SalesDock ロゴSalesDock
不動産

不動産価格査定エンジン・APIの選択肢を整理する|公的データと民間サービスの違い

11分で読める

国土交通省の公的APIそのものの使い方は「国土交通省の不動産APIを使う」で詳しく扱っています。この記事は査定価格を出すという用途に限って、どの層のデータを使うかを整理します。

この記事のポイント

「査定エンジンAPI」と一括りにされるものは、公的オープンデータ・業界内データ・民間の推定エンジンという性質の違う3層に分かれる。どれが要るかは、査定書を作りたいのか、初回接触を速くしたいのかで変わる。

「不動産価格の査定をAPIでできないか」という相談は、目的を聞くと2つに分かれます。1つは、反響が来た瞬間に概算価格を返して初回接触を速くしたいというもの。もう1つは、査定書の根拠になる取引事例を集める手間を減らしたいというものです。

この2つは、必要なデータの層が違います。同じ「API」という言葉で語られるので混ざりやすいのですが、推定価格を返すサービスと、生のデータを返すサービスは別物です。まずそこから分けます。

3層に分けて考える

返ってくるもの向いている用途
1. 公的オープンデータ取引価格・地価公示・鑑定評価書データ・都市計画などの生データ査定書の根拠づくり、エリア相場の把握、調査の下準備
2. 業界内で流通するデータ成約事例など、会員資格を前提に参照するデータ実務の査定。ただし利用条件は各機関の規程に従う
3. 民間の価格推定エンジン物件条件を入れると推定価格が1つ返ってくる初回接触の概算提示、大量の物件の一次スクリーニング

この区別が効くのは、3層目は根拠を説明しにくいからです。推定価格は機械学習の出力なので、「なぜこの価格なのか」を近隣事例のように示すことができません。査定書に載せるなら1層目・2層目が要りますし、逆に初回接触のスピードだけが目的なら3層目が一番早い。

1層目: 不動産情報ライブラリのAPIは何を返すのか

公的なオープンデータの中心にあるのが、国土交通省の不動産情報ライブラリです。APIマニュアルによると、公開されているAPIは全31種類で、大きく4つのカテゴリに分かれています。

価格情報API:不動産取引価格、成約価格、地価公示、鑑定評価書データ。査定の材料になるのはここです。

都市計画情報API:用途地域、地区計画、都市計画道路などのGISデータ。

周辺施設情報API:学校、医療機関、福祉施設、図書館など。

防災・その他情報API:洪水浸水想定、津波、土砂災害警戒区域など。

出力形式はPBFおよびGeoJSONに対応しています。利用開始の流れは、API利用申請画面で必要事項を入力し、審査・承認後にAPIキーが発行されるというものです。リクエスト時にはOcp-Apim-Subscription-Keyヘッダーでキーを設定し、HTTPSでのリクエストが必須とされています。

実装面で見落とされやすい制約が2つあります。1つはブラウザからのAPIリクエスト送信が禁止されていること。フロントエンドから直接叩く構成にはできないので、自社側にサーバーを1枚挟む必要があります。もう1つは、同一APIキーで基準期間内に多数のリクエストがあった場合にアクセス制限を設ける旨の記載があることです。大量の物件を一括で処理する設計にするなら、この点を前提に組む必要があります。

この2つは、相場データをダッシュボードで社内共有したい場合にも同じように効いてきます。BIツールから直接叩くのではなく、定期取得して保存する層を挟む形になるので、スプレッドシート経由とBigQuery経由のどちらを選ぶかは不動産情報ライブラリAPIをBIツールに繋ぐ手順で整理しています。

出典・一次情報

2026年8月11日に確認した内容です。提供API・利用条件は更新されます。利用前に必ずAPI利用規約と最新のマニュアルをご確認ください。

位置情報を使った調査全般での使い方は「不動産データAPIを使った物件調査」にまとめています。

2層目: 業界内のデータは、利用条件が先にある

実務の査定でもっとも使われているのは、指定流通機構に蓄積された成約事例です。ただしこれは会員資格を前提に参照するもので、自社のシステムに自由に取り込んでよいかどうかは各機関の規程によるという前提があります。

ここを曖昧なまま自動化の設計に入ると、あとで方針転換になります。仕組みを作る前に、利用規約と会員規程を確認してから設計するのが順序です。確認できないうちは、1層目の公的データだけで組める範囲を先に作るほうが安全です。

3層目: 民間の価格推定エンジンは、精度指標の見方が要る

民間各社が提供している価格推定エンジンは、物件の条件を入力すると推定価格が返ってくるものです。判断材料として公開されている情報の粒度は各社で違いますが、精度指標を公開している例もあります。

例として、SRE AI Partnersは不動産価格推定エンジンについて、47都道府県のマンション・土地・戸建に対応していること、東京23区内の1980年以降築マンションでMER 5.77%(全物件のうち半数が誤差率5%以下で推定できている状態)という数値、精度をおよそ週1回の頻度で更新していることを公開しています。

出典・一次情報

2026年8月11日に確認した掲載内容です。同ページにはAPI提供形態についての明記はなく、提供条件は各社への確認が必要です。特定のサービスを推奨する意図はなく、精度指標の公開のされ方の例として挙げています。

この数値の読み方が大事です。MERは誤差率の中央値なので、半分の物件はそれより外れているということでもあります。そして対象が「東京23区内の1980年以降築マンション」に限定された数値です。地方の戸建や、築古、変形地、借地権付きといった条件では、同じ精度は期待できません。

比較するときに各社へ聞くべきなのは、平均的な精度ではなく「自社の主戦場のエリア・種別での実績」です。全国対応と書かれていても、学習データが厚い地域と薄い地域があります。ここは資料に書かれていないことが多いので、直接聞くしかありません。

目的別に、どの層から手を付けるか

やりたいこと使う層最初の一歩
反響が来た当日に概算を返したい3層目主戦場のエリア・種別での精度を各社に確認する
査定書の事例収集を短縮したい1層目+2層目不動産情報ライブラリのAPI利用申請から
エリアの相場推移を社内資料にしたい1層目地価公示・取引価格を年次で取って表にする
仕入れ候補を大量に一次選別したい3層目絞り込みの閾値を決めてから。精度より件数処理が目的

査定そのものを速くする話は「査定のスピードを上げる」で扱っています。APIを入れる前に、査定にかかっている時間のうちどこが長いのかを測っておくと、投資先が決まります。データ収集が長いのか、書類作成が長いのか、社内確認が長いのか。3つ目だった場合、APIを入れても短くなりません。

推定価格をお客様に見せるときの線引き

最後に、実務で一番気を使う部分です。推定価格は統計的な推計であって、個別事情を織り込んだ査定額ではありません。土地の形、接道、隣地との関係、室内の状態、賃貸中かどうか。これらは推定に十分反映されていない場合があります。

実務で見かけるのは二段構えです。初回接触では「機械による概算」であることを明示して幅で伝え、正式な査定は現地確認と取引事例をもとに作る。概算と査定書を同じ紙に載せない、というだけでも運用が安定します。

説明できない数字を提示すると、その後の交渉で自分の首を絞めます。「なぜこの価格なのか」を1文で言えるかどうかを、導入判断の基準にしてよいと思います。

まとめ

査定に使うデータは3層に分かれます。公的オープンデータは根拠として使え、業界内データは利用条件の確認が先にあり、民間の推定エンジンは速さが価値です。

国土交通省の不動産情報ライブラリは全31種類のAPIを公開しており、申請と審査を経てAPIキーが発行されます。ブラウザから直接叩けないこと、リクエスト数に応じたアクセス制限があり得ることは、設計前に押さえておく点です。

そして民間エンジンを比べるなら、公開されている全体の精度ではなく、自社の主戦場での実績を聞く。ここを飛ばすと、導入後に「うちの物件だとずれる」という話になります。

関連記事

よくある質問

不動産価格の査定に使えるAPIには、どんなものがありますか?

大きく3層に分かれます。1つ目は国土交通省の不動産情報ライブラリのような公的オープンデータのAPIで、不動産取引価格・成約価格・地価公示・鑑定評価書データなどが提供されています。2つ目は指定流通機構をはじめとする業界内で流通するデータで、会員としての利用が前提です。3つ目が民間各社の価格推定エンジンで、機械学習で推定価格を返すものです。

不動産情報ライブラリのAPIはどうやって使い始めますか?

APIマニュアルによると、API利用申請画面で必要事項を入力し、審査・承認後にAPIキーが発行されます。リクエスト時にはOcp-Apim-Subscription-Keyヘッダーでキーを設定し、HTTPSでのリクエストが必須とされています。ブラウザからの直接のAPIリクエスト送信は禁止されており、同一APIキーで多数のリクエストがあった場合にはアクセス制限を設ける旨も記載されています。

AI査定の価格をそのままお客様に提示してよいですか?

推定価格は統計的な推計値であり、個別の物件事情を織り込んだ査定書とは性質が異なります。提示するのであれば、何のデータをもとにした推定なのか、誤差がどの程度想定されるのかを説明できる状態にしておく必要があります。実務では、初回接触のスピードを上げる目的で概算として使い、正式な査定は現地確認と取引事例をもとに作るという二段構えにしている例が多く見られます。

泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。

代表メッセージを読む →

NEXT STEP

比較する前に、判断の基準を持っておく

3ヶ月の業務改善ロードマップと支援事例2社をまとめた資料を、無料でお渡ししています。