Excelの受注管理をソフトに移す線引き|移す前に決めておく3つの列
この記事の情報源について
この記事は、各製品の提供元が公式サイトで公開している情報を読み比べて整理したものです。私自身は販売大臣をはじめとする個別の販売管理ソフトを導入・運用した実務経験がないため、使用感や現場での所感は書いていません。書いているのは、公開情報から読み取れる事実と、経営管理・データ設計の側から見た「どこを見て選ぶか」という判断軸までです。価格・仕様は改定されることがあるため、判断に用いる際は各提供元の最新の案内をご確認ください。
この記事のポイント
移行が重くなるのはデータ量ではなく列の設計。日付・金額・取引先の3列を先に固めておけば、どの製品に移す場合でも手戻りが小さい。この3つは、国税庁が電子取引データの検索要件として挙げている項目とも一致する。
受注管理をExcelでやっている会社は多い。そして「そろそろシステムに移したい」という話も、たいてい同じきっかけで出てきます。ファイルが重い、誰かが上書きした、去年の数字がどこにあるかわからない。
ただ、その状態のまま製品を選んで移行を始めると、移行そのものが重くなります。データを取り込む段階で「この列は何を意味しているのか」が確定していないと、1行ずつ人が判断することになるからです。
この記事では、移す前にExcel側で整えておく3つの列と、そもそもまだ移さなくてよい状態の見分け方を整理します。
件数ではなく「状態の数」で判断する
「何件を超えたらシステム化」という基準をよく聞きますが、件数だけでは判断できません。1,000件あっても、受注と請求が1対1で対応していて、途中で変更が発生せず、見る人が1人なら、Excelでも十分に回ります。
破綻が始まるのは、受注から請求までの間に中間の状態ができたときです。
一部納品済み:数量の一部だけ出荷した。残りはいつ出るか未定。
保留:受注はしたが、先方の都合で止まっている。失注ではない。
金額変更中:見積を出し直している最中。旧金額と新金額が併存する。
請求済み・未入金:請求は出したが入金がない。督促の要否を誰かが見ている。
こうした状態が3つ以上でき、しかもそれを複数人が同時に更新するようになると、Excelでは追いつかなくなります。誰かのファイルが最新で、誰かのファイルが古い。この状態は、シートを分けても解決しません。
逆に、状態が2つ以下で更新する人が1人なら、まだ移す必要は薄い。移行には費用と時間がかかるので、判断を急ぐ理由がなければ列の整備だけ先にやっておくほうが得です。Excelをシステム化する一般的なタイミングは「Excelをシステム化するタイミング」でも扱っています。
先に固める3つの列は「日付・金額・取引先」
移行前に整えるべき列を3つに絞るなら、日付・金額・取引先です。これは実務上の必要から出てくる3つですが、同時に制度側が求めている3つでもあります。
国税庁は電子取引データの保存について、「改ざん防止のための措置をとる必要があります」「『日付・金額・取引先』で検索できる必要があります」「ディスプレイやプリンタ等を備え付ける必要があります」の3点を挙げています(国税庁「電子取引データの保存方法をご確認ください」(令和6年1月以降用))。
つまり、この3列を整えることは移行の準備であると同時に、制度対応の準備でもあります。二度手間になりません。1つずつ見ます。
1つ目|日付は「どれを正とするか」を1つに決める
受注管理の台帳には、たいてい日付が複数入っています。受注日、希望納期、出荷日、検収日、請求日、入金日。このうち売上をどの日付で立てるかが決まっていない会社が意外と多い。
決まっていないと何が起きるか。月末をまたぐ案件が、担当者によって今月の売上にも来月の売上にもなります。そのまま販売管理ソフトに移すと、製品側は1つの日付を要求するので、移行のときに1件ずつ判断することになります。
やること:売上計上日を受注日・出荷日・検収日・請求日のどれにするかを1つ決め、その列を「売上日」という名前で独立させる。他の日付は残してよいが、集計に使う列は1つに固定する。
確認する場所:顧問税理士と、既存の会計処理。過去の決算でどう処理してきたかと揃える。ここを変えると期間比較ができなくなる。
やってはいけないこと:セルに「6/末」「6月中旬」のような文字列を入れる。日付型として扱えないと、取り込みで全滅する。
2つ目|金額は税率区分と税抜・税込を分けて持つ
金額の列でよくある問題は、税抜と税込が混ざっていることです。案件によってどちらで入力されているかが違い、備考欄に「税込」と書いてある行がある。この状態で集計しても、合計は正しくなりません。
加えて、税率区分を持っていない台帳も多い。適格請求書には「税率ごとに区分して合計した税込対価(又は税抜対価)の額及び適用税率」「税率ごとに区分した消費税額等」の記載が必要とされています(国税庁 No.6625 適格請求書等の記載事項)。区分がなければ、請求書を出す段階で毎回人が判断することになります。
やること:金額列を「税抜金額」「税率区分」「消費税額」の3列に分ける。1つの列に混在させない。値引きがある場合は「値引額」を別列にして、本体金額を書き換えない。
効く理由:税率区分を持っておくと、販売管理ソフトに移したあとも商品マスタの課税区分と突き合わせられる。持っていないと、移行後に1件ずつ設定し直すことになる。
ついでにやると楽なこと:金額セルの書式を数値に統一する。「¥」「円」「,」が文字として入っていると、そのまま取り込めない。
3つ目|取引先は名前ではなくIDで持つ
移行で一番手間がかかるのが、ここです。取引先を会社名の文字列で持っていると、必ず表記ゆれが出ます。「株式会社」と「(株)」、全角と半角、スペースの有無、支店名の付け方。同じ会社が別の取引先として複数行に散らばります。
販売管理ソフトはどれも得意先マスタを持ちます。OBCの商奉行iクラウドは主な機能に「得意先管理」を、蔵奉行iクラウドは「仕入先管理」を挙げています。移行するとき、Excel側の取引先名とマスタの得意先コードを対応づける作業が発生しますが、Excel側にコードがなければ、その対応づけは全件手作業になります。
やること:取引先の一覧を別シートに作り、連番でコードを振る。台帳側はコードを持ち、会社名はコードから引く形にする(VLOOKUPでもXLOOKUPでもよい)。
ついでに揃うもの:インボイスの登録番号を取引先一覧の列に持たせておくと、後で使える。適格請求書には売手の登録番号の記載が必要とされている一方、受け取る側でも取引先ごとの登録状況を把握しておく場面がある。
先送りしていい部分:住所・担当者名・支払条件などの属性は、移行時にマスタへ入れれば足りる。まずコードと名称の対応だけを作る。
Excelのままでも制度対応の道はある
「電子帳簿保存法があるからシステムを入れないといけない」と言われることがありますが、国税庁の資料には、専用のシステムを導入していなくても対応できる方法が示されています。
改ざん防止については「改ざん防止のための事務処理規程を定めて守る」といったシステム費用等をかけずに導入できる方法があるとされ、規程のサンプルが国税庁のサイトに掲載されています。検索要件については、次の2つが簡易な方法として挙げられています。
① 表計算ソフト等で索引簿を作成する方法:連番・日付・金額・取引先・備考といった列を持つ索引簿を作り、表計算ソフトの機能で検索する。索引簿のサンプルも国税庁のサイトに掲載されている。
② 規則的なファイル名を付す方法:データのファイル名に規則性をもって「日付・金額・取引先」を入力し、特定のフォルダに集約してフォルダの検索機能を使う。国税庁の資料には「20240331_110000_(株)霞商店.pdf」という例が示されている。
さらに、一定の場合には検索要件が不要になる仕組みも示されています。同資料のフローチャートでは、基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下である場合などが条件として挙げられています。加えて、原則的なルールに従った保存ができないことについて相当の理由がある場合の猶予措置も示されています。
ここで言いたいのは「システムは不要」ということではありません。制度対応を理由に急いで製品を決める必要はない、ということです。急ぐ理由がなければ、まず3列を整える。整えたうえで、状態の数が増えてきたら移す。この順番のほうが、移行そのものが軽くなります。
移す直前にやること
1. 過去分をどこまで移すか決める:全期間を移す必要はほとんどない。未完了の案件と、当期の売上だけを移して、過去分はExcelのまま保管するほうが安く済むことが多い。保管が必要な期間は帳簿書類の保存義務に関わるため、顧問税理士に確認する。
2. 移行後の入力担当を決める:営業が自分で入れるのか、事務が代行するのか。ここでライセンス数が決まる。決めずに見積もりを取ると前提が固まらない。
3. 例外の逃がし先を決める:値引き・返品・相殺など、製品の標準機能で扱いにくいものをどうするか。決めずに始めると、例外が全部Excelに戻る。
4. 並行運用の期限を切る:ExcelとソフトのどちらもXか月まで、と決める。期限を決めないと、両方が永久に残る。
3つ目は特に効きます。詳しくは「販売管理ソフトを入れても手作業が残るのはなぜか」で扱っています。Excelの業務フローをそのままシステムに移すときの注意点は「Excel業務をシステムに移す」、案件を1行で追うシートの作り方は「スプレッドシートの案件管理」も参考になります。
まとめ
移行の判断は件数ではなく、受注から請求までの間にある中間状態の数と、それを同時に更新する人数で決まります。状態が2つ以下で更新者が1人なら、まだ移す必要は薄い。
移す前に整えるのは日付・金額・取引先の3列です。日付は売上計上日を1つに固定する。金額は税抜金額・税率区分・消費税額に分ける。取引先はコードで持つ。この3つは国税庁が電子取引データの検索要件として挙げている項目と同じなので、移行の準備と制度対応の準備を兼ねられます。
製品を決めるのは、そのあとで間に合います。選び方は「中小企業の販売管理ソフトの選び方」にまとめています。
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※ 本記事の制度に関する記述は、国税庁「電子取引関係」に掲載されている資料「電子取引データの保存方法をご確認ください【令和6年1月以降用】」および国税庁「No.6625 適格請求書等の記載事項」に基づきます(2026年8月11日確認)。得意先管理・仕入先管理に関する記述はOBC「商蔵奉行クラウド|料金体系」の機能一覧によります。税務上の取扱いは個別事情によって異なるため、判断にあたっては顧問税理士および国税庁の最新の案内をご確認ください。
よくある質問
Excelの受注管理から販売管理ソフトに移すべきタイミングは?
件数の多さより、状態の数で判断するほうが実務に合います。受注と請求が1対1で対応していて、修正が発生せず、見る人が1人なら、Excelのままでも回ります。逆に、受注してから請求までの間に「一部納品済み」「保留」「値引き交渉中」といった中間の状態が生まれ、それを複数人が同時に更新するようになると、Excelでは履歴と最新版の管理が破綻しやすくなります。移す判断は、この中間状態が3つ以上できたあたりが目安になります。
移行前にExcel側で整えておくべき列は何ですか?
「日付」「金額」「取引先」の3つです。これは国税庁が電子取引データの保存要件として挙げている検索項目と同じ3つでもあります。日付は受注日・出荷日・請求日のどれを正とするかを1つに決めること、金額は税抜か税込かと税率区分を分けて持つこと、取引先は表記ゆれのないID(コード)で持つことが要点です。この3列が揃っていれば、どの製品に移す場合でも取り込みの手戻りが小さくなります。
Excelのままでも電子帳簿保存法には対応できますか?
国税庁の資料には、専用のシステムを導入していなくても対応できる方法が示されています。改ざん防止については事務処理規程を定めて守る方法があり、規程のサンプルが国税庁のサイトに掲載されています。検索要件については、表計算ソフト等で索引簿を作る方法と、ファイル名に規則性をもって日付・金額・取引先を入れて特定のフォルダに集約する方法が挙げられています。ただし要件を満たす運用を続けられるかは別問題なので、判断にあたっては顧問税理士にご確認ください。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に30社以上の業務改善に携わる。
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