預かり在庫の管理方法|自社在庫と台帳を分ける4項目と、数が合わなくなったときの立て直し
分けるのは置き場所より先に台帳
預かり在庫の管理の結論|台帳を分け、合わなくなったら起点を作り直す
預かり在庫の管理でつまずくのは、数え方ではなく持ち方です。相手の持ち物を自社在庫と同じ台帳に載せると、自社の在庫が実際より多く見え、引き渡しを求められたときに「あるはずのものが見つからない」という形で表に出ます。先に台帳を分け、4項目を埋め、日々の出し入れを記録する。この順番でしか合う状態は作れません。
- 預かり在庫は自社の持ち物ではないので、自社在庫と同じ行で数えない。置き場所は同じでもよい
- 台帳に必要なのは「誰の・何を・いつから・どこに」の4項目。ここが埋まらない台帳は引き渡しのときに使えない
- 出し入れの記録が無い期間の差は追わない。現物を数えた値を新しい起点にして、相手の確認をもらってから先を記録する
預かり在庫は、所有権が自社にないまま自社の場所に置かれている在庫です。加工や検査のために取引先から支給された材料も、代金を受け取ったあと引き渡しまで店で保管している商品も、この記事では同じ扱いをします。共通しているのは、自社の判断で売ったり使ったりできない在庫だという点です。
この記事が扱うのは、その在庫を日々どう記録し、合わなくなったときにどう立て直すかという運用の話に限ります。会計上の処理、契約上の責任範囲、保管料の設定、取引条件の妥当性は扱いません。これらは条件によって答えが変わるため、税理士や取引先との契約書で確認してください。
預かり在庫が自社在庫と混ざると、何が起きるか
混ざったときの症状は3つに分かれます。どれも、混ざった直後ではなく、しばらく経ってから出てきます。
1つ目は、自社の在庫が実際より多く見えることです。棚にある本数をそのまま自社在庫として数えると、売れる分と売れない分が同じ数字に入ります。この数字をもとに発注を絞ったり、逆に「在庫があるから大丈夫」と判断したりすると、判断のもとになる数字が最初から違っています。
2つ目は、誤って出してしまうことです。同じ棚に同じ商品が並んでいて、片方が預かりなら、忙しいときに見分けはつきません。出したあとで気づいても、相手の持ち物なので代わりのものを用意することになります。
3つ目が、いちばん厄介です。相手から引き渡しを求められたときに、あるかどうかを答えられません。台帳に「誰の」が書かれていなければ、棚にある現物がその人のものだと言い切れない。ここは数量の問題ではなく信用の問題になります。相手にとっては代金を払い終えた、あるいは自分が支給した自分の持ち物だからです。
在庫が合わない状態そのものの原因の分け方は、棚卸しで在庫が合わない原因と対策(差異の多くは記録のタイミングで生まれる)で扱っています。この記事は、そのうち「自社の持ち物ではない在庫」に絞ります。
台帳を分けるときに決める4項目
預かり在庫の台帳に最低限必要なのは次の4項目です。項目を増やすほど埋まらなくなるので、まずここだけにします。
誰の
預けた相手を、自社の顧客IDや取引先IDで持つ。名前だけで持つと、同姓や社名の表記ゆれで別人と混ざる
何を
商品名ではなく商品コードで持つ。同じ名前でも中身が違うものがあるなら、その違いまで分かるコードにする
いつから
預かった日と、引き渡しの期限や目安。期限を決めていない場合も、決めていないことを記録として残す
どこに
置き場所。棚番号まで書けなくてよく、「店の奥」「隣の倉庫」程度の粗い区分から始める
このうち崩れやすいのは「何を」です。商品名だけで持っていると、名前が同じで中身が違うものを見分けられません。同じ品名でも規格や製造時期で別物として扱っているなら、その違いが分かるコードを先に決めます。コードの決め方は商品マスタの作り方(何を1商品コードにするかを先に決める)に、社外の共通コードが無い商品の扱いはJANコードがない商品の管理方法にまとめています。
「いつから」を空欄にしたまま運用している例はよくあります。期限を決めていないなら、決めていないと書きます。空欄と「期限なし」は台帳の上では同じに見えますが、後から確認するときに意味がまったく違います。空欄は「聞かなかった」で、期限なしは「合意した」です。
置き場所は分けなくてよい。分けるのは台帳から
預かり在庫の話になると、まず場所を分けようとしがちです。専用の棚を用意する、別の倉庫に移す。分けられる状況ならそれが早いのですが、多くの現場では場所が足りないか、温度や湿度の条件があって動かせません。
場所を空けるところから始めると、場所が空くまで何も進みません。その間も預かりは増え続けます。先にやるのは台帳を分けることで、置き場所の欄には今ある場所をそのまま書きます。同じ棚に自社在庫と預かりが並んでいても、台帳の上で分かれていて、置き場所が書いてあれば、数えることも探すこともできます。
現物側では、区別が付く印を1つだけ付けます。札を置く、色を変えたシールを貼る、箱に入れる。商品そのものに何かを貼ると価値を損なうものがあるなら、棚札や箱の側に持たせます。ここで凝ると続かないので、遠目に見て分かる、という水準で十分です。
どの業務から手を付けるか自体で迷う場合は、3分の事業基盤診断が使えます。選択式の8問で、先に整える業務と、いまは触らない業務が分かれます。分けるところまでで、在庫の合わせ方そのものを判定するものではありません。
精度の分からない台帳は、新しいゼロ点から立て直す
すでに預かり票やExcelがあるものの、出し入れが手で書き換えられていて、いまの数が正しいのか分からない。この状態からの立て直しでいちばん時間を溶かすのが、過去の差を解明しようとすることです。
出し入れの記録が残っていない期間について、減った理由を切り分ける材料はありません。引き渡し済みで消し忘れたのか、記録を書き漏らしたのか、別の理由なのか。材料が無いまま議論を始めると結論が出ず、その間も新しい出し入れが積み上がって差が広がります。
現物を数えた値を新しい起点として扱い、そこから先だけ記録する。この割り切りを最初に決めておきます。ただし相手の持ち物なので、自社の中だけで決めて終わりにはできません。数え直した内容を相手に見せて、確認をもらうところまでを一組にします。
- 預かり件数のいちばん多い相手を1人(1社)選ぶ。全部を一度に見ない
- その相手ぶんだけ、現物を数えて台帳と突き合わせる
- 差があった行は、原因を追わずに「現物の数」へ書き換える
- 書き換えた台帳を相手に見せて、内容の確認をもらう
- 確認をもらった日を台帳に書き、そこから先だけ出し入れを記録する
1人(1社)ぶんで通してから次に進みます。全件を一度に数え直そうとすると、店や現場を止める日数が読めず、着手できないまま先延ばしになります。件数の多い相手から順に片付けるほうが、残っている不明分は早く減ります。
引き渡しのときに揉めないために残す記録
預かり在庫が表に出るのは、たいてい引き渡しの場面です。そのときに必要なのは在庫数ではなく、いつ・誰に・何を・何個渡したかという記録です。台帳の残数だけを更新して、渡した事実そのものを残していないと、後から「渡した」「受け取っていない」の水掛け論になります。
残すのは、引き渡した日、渡した相手、商品コードと数量、渡した担当者の4つです。相手のサインや受領の返信まで取れる関係ならそれが確実ですが、取れない場合でも自社側の記録は残せます。記録が片方にしか無いことと、どこにも無いことは違います。
誰がこの記録を残すのかも決めておきます。預かりを受け付けた人と引き渡す人が違う日は必ず来るので、担当者個人ではなく「レジに立った人」「受入を担当した人」のように役割で決めます。業務ごとに持ち主と代わりの人を置く決め方は、業務分掌の決め方にまとめています。
システムを使う場合に確認すること
在庫管理システムやkintoneのようなアプリで預かりを扱う場合、確認するのは機能名ではなく次の3点です。
- 預かりを自社在庫と別の区分として持てるか。持てない場合、項目を1つ足して区別できるか
- 1件ごとに「誰の」を顧客IDや取引先IDで持てるか。備考欄に名前を書く形しか無いと、後から集計できない
- 引き渡しを、在庫を減らす操作としてではなく、履歴として残せるか
3つ目が抜けている構成が多く、残数だけが正しく、いつ誰に渡したかが消えるという形になります。履歴で持つ設計と、そこで無理が出る境目はkintoneの在庫管理はどこまでできるか(履歴で持つ設計と限界)で扱っています。
なお、システムを入れれば合うようになるわけではありません。合う状態を作っているのは、入荷・販売・預かり・移動という日々の動きがその場で記録されることで、システムはその記録を溜める場所です。記録の習慣が無いところに入れると、手書きの台帳が画面に変わるだけになります。業務の流れそのものを整える順番は、業務プロセス改善の進め方に沿って決められます。
効果は、台帳の中で数えられる
預かり在庫を整えた効果を売上や利益で測ろうとすると、他の要因と混ざって判定できません。台帳から数えられる項目に絞り、立て直した日に1回数えて、3ヶ月後にもう一度数えます。
- 預かり台帳の行のうち、「誰の」が顧客IDで入っている行の割合
- 「いつから」が空欄の行の数
- 相手の確認をもらった件数と、まだもらえていない件数
- 直近3ヶ月で、引き渡しを求められてから現物を見つけるまでにかかった時間
最後の項目だけは体感になりますが、探した日にメモを残すだけで比べられます。件数を減らすより、探す時間が短くなっているかを先に見ます。見つからない時間が長い状態は、数が合っていても運用としては困ったままです。
来週の一歩:預かり件数のいちばん多い相手1人ぶんを突き合わせる
全体には手を付けません。いま手元にある預かりの記録を見て、件数がいちばん多い相手を1人(1社)選びます。その相手ぶんだけ現物を数え、4項目を埋めた表を1枚作ります。
作った表を相手に見せて、内容の確認をもらいます。ここで違いが出るのは失敗ではなく、この作業をやった価値そのものです。確認をもらった日を書いて、そこから先の出し入れだけを記録します。
1人ぶんを通すと、何が分からないかがはっきりします。商品コードが決まっていない、置き場所の区分が粗すぎる、記録する人が決まっていない。分かった時点で、次の相手へ進む前にそこを直します。1枚できた段階で、進め方や順番の相談が必要であれば、オンライン相談でその1枚を持ち寄って整理することもできます。製品の選定を代行するものではなく、決める順番を一緒に決める場です。
よくある質問
預かり在庫は自社在庫と同じ倉庫に置いてはいけませんか?
置き場所を分けられるなら分けたほうが早いですが、分けられないから管理できないわけではありません。分けるべきなのは置き場所より先に台帳です。同じ棚にあっても、台帳で「これは預かり」と分かり、置き場所の欄に同じ棚が書いてあれば、数えることも探すこともできます。場所を空けるところから始めると、場所が空くまで何も進みません。
預かり在庫の数が合わないとき、原因を突き止めるべきですか?
記録が残っていない期間の差については、突き止められないことのほうが多いです。出し入れを記録していなかったなら、減った理由が引き渡し済みなのか、記録漏れなのか、別の理由なのかを分ける材料がありません。材料が無い状態で原因を探すと、時間がかかるうえに結論が出ず、その間も差は増え続けます。現物を数えた値を新しい起点にして、そこから先を記録するほうが早く止まります。ただし、これは相手の持ち物なので、起点を作り直したことと数量は相手に確認してもらいます。
預かり在庫と預け在庫は何が違いますか?
自社が預かっている側か、預けている側かの違いです。この記事は預かっている側を扱います。どちらも自社の持ち物ではない在庫を自社の台帳に載せる点は同じで、載せ方を間違えると「自社の在庫が実際より多く見える」という同じ結果になります。
泉 款太(いずみ かんた)
株式会社SalesDock 代表取締役
慶應義塾大学法学部卒。スタートアップ、ラクスル、リクルート(SUUMO)を経て2025年に独立。 中小企業の経営・営業・業務・データをつなぐ事業基盤の設計と実装を支援。 不動産・製造業・クリニックを中心に、累計40社以上の支援に携わる。
運営は株式会社SalesDock(大阪市中央区本町)。中小企業向けに、AI内製化(初期構築15万円+月額10万円・90日)と、 そのあとのAI顧問(月額5万円・6ヶ月契約から)を提供しています。価格は税別です。 大阪・関西を中心に、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
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