不動産会社の月次を締める順番|売上・仕掛・広告費をどの順で確定させるか
経営者が毎月見る指標そのものについては「不動産会社の社長が毎月見るべき5つの数字」で扱っています。この記事はその数字が出てくるまでの工程の順番の話です。何を見るかではなく、どの順で確定させるか。
この記事のポイント
月次が締まらない理由は人手ではなく順番。動かないものから先に固定し、他者の動きに依存する工程を後ろに置く。速報値と確定値を分けて、経営判断は速報値で回す。
月次の数字が出るのが翌月の20日過ぎ、という会社は珍しくありません。理由を聞くと「経理が1人しかいないので」と返ってきます。ただ、作業量を実際に数えてみると、20日ぶんの仕事はないことがほとんどです。
起きているのは、1つの工程が終わらないせいで、後ろが全部止まっているという状態です。よくあるのは入金消込です。消込が終わらないと売上を確定できないと考えていると、相手先の入金が遅れた1件のせいで月次全体が動かなくなります。
締めが早い会社は、作業が速いのではなく順番が違います。この記事では、不動産会社の月次を動かないものから順に固定していく形に組み替えます。
7つの工程を、動かない順に並べる
並べる基準は1つだけです。自社だけで確定できるか、他者を待つか。自社だけで確定できるものを先に置きます。
| 順 | 工程 | 完了の定義 | つまずくところ |
|---|---|---|---|
| 1 | 決済済み案件の売上確定 | 当月に決済した案件が全件、金額つきで一覧になっている | 月末数日の決済が営業から上がってこない。決済日の翌営業日に台帳を更新する運用で解決する |
| 2 | 請求もれの点検 | 決済済で未請求の案件が0件、または残っている理由が書かれている | 点検を「気づいたら」でやっている。工程として日付を切る |
| 3 | 入金消込 | 月末時点の未入金一覧が確定している | 全件消し込むまで先へ進まない運用。未入金として残すのも1つの確定 |
| 4 | 在庫(販売用不動産)の原価 | 月末在庫の物件ごとに、取得原価と工事費の実績が入っている | 工務店の請求が翌月中旬になる。発注額ベースの見込みで先に置き、確定時に差し替える |
| 5 | 広告費の集計 | ポータル・チラシ・その他の媒体別に当月額が出ている | 案件ごとに配分しようとして止まる。期間費用として集計する |
| 6 | 人件費・歩合 | 当月に確定した歩合の金額と、対象案件がひもづいている | 歩合の計算基準が案件ごとに違い、都度確認になる。基準を1枚にまとめる |
| 7 | 損益と資金の確認 | 当月の損益と、月末の現預金・借入残高が並んでいる | 利益だけ見て資金を見ない。買取再販がある会社は資金のほうが効く |
3番の「完了の定義」に注目してください。入金消込の完了は全件消し込むことではなく、未入金一覧が確定していることです。入っていないものは入っていないと確定させれば、そこで工程は終わります。この定義に変えるだけで、月次が止まる最大の要因が消えます。消込そのものの詰まりは「入金消込に毎月半日かかるとき、どこで止まっているのか」で扱っています。
2番の請求もれの点検を、消込より前に置いているのも意図があります。請求書が出ていない案件は、当然ながら入金もありません。先に点検しておかないと、消込のときに「入金がない案件」として扱われ、原因が請求もれだったことに気づけません。点検の具体的な手順は「仲介手数料の請求もれをなくす台帳の作り方」で扱っています。
速報値と確定値を分ける
7工程を1本の締切で走らせようとすると、一番遅い工程に全体が引きずられます。分けます。
速報値(3営業日):工程1・2・5・7の一部
当月の売上、請求もれの件数、広告費、月末の現預金と借入残高。この4つは自社の記録だけで出せます。数字の精度は9割程度で構いません。経営判断の大半は、この段階で下せます。
確定値(10営業日前後):全工程
入金消込、工事費の実績、経費の締めを反映した数字。会計上の月次はこちらです。速報値との差が毎月大きい場合は、速報値の作り方に見直す点があります。
この2段構えにすると、経営会議を翌月の第1週にできます。20日過ぎに出てくる数字で議論しても、打てる手はもう翌月の話になっています。速報値の価値は精度ではなく速さです。
注意点として、速報値と確定値を同じ資料に混ぜないこと。同じ「当月売上」という項目に2つの数字が存在すると、会議のたびにどちらの数字かの確認が入ります。資料を分け、速報値の資料には速報であることを明記します。
広告費は案件に紐づけない
月次が止まる隠れた原因として、広告費の配分があります。ポータルの月額料金を「今月成約した案件」に割り振ろうとすると、成約が2件だった月は1件あたりの広告費が跳ね上がり、翌月に5件決まると下がります。実態を映していない数字が毎月生成されることになります。
掲載枠に対して払っている費用は、期間の費用です。月次では媒体別の合計だけを出し、効率は反響単価(広告費 ÷ 反響数)や成約単価(広告費 ÷ 成約数)といった別の指標で追います。この2つは月次の締めとは別のサイクルで見るほうが自然です。
買取再販がある会社の場合、在庫の原価は逆に物件ごとに持つ必要があります。同じ費用でも、期間に紐づくものと物件に紐づくものを混ぜないことが要点です。在庫側の持ち方は「買取再販の在庫台帳に何を持たせるか」で扱っています。
証憑の置き場所を工程に組み込む
締めの工程を作り直すとき、書類の保存も同時に決めておくと二度手間になりません。メールやクラウドサービスでやりとりした請求書・領収書・契約書などは電子取引のデータとして保存する扱いになり、国税庁は電子帳簿等保存制度の特設サイトで真実性の確保と可視性の確保という考え方を示しています(国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト/2026年8月11日確認)。
月次の工程の中に「その月の証憑を所定の場所に集める」という行を1つ入れておくと、後からまとめて探す作業がなくなります。制度上の要件は更新されることがあるため、自社の対応は最新の公表内容と顧問税理士にご確認ください。
最初の1ヶ月でやること
1週目:いまの締めの工程を、実際にやっている順番のまま書き出す。理想の順番ではなく現状を書きます。だいたい7〜10個になります。
2週目:各工程に「完了の定義」を1行で書く。ここで曖昧な工程が見つかります。曖昧な工程が、毎月伸びている工程です。
3週目:速報値に必要な工程だけを抜き出して、3営業日で回せるか試す。まずは自分で1回やってみるのが早いです。
4週目:翌月から速報値を出す前提で、決済日の翌営業日に台帳を更新する運用を営業側と合意する。ここだけは経理の努力では動きません。
まとめ
月次が締まらないのは、作業量ではなく順番と完了の定義の問題です。自社だけで確定できる工程を前に置き、他者を待つ工程を後ろに置く。そして各工程の完了を「全部終わること」ではなく「状態が確定すること」で定義する。
そのうえで、速報値と確定値を分けます。速報値は3営業日、確定値は10営業日前後。経営判断は速報値で回し、確定値は会計のために作る。この分離ができると、翌月の第1週に会議ができるようになります。
経営計画とのつなぎ方は「不動産会社の経営計画」、資金繰りの見方は「不動産会社の資金繰りを改善する」で扱っています。
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※ 電子取引データの保存に関する記述は、国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」に基づきます(2026年8月11日確認、2026年8月時点)。この記事は業務の進め方を整理したもので、会計・税務の助言ではありません。締めの手順、計上のタイミング、書類の保存方法は顧問税理士および所轄の税務署にご確認ください。制度は改正されることがあります。
よくある質問
月次の締めは何営業日で終わらせるべきですか?
1本の締切で考えると無理が出ます。速報値と確定値の2段構えにすることをおすすめします。決済済み案件の売上と主要な原価だけを積んだ速報値は3営業日程度で出せます。入金消込、工事費の実績、経費の締めまで含めた確定値は10営業日前後になります。経営判断に必要なのは多くの場合3営業日の速報値で、確定値は税務・決算のために必要な数字です。この2つを分けないと、確定値の精度に引っ張られて速報値が遅れます。
締める順番はどう決めればよいですか?
動かないものから先に確定させます。決済が終わった案件の売上は、契約書と決済の記録があれば動きません。一方、入金消込や工事費の実績は他社・他者の動きに依存するので後になります。順番としては、売上確定、請求もれの点検、入金消込、在庫の原価、広告費の集計、人件費・歩合、資金の確認という並びが扱いやすい形です。後ろの工程が終わらないことを理由に前の工程を止めない、という原則が守れれば順番の細部は自社に合わせて構いません。
ポータルの掲載料は案件ごとに配分すべきですか?
月次の締めでは配分しないほうが扱いやすいです。ポータルの月額料金は掲載枠に対して発生する期間の費用で、その月に成約した案件と対応関係がありません。無理に配分すると、成約が少なかった月ほど1件あたりの広告費が跳ね上がり、翌月に成約すると下がる、という実態を反映しない数字になります。広告費は月次では期間費用として集計し、費用対効果は反響単価や成約単価といった別の指標で追うほうが判断に使えます。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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