SalesDock ロゴSalesDock
不動産

不動産GISとは?国交省の無料データで仕入れ・査定・提案に使う方法と選び方

地理空間情報で中小不動産会社が大手と渡り合う

12分で読める

執筆:泉 款太(株式会社SalesDock 代表取締役)累計40社以上の中小企業を支援

不動産GISとは?国交省の無料データで仕入れ・査定・提案に使う方法と選び方

結論

地図に重ねて見ると、数字の表では気づけない条件が見えます。ただし、どこまでを根拠にしてよいかの線は引いておく必要があります。

  • 国の公開データは無料で使えます。仕入れ判断・査定・顧客提案の3つで効きます。
  • 国のデータと自治体のデータは役割が違います。全国を横断して見るのが国、正確な現況を確認するのが自治体です。
  • 役所調査に近づくほど国のデータだけでは足りません。使い分けの線引きを先に決めてください。

この記事のポイント

国交省の不動産情報ライブラリ・ハザードマップ・用途地域データは無料で使える。これを仕入れ判断・査定・顧客提案に組み込めば、中小不動産会社でも自社の商圏を、根拠を示して説明できる。ソフトは無料のQGISから始められ、住宅地図や登記情報まで1画面で扱いたくなった段階で有料の業務用GISを比べればよい。

不動産GISとは、物件の位置に、取引価格・用途地域・災害リスク・人口・周辺施設といった情報を地図の上で重ね、仕入れ・査定・提案の判断に使う仕組みのことだ。GISはGeographic Information System(地理情報システム)の略。表の数字だけでは気づきにくい「境界のすぐ外は浸水想定区域」「同じ町丁目でも駅側だけ成約価格が高い」といった条件が、地図に重ねると一目で分かる。

材料になるデータの多くは、国交省の「不動産情報ライブラリ」や国土数値情報として無料で公開されている。ソフトも無料のQGISで足りるため、中小の不動産会社でも小さく始められる。

国交省の不動産APIで何ができる?で不動産情報ライブラリの基本は整理した。この記事では、GISの視点から「仕入れ・査定・顧客提案」の3領域でどう活用するかを整理する。

GIS×不動産で使える公開データ

国交省・各自治体が公開している主な地理空間データは以下。

データ用途アクセス
不動産情報ライブラリ取引価格・成約価格・地価無料(APIは利用申請が必要)
国土数値情報用途地域・都市計画・公共施設ダウンロード無料
ハザードマップ洪水・土砂災害・津波リスクAPI無料
e-Stat(統計GIS)町丁目別人口・世帯数・年齢構成API無料
Google Maps API周辺施設・徒歩時間・口コミ利用量に応じた従量課金

活用領域1:仕入れ判断の高度化

買取再販の仕入れ判断で最大の属人化ポイントは「このエリアは伸びるか」の判断。ここをデータで裏付けられれば、属人化が一気に外せる。

実装イメージ

  • 不動産情報ライブラリAPIで過去5年の町丁目別成約価格推移を取得
  • e-Statで町丁目別の人口増減率を取得
  • 国土数値情報で用途地域・再開発計画を取得
  • 上記3データをエリアヒートマップに重ねる
  • 「価格上昇中×人口増×再開発あり」のエリアを仕入れ候補として優先

この仕組みを作れば、「社長の勘」に頼っていた仕入れの判断が、全社員に共有できる形でデータ化される。不動産完全ガイドでも触れた「仕入れの脱属人化」の具体的な手段の1つだ。商圏分析にAIを組み合わせる場合の判断基準と検証の手順は不動産会社のAI商圏分析で整理した。

活用領域2:査定精度の向上

査定を出すときに、周辺の成約事例・ハザードマップ・公共施設までの距離を1枚の資料で提示できれば、査定の説得力が段違いになる。

査定レポートに含める情報

  • 周辺500m圏内の過去2年の成約価格(㎡単価)分布
  • ハザードマップの該当有無(洪水・土砂・津波)
  • 最寄り駅・学校・病院・スーパーまでの徒歩時間(Google Maps API)
  • 町丁目の人口増減率・年齢構成
  • 近隣の再開発計画・用途地域

オーナーへの提案資料に入れると、査定額の理由を「近くの成約事例」と「土地の条件」で説明できる。担当者ごとに説明の厚みがばらつくのも防げる。

活用領域3:顧客への物件提案

賃貸・売買の購入検討者への物件提案でも、GISは強力な差別化になる。

提案資料に入れる情報

  • ハザードマップ—「この物件は洪水リスク該当なし」
  • 生活利便度スコア—徒歩10分圏内のスーパー・病院・学校の数
  • エリアの人口動態—「若い世帯が増えているエリア」
  • 用途地域・日照—「周辺に高層建築が建つ可能性が低い」

大手の多くはこうした情報を既に提示している。中小が勝つには、ここを省略しないのが基本。

不動産GISの始め方は3通り—無料のQGIS・有料の業務用GIS・自社の仕組みへの組み込み

道具選びで迷ったら、まずどの判断にGISを使うかを決める。同じ「不動産GIS」でも、始め方は大きく3つに分かれる。

始め方向いている場面先に確かめること
無料のQGIS+国のデータ1つのエリアで仕入れ・査定に効くか試す。分析担当が1〜2人いるデータの取り込みと座標系を扱える人がいるか。作った地図を誰が更新するか
有料の業務用GIS住宅地図・ブルーマップ・ハザード情報・登記情報の取得などを1つの画面で済ませ、担当者全員が同じ手順で調査したい自社の調査手順のどこを置き換えるか。契約の単位と、社内の物件台帳と連携できるか
自社の仕組みに組み込む査定書や物件提案の資料に、地図・周辺の成約事例・災害リスクを毎回同じ形で載せたい物件台帳に住所と緯度経度が揃っているか。APIの利用申請と出典表示のルール

どれを選んでも、最初に決めるのは道具ではなく「どの判断に地図を使うか」と「どこから先は役所で確認するか」だ。ここが決まっていないと、有料ツールを入れても使われず、無料で作った地図も担当者1人の手元で止まる。

QGISで国のデータを読み込む手順

ここまでは「何ができるか」の話だった。実際に手を動かす段になると、最初の壁はデータの入手形式と座標系になる。順番に押さえていく。

1. データをどこから取るか—APIとダウンロードを使い分ける

不動産情報ライブラリは、Web画面で地図を見るだけなら申請不要で使える。APIを使う場合は利用申請が必要で、審査結果はおおむね5営業日を目安にメールで通知される。APIのレスポンス形式はPBFとGeoJSONの2種類。取引価格・成約価格の情報については、Web画面から検索してダウンロードする窓口も用意されている。

一方、用途地域や都市計画決定情報のようなポリゴンデータをまとめて手元に置きたいなら、国土数値情報ダウンロードサイトのほうが向いている。こちらはシェープファイル形式・GeoJSON形式・GML(都市計画決定情報はCityGML)で配布されており、ダウンロードしてそのままQGISで開ける。APIは「必要なときに必要な範囲だけ引く」用途、ダウンロードは「エリア全体を手元で重ねる」用途と割り切ると迷わない。

2. 座標系でつまずかない

レイヤを読み込むと、座標系の選択を求められることがある。国土数値情報の用途地域データや都市計画決定情報データは、公式の製品仕様で座標参照系が「JGD2011 /(B, L)」—日本測地系2011の緯度経度—と定められている。一方、QGISのデフォルトのCRSは「WGS 84」(EPSG:4326)で、ウェブ地図で標準的に使われるのはEPSG:3857だ。

QGISでは、データを読み込むときに座標系の選択ウィンドウが表示され、どの座標変換を使うかを選べる(国交省の「QGIS操作マニュアル」に手順がある)。プロジェクトのCRSを1つ決め、読み込みのたびに同じ考え方で変換を選べば、レイヤはずれずに重なる。座標系がわからないときは、シェープファイルに付属するPRJファイルを一緒にダウンロードすれば定義情報が入っている。ズレたまま重ねて後から気づくより、最初にプロジェクトのCRSを固定するほうが早い。

3. 背景地図に地理院タイルを敷く

用途地域のポリゴンだけを表示しても、どこの話か分からない。背景に地図を敷く。国土地理院の地理院タイルは、多くのウェブ地図APIが対応しているXYZ方式で配信されており、測地系は世界測地系(JGD2011)。QGISではブラウザパネルからXYZ Tiles(またはWMS/WMTS)の接続を追加して読み込む。国土交通省が公開している「QGIS操作マニュアル」に地理院地図を読み込む手順が図付きで載っているので、初めてならこれを先に開いたほうが早い。

利用条件も確認しておく。地理院タイルをウェブサイトやアプリケーション上でリアルタイムに読み込んで使う場合は、出典の明示のみで申請は不要とされている。それ以外の使い方では測量法に基づく申請が必要になる場合があるので、査定書や提案資料に地図画像を貼り込んで配る場合は、事前に利用手続の案内を確認しておく。不動産情報ライブラリのデータも「出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ」のように出典を記載する運用になっている。

4. レイヤの重ね順

実務で見やすいのは、下から「地理院タイル(背景)→ 用途地域などの面 → 浸水想定などの災害情報 → 学校区・施設の点 → 自社の物件リスト」の順。面のレイヤは塗りつぶしの不透明度を下げないと、背景の道路や建物が見えなくなって現地の判断ができない。自社の物件リストは、住所と緯度経度を入れたCSVをデリミテッドテキストレイヤとして読み込めば、そのまま点として乗る。

自治体の都市計画情報と国のデータ、どちらを見るか

役所調査に近づくほど、国のデータだけでは足りなくなる。用途地域・建ぺい率・容積率・道路の種別・上下水道の引き込み—このあたりを日常的に確認しているのは、自治体が公開しているWeb-GISのほうだ。大阪市の「マップナビおおさか」、横浜市の「iマッピー」、東京都の「都市計画情報等インターネット提供サービス」など、多くの自治体が独自に公開している。

国側にも、全国の都市計画決定情報を一元化したデータがある。国土交通省の「都市計画決定GISデータ 全国データダウンロードページ」で、シェープファイル・GeoJSON・CityGMLの形式で無償配布されている。全国を横串で分析するならこちらが圧倒的に速い。

ただし使い分けの線引きは明確にしておく必要がある。国土交通省は、この全国データについて「建築確認申請や不動産重要事項説明等の手続に用いることを保証するものではなく、参考情報として利用を想定」しており、地区・地域の範囲は概ねの位置を示すもので、掲載データは最新のものではないことがある、と明記している。最新かつ正確な都市計画決定情報が必要な場合は、該当する地方公共団体の担当課へ問い合わせるよう案内されている。

実務での使い分け

  • 国の全国データを使う場面:仕入れエリアの絞り込み、複数市区町村をまたぐ比較、社内の分析・スクリーニング。範囲が概ねの位置であっても判断が変わらない用途
  • 自治体のWeb-GISを見る場面:個別物件の調査、査定根拠の確認。境界線上の物件は特に、国のデータだけで判断しない
  • 担当課に確認する場面:重要事項説明に載せる内容、建築の可否に関わる判断。自治体のWeb-GIS自体も「都市計画に関する証明ではない」旨を注記していることが多い

現地の役所でどの窓口を回り、何が公的な証明にならないかは役所調査の窓口と回る順番にまとめている。この線引きを社内ルールとして書いておかないと、GISを整えたことがかえってリスクになる。「システムに出ていたから」で重要事項説明の内容を決めてしまう事故が起きるためだ。スクリーニングは国のデータ、確定は担当課。この2行を調査手順書に入れておく。

実装コストと技術選定

最小構成(ソフトと国のデータは無料)

  • QGIS(オープンソースGISソフト):無料
  • 不動産情報ライブラリAPI:無料
  • 国土数値情報:無料ダウンロード
  • Google Maps API:周辺施設や徒歩時間を取る場合だけ。利用量に応じた従量課金
  • Googleスプレッドシート:Workspace料金のみ

中規模構成(集計・共有の道具を足す)

  • Looker StudioまたはTableauで可視化
  • Google Cloud BigQueryでデータ集計(大量データ処理)
  • 自社HPへGIS付き査定ツールを組み込み

始める会社はまず最小構成で1つのエリアに絞って試すのがおすすめ。効果が見えたら他エリアへ展開。有料ツールの費用は利用量や契約で変わるので、見積もりは使う範囲を決めてから取る。

中小の不動産会社がGISで強みを出せる範囲

広い地域のデータをまとめて扱うサービスは、すでに多くある。中小の仲介・買取再販が同じ土俵で張り合う必要はない。

中小の武器は「自分たちの商圏に絞った深掘り」。自社が仕入れ・仲介している町丁目について、取引価格・人口の動き・災害リスク・自社の成約履歴を何年分も重ねて持っていれば、その地域での判断や説明では十分に強みになる。

まとめ:無料データで小さく始め、使う判断を先に決める

不動産GISは、国交省の無料データとQGISで小さく始められる。仕入れ・査定・顧客提案のどの判断に使うかを決め、1つのエリアで試してから広げる。確定が要る内容は、自治体の担当課で確認する。

関連記事として国交省の不動産APIで何ができる?、不動産AIエージェントで追客業務を自動化する方法も参考になる。

よくある質問

不動産GISとは何ですか?

GIS(地理情報システム)は、位置を持つデータを地図の上に重ねて見るための仕組みです。不動産では、取引価格・用途地域・浸水想定などの災害リスク・学校や駅までの距離を物件の位置と重ね、仕入れエリアの絞り込み、査定の根拠づくり、顧客への提案資料に使います。

不動産で使えるGISデータは無料で手に入りますか?

主要なものは無料です。国交省の不動産情報ライブラリ(取引価格・成約価格など。APIは利用申請が必要)、国土数値情報(用途地域・都市計画・公共施設をダウンロード)、ハザードマップ(洪水・土砂災害・津波リスク)、e-Statの統計GIS(町丁目別の人口・世帯数・年齢構成)が使えます。周辺施設や徒歩時間をGoogle Maps APIで取る場合は、利用量に応じた従量課金になります。

無料のQGISと有料の不動産向けGIS、どちらを選べばいいですか?

エリア分析や社内のスクリーニングを試すだけなら、無料のQGISと国のデータで十分始められます。住宅地図やブルーマップ、登記情報の取得まで1つの画面で済ませたい、調査を担当者全員が同じ手順で進めたい、という段階なら有料の業務用GISを比べる価値があります。どちらの場合も、先に「どの判断にGISを使い、どこから先は役所で確認するか」を決めておくと、道具選びで迷いません。

大手がいる中で、中小の不動産会社がGISをやる意味はありますか?

あります。中小の武器は「自分たちの商圏に絞った深掘り」です。広い地域を浅く見るより、自社が仕入れ・仲介している町丁目の取引価格・人口の動き・災害リスクを何年分も重ねて持っているほうが、その地域での判断に役立ちます。

不動産・建設会社のためのAI業務改善ガイド

反響・見積・契約・管理ごとに、AIに任せる所と法令上人が見る所を分け、修繕依頼の実例と90日の進め方までまとめた全16ページの資料です。

資料を無料でダウンロード
泉

泉 款太(いずみ かんた)

株式会社SalesDock 代表取締役

慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。

運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI内製化(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。

代表者情報を読む →

この記事の数値について

本文中に一次資料へのリンクがある数値は、リンク先を出典としています。 リンクのない業務設計、判断基準、実務上の目安は、SalesDockが累計40社以上の支援と自社運用で得た知見を一般化したものです。 個別企業での成果を保証する数値ではなく、条件によって変わります。

関連記事

GISをどの業務に使うか、30分で整理しませんか

仕入れ・査定・物件提案のうち、今の調査手順と物件台帳のどこに地図を組み込むかを一緒に決めます

無料相談を申し込む

システム導入・業務改善支援の内容を見る

CASE

実際の支援では、こう変わりました

  • 人材紹介3ヶ月の伴走支援

    サイトの文言変更を、担当者が一人で本番公開まで完了。

  • 防災メーカー3ヶ月の伴走支援

    見積書づくりで人が行うのは、粗利をどうするかの判断だけに。

  • 外国人材の就職支援試作からの伴走支援

    書類の回収・仕分けと履歴書づくりを、どこまで自動にし、どこを人が確認するかを決めて試作まで完了。

支援の様子を見る

NEXT STEP

広告・営業・利益・データの詰まりを、3分で整理

反響対応や案件管理だけでなく、経営判断まで含めて、先に整える場所を確認できます。