買取再販の在庫台帳に何を持たせるか|取得原価・リフォーム費・保有日数を1行にまとめる
買う前の判断(どの物件を仕入れるか)については「買取再販の仕入れ管理」で扱っています。この記事は買ったあと、売れるまでの原価と時間に絞ります。仕入れ台帳は候補が並ぶ表、在庫台帳は取得済みだけが並ぶ表です。
この記事のポイント
粗利が案件ごとにブレるのは、原価が仕入れ・工事・経理の3か所に散っているから。1物件1行に集約し、保有日数は3区間に割って持つ。物件ごとの利益は、売れてから計算するのでは遅い。
買取再販をやっている会社に「この物件、いくら残りましたか」と聞くと、たいてい即答できます。ところが「その数字にリフォームの追加工事と登記費用は入っていますか」と続けると、少し止まります。さらに「保有中の金利は」と聞くと、多くの場合は入っていません。
責められる話ではなくて、原価が物理的にバラバラの場所にあるのが原因です。取得価格は契約書、工事費は工務店の請求書、諸費用は経理の仕訳、金利は借入の明細。1つの物件の原価が4か所に散っていれば、集めるのに手間がかかります。だから決算のときにまとめて集計することになり、案件が動いている最中には見えない。
この記事では、在庫台帳を「1物件1行」に集約するときの列の作り方を整理します。会計の処理そのものは顧問税理士の領域なので、ここで扱うのは現場が毎週更新できる形のほうです。
販売用不動産は棚卸資産として扱われる
台帳の列を決める前に、原価に何を含めるかの土台を確認しておきます。再販目的で取得した不動産は、保有している間は棚卸資産として扱われます。国税庁の法人税基本通達では、購入した棚卸資産の取得価額について、購入代価のほかに引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税など、その資産の購入のために要した直接付随する費用を含めるとされています(国税庁 法人税基本通達「購入した棚卸資産」/2026年8月11日確認)。
同じ通達では、買入事務・検収・整理・選別・手入れなどに要した費用について、合計額が購入の代価のおおむね3%以内である場合は取得価額に算入しないことができるとも示されています。つまり、細かい費用を全部積み上げなければならないわけではなく、一定の範囲では簡便に扱う余地があるということです。
不動産の場合、どの費用がどちらに当たるかは物件と自社の会計方針によって変わります。ここを毎回考えていると台帳が止まるので、顧問税理士と一度だけ決めて、その結果を列として固定するのが実務的です。台帳側は「決まった箱に入れるだけ」にします。
この記事は会計・税務の助言ではありません。取得価額に含める範囲、計上のタイミング、消費税の取扱いなどは、物件と自社の状況によって判断が変わります。必ず顧問税理士および所轄の税務署にご確認ください。制度は改正されることがあります(2026年8月時点)。
在庫台帳の列
1物件1行を崩さないのが原則です。追加工事が発生しても行を増やさず、金額の列を更新します。行が増えると、集計のたびに合算が必要になり、そこで数字がズレます。
| 列の区分 | 持つ項目 | つまずくところ |
|---|---|---|
| 識別 | 物件ID/所在/種別(戸建・区分・土地)/取得日/取得先の区分 | 物件名で管理すると表記ゆれで突合が壊れる。IDは連番でよい |
| 取得原価 | 売買代金/仲介手数料/登記関係費用/取得時の税/その他の付随費用 | 「諸費用」で1列にまとめると、あとから内訳が復元できない。最低5列に割る |
| 工事費 | 当初見積/発注額/追加発注の累計/実績(確定)/主要工種のメモ | 見積と実績を同じ列で上書きすると、見積精度が永久に測れなくなる |
| 保有コスト | 借入残高/適用金利/月あたり支払利息の目安/保有中に発生する税・管理費 | 全社まとめて費用処理していると物件別に出ない。概算でよいので物件に付ける |
| 時間 | 取得日/着工日/完工日/販売開始日/成約日/引渡日 | 日付が1つ(取得日)しかないと、遅れの原因が特定できない |
| 出口 | 当初の想定売価/価格改定の履歴(日付と金額)/成約価格/販売時の仲介手数料 | 改定履歴を残さず最新価格だけ持つと、値付けの検証ができない |
このうち、多くの会社で抜けているのが工事費の「当初見積」と「実績」を分けて持つという点です。上書きしてしまうと、見積が甘かったのか、途中で仕様を上げたのか、そもそも建物の状態が読めていなかったのかが分かりません。差額そのものより、差額が出る物件の傾向のほうが次の仕入れに効きます。
保有コストも、正確さより「載っていること」が大事です。月あたりの支払利息を概算で置くだけで、保有が延びたときのコストが数字として見えます。載っていないと、保有期間は感覚の話になります。
保有日数は3区間に割る
「平均保有期間6ヶ月」という数字は、それ自体では打ち手になりません。同じ6ヶ月でも中身が違うからです。
区間1:取得 → 着工(段取りの時間)
ここが長い場合、原因は工務店の空き待ち、プランの決定待ち、残置物の処理などです。物件の魅力とは無関係で、社内の段取りで縮められます。買取再販で最初に短くできるのは、たいていこの区間です。
区間2:着工 → 完工(工事の時間)
工期そのもの。追加工事が入ると伸びます。この区間が伸びた案件は、工事費の実績も膨らんでいるはずなので、2つを並べて見ます。
区間3:完工 → 成約(売れるまでの時間)
値付けと販売活動の結果。ここだけが長い物件は、原価ではなく価格の問題です。価格改定の履歴と重ねると、いつ下げていつ反応があったかが読めます。
3区間で持つと、遅れの原因が社内にあるのか市場にあるのかが分かれます。区間1が長い会社は仕入れを絞る前に段取りを直したほうが早く、区間3が長い会社は値付けの検証が先になります。利益の出方そのものの整理は「買取再販の利益率」で扱っています。
月次で見る3つの数字
台帳ができたら、毎月見るのは3つで足ります。増やすと止まります。
| 数字 | 出し方 | 何を判断するか |
|---|---|---|
| 1. 在庫金額 | 月末時点で未成約の物件の、取得原価+工事実績の合計 | 次の仕入れに踏み込めるか。資金繰りと直結する |
| 2. 区間別の平均日数 | 未成約物件について、現時点までの経過日数を区間ごとに平均 | どこが詰まっているか。成約後に集計すると気づくのが遅い |
| 3. 価格改定の回数 | 当月に価格を改定した物件数と、累計改定回数が2回以上の物件数 | 値付けが当初想定から外れている物件がどれだけあるか |
ポイントは、3つともまだ売れていない物件について出すことです。成約した物件の粗利を集計するのは決算でもできます。経営判断に効くのは、いま抱えている在庫が今月どうなっているかのほうです。売上・原価を月次のどの順で確定させるかは「不動産会社の月次を締める順番」、物件別の利益分析は「不動産会社の利益分析」で扱っています。
まとめ
在庫台帳の目的は、決算で正しい数字を出すことではなく、売れる前に手を打てる状態を作ることです。そのためには、原価が4か所に散っている現状を1行に集約する必要があります。
取得原価は「諸費用」でまとめず最低5列に割る。工事費は見積と実績を別の列で持つ。日付は6つ持って、保有日数を3区間に割る。保有コストは概算でよいので物件に付ける。この4つができていれば、月次で見る数字は自然に出ます。
いま動いている物件が3件でも5件でも、始めるなら在庫が少ないうちのほうが楽です。
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※ 棚卸資産の取得価額に関する記述は、国税庁 法人税基本通達「購入した棚卸資産」に基づきます(2026年8月11日確認、2026年8月時点)。本記事は会計・税務の助言を目的としたものではありません。取得価額に含める範囲や計上時期の判断は、顧問税理士および所轄の税務署にご確認ください。制度・通達は改正されることがあります。
よくある質問
仕入れ台帳と在庫台帳は分けたほうがよいですか?
見ている時間軸が違うので、役割としては分けて考えたほうが整理しやすいです。仕入れ台帳は「買うかどうかを判断する」ための表で、検討中の物件も含めた候補が並びます。在庫台帳は「買ったあとの原価と時間を追う」ための表で、実際に取得した物件だけが並びます。物理的に1つのファイルにまとめても構いませんが、その場合も検討中と取得済みを混ぜず、取得日が入った時点で在庫として扱う列を持たせます。
取得原価にはどこまで含めるのですか?
国税庁の法人税基本通達では、購入した棚卸資産の取得価額に、購入代価のほか引取運賃・荷役費・運送保険料・購入手数料・関税などの直接付随した費用が含まれるとされています。あわせて、買入事務や整理などに要した費用のうち合計額が購入代価のおおむね3%以内である少額のものは、取得価額に算入しないことができるとも示されています。不動産の場合に具体的にどの費用がどちらに当たるかは物件と会計方針によって変わるため、顧問税理士に確認して自社の基準を1度決め、その基準を台帳の列として固定するのが実務的です。
保有日数はどこから数えればよいですか?
全体を1つの日数で持つと、遅れた原因が読めません。取得日から成約日までを1本で数えるのではなく、取得から工事着工まで、着工から完工まで、完工から成約までの3区間に割って持つことをおすすめします。同じ「保有180日」でも、着工までに90日かかっていた案件と、完工後に売れずに90日かかった案件では、次に打つ手がまったく違います。区間で持てば、遅れがどこで発生しているかが件数の傾向として見えます。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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