです。

「査定書、1枚でぱっと出せるようにしたいんですよ」という相談は、けっこうな頻度で来ます。反響が来てから返すまでが遅い、担当者によって出てくる紙がぜんぜん違う、社長が最後に全部見ている。だから1枚に統一したい、という流れです。

ただ、この相談でいきなりテンプレートを作り始めると、たいてい途中で止まります。止まる場所は決まっていて、「この項目は要るのか」「この数字はどこから持ってくるのか」「これは誰がOKを出すのか」の3つです。紙のレイアウトを議論しているつもりで、実際には業務の決めごとを議論することになるからです。

この記事では、査定書を1枚にする前に決めておくことを整理します。査定にかかる時間そのものを短くする話は「査定業務を半日に短縮する方法」で、価格の計算前提の話は「収益還元法で査定するときに詰まるところ」で扱っています。この記事は、その手前にある成果物そのものの設計の話です。

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最初に決めるのは、その1枚が何の書類かということ

レイアウトの前に決めることがあります。その紙は「査定」の紙なのか、「鑑定評価」の紙なのか、という区別です。ここは日本語が似ているだけで、制度上は別のものです。

不動産の鑑定評価に関する法律では、不動産の鑑定評価とは「不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示すること」と定義されており、不動産鑑定士でない者は、不動産鑑定業者の業務に関して不動産の鑑定評価を行ってはならないと定められています。一方で宅地建物取引業法は、媒介契約で売買すべき価額または評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないと定めています。

つまり宅地建物取引業者が作る査定書は、鑑定評価書の簡易版ではありません。「価額についての意見」と「その根拠」を示す書面です。役割が違うので、載せる項目も違ってきます。1枚化の議論が空中戦になるときは、たいていこの前提が共有されていません。

根拠として何が認められるのかについては、国土交通省が示している宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方に書かれています。不動産流通推進センターが作成した価格査定マニュアルやこれに準じたマニュアル、あるいは同種の取引事例等、他に合理的な説明がつくものであること、とされています。自社独自のシートで出すのは禁じられていませんが、合理的な説明がつく形になっている必要があるという条件が先にあります。

標準の様式は10数ページある。1枚化は引き算になる

ここで一度、標準側を見ておくと話が早くなります。不動産流通推進センターの「既存住宅価格査定マニュアル利用の手引き」によると、WEBシステムから出力される売却価格提案書は全体が10数ページで構成され、1ページ1シートのExcelファイル形式で出力されます。査定物件の基本情報や価格算出に用いた評点などが自動出力され、色付けや写真・グラフの貼り付けを自社で加えられる作りです。

この事実の意味は単純です。1枚にするというのは、10数ページから引き算するということになります。ゼロから足し算していく作業ではありません。だから最初に作るのは、載せる項目の一覧ではなく、落とす項目の一覧です。この順番を逆にすると、「あれも要る、これも要る」で紙が2枚3枚に増えていき、結局元の様式に戻ります。

そして引き算をするときに最初に決めるのが、次の切り分けです。

顧客向けの紙と、社内チェック用の紙を混ぜない

同じ手引きを見ると、WEBシステムから出せる帳票は用途の違う2種類に分かれています。ここが1枚化で一番よく混ざるところです。

帳票用途載っているもの
査定条件表社内チェック用。入力した条件・評点・査定価格の結果を確認するチェックリスト項目名と査定物件情報と評点が並ぶ形式。標準建築費・規模修正率・経過年数・耐用年数・グレードなど、算出の内訳が行として出る
売却価格提案書依頼者向け。査定報告書として渡す査定不動産の概要(土地・建物)、査定不動産の特徴(セールスポイントは独自に入力)、断り書き

※ 出典の手引きに記載されている帳票の区分と掲載項目をもとに整理。係数の実際の値はマニュアル側が持っているため、本記事では扱いません。

標準側は、算出の内訳を見る紙と、顧客に渡す紙を最初から分けているわけです。1枚にまとめたいという相談のとき、社内でほしいのはたいてい前者で、営業がほしいのは後者です。ここを1枚に混ぜると、顧客に見せたくない内訳が載った紙ができあがります。

実務的には、1枚を2種類つくるのが素直です。顧客に渡す1枚と、社内で見る1枚。同じデータから2つの見せ方を出す、という設計にしておけば、後から片方だけ項目を足しても壊れません。

1枚から落としてはいけない断り書き

引き算をするとき、真っ先に消されるのが小さい文字の注記です。ここは残す側になります。

国土交通省が示している解釈・運用の考え方では、根拠の明示は口頭でも書面でもよいとされていますが、書面を用いるときは、不動産の鑑定評価に関する法律に基づく鑑定評価書でないことを明記するとともに、みだりに他の目的に利用することのないよう依頼者に要請することとされています。

実際に手引きに載っている提案書の見本でも、最初のページに次の3種類の注記が入っています。

1. 鑑定評価書ではないことの明記

見本では「この報告書は『不動産の鑑定評価に関する法律』に基づく鑑定評価書ではありません。他の用途にご利用いただくことはできませんので、ご注意ください。」という書き方になっています。上の解釈・運用の考え方に直接対応する1行です。

2. いつ時点の内容かの明記

見本では「この報告書に記載された内容は、ご報告年月日現在のものですので、その後の法令改正や市場動向などにより変化が生じる可能性がございます。」となっています。査定日を紙面に持つという設計要件がここから出てきます。

3. 何を使って作ったかの明記

見本では、不動産流通推進センターの「既存住宅価格査定マニュアル」を利用して作成したものである旨が書かれています。これはマニュアルを使った場合の書き方なので、自社の方式で出すならその方式名に置き換わる行です。空欄にしておくと、根拠を示す紙なのに何で出したかが書いていない状態になります。

1枚に圧縮するとき、この3行分のスペースは最初から確保しておきます。物件写真を大きくしたくなる場所ですが、ここを削ると「根拠を示す書面」としての形が崩れます。

項目ごとに、数値の出どころを1つに決める

次に決めるのが数値の出どころです。ここを決めないままテンプレートを作ると、同じ欄に人によって違うソースの数字が入ります。そうなると、後から「この数字はどこから来たのか」を追えなくなります。

標準側で参考になるのが、事例の選び方です。手引きでは住宅地の事例地を選ぶ条件として、地域の価格水準と大きく乖離していないことに加えて、次の4つが挙げられています。

条件1枚の設計に落とすと
成約日が査定時点から半年以内の物件事例の欄には成約日を必ず並べる。半年より古い事例を使ったときは理由の記入欄が要る
同品等・同規模の物件面積を事例と対象で並べて置く。片方だけ載せると比較になっていない紙になる
同一圏内(最寄駅からの徒歩圏やバス圏が同じ等)の物件交通の欄を「駅名+徒歩/バス何分」の形式で固定する。自由記述にすると集計できない
同じ都市計画区域の物件都市計画・用途地域の欄を対象物件側に持つ。事例側と突き合わせられる状態にする

提案書の見本を見ると、査定不動産の概要として土地側は所在地・交通・土地面積・方位・幅員・形状・間口・供給処理施設・その他の画地状況(路地状敷地、崖地や法地、都市計画道路予定地、高圧線下地、前面道路との高低差)・都市計画・用途地域(建ぺい率と容積率)・現況・特記事項、建物側は建物面積・建物構造・建物建築年月・階数・間取り・用途・特記事項が並んでいます。

この一覧を1枚に入れるかどうかを議論するとき、判断軸は「見栄え」ではありません。その欄の数字を、誰がどこから取ってくるのかです。所在地と面積は登記で取れます。用途地域と建ぺい率・容積率は役所か都市計画のデータで取れます。事例価格は業者間のネットワークや成約情報から取ります。取得元が違えば、更新のタイミングも、間違ったときの直し方も違います。

なので、テンプレートを作る前にやることは1つです。項目名の横に取得元を1列足した表を作ること。この列が埋まらない項目は、1枚に載せてはいけない項目です。載せると、埋まらないまま出ていきます。査定に使えるデータの層の違いは「不動産価格査定エンジン・APIの選択肢を整理する」に整理しました。

誰が「合理的」を判定するのか

3つ目の決めごとが承認です。ここは制度の側から条件が読み取れます。

解釈・運用の考え方では、依頼者に示すべき根拠は宅地建物取引業者の意見を説明するものであるため、必ずしも依頼者の納得を得ることは要さないが、合理的なものでなければならないとされています。つまり品質のゲートは「お客様が納得したか」ではなく「合理的か」です。

この一文は、社内の運用に素直に翻訳できます。合理性は自己申告では成立しにくいので、出す前に誰か1人が見るという工程が要ります。標準側も、社内チェック用の査定条件表を顧客向けの提案書と別に用意していて、出力の前に社内で見る前提の作りになっています。

決めるのは3つだけです。

誰が見るか— 社長が全件見るのか、金額の帯で分けるのか。全件社長にすると、1枚化しても待ち時間は減りません

何を見るか— 金額ではなく、事例の選び方と欄の埋まり具合を見る。金額だけを見ると差し戻しの理由が「感覚」になります

見た記録をどこに残すか— 誰がいつ確認したかを1行残す。査定日と確認日が違うことは普通にあります

なお、この工程にコストをかけても料金としては回収できません。解釈・運用の考え方では、根拠の明示は法律上の義務であるため、そのために行った価額の査定等に要した費用は依頼者に請求できないものとされています。回収されるのは時間と、担当者による差が減ることのほうです。ここを勘違いすると、査定書ツールへの投資判断そのものが狂います。

ちなみに手引きには、査定価格は売り出し価格の参考として3ヶ月程度で買い手が付くことを目安に算出すると書かれています。1枚の紙に「いつまでに売れる想定の価格なのか」が書いていないと、この目安が共有されないまま金額だけが独り歩きします。

実際に1枚を生成する仕組みを作って分かったこと

当社では、物件の資料から土地建物の査定書を1枚のExcelとして生成する仕組みを作りました。入力を1シートに集約して、表紙と以降のページは数式参照で自動表示させる構造です。そのときに実際に踏んだ問題を、成果物設計の観点で残しておきます。制度の話ではなく、こちらは実装側の話です。

起きたこと先に決めておくこと
テンプレートを使い回すので、事例の行に前の物件の数字が残ったまま出力された書き込む前に必ず空にする欄を、項目表で明示しておく。1枚化はテンプレの使い回しなので、これは構造的に起きます
表紙に出る金額と、本体のページに出る金額が一致しないことがあった同じ数字を2箇所に出すなら、どちらが正かを決める。入力が全部埋まっていないときは表紙に金額を出さない、という設計にしました
紙面に貼った画像の中に、別の顧客名と社内のファイル保存場所が写り込んでいた画像も点検対象の項目として扱う。地図や事例表をスクリーンショットで貼る運用は、画面の外側まで一緒に出ていきます
表示ページが古い計算結果のままPDFになっていたPDFに変換する経路を1本に固定して、そこで再計算させる。人が画面で見て確認した値と、配布される値は別物になり得ます

もう1つ、自動化の線引きの話です。個別要因の評点にあたる部分は、公開情報を探しても具体的な点数表が確認できませんでした。そこで完全自動にはせず、目安を出して人が調整する形にしました。査定の主観が入る部分を機械が黙って埋めると、合理性の説明ができなくなります。1枚にするときも同じで、人が判断した欄がどこかを紙面上で分かるようにしておくと、社内確認が速くなります。

役所側の情報についても1つ。用途地域や建ぺい率・容積率を自動で埋めようとしたとき、国のデータセットと自治体が公開しているデータで基準日が違うケースに当たりました。どちらが新しいかは地域によって変わります。だから1枚の紙に、使ったデータの基準日を書く欄を作りました。上で見た「いつ時点の内容か」の注記と同じ発想です。

まとめ

査定書を1枚にする作業は、レイアウトの作業ではありません。標準の様式が10数ページある以上、1枚化は引き算です。決めるのは次の順番になります。

その紙が「価額の意見と根拠」を示す書面であることを確認する。顧客に渡す1枚と社内で見る1枚を分ける。鑑定評価書ではない旨・いつ時点か・何で作ったかの3行を残す。項目表に取得元の列を足して、埋まらない項目は載せない。誰が何を見て、記録をどこに残すかを決める。

この5つが決まっていれば、テンプレートは半日で作れます。逆にここが決まっていない状態できれいなテンプレートだけ作ると、埋まらない欄と、誰も責任を持たない金額が並んだ紙が量産されます。まず作るのは紙ではなく、項目名と取得元と承認者を並べた1枚の表です。

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出典・一次情報

※ 出典はいずれも2026年8月12日に確認した内容です。制度・様式・マニュアルは改定されるため、実務で使う前に必ず公表元で最新版をご確認ください。
※ 本記事では査定額の計算式・係数・相場の数値は扱っていません。算定に用いる係数はマニュアル側が持つものであり、本記事で示した項目名は様式の構成を説明するためのものです。
※ 査定・鑑定評価に関する専門的な判断が必要な場合は、不動産鑑定士にご相談ください。実装側の記述は、当社が構築した仕組みで実際に起きたことを、クライアントを特定しない形に一般化したものです。

よくある質問

査定書は1枚にまとめてしまってよいのですか?

初回に渡す1枚と、媒介契約に向けて出す正式な提案書は、別のものとして持つのが安全です。宅地建物取引業者向けの標準的な様式である「売却価格提案書」は全体が10数ページで構成されているので、1枚は明らかにその引き算になります。1枚に絞ること自体が問題なのではなく、1枚に絞った結果として根拠の説明が落ちてしまうことが問題です。何を落として何を残すかを先に決めておけば、1枚は初回接触の道具として機能します。

査定書に必ず書いておくべき断り書きはありますか?

国土交通省が示している宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方では、価額の根拠を書面で明示するときは、不動産の鑑定評価に関する法律に基づく鑑定評価書ではないことを明記し、みだりに他の目的に利用しないよう依頼者に要請することとされています。実際に不動産流通推進センターの手引きに載っている提案書の見本でも、鑑定評価書ではない旨と、記載内容が報告年月日時点のものである旨が最初のページに入っています。1枚に圧縮するときも、この断り書きは残す前提で紙面を設計するのが無難です。

査定にかかった手間を、依頼者に費用として請求できますか?

国土交通省が示している解釈・運用の考え方では、根拠の明示は法律上の義務であるため、そのために行った価額の査定等に要した費用は依頼者に請求できないものとされています。つまり査定書づくりを効率化しても、売上として直接返ってくる項目にはなりません。回収されるのは時間のほうです。1枚化やテンプレート化に投資するかどうかは、料金ではなく「反響から返すまでの時間」と「担当者による差」で判断することになります。

泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。

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