仲介手数料の請求もれをなくす台帳の作り方|契約から入金までを1本でつなぐ
経理まわり全体の仕組み化については「不動産会社の経理を効率化する」で扱っています。この記事はその中の請求もれという1点だけに絞り、台帳の列と月末の点検手順に落とします。
この記事のポイント
請求もれは「請求を忘れる」ではなく「請求してよい状態になったことに誰も気づかない」から起きる。案件・請求・入金が別々の表に分かれている限り、気づく手段がない。同じ案件IDでつなぎ、月末に3つの差分を見る形にする。
請求もれの話をすると、たいてい「うちはちゃんとやっているので大丈夫」と返ってきます。実際、請求書を作る作業そのものを忘れる会社はほとんどありません。もれるのは、請求してよい状態になったことが、請求を出す人に伝わっていない案件です。
営業は決済に立ち会って完了だと思っている。経理は決済の連絡が来ていないので案件が動いたことを知らない。この2つが同時に起きると、案件は「終わったもの」として全員の視界から消えます。半年後に決算の作業で見つかることもありますし、見つからないこともあります。
この記事では、請求もれが起きる場所を先に洗い出したうえで、契約から入金までを1本の台帳でつなぐ形を整理します。仕組みは足し算ではなく、今バラバラにある表に共通の列を1つ足すところから始まります。
手数料の計算パターンは、2024年にさらに増えた
請求もれの前提として、そもそも仲介手数料は案件ごとに計算方法が違います。国土交通省の資料によると、売買の媒介で依頼者の一方から受けられる報酬額の上限は、物件価格に応じた料率を合計した金額以内とされています。
| 区分 | 上限(税込) | 補足 |
|---|---|---|
| 売買の媒介(原則) | 200万円以下は5.5%/200万円超400万円以下は4.4%/400万円超は3.3% | 価格帯ごとの料率を合計した金額以内。依頼者の一方から受ける額 |
| 低廉な空家等の媒介(特例) | 30万円の1.1倍 | 価格800万円以下の宅地・建物。媒介に要する費用を勘案して原則を超えて受領できる。使用の状態は問われない |
| 賃貸借の媒介(原則) | 双方からの合計で1ヶ月分の借賃の1.1倍 | 居住用建物は、依頼を受けるにあたって承諾を得ている場合を除き、一方から0.55倍以内 |
| 長期の空家等の賃貸借(特例) | 貸主から、合計で1ヶ月分の借賃の2.2倍 | 現に長期間使用されていない、または将来にわたり使用の見込みがない宅地建物が対象 |
国土交通省「不動産業による空き家対策推進プログラム」掲載資料「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」(2024年6月公布・2024年7月1日施行)に基づく。2026年8月11日に内容を確認した、2026年8月時点の整理です。個別案件への適用は最新の公表内容と管轄の案内でご確認ください。
同じ資料で、媒介契約の締結に際してあらかじめ、上限の範囲内で報酬額について依頼者に説明し、合意する必要があることが解釈・運用の考え方に明記されたとされています。特例を使う案件では「いくらで合意したか」が案件ごとに違うということです。
ここが請求もれに直結します。原則の料率だけなら、価格が決まれば手数料は自動計算できます。特例を使った案件は自動計算できません。合意額を記録した場所が案件台帳になければ、請求書を作る人はその金額を知る手段がない。結果として原則の計算式で請求してしまい、合意した額との差が丸ごと落ちます。
請求もれが起きる5つの場所
実際に台帳を作り直すとき、最初にやるのは「どこでもれたか」を過去1年ぶんで洗い出すことです。だいたい次の5つに収まります。
| 場所 | 何が起きているか | 台帳側の対処 |
|---|---|---|
| 1. 片手・両手の変更 | 両手想定で進んでいた案件に他社が客付けした。請求先が1者に変わったのに、金額だけ両手のまま残る(またはその逆) | 請求先を「売主」「買主」の2行に分けて持つ。1行に合算しない |
| 2. 契約後の価格改定 | 指値が入って売買価格が下がったのに、手数料は当初価格のまま計算されている | 手数料の金額を手入力せず、確定価格の列から計算する |
| 3. 特例を使った案件 | 合意額が営業の頭の中とメールにしかなく、請求時に原則の計算式で出てしまう | 「合意した報酬額」と「合意した日」を必須列にする。空欄なら請求に進めない |
| 4. 決済日と請求日のズレ | 月をまたぐ決済で、当月の請求リストにも翌月のリストにも載らない | 請求の締めを「決済日」ではなく「決済完了フラグが立った日」で拾う |
| 5. 担当の異動・退職 | 進行中案件が引き継ぎ表に載らず、決済だけ別の人がやって請求が誰の仕事でもなくなる | 案件の担当者列を必須にし、空欄・退職者の案件を月次で機械的に抽出する |
5つとも、共通しているのは案件の状態が動いたのに、請求側の情報が追随していないという構造です。人が丁寧かどうかの問題ではありません。状態の変化が別の表に伝わる経路がないだけです。
1本の台帳に持たせる列
「台帳を1本にする」というのは、案件管理も請求も入金も1枚のシートに詰め込む、という意味ではありません。案件IDという同じ列を全部の表に持たせて、あとから突き合わせられる状態にするという意味です。表は分かれていて構いません。
案件台帳に必須で置く列
案件ID:連番でよい。物件名や住所を鍵にすると、表記ゆれで突合が壊れる
取引の種類:売買の媒介/賃貸の媒介/買取/代理。手数料の計算式がここで分岐する
請求先:売主・買主・貸主・借主を別の行として持つ。両手案件は2行になる
確定価格(または借賃):契約書と一致する数字。ここから手数料を計算する
合意した報酬額・合意日:原則どおりの案件は計算値と同じでよい。特例を使う案件はここが唯一の根拠になる
ステータス:契約済/決済済/請求済/入金済/計上済。この列が請求もれ点検の心臓部
担当者:異動・退職の抽出に使う
このうち一番効くのがステータス列です。「決済済」まで進んだのに「請求済」に上がらない行があれば、それが請求もれの候補になります。手作業で探す必要はなく、条件で絞るだけです。
注意点として、ステータスは後戻りしない一方向の並びにすること。「保留」「確認中」のような横道を足すと、そこに溜まった案件が誰の目にも入らなくなります。止まっている案件は、止まっている理由を別の列(メモ)に書き、ステータス自体は動かしません。
月末に見るのは3つの差分だけ
台帳がつながると、点検作業は3つの条件で絞るだけになります。
差分1:決済済なのに請求済でない
本来の意味での請求もれ。決済から一定日数(自社の締めに合わせて7日や10日)を超えて残っている行だけを見ます。数件なら進行中、十数件あるなら伝達の経路が切れています。
差分2:請求済なのに入金済でない
入金の遅れか、消込ができていないかのどちらか。この2つは原因が違うので、必ず分けて数えます。消込側の話は「入金消込に毎月半日かかるとき、どこで止まっているのか」で扱っています。
差分3:入金済なのに計上済でない
お金は入っているのに、売上として月次に載っていない状態。件数が少なくても、決算のときに必ず火を噴きます。
この3つを毎月同じ形で出すと、数字そのものより件数の推移が意味を持ちはじめます。差分1が毎月2〜3件で安定していれば正常な進行中案件、先月5件・今月12件と増えていれば伝達のどこかが壊れています。
最初の1ヶ月でやること
1週目:過去1年の決済案件を一覧にして、請求と入金が全部ひもづくかを確認する。ひもづかない案件が何件あるかを数える。ここで出た件数が、仕組みを直す動機になります。
2週目:案件台帳に案件IDとステータス列を足す。既存の表を作り直さず、列を足すだけにする。
3週目:請求書を作るときに案件IDを必ず書く運用に変える。請求書の番号と案件IDは別物なので、両方を持ちます。
4週目:3つの差分を初めて出す。初回は件数が多くて構いません。翌月と比べられる形になっていることが目的です。
この順番なら、システムを入れ替えなくても始められます。逆に、ツールの選定から入ると、移行が終わるまでの数ヶ月ぶんの請求もれはそのまま残ります。
まとめ
請求もれは注意力の問題ではなく、案件の状態変化が請求側に伝わらないという構造の問題です。手数料の計算パターンが増えている以上、案件ごとの合意額を記録する場所を持たないと、原則の計算式で機械的に請求してしまう事故が起きます。
やることは3つ。案件IDを全部の表に持たせる。ステータスを一方向の並びで持つ。月末に3つの差分を出す。この形にすると、請求もれを「探す作業」から「絞り込む作業」に変えられます。
バックオフィス全体をどう組み替えるかは「不動産会社のバックオフィス改革」、資金繰りへの跳ね返りは「不動産会社の資金繰りを改善する」、月次をどの順で締めるかは「不動産会社の月次を締める順番」で扱っています。
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※ 報酬額の上限と特例に関する記述は、国土交通省「不動産業による空き家対策推進プログラムについて」に掲載された資料「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」(2024年6月公布・2024年7月1日施行)に基づきます。2026年8月11日に内容を確認した、2026年8月時点の整理です。制度は改正されることがあります。個別案件の適用可否・金額の判断は、最新の公表内容、管轄の案内、および専門家にご確認ください。
よくある質問
仲介手数料の請求もれは、どこで起きやすいですか?
請求そのものを忘れるより、「請求してよい状態になったこと」が経理に伝わらない箇所で起きます。具体的には、片手・両手の変更、契約後の価格改定に伴う手数料の再計算、特例を使った案件、決済日と請求日がずれる案件、担当者の異動・退職を挟んだ案件の5つです。いずれも案件の状態が動いたのに、請求側の情報が更新されないという同じ構造をしています。案件台帳に「請求できる状態か」を表す列を1つ置き、その列が変わったら経理へ伝わる形にするのが先です。
売買の仲介手数料の上限はどう決まりますか?
国土交通省の資料では、売買の媒介で依頼者の一方から受けられる報酬額は、物件価格に応じた料率(税込で200万円以下は5.5%、200万円超400万円以下は4.4%、400万円超は3.3%)を合計した金額以内と示されています。加えて2024年7月1日施行で、価格800万円以下の「低廉な空家等」については媒介に要する費用を勘案し、30万円の1.1倍を上限として原則を超えて受け取れる特例が設けられました。特例を使う場合も含め、媒介契約の締結に際してあらかじめ報酬額を依頼者に説明し合意する必要があるとされています(2026年8月時点)。
請求もれを見つけるために、月末に何を見ればよいですか?
3つの差分だけで足ります。1つ目は「決済まで終わっているのに請求書が出ていない案件」、2つ目は「請求書は出ているのに入金が着いていない案件」、3つ目は「入金は着いているのに売上として計上されていない案件」です。案件台帳と請求台帳と入金の記録が同じ案件IDでつながっていれば、この3つは差分を取るだけで出ます。つながっていない場合は、まず案件IDを共通の列として持たせるところからになります。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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